16 / 115
一章 田舎育ちの令嬢
16.隠蔽のイヤリング
しおりを挟む
ディランは王宮を出ると、目立たない服装に着替えて街に出た。宝石店や八百屋、雑貨店など数か所を回って、魔道士団の研究棟に入る。
「ディラン様、こんにちは」
「お邪魔します」
「ボードゥアン様なら、まだお戻りではないようですよ」
「やっぱり、帰ってないんだね。鍵を預かってるから、使わせてもらうことにするよ」
ディランは声をかけてくれた研究員たちに鍵を振ってみせる。ディランは、小さい頃から魔道士団に出入りしているので、ほとんどの研究員とは顔見知りだ。王族であるディランにも気さくに声をかけてくれて、居心地がいい。
「ディラン様、いらっしゃい」
「お久しぶりです」
ディランは行き交う研究員に挨拶しながら、研究棟をまっすぐ進む。3階建ての研究棟は、魔道具や魔法薬など研究テーマによって部屋が分かれている。ディランも魔道具を作るために来たのだが、目指す先は、この建物の中にはない。
ディランは廊下の突き当りにある小さな扉を、持っていた鍵の一つで開けた。その先は屋外で、研究のための薬草園が広がっている。ディランはそこを通り過ぎて、さらに奥にある森の中に入った。
ディランが通いなれた森を少し歩くと、立派な洋館が突如として現れる。この洋館が師匠であるボードゥアン個人の研究施設となっている。
洋館は人と関わることを面倒くさがるボードゥアンが魔法で隠しているので、認められた者しか見つけることさえできない。未熟なディランには詳細は不明だが、隠蔽か結界かを組み合わせて作った魔道具が設置されているのだろう。
ボードゥアンは魔道士団に在籍しているが、これといって役割を与えられているわけではない。気まぐれで手伝ってくれるだけでも助かる天才なので、基本自由なのだ。どうせ今回の出張も、ボードゥアンが興味を持ちそうな何かで釣って行かせたのだろう。ディランは魔道士団長のそういうやり方には疑問を持っているが、ボードゥアンも分かっていて釣られているので口を挟んだことはない。
洋館に入ると、ディランは軽く掃除をして空気を入れ替えた。掃除や助手などをすることを条件に、ディランは洋館への自由な出入りを許され部屋も与えられている。実際には、王子で学生でもあるディランが助手として行動を共にすることは難しいので、ほとんど掃除係だ。
掃除が終わると、ディランは自分の部屋に入った。革のエプロンを付けて保護メガネをかけ、いよいよ魔道具製作に入る。
今日作るのはエミリーが平穏な学院生活を送るためのものだ。ディランがそばにいないときでも隠れられるようにしたい。禁書を読み進めても、すぐに解決するか分からないので、それまでの仮の処置だ。
まずは買ってきたイヤリングを使って、隠蔽の魔道具を作ることにする。魔道具があれば、魔道士でないエミリーでも一人で姿を消すことが可能になる。数日に一度は、ディランの魔力を供給する必要があるが、今までほど、窮屈な思いをさせずに済むだろう。
寮の部屋でやっても良かったが失敗したら大惨事になる。ここなら万が一失敗したときにも建物が吹っ飛んだりしないように安全装置があるので安心だ。もっとも、大きな事故を起こせば、中にいるディランは無事ではすまないので慎重に行うつもりでいる。
ディランは、自身にいつもより強い保護魔法をかけると、机の上に街で買ってきたものを並べる。茶色っぽい琥珀のついたイヤリング。そして八百屋で揃えたごぼう、たけのこ、じゃがいも、玉ねぎ、アーモンド。
料理を始めるような内容だが、宝石に魔力を詰めて魔道具にするには、生命力が必要なのだ。媒介するものを使わないと術者の生命力が使われて……とにかく危険なので、新鮮な植物などを利用する。
術者が得意な魔法の場合は、好きな宝石を選び、同色の植物を媒介に使えばいい。イヤリングに施す隠蔽魔法は、ディランの得意分野なので、今回はエミリーの好きな茶色の琥珀を使って隠蔽の魔道具を作る。チョコレート色がいいだろうとなるべく琥珀の中でも濃い色の宝石を選んで買ってきた。
術者の瞳の色と同色の場合魔力が節約できるのだが、偶然にもディランの瞳の色も茶色なので楽に作れそうだ。魔力の影響でチョコレート色よりディランの瞳に近い色になってしまうが、エミリーには妥協してもらうしかない。
ディランは机の真ん中に粘土をおいて、埋め込むようにしてイヤリングを2つ並べて固定する。ごぼうをイヤリングに突き刺すように手で持って、隠蔽の魔法をごぼうに注ぎ込むように入れていく。ごぼうには隠蔽魔法特有の魔法陣が浮かび上がった。
(エミリーをイヤリングが守ってくれますように……)
しばらく魔法を込め続けていると、ごぼうが砂のようにさらさらと崩れていき、イヤリングの琥珀に吸い込まれていった。これを完成まで繰り返せば魔道具になる。
ディランは魔法を込める植物を玉ねぎやじゃがいもなどに変えながら、その日のうちに隠蔽のイヤリングを作り上げた。
「ディラン様、こんにちは」
「お邪魔します」
「ボードゥアン様なら、まだお戻りではないようですよ」
「やっぱり、帰ってないんだね。鍵を預かってるから、使わせてもらうことにするよ」
ディランは声をかけてくれた研究員たちに鍵を振ってみせる。ディランは、小さい頃から魔道士団に出入りしているので、ほとんどの研究員とは顔見知りだ。王族であるディランにも気さくに声をかけてくれて、居心地がいい。
「ディラン様、いらっしゃい」
「お久しぶりです」
ディランは行き交う研究員に挨拶しながら、研究棟をまっすぐ進む。3階建ての研究棟は、魔道具や魔法薬など研究テーマによって部屋が分かれている。ディランも魔道具を作るために来たのだが、目指す先は、この建物の中にはない。
ディランは廊下の突き当りにある小さな扉を、持っていた鍵の一つで開けた。その先は屋外で、研究のための薬草園が広がっている。ディランはそこを通り過ぎて、さらに奥にある森の中に入った。
ディランが通いなれた森を少し歩くと、立派な洋館が突如として現れる。この洋館が師匠であるボードゥアン個人の研究施設となっている。
洋館は人と関わることを面倒くさがるボードゥアンが魔法で隠しているので、認められた者しか見つけることさえできない。未熟なディランには詳細は不明だが、隠蔽か結界かを組み合わせて作った魔道具が設置されているのだろう。
ボードゥアンは魔道士団に在籍しているが、これといって役割を与えられているわけではない。気まぐれで手伝ってくれるだけでも助かる天才なので、基本自由なのだ。どうせ今回の出張も、ボードゥアンが興味を持ちそうな何かで釣って行かせたのだろう。ディランは魔道士団長のそういうやり方には疑問を持っているが、ボードゥアンも分かっていて釣られているので口を挟んだことはない。
