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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
22.提案
事件の混乱が収まりブルクハルトがリハビリを兼ねた戦闘訓練を始めた頃、クリスティーナはヴェロキラ辺境伯に呼び出された。書斎に入ると、辺境伯と夫人が並んで座っている。
「ブルクハルトとは関係ない話だから安心して良いよ」
「あのときは、ご心配をおかけしてすみませんでした」
クリスティーナは、辺境伯ののんびりとした笑顔を見て肩の力を抜く。今回も婚約破棄の話ではないらしい。
「関係ないっていうのは、あの子が可愛そうじゃないかしら?」
辺境伯の隣で夫人が可愛らしく笑う。辺境伯はその笑顔を愛おしそうに見つめていた。相変わらず仲の良い夫婦だ。クリスティーナは目のやり場に困ってお茶を飲む。
「ティナさんに依頼が来ていてね。今日は治癒魔法師としての今後の話をさせてもらいたい」
「一人で聞くのが不安なら、ブルクハルトを連れてきても良いわよ。部屋にいると思うわ」
「いえ、大丈夫です」
「そう?」
辺境伯夫婦はクリスティーナのことも大切にしてくれている。もし、クリスティーナが困る話なら、事前にブルクハルトかドリコリン伯爵を同席させてくれているだろう。
「これを見てくれるかな?」
「竜騎士団とヴェロキラ辺境伯騎士団からですか?」
クリスティーナは机の上に置かれた二種類の書類を手に取る。いずれもクリスティーナの治癒魔法師としての実力を評価し、騎士団に入ってほしいという依頼だった。
竜騎士団のものには、竜人やその番の皆さんの署名がたくさん並んでいる。父である伯爵を通した正式な依頼ではなく、有志によるお願いに近い形のようだ。
「私としてはティナさんの考えを尊重したいと思っている。率直な気持ちを聞かせてほしい。もちろん、今日中に結論を出す必要はないよ。今の気持ちを話してくれるかい?」
「ありがとうございます。騎士団の方に認めて頂けたことは嬉しく思います。ただ、私は何よりハルトの婚約者という立場を優先させたいと思っています。そのためには、どうするのが良いのでしょう?」
「ありがとう。我々としてはそう言って貰えるのが一番嬉しいよ」
そのまま三人で話をして、辺境伯騎士団にはお断りの連絡を入れることになった。辺境伯騎士団に入れば、他の団員と同じように騎士団で生活する必要がある。普段なら砦には優秀な治癒魔法師がたくさんいる。クリスティーナを特別扱いする理由はないのだ。それでは、ブルクハルトが怪我をしても駆けつけられなくなってしまう。
となると残るはクリスティーナくらいしか治療できる治癒魔法師がいない竜騎士団についてだが……
「竜人の方が怪我をして、私の力が必要になったときには、駆けつけるつもりでいます。今の状況と竜騎士団に入るのでは、どのように変わるのでしょう?」
「その辺りについて説明する必要があるね。ただ、すべて辺境伯家と竜騎士団側の都合でしかないんだ。ティナさんにとっては負担が増えるだけになる」
普段は今回同様、何かあれば駆けつけるという形をとれば良いようだ。竜騎士団はヴェロキラ家の親族で構成されているため融通が効く。
だだ大規模討伐時は例外で、もしもの場合にすぐに治療できるようにキャンプ地に待機してほしいとのことだ。
それに際して必要となるのが肩書だ。大規模討伐時には他の領地から、それぞれの騎士団がやってくる。クリスティーナが竜騎士団内の肩書を持たないままキャンプ地に立ち入れば、悪目立ちしてしまう。竜騎士団はそれだけ注目されているのだ。
竜人が怪我をすることは滅多にない。今までは大規模討伐時も拙い竜騎士の治癒魔法で問題がなかった。クリスティーナが所属しているという安心感が一番必要とされている印象だ。
「でしたら、竜騎士団に入ります」
ブルクハルトが怪我をした場合、今回のように倒れるのが辺境伯家の庭とは限らない。クリスティーナが前線のキャンプ地で待機していれば、早く治療を開始できるだろう。クリスティーナとしてもありがたい申し出だ。
「あ、いや。そうか」
クリスティーナの前のめりな返事に、何故か辺境伯が戸惑った様子を見せる。クリスティーナはよく分からなくて、夫人に視線を移した。
「もう。ティナちゃんが困ってるから、はっきり仰って下さい。ティナちゃん、さっきもこの人が言ったとおり、この話は今日中に結論を出す必要はないのよ」
