【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

文字の大きさ
58 / 160
二章 無事を祈って【オーギュスト】

第30話 公爵領からの報告

しおりを挟む
 オーギュストは、しばらく通常業務に追われる日々を過ごした。ミシュリーヌがいない以外は、日常が戻っている。

 調査隊が無事に出発した二日後には、ヤニックも公爵領に帰っていった。調査隊に同行してもらっても良かったが、あのような状況なので強くは勧めなかった。S級冒険者だと聞いているので、調査隊よりも早く公爵領に帰りつくだろう。

 マリエルからの報告によれば、ミシュリーヌの旅も順調らしい。

 ミシュリーヌはマリエルたちの護衛を拒否していたが、街を出る際には彼女たち四人と行動を共にした。優しいミシュリーヌのことだから、マリエルたちが知らない間に危険な目に合うことを懸念したのだろう。その後も街にいるときには別行動をとっているようだが、報告書を読む限り、想定より護衛は上手くいっている。

 そのことは、マリエルからの報告が頻繁に来ることからも確認できた。オーギュストへの報告は使役獣を介して行われる。ミシュリーヌが使役獣をマリエルに貸している証拠だ。

 ミシュリーヌはちゃんと食事をとっているだろうか? 無理をしていないだろうか?

 本当はオーギュスト自身が元気なミシュリーヌの姿を確認したい。使役獣に憑依すれば簡単なことだ。ただ、そんな理由で使役獣を使ってしまうと、ミシュリーヌに容認させれている護衛さえ拒否されかねない。だから、オーギュストは我慢するしかなかった。


 ある日、オーギュストが朝食を終えると、マリエルから呼び出しがかかった。いつもの定期報告だと思ったが……

【第三都市にいる隊からの報告。第三都市にてガエル殿下を思わせる人物の目撃情報あり。繁華街にて複数の女性と接触した模様。女性はいずれも口が固く会話の内容は聴取できず。現在の所在は不明】

 オーギュストは使役獣の瞳からマリエルを見上げる。小さく頷かれて、メモの束を見せられた。公爵領の中央にある第三都市にいる隊がマリエルに伝書鳩で送った報告の原本だ。最初に読んだマリエルのまとめた報告と変わらないが、団員たちの戸惑いが直接伝わってくる。

 それはオーギュストも同じだった。全身を毛で覆われたぬいぐるみの中でなければ、部下に動揺を隠すのも難しかったかもしれない。

 ガエルの目撃情報はミシュリーヌからの手紙がオーギュストのもとに届いた頃に集中している。今のところ、ミシュリーヌの周りに危険はないようだが、ミシュリーヌが領内にいることをガエルが知っている可能性がある。

 何より時期を考えれば、神殿に魔法をかけたのはガエルかもしれない。ヘクターとガエルが組んでノルベルトへの謀反を企てているのだろうか。想像するだけで目眩がする。

【妃殿下に説明いたしますか?】

 オーギュストはマリエルからの質問に即答することができなかった。ミシュリーヌがこのことを知れば、自分の安全を優先してくれるだろうか? オーギュストには、怯えながら浄化を続ける姿しか思い浮かばない。

 オーギュストは結論が出せないまま、ノルベルトに相談するとだけ伝えて憑依から抜け出した。


 オーギュストはとにかくガエルの足跡を探すことにした。団員たちが得た目撃情報は、あくまで『ガエル殿下を』だ。王族特有の銀色の髪をしていたようだが、本物を見ていなければ灰色の髪も銀色と誤認しかねない。何より目撃された特徴だけで言うなら、兄弟四人とも当てはまる。ガエルと仮に断定したのは、他の三人の所在がはっきりしていることと、女好きという特徴だけだ。

「オーギュスト殿下、大丈夫ですか? 少し落ち着かれてからにした方がよろしいのでは?」

 黙って付き従っていたジョエルが聞いてくる。振り返って顔を見ると、ジョエルのほうが動揺しているように見えた。オーギュストは兄たちに可愛がられて育ったため、乳兄弟としてずっとそばにいたジュエルもガエルのことはよく知っている。

「私は大丈夫だ。ヘクター兄上のときほど驚いていない。場所がフリルネロ公爵領だからな」

「そうですね」

 ジョエルがオーギュストを励ますように微笑む。オーギュストは苦笑いしながら頷いた。オーギュストが『大丈夫』でないことも、助言に従わないことも分かっているのだろう。

「もし、王都に戻って来ているなら、その場で戦闘になるかもしれない。危ないと思ったら逃げてくれ」

「……悔しいですが、仰せのままにいたします」

 ジョエルは魔力も高く実力もあるが、ガエルの実力は未知数だ。公には基礎訓練しか受けていないことになっているが、隠れて真面目に訓練していたなら、オーギュスト以外は誰も敵わない。

 オーギュストは緊張しながら、ガエルの暮らす離宮に向かったのだが……


「ここも空振りか」

 オーギュストは、王都にあるフリルネロ公爵家の応接室でため息をつく。ガエルが王都で滞在できる場所は三か所ある。王宮にあるガエル専用の離宮、王都にある別邸、そしてオーギュストが今いる婿入り予定の公爵家だ。

「ガエル兄上の『ご友人』のお宅を教えてほしい。王都にもいくつかあるんだろう?」

 オーギュストは、離宮から同行していたガエルの侍従に詰め寄る。『ご友人』とはもちろん異性の遊び相手のことだ。何人いるかは知らないが、いつでも数人と関係を持っている。

「お伝えするのは吝かではございませんが、ガエル様はいらっしゃらないかと思います」

「根拠は?」

「こちらでも探しましたが、いらっしゃいませんでした」

 しばらく留守にすると言われたが、あまりに帰ってこないため、確認に人をやったらしい。『友人たち』は訪問がないことを怒っており、隠している様子はなかったようだ。

「なぜ、報告しなかった?」

「今までにも同じようなことが何度もございました。はじめのうちは報告を上げていたのですが……いつも、『ご友人』と旅行を楽しんでいるだけだったので、最近は報告しておりません」

「大事にするなと言われたか?」

 侍従は曖昧に笑う。ガエルはノルベルトに叱責されるのを嫌ったのだろう。あるいは、ノルベルトの方が報告は必要ないと言った可能性もある。

「これは私の推測ですが、今回は領地に向かわれた気がします。出かける前に地図を熱心にご覧になっておいででした」

「領地というと、フリルネロ公爵領で間違いないか?」

「はい。真剣な表情をされておりましたし、何か気になることがお有りのようでした」

 侍従は何かあったのかと聞いたが、『友人』との旅行先を考えていると言われて、それ以上は聞けなかったようだ。事実かもしれないとも思ったらしい。

「最後に兄上を王都で見た具体的な日付は分かるか?」

 侍従は頷いて、すぐに手元の手帳に視線を送る。

「ガエル様と最後にお会いしたのは……」

 侍従の告げた日付は、そのまま公爵領に向かったと考えれば、第三都市の目撃情報とも一致する時期だった。オーギュストも祝賀パーティーの後に一度会っているが、そのすぐ後に王都を発ったことになる。ガエルはまだ戻ってきていないのだろうか? ガエルの離宮に戻り、書斎にも入れてもらったが、特に得られる情報はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】王太子とその婚約者が相思相愛ならこうなる。~聖女には帰っていただきたい~

かのん
恋愛
 貴重な光の魔力を身に宿した公爵家令嬢エミリアは、王太子の婚約者となる。  幸せになると思われていた時、異世界から来た聖女少女レナによってエミリアは邪悪な存在と牢へと入れられてしまう。  これは、王太子と婚約者が相思相愛ならば、こうなるであろう物語。  7月18日のみ18時公開。7月19日から毎朝7時更新していきます。完結済ですので、安心してお読みください。長々とならないお話しとなっております。感想などお返事が中々できませんが、頂いた感想は全て読ませてもらっています。励みになります。いつも読んで下さる皆様ありがとうございます。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...