洋館に入ると、ディランは軽く掃除をして空気を入れ替えた。掃除や助手などをすることを条件に、ディランは洋館への自由な出入りを許され部屋も与えられている。実際には、王子で学生でもあるディランが助手として行動を共にすることは難しいので、ほとんど掃除係だ。
掃除が終わると、ディランは自分の部屋に入った。革のエプロンを付けて保護メガネをかけ、いよいよ魔道具製作に入る。
今日作るのはエミリーが平穏な学院生活を送るためのものだ。ディランがそばにいないときでも隠れられるようにしたい。禁書を読み進めても、すぐに解決するか分からないので、それまでの仮の処置だ。
まずは買ってきたイヤリングを使って、隠蔽の魔道具を作ることにする。魔道具があれば、魔道士でないエミリーでも一人で姿を消すことが可能になる。数日に一度は、ディランの魔力を供給する必要があるが、今までほど、窮屈な思いをさせずに済むだろう。
寮の部屋でやっても良かったが失敗したら大惨事になる。ここなら万が一失敗したときにも建物が吹っ飛んだりしないように安全装置があるので安心だ。もっとも、大きな事故を起こせば、中にいるディランは無事ではすまないので慎重に行うつもりでいる。
ディランは、自身にいつもより強い保護魔法をかけると、机の上に街で買ってきたものを並べる。茶色っぽい琥珀のついたイヤリング。そして八百屋で揃えたごぼう、たけのこ、じゃがいも、玉ねぎ、アーモンド。
料理を始めるような内容だが、宝石に魔力を詰めて魔道具にするには、生命力が必要なのだ。媒介するものを使わないと術者の生命力が使われて……とにかく危険なので、新鮮な植物などを利用する。
術者が得意な魔法の場合は、好きな宝石を選び、同色の植物を媒介に使えばいい。イヤリングに施す隠蔽魔法は、ディランの得意分野なので、今回はエミリーの好きな茶色の琥珀を使って隠蔽の魔道具を作る。チョコレート色がいいだろうとなるべく琥珀の中でも濃い色の宝石を選んで買ってきた。
術者の瞳の色と同色の場合魔力が節約できるのだが、偶然にもディランの瞳の色も茶色なので楽に作れそうだ。魔力の影響でチョコレート色よりディランの瞳に近い色になってしまうが、エミリーには妥協してもらうしかない。
ディランは机の真ん中に粘土をおいて、埋め込むようにしてイヤリングを2つ並べて固定する。ごぼうをイヤリングに突き刺すように手で持って、隠蔽の魔法をごぼうに注ぎ込むように入れていく。ごぼうには隠蔽魔法特有の魔法陣が浮かび上がった。
(エミリーをイヤリングが守ってくれますように……)
しばらく魔法を込め続けていると、ごぼうが砂のようにさらさらと崩れていき、イヤリングの琥珀に吸い込まれていった。これを完成まで繰り返せば魔道具になる。
ディランは魔法を込める植物を玉ねぎやじゃがいもなどに変えながら、その日のうちに隠蔽のイヤリングを作り上げた。
0
あなたにおすすめの小説
腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】
古森きり
恋愛
前世は少食だったクリスティア。
今世も侯爵家の令嬢として、父に「王子の婚約者になり、次期王の子を産むように!」と日々言いつけられ心労から拒食気味の虚弱体質に!
しかし、十歳のお茶会で王子ミリアム、王妃エリザベスと出会い、『ガリガリ令嬢』から『偏食令嬢』にジョブチェンジ!?
仮婚約者のアーク王子にも溺愛された結果……順調に餌付けされ、ついに『腹ペコ令嬢』に進化する!
今日もクリスティアのお腹は、減っております!
※pixiv異世界転生転移コンテスト用に書いた短編の連載版です。
※ノベルアップ+さんに書き溜め読み直しナッシング先行公開しました。
改稿版はアルファポリス先行公開(ぶっちゃけ改稿版も早くどっかに公開したい欲求というものがありまして!)
カクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェ、ツギクル(外部URL登録)にも後々掲載予定です(掲載文字数調整のため準備中。落ち着いて調整したいので待ってて欲しい……)
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。
無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。
目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。
マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。
婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。
その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由
冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。
国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。
そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。
え? どうして?
獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。
ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。
※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。
時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。
嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~
めもぐあい
恋愛
イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。
成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。
だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。
そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。
ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる