女性に迫られ、夫が亡くなりました。

弌壱弐撥

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〜増田知美の夫視点〜

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妻、知美の友人、仲尾香子から〝大事な話がある〟と連絡があり、午後から休みを取り、待ち合わせ場所の小料理店に行く。

名前を告げると個室に案内された。

襖を開けると見た目は20代後半と言っても通じるくらい若く見えるが、年相応の色香が垣間見える綺麗な女性が座っていた…。

「初めまして…いいえ2人の結婚式で一度お会いしてますから〝ご無沙汰してます〟が正しいでしょうか?」

優婉に微笑む姿を見て〝こんなに綺麗な奥さんを置いて逝くなんて勿体ない〟と心の隅で男心がざわつく。

「ご主人の訃報、妻から聞きました。お悔やみ申し上げます」

「いえ…こちらこそ、お忙しいのに、呼び立ててしまい申し訳ございません」

「あの、話とは?」
 
「それより、先に、食事をしませんか?丁度、お昼時ですし…」

普段食べる定食屋のメニューとは違い、盛り合わせの料理が品よく並べられた。

「何か飲まれますか?」

「お茶で十分です」

「そうですね。失礼しました」 

食事が終わると、彼女はバッグから大小の茶封筒を私の前に出した。

「私には時効なんですが、こちらをお渡ししますね」

「中を拝見してよろしいですか?」

私は大きい方の茶封筒の中を見て固まった…

「ご覧の通りです。20年以上前…増田さんと結婚する前から奥様、知美さんと私の夫と関係が始まり、ご結婚して1年程、続いて終わってましたが、最近メールだけですが奥様と連絡を取り合っていた様です。ご安心ください。お子様は、増田さんの子供ですから…」

