日常の過激なスパイスは異世界と共に

そるとん

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彼女と彼の出会い

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窓が無く、薄暗い部屋の中で一人の少女が笑いをあげた。足元には怪しげな陣のようなものがあり、その周りには淡い光の球が漂っている。怪しげな陣の模様は星を基調とした幾何学的なもので、それぞれの星の頂点には赤、青、黄、緑、透明の5つの石が置いてあり、光を放っている。それは神々しいものとは程遠く、何か不安にさせるような、そんな輝きだった。

「ふふふ…」

魔法陣の中心にいる彼女の姿は、背丈は高校生ほどか、顔や表情は暗い色のローブを羽織っているため見えないが、体から漂うオーラはどこか恐怖を煽っている。
そして、彼女が行っているこの儀式は、禁忌の術式と呼ばれるものであり、決して使ってはいけないと禁じられているものであった。

つまりは○バ○ケ○ブラやクル○シ○のようなものだ。

そんな禁忌の術式であるが、今回彼女が行っている術式は最も危険度が低く、罪も小さいと呼ばれている、異世界へと通じさせる魔法。通称〈世界の門〉というもので、本人の魔法適正、魔力、属性親和力によって効果が著しく変化する魔法である。
大抵この魔法を使っても、皆魔力切れで倒れるか、発動しても半径2~3cmほどの穴しか開かない。
しかし彼女には才能があった。生まれ持った莫大な魔力に、魔法そのものへの圧倒的な適正。そしてこの魔法に必要な、炎、水、土、風、空間の五つの属性に対する絶対の親和力。どれを取っても天才と呼ばれるものであり、彼女はこの世界では有数の実力者であった。

「あと少し…あと少しで…ふへへ」

17才という若さでこの実力の持ち主はそうそういないだろう。実際、どんな国からも引っ張りだこであり、戦場では一騎当千の力を持っている。
だが、彼女はこの魔法を使って他の世界に行きたいと言う。理由は、「対人関係めんどくさいしなんか飽きたし何より働きたくない」だそうだ。
ふざけんな世の中甘くないんだよ。

そんなこんなで術式は完成し、穴が開き始めると同時に彼女から尋常じゃない魔力が放出される。穴の広がりは半径50cmほと空いてストップし、その場に留まった。
それを見て彼女は笑みを浮かべ、助走も付けずに飛び込む。

「こんな糞食らえな世界とはおさらばじゃーい!!!!」

彼女が入った穴は、その後徐々に塞がっていき、後にその部屋の中に入った兵士が儀式の跡を見つけた時には…すでに塞がっていた。





















そして舞台は変わり地球にあるマンションの一室。そこにはある男が寝ていた。それも当然、今は夜の3時。良い子は寝ている時間である。なにやら夢を見ているようだが、その夢の内容はとても人に言えるようなものでは無かった。自分が魔法を使っていて、夢の中で叫ぶのは痛々しい魔法名やら武器の名前やら、○れた幻想やら約束された○利の○だとか、後で正気に戻ったら悶絶必須な夢の内容である。高校生にもなって厨二病を引きずっているのはまあ仕方がない。誰しもそういう願望はあるものだろう。

そんな彼は今ふと目が覚めた。
寝ぼけた顔で立ち上がり、廊下を歩きトイレへ向かう。途中何かに躓いたようだが気にせずトイレに入る。
一通り出し切ったところで、眠気が無くなってしまったらしく、シャキッとした顔で手を洗い、シャキッとした顔でリビングへ行き、テレビを付けた。
が、当然この時間。やっているのは朝までなんちゃらとかしかないため、仕方なくテレビを消しスマホを弄る。
しかしそんな気分では無かったようで、少し外にでようと考えた。飲み物も買ってちょっと気分を変えてみたいらしい。




ドアを開けて外に出ると真っ暗で、少し躊躇したが歩き始めた。マンションのロビーを抜け、外に出ると夜の静けさにすこしワクワクしたようで、顔に出さないように必死になっている。お前は子供か。

なんとなくゆっくり歩き、近くの自販機でコーラを買って家に戻ろうとすると、目の前のマンホールから少し青みがかった黒色の長髪の女が這い出ようとしていた。
彼は絶句し体が動かなくなったが、その女の様子を見ていると、どうやら体が持ち上がらないらしく、「うぐぐぐぐ…」と言いながら踏ん張っているのが見て取れる。
彼はスルーしてもいいかなと思ったが、さすがにそれは駄目だろうと思い、声をかけることにした。

「あのー、すみません。大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えんのか!?」

それが彼と彼女のファーストコンタクトだった。















結局助けた後に彼女へ色々と質問してみたところ、出身地はアルケマルアだとか、どこの大陸だと聞いたら大陸なぞ一つしかないだろうなどと、何を言ってるかわからなかったので、とりあえず
「たいへんだったんですね!!おちつけるばしょもほしいでしょうしぼくのいえにでもきますか??」
と言って家に上げることにした彼は、家に入れた後にすごく後悔した。

「いやー、助かった助かったよ!あんたが助けてくれなかったらあのまま死んでたね!間違いない!」

「はあ…とりあえず臭いので風呂へどうぞ」

彼は朗らかに笑う女の表情を見て、げんなりしながら風呂場を指差す。

「よ、余計なお世話だ!」

顔を赤くさせて言った彼女に、彼はさらに顔を歪ませて簡潔にこう言う。

「帰ります?」

その後一目散に風呂場に駆け込んで行った彼女を見送った後、彼はやっと一息つけるとため息をつこうとしたが、すぐに風呂場で叫び声がしたため一息すらつけないまま風呂場へと猛ダッシュした。

風呂場へ着くと、ドアを全開にして尻餅をついてシャワーを浴びている彼女の姿。

「あああお前なんで服着たまま風呂入ってんだよ!」

「うえっ、なんであんた来てんの!?」

彼女の言葉を完全にカットした様子の彼は、シャワーの水に触れるとすぐに手を引っ込めた。

「つめてっ!これ冷水じゃねえか凍えるぞ!しかも足元のは石鹸か、さては足滑らせたなお前!」

彼女はその言葉を聞いて顔を赤くさせたままこう言う。

「仕方ないじゃん!使い方も全くわからない魔道具をどう使えっての!?」

彼はその言葉を聞いて固まった。
話にすら聞いたことのない、シャワーすら使えない人間。
そんなお伽話の中のような存在が目の前に存在している。
少し時間を置いて再起動した彼は、彼女を風呂場から洗面所へと引きずり出すと、彼女に待機を命じた後自室からタオルを持ってきた。不思議そうにこちらを見ている彼女にそれを手渡すと、一言。

「巻け!」



彼女は首にタオルを巻き始めた。

「体にだよ!外にいるから終わったら呼んで!」

彼はそう言ってドアを勢いよく閉めると、ドアに寄りかかりため息をついた。
彼の災難はまだ始まったばかりである。
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