【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

文字の大きさ
60 / 115
二章 誘惑の秘宝と王女の日記

13.助言

しおりを挟む
 一行は領地の玄関口に当たる街まで移動することになった。ディランは仲良く馬車に乗り込む兄妹を見届けて、ルークのもとへと向かう。

「ルーク、悪いけど相乗りさせてくれる? 魔法で体重を軽くするからさ」

「もちろんです。ああ……、殿下をお乗せするのは何年ぶりでしょう。これはカランセ伯爵家が作り出してくださった奇跡です」

 ルークはお姫様にするようにディランに手を差し伸べる。冗談なのか本気なのかは分からないが気持ち悪い。

「なんか面倒だからいいや。後ろの馬車の御者台に乗ることにする。座る場所ありそうだし」

「え、ひどい! 期待したのに……」

 ルークが失恋した乙女のような声を出すので、ディランはじっとりと睨む。ルークは満足そうにヘラヘラと笑って、ディランが座れるよう鞍を調節しはじめた。

「あの……ディラン殿下。よろしいでしょうか?」
 
 遠慮がちに声をかけられてディランが振り向くと、伯爵軍の年配の騎士が立派な馬とともに立っていた。階級を表す飾りの数から、今いる中でレジーの次に権限のある人物だと分かる。

「うん、大丈夫だよ。何か用かな?」

「はい。私、カランセ伯爵軍のライアンと申します。良かったら、この馬をお使い下さい」

「え、でも……」

 ライアンが連れている馬は毛並みもよく、他の馬に比べても貫禄がある。この騎士が大切にしている相棒だろう。

「私はレジー様の馬を使いますから心配いりません。レジー様の馬は人見知りなので難しいですが、私の馬なら初めての人間を乗せてもよく走ります」

「いいの? よく躾けられた軍馬みたいだけど」

「はい。ディラン殿下なら、コイツも喜んで乗せると思います」

 ライアンが馬に視線を向けると、馬も心得たと言うようにディランに近づいてくる。

「お願いできるかな?」

 ディランが馬に尋ねると、人懐っこい馬のようでディランの手に鼻を寄せてきた。ディランは馬をゆっくりと撫でて、信頼してもらえるように努める。

「じゃあ、乗せてもらおうかな。ありがとう」

「いいえ。お礼を言うのはこちらの方です。レジー様に代わりまして、非礼をお詫び致します。申し訳ありませんでした」 

 その言葉にディランは苦笑する。やはり、ライアンはレジーが心配でついてきたのだろう。

「それは気にしなくて良いよ。ちょっと手違いがあって、王家の方が先に非礼を働いちゃったんだ。きっと、伯爵も怒ってるよね」

「申し訳ありません」

 ライアンはなんとも言えない顔をして、もう一度ディランに詫びる。

「エミリーお嬢様は、小さい頃から身体が弱く、伯爵は学院にも通わせない方針でした。でも、お嬢様がどうしてもと仰って……」

 エミリーからも伯爵を説得した話は軽く聞いている。エミリーは小さい頃より体調が落ち着いてきたので、過保護すぎる伯爵から距離を取りたかったようだとライアンは話した。

「伯爵は渋々送り出したのです。だからこそ、学院に行かれて半年もせずに王家からの申し出があり困惑しておりまして……。お嬢様が男性を侍らせていたというのも、領地にいた頃のお嬢様からは想像もできない言葉だったものですから……」

「分かるよ。それについては色々とあったんだ。ずいぶん、伯爵から詳しく聞いているんだね」

「はい、他の者はここまでは知りません」

 ライアンが離れた場所に整列する軍人に目を向ける。ディランもつられて見回すと、若者はまだ不満そうな顔をしていた。

「もしかして、伯爵からも僕を追い返すように言われた?」

「……」

「やっぱり、そんなんだね」

 ディランはゆっくりと息を吐き出した。カランセ伯爵の説得は一筋縄ではいきそうにない。レジーの行動は暴走したで済ますことも可能だが、伯爵が軍を動かしたとなれば、王家に対する謀反に近い。ライアンは命令を違えても伯爵家を守ろうとしたのだろう。

「どうか、寛大なお心で伯爵の言葉をお聞きください。娘をただ想っているだけで、王家に対する忠誠は変わらないのです」

「伯爵が僕と会話してくれるか不安だけど……あなたの気持ちは分かったよ。領境までありがとう。案内よろしくお願いします」

「はい、ご案内致します」

 ライアンは馬の手綱をディランに託すと、深々と頭を下げて軍のもとへと戻っていく。

「殿下、頑張って下さいね。応援してますよ」

「ありがとう」

 ディランは、ルークの茶化しているとしか思えない励ましを笑顔で流す。カランセ軍が動き出したのを確認して、ライアンから借りた馬に飛び乗った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり
恋愛
前世は少食だったクリスティア。 今世も侯爵家の令嬢として、父に「王子の婚約者になり、次期王の子を産むように!」と日々言いつけられ心労から拒食気味の虚弱体質に! しかし、十歳のお茶会で王子ミリアム、王妃エリザベスと出会い、『ガリガリ令嬢』から『偏食令嬢』にジョブチェンジ!? 仮婚約者のアーク王子にも溺愛された結果……順調に餌付けされ、ついに『腹ペコ令嬢』に進化する! 今日もクリスティアのお腹は、減っております! ※pixiv異世界転生転移コンテスト用に書いた短編の連載版です。 ※ノベルアップ+さんに書き溜め読み直しナッシング先行公開しました。 改稿版はアルファポリス先行公開(ぶっちゃけ改稿版も早くどっかに公開したい欲求というものがありまして!) カクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェ、ツギクル(外部URL登録)にも後々掲載予定です(掲載文字数調整のため準備中。落ち着いて調整したいので待ってて欲しい……)

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

イリス、今度はあなたの味方

さくたろう
恋愛
 20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。  今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...