私は彼女の言葉で妻の取り乱し様に納得した…

普通、友人の夫が亡くなったぐらいで、滂沱ぼうだはしない…

「…こちらの封筒は?」

「夫は亡くなりましたが、今までの不貞行為が帳消しになった訳ではございません…これは、夫の不貞行為の慰謝料と2人の関係を知りながら傍観していた私の謝罪です」

彼女は座布団から降りて土下座をしたまま言葉を続けた…

現金このような形で赦して頂こうとは思いません。しかし、今の私には増田様に対する〝誠意〟として、どうか…どうか、お納めください」

小さな茶封筒の中には現金で500万入っていた。

普通、浮気され、相手に請求できる額は最大300万と聞くが示談により下がるのが定石。

それを限度額いっぱいに支払い更に〝謝罪〟と言って200万…今まで専業主婦で過ごしていた女性が、これから、生きていく為に、お金は必要なのに…

「こんな大金、受け取れません」

「いえ、お納めください…」

〝受け取る〟〝受け取らない〟の押し問答後、私は話が先に進まないと思い承諾した。

「では、受け取る代わりに、2人の関係を知り貴女がの話だけ聞かせてください…後は私が知美と、の事の判断材料にします」

「感謝します…しかし、夫から聞き及んだ話もありますから、齟齬があるかもしれませんよ」

「判断するのは私です…お話しください」

彼女は懐かしむように当時の事を滔々と話す…

普通なら胸を抉るような話なのに感情に流されず涙一つ零さなかった…

強いひとだ…ここ迄、自身の気持ちを抑え込むには並大抵の葛藤があったろうに…私は静かにそばたてた…

ーーーーーーーー

私は、自宅に戻り暫く考えた…

妻、知美は、どちらかと言うと自分の好きな事を優先するタイプ…

悪い事では無いが、度を過ぎる時があり喧嘩の元になることが多かった…

「お父さん、お帰り。早かったんだね」

1番上の娘、沙織が学校から帰って来た。
17歳と多感な時期…妻の性格のお陰か、私を毛嫌いする事なく話してくれる。

沙織の他に下に中3と中1の息子2人の5人家族…

「なぁに?お父さん、考え事?また、お母さん何かしたの?」

そして〝良き相談相手〟でもある…

「〝何かした〟どころですむ話しじゃ無いんだ…」

私は頭を抱え塞ぎ込む。

「お父さん…私は大丈夫だから。お母さんあの人、今度は一体、何をしたの?」

幸い、妻は友人達と2泊3日の温泉旅行に行ってる最中…

私は意を決して、子供達を集め今日の事を、預かった書類を出して話した…

「1番大事な時期のお前達に話す事では無いが、今後の事を考えたらな…」

「何コレ?最低‼︎自分の母親と言うのも恥ずかしい」

「これじゃ、ただの阿婆擦れじゃん」

「俺、引くわ」

「あのさ〝俺達が居るから〟って理由で別れるの踏み止まらなくていいからな?俺達、父さんの味方だから」

子供達の言葉に目頭が熱くなった…

「これ以上、お母さんあの人に振り回される必要無いって!お父さん!私達、子供には理解出来ない〝夫婦〟ってあるかもしれないけど、私達にはお母さんあの人は要らない」

娘の一言に〝女って怖いな〟と痛感する。

下の息子達も同じ様に頷いた。


ーーーーーーーー

「ただいま~温泉、気持ち良くて楽しかったぁ」

帰って来るなり荷物を放り出してリビングのソファにドカっと座り缶ビールを開けて呷る妻。

つい先日、友人の旦那の訃報を知り取り乱し泣いたのは幻かと疑う。

「お帰り、知美…帰って来て、急に悪いが別れてくれないか?」

「はぁ?なんの冗談よ?」

「本気なんだ」

「訳わかんないんだけど…こっちは疲れて帰って来たのに気分悪っ」

「子供達も、賛成してくれてるんだよ。今までの君の行動に我慢していたが、今回ばかりは許されない」

「何言ってるの?分かる様に説明してよ‼︎」

金切り声を上げながら知美は喚く。

私はテーブルに仲尾香子から預かった書類を見せた。

「何よ…何よこれ?」

「〝何よ〟って君がした事だろう?」

知美は書類を見てワナワナと震えた…

「君の自由過ぎる行動に目を瞑っていたが、これは夫婦として〝していけない事〟だよね?今まで我慢していたけど、私は、もう君の顔を見たく無いんだ…子供達も君を〝要らない〟と言ってる。出来れば今すぐと言いたいが、君にも〝都合〟があるだろう?1週間、時間をあげるから離婚届コレにサインして荷物をまとめて出て行ってくれ」

「ねぇ…あなたぁ待ってよぉ…悪いところは直すからぁ」

急に甘えたな声で話しかけて来る。

「もう、君に対して〝愛情〟は無いよ」

冷たく言い放った所で、子供達がリビングに入って来た。

「私達、あんたを〝お母さん〟て呼びたく無いの‼︎だから早く出て行って‼︎これ以上、私達に迷惑かけないで」

「お前達…」

「さっ沙織‼︎お母さんに向かって〝あんた〟って何よ‼︎」

「いい歳して男漁りして恥ずかしい。お願い、 。これ以上お父さんを苦しめないでください」

子供達に頭を下げられ妻は無言になる…暫く考え

「あなた達の考えは分かったわよ」

半分、自棄になりながら妻は離婚届にサインをすると

「この写真とメールの履歴は、まさか香子?」

無言の反応に

「姑息なやり方をして‼︎」

「それ、逆恨みな‼︎自分のした事に反省しないのかよ?クズだな」

1番下の息子の言葉に妻は押し黙った。

お腹を痛めて産んだ我が子達に〝母親〟として認めてもらえない妻が哀れに見えた。

「〝姑息〟なのは君だろう?自分のことを棚に上げない‼︎それと…」

私は子供達に見せたく無かった別の封筒を知美に渡した。

「あなた…これは」

「最近の君の行動が気になってね、別に調べたんだ」

会社の後輩若い男との逢瀬の写真を見て更に固まる。
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