【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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二章 無事を祈って【オーギュスト】

第31話 新しい街【ミシュリーヌ】

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― 前日 ―

 ミシュリーヌは新しい街に入って、ホッと息を吐く。フリルネロ公爵領内で安全が確保されているのは、街を囲うように作られた石壁の中だけだ。前回の移動からマリエルたちが同行するようになって楽にはなったが、街の外はどうしても魔獣の危険が付き纏い、心が休まるときがない。

「――……ャ様、よろしいですか?」

 ミシュリーヌは話しかけられていたことに気づいて、慌てて顔を上げる。先程まで旅を共にしていた馬はそばに居らず、厩舎に連れて行かれる後ろ姿が見える。いつの間にか馬を預ける手続きが終わっていたようだ。どのくらい、ボーッとしていたのだろう?

「ごめんなさい。もう一度、お願いできるかしら?」

「はい、もちろんです」

 ミシュリーヌの謝罪を聞いて、一番若い護衛が姿勢を正す。同じ旅をしていたはずなのに、護衛の四人に疲れた様子はない。ミシュリーヌは自分の体力のなさに落ち込む。

「厩舎の方にお聞きしたところ、この街には大きな宿が二件あるそうです。中心部に近い宿のほうが何かと便利かと思いますが、そちらでよろしいですか?」

「え、ええ」

 ミシュリーヌは反射的に返事をしてから、失敗したことに気がついた。街に入ったら別行動を取ろうと思っていたのに、これでは街の中でも護衛は継続することになりそうだ。嬉しそうな笑顔を前に訂正することができない。

「では、先行して部屋を抑えてまいります。ごゆっくりお越し下さい」

 護衛のうち二人が、ミシュリーヌを残して、走り去っていく。たぶん、周囲や宿の部屋の安全も確認してくれるのだろう。ミシュリーヌは、それなら安心だと思ってしまってさらに落ち込む。この待遇に慣れたままでは、独り立ちしたとはとても言えない。今後、一人で生きていくのに支障が出る。

「ミーシャ様、お疲れですか?」

 マリエルに心配そうに見られて、ミシュリーヌは笑顔を返す。

「少し考え事をしていただけだから大丈夫よ」
 
 正直なところ、ミシュリーヌは疲れが溜まってきていることを実感していた。浄化の旅の中でも魔法を多用してきたがこんなに疲れたことはない。どうしてだろうと考えると、いつも優しく見守ってくれていたオーギュストの顔が浮かんでくる。

 オーギュストが一緒のときには、ミシュリーヌが疲れを感じる前に休めるように動いてくれていた。過保護すぎて呆れることも多かったが、離れるとどれだけ寄りかかって生きてきたのかがよく分かる。子供扱いされ、妻と認識されなかったのも仕方がないことかもしれない。

「お部屋に食事をお持ちしますね」

「そこまでしなくて大丈夫よ。街の中は安全だもの。今までと同じように、基本は別行動にしましょう。宿はせっかく取りに行ってくれたのだから、ありがたく使わせてもらうわ」

 ミシュリーヌは申し出をはっきりと断った。

「分かりました。二人にも伝えておきます」

 マリエルたちは心配してくれるが、それ以上にミシュリーヌの意思を尊重してくれている。

「私達も宿に向かいましょう」

 本当は暗くなる前に夕食の買い物を済ませるべきだが、ミシュリーヌは落ち着ける場所で早く休みたかった。幸いなことにマジックバックの中には、余分に買っておいた食事が残っている。

「……畏まりました」

 マリエルは探るように見てきたが、何も言ってはこなかった。

 ミシュリーヌは宿の部屋に入って一人になると、旅の汚れだけ魔法で落としてベッドに潜り込む。少しだけ休むつもりが、そのまま眠ってしまった。
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