華村花音の事件簿

川端睦月

文字の大きさ
73 / 105
百合の葯

ウェディングブーケ -1-

しおりを挟む

「まるでお花畑ですね」

 咲は車の荷室を見て、感嘆の声を上げる。

 沢山の花を効率よく乗せられるようにフラワースタンドごと積んだ荷室はまるで小さな花屋そのものだ。

 まぁね、と花音は頷く。それから咲の持つ仕事道具の入った籠を受け取り、空いているスペースへと詰めた。

「今回は披露宴会場の装花だけで、規模も小さいものなんだけど。やっぱり、これくらいの量にはなるよね」
「──装花、ですか?」

 咲は花音を見上げる。

「装花っていうのはね──」

 テールゲートを閉めながら花音が言う。

「結婚式の会場を飾るお花のことだよ。文乃さんのウェディングではテーブルフラワーに、ケーキとキャンドルの装飾、それからウエルカムボードをお願いされているの」
「そんなに沢山……」

 咲は眉根を寄せた。花音はこともなげに言うが、素人の咲からすればとても大変なことに思える。

「まぁ、でも、今回は挙式会場の装花はないから、少しなほうなんだ」

 そう言って咲に連れ立って助手席側に回り、車のドアを開けた。

 咲が車に乗り込み、シートベルトを締めるのを見届け、花音は運転席側へと回る。

 そんな花音を何とはなしに目で追っていた咲は、彼の顔色がいつもより悪いことに気がついた。

「花音さん、もしかしてお疲れですか?」

 運転席に乗り込んできた花音に問う。

「あ、わかる?」

 花音はバツが悪そうに眉尻を下げた。

「実は昨日、作業に熱中して……ちょっと夜更かししちゃった」

 シートベルトを締めながら言う。

「せっかくのウェディングだし、やっぱり納得のいくものを作りたくってね。つい、頑張っちゃった」

 その言葉に、咲が初めてフラワーアレンジメント教室を訪れた日のことを思い出す。

 花音は『ウェディングって、一生に一度じゃない? だから、できるだけ要望には答えたかったんだ』と曰っていた。

 だからウェディングには特別思い入れがあるのだと思う。元カノのウェディングなら尚更だとも思う。ちょっとくらい無茶をしてしまうのは仕方がないことなのだろう。

 ──でも、なにかしら? この胸のモヤモヤは?

 咲は自分の中から湧き上がる気持ちに戸惑った。

「あー、たしかに、クマができてるね」

 花音の言葉に我に返る。バックミラーを覗き込む花音の目元には、黒いスジがぼんやりと浮かんでいた。

「大丈夫ですか?」

 咲が眉を顰めたのに、「大丈夫だよ」と花音は笑みを返す。それからゆっくり車を発進させた。

「それに頑張った甲斐があって、納得のいくものができたよ」

 左折ついでに咲を見て、花音が嬉しそうに言う。

「そうなんですか?」

 たしかに、荷室に積んだお花はどれも素敵なものばかりだった。ふわふわとした淡い色合いのお花がとても可愛いらしく、文乃のイメージにピッタリだと思った。

「うん──特にね、ブーケは力作だよ」
「ブーケ、ですか?」

 咲は首を傾げた。

 ──先ほど積んだ荷物の中にブーケはなかったはずだけど。

「ブーケはね、朝一で納品してきたの」

 咲の疑問を見透かしたように、花音が答える。

「式のリハーサルがあるからね。ブーケだけは早めに届けておいたの」

 そう言ってあくびを噛み殺した。

「……本当にお疲れですね。大丈夫ですか?」

 寝不足なうえ、朝早くからホテルまで往復してきたのだ。疲れが出て当然だ。

「うん、まぁ、平気かな」

 花音はニコリと笑う。

「お花で飾りつけた会場を想像すると気持ちが昂ってくるから、ちょうどいいくらいだよ」

 晴れ晴れとした顔の花音がとても眩しく見えた。

「そんなに素敵なブーケなら、ぜひ近くで見たかったです」

 あまりにも満足そうな花音に、ブーケの出来が気になった。

「それなら、あとでブライズルームを覗いてみようよ」
「え?」

 花音はあっけらかんと思わぬことを提案する。咲は驚いて、花音を見つめた。

 結婚式前のブライズルームなんて、そうそう簡単に訪問していいはずがない。

「お邪魔になりませんか?」

 咲はやんわりと辞意を示した。

「大丈夫だよ。ちょうど文乃さんに呼び出しくらっていたから」
「呼び出し?」

 花音の言葉に、胸のモヤモヤが一気に体中に広がった。

 もしかして、とあらぬことを考えてしまう。

 花音さんは文乃さんと別れてから新しい彼女を作っていない。きっとまだ未練があるのだと思う。

 ──そして。

 文乃さんもまた、花音さんに未練があるのかもしれない。

 そうでなければウェディングの最中、わざわざ時間を作ってまで会おうとするかな?

「あれ? 咲ちゃんこそ大丈夫?」

 つい暗い顔になっていたのかもしれない。心配そうに花音が尋ねた。

「ああ、大丈夫です……どんなブーケなんだろうって考えてたら、ちょっとぼーっとしてしまいました」

「そう?」と花音は怪訝そうな顔をする。それから気を取り直し「今回のブーケはね──」と続けた。

「ウェディングドレスには白い薔薇をメインにしたキャスケードブーケ、カラードレスには芍薬をメインにピンク系の花を使用したラウンドブーケにしたんだ」
「キャスケードにラウンド?」

 キョトンとした咲に、

「キャスケードとラウンドっていうのは、ブーケの形なんだ」と花音が説明する。

「形、ですか?」
「そう、形」

 花音は頷いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...