11 / 19
保健医は黒の魔術師に嘘を吐く(ハンナside)
しおりを挟む「はぁ~~。」
魔術準備室を出て廊下を歩きながら、
ため息を吐く。
先程まで、エルンストさんと一緒に世間話をしていた。
王国魔術師団にいた頃は仕事の話しかしたことが無かったので、
こんな風に話をするのは初めてのことだった。
とてもドキドキしたけれど、
話をしたいと言えば、気さくに応じてくれたし、メロンパンまでくれる神対応振り。
その際、「好きなのか?」と聞かれて、
私の気持ちがバレたのかと思って慌てたが、
メロンパンのことだったようだ。
恥ずかしい、、。
彼とは昨日再会した。
私はあるキッカケで魔術師団を辞め、保健医としてこのシュトラーレン魔術学校に来た。
昨日も授業終わりに彼の姿を探していたが、
もう帰ってしまったのか見つからず、
なんとなくしょげたまま備品補充をしていたら、箱をひっくり返してしまった。
前任の保健医がズボラな人だったようで、
大きな箱に雑多に備品が詰め込まれており、
整理しなければいけないな、と思いながらも、なかなか手が着けられずにいたのだが、、
こんなことならもっと早くやっておけば良かった、と後悔していると、
突然、保健室の扉が開いた。
誰だろう、と振り返ると、
そこにいたのは、半年間会いたくて堪らなかった、アドルフ・エルンストその人だった。
向こうから現れたことに驚き、目を見開く。
半年の間に、以前よりも背が伸びて大人っぽくなったように感じる。
感慨深く見入っていると、エルンストさんは疲れたような顔で私を見やり、もう帰ると言い出した。
ーせっかく会えたのに、そんなの嫌だ!
気づけば私は必死に彼を引き止めていた。
片付けを手伝って欲しい、と頼めば、
一人でできるだろう、と言われ、言葉に詰まる。
そうだ、正直言ってこの位王国魔術師団にいた魔術師なら一瞬で片付けられる。
言葉に窮した私は、とっさに彼に嘘を吐いた。
"風の魔術の出力が安定しないので、魔法で片付けが出来ない"と。
元々生活魔術などの、出力を抑えてコントロールしなければならないものが苦手ではあったので、全くの嘘ではない。
が、これを片付けられないか、と聞かれればそんなことはない。
彼はそんな私の言葉を信じたようで、
風の魔術で、さっさと備品を片付け始める。
久しぶりに見る彼の魔術は、相変わらず正確で美しかった。
彼は備品を仕舞った箱を元あった場所まで運んでくれて、今後の改善策まで考えてくれた。
とても疲れているようなのに、優しい彼に、
嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが無い混ぜになる。
せめてもと、ヒーリングの魔術をかけてあげれば、疲れが取れたのかスッキリとした表情でお礼を言われた。
お礼を言うのはこちらの方なのに。
彼の立ち去る背中を見ながら、嘘を吐いたことへの罪悪感が迫り上がる。
でも、私は彼を救いたくて、この学校に来たのだ。
その為なら、どんなことだってする。
私は彼のそばに居続けるために、この嘘を吐き続けようと、そっと決意した。
0
あなたにおすすめの小説
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる