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一章 田舎育ちの令嬢
4.魅了の力
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ディランが近づいていくと、シャーロットの友人たちが一歩後ろに下がってディランに場所を譲った。イライラしているシャーロットの横で、エミリーは怯えた様子で縮こまっている。
「ディランもエミリー嬢に教えて差し上げて。チャーリー様との昨日のやり取りは、聞いているのでしょ?」
「いや、まぁ、うん」
ディランは曖昧に返事をする。談話室から見ていたことを話したら、止めなかったディランに矛先が向きかねない。
「チャーリー様とエミリー嬢のとった行動は許されるものではないわ。わたくしだって、チャーリー様と学院であんなこと……あら、イヤだわ。わたくしとしたことがはしたない……――」
シャーロットは怒ったり恥ずかしがったりしながら、長々と喋り続けている。遠い異国の呪文を聞くように、言葉がディランの頭をすり抜けていった。
「――……ねぇ、ディラン? わたくし、間違っていないわよね?」
「……そうかもね」
「ディラン! 真剣に聞いていないわね!?」
シャーロットは、ディランの生返事を聞いて、今度はディランに怒り出す。
(なんか、こうなる気がしてた)
理不尽な気もするが、聞いていなかったのは事実だからしょうがない。
ディランはシャーロットの愚痴を聞き流しながら、隣のエミリーが気になって仕方がなかった。
エミリーは大きな瞳を潤ませてディランを見上げている。
小柄でおっとりとした雰囲気のエミリーは、ディランが会ったことのないタイプの女性だ。ディランは一癖も二癖もある女性に囲まれて育ってきた。シャーロット、父の側室である母や王太子妃など、ディランの周りの女性は、怒鳴られたくらいでは眉の一つも動かさない。
ディランが守ってあげなければ、貴族社会では生きていけない。エミリーには、そう思わせる儚さがある。
(取り巻きが出来るのも分かる気がするな)
はっきり言ってしまうと、エミリーの庇護欲をそそる雰囲気はディランの好みのど真ん中だ。理屈抜きにエミリーの味方になってあげたいと思ってしまう。
(これは、まずい!)
ディランは慌てて自分に強力な保護魔法をかけた。エミリーの周辺からは、異様な魔力を感じる。普段から魔法で物理的な攻撃からも精神的な攻撃からも自分の身を守っているディランだが、今は守りきれていない気がする。
(これがエミリーの身につけている魔道具の力なのか?)
ディランは自分がきっちり守られていることを確認して、もう一度エミリーを見た。魅了の力は魔法で退けているはずなのに、エミリーはやっぱり可愛い。
(きょ、強力だ!)
ディランは、この国の魔道士の中でも魔力が強い方だし、国一番の魔道士に師事している。そんなディランでも跳ね除けられず、魅了状態にされているかどうかも認識できない『誘惑の秘宝』。そんなものが存在するなんて考えてもみなかった。
ディランはチャーリーが何らかの策略のため、エミリーに近づいたのだと思っていた。しかし、これだけ強力な魅了なら、魔法を専門に学んでいないチャーリーが魔道具の魔力にかかっていたとしても可笑しくない。
ディランは浅慮だったと反省して、現状の把握に努めることにした。ディランが魅了されているなら、他のどの生徒も抗うことは難しいだろう。
考えたくはないが、学院内に限らず、この国で何人がエミリーの持つ『誘惑の秘宝』に逆らえるか分からない。これはもう学院の問題ではなく、この国全体の問題だ。
「……さっきだって、わたくしのことを無視して逃げようとしたでしょ」
「そうだったかな?」
ディランは、くどくどと喋り続けるシャーロットのおかげで冷静でいられた。理性を保てているのも、そのおかげだろうか。エミリーに心が惹かれているということ以外、思考を魔道具に制限されている感覚はない。
今のディランがすべきことは、なるべくエミリーについての情報を集めて、師匠や父である王太子に報告を上げることだ。ディランは動揺を隠してエミリーの観察を続けた。
「ディランもエミリー嬢に教えて差し上げて。チャーリー様との昨日のやり取りは、聞いているのでしょ?」
「いや、まぁ、うん」
ディランは曖昧に返事をする。談話室から見ていたことを話したら、止めなかったディランに矛先が向きかねない。
「チャーリー様とエミリー嬢のとった行動は許されるものではないわ。わたくしだって、チャーリー様と学院であんなこと……あら、イヤだわ。わたくしとしたことがはしたない……――」
シャーロットは怒ったり恥ずかしがったりしながら、長々と喋り続けている。遠い異国の呪文を聞くように、言葉がディランの頭をすり抜けていった。
「――……ねぇ、ディラン? わたくし、間違っていないわよね?」
「……そうかもね」
「ディラン! 真剣に聞いていないわね!?」
シャーロットは、ディランの生返事を聞いて、今度はディランに怒り出す。
(なんか、こうなる気がしてた)
理不尽な気もするが、聞いていなかったのは事実だからしょうがない。
ディランはシャーロットの愚痴を聞き流しながら、隣のエミリーが気になって仕方がなかった。
エミリーは大きな瞳を潤ませてディランを見上げている。
小柄でおっとりとした雰囲気のエミリーは、ディランが会ったことのないタイプの女性だ。ディランは一癖も二癖もある女性に囲まれて育ってきた。シャーロット、父の側室である母や王太子妃など、ディランの周りの女性は、怒鳴られたくらいでは眉の一つも動かさない。
ディランが守ってあげなければ、貴族社会では生きていけない。エミリーには、そう思わせる儚さがある。
(取り巻きが出来るのも分かる気がするな)
はっきり言ってしまうと、エミリーの庇護欲をそそる雰囲気はディランの好みのど真ん中だ。理屈抜きにエミリーの味方になってあげたいと思ってしまう。
(これは、まずい!)
ディランは慌てて自分に強力な保護魔法をかけた。エミリーの周辺からは、異様な魔力を感じる。普段から魔法で物理的な攻撃からも精神的な攻撃からも自分の身を守っているディランだが、今は守りきれていない気がする。
(これがエミリーの身につけている魔道具の力なのか?)
ディランは自分がきっちり守られていることを確認して、もう一度エミリーを見た。魅了の力は魔法で退けているはずなのに、エミリーはやっぱり可愛い。
(きょ、強力だ!)
ディランは、この国の魔道士の中でも魔力が強い方だし、国一番の魔道士に師事している。そんなディランでも跳ね除けられず、魅了状態にされているかどうかも認識できない『誘惑の秘宝』。そんなものが存在するなんて考えてもみなかった。
ディランはチャーリーが何らかの策略のため、エミリーに近づいたのだと思っていた。しかし、これだけ強力な魅了なら、魔法を専門に学んでいないチャーリーが魔道具の魔力にかかっていたとしても可笑しくない。
ディランは浅慮だったと反省して、現状の把握に努めることにした。ディランが魅了されているなら、他のどの生徒も抗うことは難しいだろう。
考えたくはないが、学院内に限らず、この国で何人がエミリーの持つ『誘惑の秘宝』に逆らえるか分からない。これはもう学院の問題ではなく、この国全体の問題だ。
「……さっきだって、わたくしのことを無視して逃げようとしたでしょ」
「そうだったかな?」
ディランは、くどくどと喋り続けるシャーロットのおかげで冷静でいられた。理性を保てているのも、そのおかげだろうか。エミリーに心が惹かれているということ以外、思考を魔道具に制限されている感覚はない。
今のディランがすべきことは、なるべくエミリーについての情報を集めて、師匠や父である王太子に報告を上げることだ。ディランは動揺を隠してエミリーの観察を続けた。
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