「私としては、大規模討伐に参加してみてから決めるのが良いんじゃないかと思っている。まだ、ドリコリン伯爵にも話していない段階だから、それも実現するとは言い切れないけどね」
ドリコリン伯爵に話せば、クリスティーナの竜騎士団入隊を拒否するのは明白だ。辺境伯は言葉を濁していたが、竜騎士と青龍としての連携にも影響が出るくらい怒る可能性があるらしい。クリスティーナが断るなら、わざわざ話す必要はないので、先に意思を確認したようだ。
「父が過保護ですみません」
「まぁ、強引にブルクハルトと婚約させた前科があるからね。仕方ないさ」
辺境伯が苦笑いする。婚約の顔合わせのときには仲良く話していた印象しか残っていないが、その前に揉めたのかもしれない。
「伯爵は許して下さるかしら?」
「私が説得してみるよ。安全な場所から出さないと言えば、納得してくれるだろうか?」
辺境伯は自信がなさそうだ。クリスティーナが説得すると言ったが、それは最後の手段だと止められた。
「ハルトに話すのは大規模討伐のあとでも良いでしょうか? 今はリハビリもありますし、私のことで悩ませたくないんです」
大規模討伐終了後に問題なく参加できたことを話せば、ブルクハルトは納得してくれるはずだ。
「そうね。それで良いと思うわ」
「蚊帳の外にしては、あいつが可愛そうじゃないか?」
「良いのよ。竜人は心配症で面倒だもの」
辺境伯は夫人の言葉を否定できないのか、困った顔をして口を噤んだ。結局、伯爵やガスパールの了承のもと、ブルクハルトには内緒で準備が進められた。
大規模討伐当日、クリスティーナは早めに屋敷を出て、キャンプ地で待機した。この討伐には、ブルクハルトも初めて青龍として参加する。見つかって動揺させるわけにはいかないと思ったのだ。
「何でこんなところにいるんだ!? それにその服……」
「似合ってる?」
結局、ジュリアンに見つかって話しているところにブルクハルトが来たせいで、最悪のタイミングでバレてしまった。ヒヤヒヤしたが、その日のブルクハルトに怪我がなくて本当に良かったと思う。
そんなゴタゴタもあったが、クリスティーナは無事に竜騎士団の一員になった。竜騎士にはなれなかったが、クリスティーナにとっては理想的な形になったと思う。ブルクハルトにとっても同じだと嬉しいが、何となく聞けないでいる。
「ブルクハルトとは関係ない話だから安心して良いよ」
「あのときは、ご心配をおかけしてすみませんでした」
クリスティーナは、辺境伯ののんびりとした笑顔を見て肩の力を抜く。今回も婚約破棄の話ではないらしい。
「関係ないっていうのは、あの子が可愛そうじゃないかしら?」
辺境伯の隣で夫人が可愛らしく笑う。辺境伯はその笑顔を愛おしそうに見つめていた。相変わらず仲の良い夫婦だ。クリスティーナは目のやり場に困ってお茶を飲む。
「ティナさんに依頼が来ていてね。今日は治癒魔法師としての今後の話をさせてもらいたい」
「一人で聞くのが不安なら、ブルクハルトを連れてきても良いわよ。部屋にいると思うわ」
「いえ、大丈夫です」
「そう?」
辺境伯夫婦はクリスティーナのことも大切にしてくれている。もし、クリスティーナが困る話なら、事前にブルクハルトかドリコリン伯爵を同席させてくれているだろう。
「これを見てくれるかな?」
「竜騎士団とヴェロキラ辺境伯騎士団からですか?」
クリスティーナは机の上に置かれた二種類の書類を手に取る。いずれもクリスティーナの治癒魔法師としての実力を評価し、騎士団に入ってほしいという依頼だった。
竜騎士団のものには、竜人やその番の皆さんの署名がたくさん並んでいる。父である伯爵を通した正式な依頼ではなく、有志によるお願いに近い形のようだ。
「私としてはティナさんの考えを尊重したいと思っている。率直な気持ちを聞かせてほしい。もちろん、今日中に結論を出す必要はないよ。今の気持ちを話してくれるかい?」
「ありがとうございます。騎士団の方に認めて頂けたことは嬉しく思います。ただ、私は何よりハルトの婚約者という立場を優先させたいと思っています。そのためには、どうするのが良いのでしょう?」
「ありがとう。我々としてはそう言って貰えるのが一番嬉しいよ」
そのまま三人で話をして、辺境伯騎士団にはお断りの連絡を入れることになった。辺境伯騎士団に入れば、他の団員と同じように騎士団で生活する必要がある。普段なら砦には優秀な治癒魔法師がたくさんいる。クリスティーナを特別扱いする理由はないのだ。それでは、ブルクハルトが怪我をしても駆けつけられなくなってしまう。
