37 / 160
二章 無事を祈って【オーギュスト】
第9話 図書館
しおりを挟む
オーギュストは馬を使って、王宮内を移動する。王宮の北の端まで来ると、窓の少ない大きな建物が見えてきた。フルーナ王国の知識が集められた王立の図書館だ。申請をすれば、誰でも利用することができるため、正面の入口には開館直後だというのに列ができている。警備をする魔導師団員の姿も見えた。
オーギュストは人の多い正面には近づかず、裏側に回り込む。木々に隠されていて周囲からは見にくいが、そこには王族のみが使用できる専用の入口がある。
オーギュストは馬を降りて、近づいてきた近衛騎士に預けた。他の騎士が静かに扉を開けて待機している。
「誰か利用しているか?」
「いいえ。本日は、どなたもいらっしゃっておりません」
オーギュストは近衛騎士の言葉に頷いて、建物の中に入る。貸出もできるので王族本人が来ることは稀だが、鉢合わせしなくて何よりだ。今日は誰にも邪魔されたくない。
近衛騎士が護衛のために付いて来ようとしたが、ジョエルがやんわりと断っていた。
「今日は上を使わせてもらう」
「畏まりました」
オーギュストは司書に声をかけてから、簡素な階段を登る。王族専用に作られた空間には、本をゆっくり読むための応接室がいくつもある。だが、今回は応接室のある二階ではなく、さらに上を目指した。
「私は一般エリアでフリルネロ公爵領についての資料を集めて、三階の待機室でお待ちしております」
「どうせ話すことになるんだ。ジョエルも来れば良い」
最上階の四階には、禁書を保管する特別室がある。原則として王族しか入れないが、侍従を連れて入る者もいる。国王か王太子に申し出れば、国の重役も使用可能だ。
「必要のない知識は、持たないに限ります。現に、オーギュスト殿下の記憶が正しければ、特別室に入った者の中に犯人がいるんですよね?」
「そういうことになるな」
オーギュストが調べようとしているのは、魔獣を人工的に集める方法だ。浄化が終わる前でも、フリルネロ公爵領のような襲われ方をした場所はなかった。何らかの方法で人為的に魔獣を集めたと考えるのが自然だ。そして、オーギュストには、その方法について心当たりがある。
「では、私は失礼いたします」
ジョエルはそれだけ言って、一般エリアに続く扉を開けて去っていく。オーギュストは、それを見届けて四階へと登った。ジョエルに手伝ってもらうことはないので、無理を強いる必要はない。
四階に着くと、大きな扉がオーギュストを出迎える。魔力の壁を通過した気配を感じながら扉に手を触れると、オーギュストの魔力から王族の血統を感知して、扉がゆっくりと開かれた。
「相変わらず、異様な雰囲気だな」
特別室の中は古い書物を守るためにいくつもの魔法がかけられている。魔力が低い者が入ると、多すぎる魔法の気配によって具合が悪くなると聞いている。オーギュストは薄暗く寒い部屋を、魔法で足元を照らしながら、ゆっくりと進んだ。狭い通路は、両側にそびえ立つ本の壁に挟まれている。
特別室は渦を巻くように作られており、進むごとに建物の中央へと近づいていく。大まかに分野わけされているが、中央に近づくほどに貴重で危険な書物が増える印象だ。
最奥の部屋には、異世界からの聖女召喚魔法など、現在では禁術に指定されている知識も眠っている。
オーギュストは忌み嫌われていた子供時代に入り浸っていたので、誰よりもこの空間を把握している。オーギュストが知識を得ることを怖がる人間もいたが、ノルベルトや前魔導師団長のおかげで、今日までここに入る権利を奪われることはなかった。
しかし、多くの人を苦しめる知識が収められている場所だ。今後は閲覧者について、もう少し厳しく制限すべきではないかとオーギュストは思っている。
オーギュストは人の多い正面には近づかず、裏側に回り込む。木々に隠されていて周囲からは見にくいが、そこには王族のみが使用できる専用の入口がある。
オーギュストは馬を降りて、近づいてきた近衛騎士に預けた。他の騎士が静かに扉を開けて待機している。
「誰か利用しているか?」
「いいえ。本日は、どなたもいらっしゃっておりません」
オーギュストは近衛騎士の言葉に頷いて、建物の中に入る。貸出もできるので王族本人が来ることは稀だが、鉢合わせしなくて何よりだ。今日は誰にも邪魔されたくない。
近衛騎士が護衛のために付いて来ようとしたが、ジョエルがやんわりと断っていた。
「今日は上を使わせてもらう」
「畏まりました」
オーギュストは司書に声をかけてから、簡素な階段を登る。王族専用に作られた空間には、本をゆっくり読むための応接室がいくつもある。だが、今回は応接室のある二階ではなく、さらに上を目指した。
「私は一般エリアでフリルネロ公爵領についての資料を集めて、三階の待機室でお待ちしております」
「どうせ話すことになるんだ。ジョエルも来れば良い」
最上階の四階には、禁書を保管する特別室がある。原則として王族しか入れないが、侍従を連れて入る者もいる。国王か王太子に申し出れば、国の重役も使用可能だ。
「必要のない知識は、持たないに限ります。現に、オーギュスト殿下の記憶が正しければ、特別室に入った者の中に犯人がいるんですよね?」
「そういうことになるな」
オーギュストが調べようとしているのは、魔獣を人工的に集める方法だ。浄化が終わる前でも、フリルネロ公爵領のような襲われ方をした場所はなかった。何らかの方法で人為的に魔獣を集めたと考えるのが自然だ。そして、オーギュストには、その方法について心当たりがある。
「では、私は失礼いたします」
ジョエルはそれだけ言って、一般エリアに続く扉を開けて去っていく。オーギュストは、それを見届けて四階へと登った。ジョエルに手伝ってもらうことはないので、無理を強いる必要はない。
四階に着くと、大きな扉がオーギュストを出迎える。魔力の壁を通過した気配を感じながら扉に手を触れると、オーギュストの魔力から王族の血統を感知して、扉がゆっくりと開かれた。
「相変わらず、異様な雰囲気だな」
特別室の中は古い書物を守るためにいくつもの魔法がかけられている。魔力が低い者が入ると、多すぎる魔法の気配によって具合が悪くなると聞いている。オーギュストは薄暗く寒い部屋を、魔法で足元を照らしながら、ゆっくりと進んだ。狭い通路は、両側にそびえ立つ本の壁に挟まれている。
特別室は渦を巻くように作られており、進むごとに建物の中央へと近づいていく。大まかに分野わけされているが、中央に近づくほどに貴重で危険な書物が増える印象だ。
最奥の部屋には、異世界からの聖女召喚魔法など、現在では禁術に指定されている知識も眠っている。
オーギュストは忌み嫌われていた子供時代に入り浸っていたので、誰よりもこの空間を把握している。オーギュストが知識を得ることを怖がる人間もいたが、ノルベルトや前魔導師団長のおかげで、今日までここに入る権利を奪われることはなかった。
しかし、多くの人を苦しめる知識が収められている場所だ。今後は閲覧者について、もう少し厳しく制限すべきではないかとオーギュストは思っている。
35
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる