満月に狂う君と

川端睦月

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あの夜の真相 ー瑞樹sideー

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「なるほど。糸原さんはどう思われますか?」

 一通り、藤田の主張を聞いて、葛西が意見を求める。糸原は首を捻った。

「外野から見たら、そう見えたのかもしれませんが……」

 実際の大道の人となりを知らない藤田が、噂話を真実のように話しているのが癪に障った。少し嫌味っぽい言い方になってしまったのかもしれない。

 藤田が申し訳なさそうに、体を縮こませた。

「少なくとも、大道は本気で妻のことを愛していたと思いますよ。実際、結婚まで考えていたようですし……」
「そうなんですか?」

 藤田が驚いたように顔を上げた。

「ええ。直接、相談を受けたことがあります」
「ということは、糸原さんは大道さんと相当、親しかったのでしょうか?」

 葛西が軽く驚いた顔で問う。その表情の意味を糸原はよく知っていた。

 これまでにも何度か問われたことがあったのだ。『友達の付き合っていた彼女と結婚したのか』と。

 実のところ、糸原は大学時代から由佳のことが気になっていた。しかし、由佳は大道と付き合うこととなり、そんな二人を見ているのが辛くて、大学病院ではなく、今の病院を選んだ経緯がある。

「そうですね。研究室が一緒でしたから」

 糸原は少し苦笑いを浮かべ、答えた。

「では、糸原さんも対馬教授に師事されていたのですよね?」
「はい。対馬教授は、非常に丁寧な指導をしてくれましたね。真面目で、研究熱心な方です。以前、由佳が、研究に没頭すると、まるっきり家に寄りつかなかったと言ってましたね」

 それはそれは、と葛西が肩をすくめる。

「対馬教授は、相当な仕事中毒だったのですね」
「そうかもしれません」

 糸原も同意する。

「ただ、その分、後進の指導には非常に力を入れていましたね。一尋ねたら、十返ってくるくらいの熱意でした」

 当時を懐かしむように窓の外を眺める。その視線を再び葛西に戻し、

「だからこそ、大道も教授のことを慕っていて……。教授の通夜で奴と会いましたが、ひどく憔悴していたのが、今でも印象的です」

 糸原は大道がいかに対馬に心酔していたかを訴える。

「よく分かりました」と葛西はうなずいた。

「大道さんはとても面白い方ですね。見る人によって、こうも真逆の印象を与えるのですから」
「大道はぶっきらぼうなので、誤解されやすいんです。付き合ってみると、人情深くて、温かい奴なんですが」
「なるほど。糸原さんは、今でも交流があるのでしょうか?」
「いえ、今は全くないです。大学卒業と同時に進路が別れましたので。お互い、新しい環境になれるのに手いっぱいで、疎遠になってしまいました」
「では、最後に大道さんとお会いしたのは、対馬教授のお通夜で、ということになりますか?」
「ええ、そうです。もう七年は会ってません」
「それは、奥様も同じですか?」

 それはどういう意味かと思ったが、聞くのはやめた。

「妻も大道と別れた後は会ってないと思いますよ。大道自身がはっきりした性格なので。ゼロか百、好きか嫌いしかないんです。一度嫌いになったら、二度と会わないと思いますよ」
「それは、嫌いになっていればの話ですよね」

 葛西は意味深な言葉を口にする。

「どういう意味ですか?」

 今度こそ、糸原は問いただす。

「いえ、特には。……それより、大道さんは、笹本さんと面識があったのでしょうか?」

 が、あからさまに話題を変えられ、肩透かしを食う。

 糸原はため息を吐き、続けた。

「もしかしたら、由佳を通じて面識があったかもしれません。由佳は笹本と身内同然の関係でしたから。大道との結婚を考えていたとすれば、紹介している可能性はあると思います」

「そうかもしれませんね」

 葛西は笑みで細めた目を更に細くする。

「もし、そうだとすると、大道さんは今回の事件にも、七年前の火災にも関わりがあることになります。大道さんと付き合っていた奥様も何かしら関わりがあるのかもしれません」

 確かに、瑞樹の言う『知らないおじさん』が大道だった場合、そういう可能性もあるかもしれない。

「少し、想像が豊か過ぎませんか? 妻が事件に関わっているなんて……」

 呆れて、非難じみた言い方になる。それに瑞樹が「そうだよ」と加勢した。

「由佳ちゃんは違うよっ」

 先程までの瑞樹とは違う、とても強い口調に違和感を感じる。

「瑞樹くん?」

 糸原は瑞樹へと視線を移した。
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