となると残るはクリスティーナくらいしか治療できる治癒魔法師がいない竜騎士団についてだが……
「竜人の方が怪我をして、私の力が必要になったときには、駆けつけるつもりでいます。今の状況と竜騎士団に入るのでは、どのように変わるのでしょう?」
「その辺りについて説明する必要があるね。ただ、すべて辺境伯家と竜騎士団側の都合でしかないんだ。ティナさんにとっては負担が増えるだけになる」
普段は今回同様、何かあれば駆けつけるという形をとれば良いようだ。竜騎士団はヴェロキラ家の親族で構成されているため融通が効く。
だだ大規模討伐時は例外で、もしもの場合にすぐに治療できるようにキャンプ地に待機してほしいとのことだ。
それに際して必要となるのが肩書だ。大規模討伐時には他の領地から、それぞれの騎士団がやってくる。クリスティーナが竜騎士団内の肩書を持たないままキャンプ地に立ち入れば、悪目立ちしてしまう。竜騎士団はそれだけ注目されているのだ。
竜人が怪我をすることは滅多にない。今までは大規模討伐時も拙い竜騎士の治癒魔法で問題がなかった。クリスティーナが所属しているという安心感が一番必要とされている印象だ。
「でしたら、竜騎士団に入ります」
ブルクハルトが怪我をした場合、今回のように倒れるのが辺境伯家の庭とは限らない。クリスティーナが前線のキャンプ地で待機していれば、早く治療を開始できるだろう。クリスティーナとしてもありがたい申し出だ。
「あ、いや。そうか」
クリスティーナの前のめりな返事に、何故か辺境伯が戸惑った様子を見せる。クリスティーナはよく分からなくて、夫人に視線を移した。
「もう。ティナちゃんが困ってるから、はっきり仰って下さい。ティナちゃん、さっきもこの人が言ったとおり、この話は今日中に結論を出す必要はないのよ」
「私としては、大規模討伐に参加してみてから決めるのが良いんじゃないかと思っている。まだ、ドリコリン伯爵にも話していない段階だから、それも実現するとは言い切れないけどね」
ドリコリン伯爵に話せば、クリスティーナの竜騎士団入隊を拒否するのは明白だ。辺境伯は言葉を濁していたが、竜騎士と青龍としての連携にも影響が出るくらい怒る可能性があるらしい。クリスティーナが断るなら、わざわざ話す必要はないので、先に意思を確認したようだ。
「父が過保護ですみません」
「まぁ、強引にブルクハルトと婚約させた前科があるからね。仕方ないさ」
辺境伯が苦笑いする。婚約の顔合わせのときには仲良く話していた印象しか残っていないが、その前に揉めたのかもしれない。
「伯爵は許して下さるかしら?」
「私が説得してみるよ。安全な場所から出さないと言えば、納得してくれるだろうか?」
辺境伯は自信がなさそうだ。クリスティーナが説得すると言ったが、それは最後の手段だと止められた。
「ハルトに話すのは大規模討伐のあとでも良いでしょうか? 今はリハビリもありますし、私のことで悩ませたくないんです」
大規模討伐終了後に問題なく参加できたことを話せば、ブルクハルトは納得してくれるはずだ。
「そうね。それで良いと思うわ」
「蚊帳の外にしては、あいつが可愛そうじゃないか?」
「良いのよ。竜人は心配症で面倒だもの」
辺境伯は夫人の言葉を否定できないのか、困った顔をして口を噤んだ。結局、伯爵やガスパールの了承のもと、ブルクハルトには内緒で準備が進められた。
大規模討伐当日、クリスティーナは早めに屋敷を出て、キャンプ地で待機した。この討伐には、ブルクハルトも初めて青龍として参加する。見つかって動揺させるわけにはいかないと思ったのだ。
「何でこんなところにいるんだ!? それにその服……」
「似合ってる?」
結局、ジュリアンに見つかって話しているところにブルクハルトが来たせいで、最悪のタイミングでバレてしまった。ヒヤヒヤしたが、その日のブルクハルトに怪我がなくて本当に良かったと思う。
そんなゴタゴタもあったが、クリスティーナは無事に竜騎士団の一員になった。竜騎士にはなれなかったが、クリスティーナにとっては理想的な形になったと思う。ブルクハルトにとっても同じだと嬉しいが、何となく聞けないでいる。
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