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終章 王子様の決断
4.真夜中の呼び出し
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ディランがエミリーのそばを離れられずにいると、しばらくして看護師の一人が近づいてくる。
「殿下、申し訳ありません。あちらの方がお話があると仰っています」
ディランが振り返るとハリソンが扉の前で一礼する。
「少しだけ前室で待ってもらって」
ディランは看護師に伝言を頼んでエミリーに向き直る。ディランが来た証を残しておきたくて、印章指輪を外してエミリーの手に握らせた。ディランは、その手に口づけを落として部屋を出る。
わざわざ王都にディランを呼び戻したのだ。チャーリーが何も言ってこないわけがない。一晩くらい待って欲しかったが、エミリーに会わせてくれただけ、チャーリーにしては優しい方だろう。ディランは自分に言い聞かせて深呼吸する。チャーリーと対峙したときに冷静でなくては言いたいことも言えない。
「ハリソン、お待たせ」
「夜分に申し訳ありません」
「本当だよ。それで、兄上はどこで待っているの?」
「ご案内します」
ハリソンはディランの投げやりな態度にも、眉をピクリと動かすだけに留めて歩き出す。トーマスが心配そうにディランの隣を歩いているので、大丈夫だと笑って頷いた。
ディランが連れて行かれたのは王宮の一室で、ハリソンの説明によるとエミリーが襲われた事件の対策本部として使われているらしい。
夜中だというのに、十数人の騎士が働いていて、中心にいるチャーリーが何やら指示を飛ばしていた。
「ディラン、来たか。ここは人の出入りが多い。隣の部屋で話すぞ」
珍しく疲れた顔をしているチャーリーとともにディランは隣の応接室に入る。ハリソンの入れた紅茶がいつもより濃いことで、今夜はディランも眠らせてもらえないことを悟った。
「ディラン、戻って来たなら自分から会いに来い。手間を取らせるな」
「兄上、第一声がそれですか?」
「何が言いたい?」
チャーリーは煩わしそうにディランを見ている。ディランは見えないように拳を握りしめた。
「僕や師匠をエミリーから遠ざけて何をやらせていたのですか?」
「なんだ、そんな話なら後にしろ。今は他に大事な事がある」
「僕はちゃんと説明してくれるまで兄上の頼み事を聞くつもりはありません」
ディランがチャーリーを睨みつけると、チャーリーはヤレヤレというように紅茶を飲む。
「ハリソン、説明してやれ。手短にな」
「畏まりました」
部屋にはトーマスを含めて4人しかいないが、ハリソンは珍しく立ったまま説明を始めた。話の内容からすると、ディランへの謝罪の気持ちの現れかもしれない。
ルークの説明にもあったように、ハリソンはチャーリーの命令でディラン派と言われる貴族の屋敷を回っていた。
「ディラン殿下もご存知の通り、いずれも、不正を働いてるのではないかと噂されている人物の屋敷です。今までは証拠が見つからずに監視するしかありませんでした。でも、エミリー嬢の協力を得て……」
「エミリーの魅了魔法を利用したの?」
ハリソンが躊躇するようにゆっくり喋るので、ディランは待ちきれずに言葉を遮る。ハリソンは静かに頷いて肯定した。
調査は順調だったようだ。エミリーは自ら力を使ったため、学院の生徒のとき以上に魅了の効果は顕著に出た。もちろん、貴族であるその家の当主本人には効果がない。しかし、使用人を操り証拠を盗み取ることは、秘密部隊の人間と協力すれば簡単だったようだ。
あと数カ所の調査で終わる。そう思っていたところで襲撃が起こった。
「私の落ち度です。申し訳ありませんでした」
ハリソンはぎごちなく頭を下げる。この部屋に案内されるまでにも感じていたが、ハリソンの怪我もまだ治っていないのだろう。動作に怪我を庇っているのが見て取れる。それでも、ディランは怒りを抑えることができなかった。
「殿下、申し訳ありません。あちらの方がお話があると仰っています」
ディランが振り返るとハリソンが扉の前で一礼する。
「少しだけ前室で待ってもらって」
ディランは看護師に伝言を頼んでエミリーに向き直る。ディランが来た証を残しておきたくて、印章指輪を外してエミリーの手に握らせた。ディランは、その手に口づけを落として部屋を出る。
わざわざ王都にディランを呼び戻したのだ。チャーリーが何も言ってこないわけがない。一晩くらい待って欲しかったが、エミリーに会わせてくれただけ、チャーリーにしては優しい方だろう。ディランは自分に言い聞かせて深呼吸する。チャーリーと対峙したときに冷静でなくては言いたいことも言えない。
「ハリソン、お待たせ」
「夜分に申し訳ありません」
「本当だよ。それで、兄上はどこで待っているの?」
「ご案内します」
ハリソンはディランの投げやりな態度にも、眉をピクリと動かすだけに留めて歩き出す。トーマスが心配そうにディランの隣を歩いているので、大丈夫だと笑って頷いた。
ディランが連れて行かれたのは王宮の一室で、ハリソンの説明によるとエミリーが襲われた事件の対策本部として使われているらしい。
夜中だというのに、十数人の騎士が働いていて、中心にいるチャーリーが何やら指示を飛ばしていた。
「ディラン、来たか。ここは人の出入りが多い。隣の部屋で話すぞ」
珍しく疲れた顔をしているチャーリーとともにディランは隣の応接室に入る。ハリソンの入れた紅茶がいつもより濃いことで、今夜はディランも眠らせてもらえないことを悟った。
「ディラン、戻って来たなら自分から会いに来い。手間を取らせるな」
「兄上、第一声がそれですか?」
「何が言いたい?」
チャーリーは煩わしそうにディランを見ている。ディランは見えないように拳を握りしめた。
「僕や師匠をエミリーから遠ざけて何をやらせていたのですか?」
「なんだ、そんな話なら後にしろ。今は他に大事な事がある」
「僕はちゃんと説明してくれるまで兄上の頼み事を聞くつもりはありません」
ディランがチャーリーを睨みつけると、チャーリーはヤレヤレというように紅茶を飲む。
「ハリソン、説明してやれ。手短にな」
「畏まりました」
部屋にはトーマスを含めて4人しかいないが、ハリソンは珍しく立ったまま説明を始めた。話の内容からすると、ディランへの謝罪の気持ちの現れかもしれない。
ルークの説明にもあったように、ハリソンはチャーリーの命令でディラン派と言われる貴族の屋敷を回っていた。
「ディラン殿下もご存知の通り、いずれも、不正を働いてるのではないかと噂されている人物の屋敷です。今までは証拠が見つからずに監視するしかありませんでした。でも、エミリー嬢の協力を得て……」
「エミリーの魅了魔法を利用したの?」
ハリソンが躊躇するようにゆっくり喋るので、ディランは待ちきれずに言葉を遮る。ハリソンは静かに頷いて肯定した。
調査は順調だったようだ。エミリーは自ら力を使ったため、学院の生徒のとき以上に魅了の効果は顕著に出た。もちろん、貴族であるその家の当主本人には効果がない。しかし、使用人を操り証拠を盗み取ることは、秘密部隊の人間と協力すれば簡単だったようだ。
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「私の落ち度です。申し訳ありませんでした」
ハリソンはぎごちなく頭を下げる。この部屋に案内されるまでにも感じていたが、ハリソンの怪我もまだ治っていないのだろう。動作に怪我を庇っているのが見て取れる。それでも、ディランは怒りを抑えることができなかった。
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