【完結】皇太子殿下の婚約者は、浮気の証拠を盾に婚約破棄を画策する

五色ひわ

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それぞれの画策

48.フェルディナンの画策【フェルディナン】

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 フェルディナンが落ち着かない気持ちで待っていると、予定時刻より少し早く、ジョゼフィーヌが緊張した面持ちで部屋に入ってきた。

「やっと来たか」

 いつもより派手な服を着たジョゼフィーヌも美しい。フェルディナンは、ジョゼフィーヌの姿を目に焼き付けるように見つめた。

 今日でジョゼフィーヌに会えるのも最後かもしれない。あれだけ時間をかけて策を練ったのに不安でたまらなかった。

「殿下、こちらをご覧頂けますか?」

 ジョゼフィーヌはフェルディナンの視線に戸惑った様子を見せていたが、思い直したかのように封筒を渡してくる。中に入っていたのは、アンリがジョゼフィーヌに渡した報告書だ。 

(結局、ジョゼフィーヌは読まなかったのか?)

 報告書をペラペラとめくってみるが、新品同様でめくられた形跡がない。 

「それで? 私にどうして欲しい?」

 収穫祭のときとは違い、今回はフェルディナンも、ジョゼフィーヌが『マルク』の正体を知らないまま現れる可能性も想定していた。

 ジョゼフィーヌが『マルク』の正体を知った上で婚約破棄を望んできた場合、外からしか鍵が開けられない部屋に案内しなければならなかったが、面会室で穏便に話ができそうでフェルディナンはホッとする。

 フェルディナンは考えておいた筋書きのうち、最適なものを脳裏に描く。落ち着いて話す役には立ちそうだが、まったく警戒する様子のないジョゼフィーヌ相手では、駆け引きにもならない。

「殿下が本当に愛する方がいるのであれば、わたくしは応援致しますわ」

「ほぅ、応援してくれるのか?」

「はい、もちろんですわ」

 フェルディナンはジョゼフィーヌの言葉を聞いて悲しくなるが、表面上は平静を装った。ジョゼフィーヌがあっさりと『フェルディナンの想い人』を受け入れることも想定内だ。動揺する必要はないと自分自身に言い聞かせる。

「私の愛する娘を愛人として囲っても問題ない。そういう事か」

「いいえ! いいえ、殿下。それは違います。殿下の恋人を日陰の身に置くだなんてありえませんわ」

 フェルディナンを愛していなくても、皇太子妃の座には就いてくれる。そんな僅かな希望も一刀両断されて、フェルディナンは心の中で打ちひしがれた。

(どんな形でも、逃しはしない)

 ジョゼフィーヌを罠にかける罪悪感など消えてなくなった。たとえ一生、ジョゼフィーヌが心からの笑顔を見せてくれなくても、そばに居てくれるならそれでいい。

「では、ジョゼフィーヌ。この書類に署名してもらおう」

 フェルディナンの言葉を受けて、気配を消していたクレマンがジョゼフィーヌの前に書類を差し出す。クレマンが心配するような視線を送って来たが、フェルディナンは見なかったことにした。

「え? わたくしはそんなことをしなくても、殿下を裏切ったりはしませんわ」

「それなら署名しても問題ないだろう?」

「それはそうですが……」

 ジョゼフィーヌはそれ以上断る理由が見つからなかったのか、躊躇しながらも書類を手に取る。

1、ジョゼフィーヌはフェルディナンとフェルディナンの愛する女性が結婚することに同意する

1、ジョゼフィーヌはフェルディナンの愛する女性が皇太子妃になることに同意する

1、ジョゼフィーヌはフェルディナンと愛する女性が一緒に暮らすことに同意する 

1、ジョゼフィーヌはフェルディナンと愛する女性が2人で外出することに必ず同意する

1、ジョゼフィーヌはフェルディナンに愛する女性が膝枕をすることに必ず同意する

1、ジョゼフィーヌはフェルディナンと愛する女性が2人でお茶会をすることに必ず同意する

1、……


 側近たちが呆れながらも不備を確認してくれたので問題ないはずだ。ジョゼフィーヌが書類を読み込んでいる間に、フェルディナンは魔法を自らにかけて『マルク』の体型を作り茶色の鬘をかぶった。

(ジョゼフィーヌの愛する『マルク』の完成だな)

 フェルディナンは自虐的なことを考えて苦笑する。

「殿下、署名が済みましたわ。確認お願いし……」

 ジョゼフィーヌは笑顔でこちらを見たが、そのまま固まってしまった。フェルディナンが『マルク』である可能性について考えたこともなかったのだろうから無理もない。

「一緒に暮らすことも承諾してくれたようだし、今日から王宮に住んでもらおうか。部屋はジョゼフィーヌの好みに合うよう整えさせてある」

 フェルディナンは、こんな自分に好かれてしまったジョゼフィーヌを可哀想に思う。それでも、口から出てきた言葉は優しいものではなかった。『マルク』の姿にジョゼフィーヌが微笑むところなど、もう見たくはない。

「え?」

 フェルディナンはなるべく優雅に見えるように微笑んで、固まったままのジョゼフィーヌの手から書類を抜き取った。

「マルク? 殿下はどこにいらっしゃるの?」

「ジョゼフィーヌの目の前にいるだろう」

「マルク……よね?」

 ジョゼフィーヌは状況が掴めないまま、呆然とフェルディナンを見つめている。今度こそ、きちんと説明しなければならない。フェルディナンはジョゼフィーヌに気づかれないように呼吸を整えた。
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