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彼女と彼は風呂に入る
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「…おーい、巻いたか?」
「う、うん。巻いたけど」
「なら入るぞ」
彼女が巻いたことを確認すると、彼は風呂場に入りなおす。
ドアをそろーりと警戒しつつ開けて、ちゃんと体に巻けているか一応チェックしたのち、足を踏み入れた。
「…なんかあんた最初と全然キャラ違うね。敬語もすっかり無くなっちゃったし」
彼はその発言にジト目を向けたが、彼女の少ししおらしくなった姿に何も言う気が無くなったので、仕方なくため息を吐く。
「誰だって初対面の人にはそうするだろ?ほら、そこ座れ」
椅子を指差してクイッと首を曲げると、彼女はしょんぼりしながら腰を落とした。その様子を確認してシャワーを持って蛇口を捻り、温かくなるまで水を出していると、彼女が不思議そうに彼を見る。
「あんた、何魔力の無駄使いしてんの?」
その言葉に彼は動きを止めた。二度目となるこの光景だが、仕方ないだろう。彼にとって、ここまで痛々しい人間はこれまでいなかったのだ。
彼は心の中で、これまでの自分の行動を改めて反省した。
「ちょっと、話聞いてる?」
その彼女の放漫な性格に少し苛立ちを覚えた彼は、少し意地の悪いことをしてみようと考えた。
「はいはい魔力魔力、はいはい魔術魔術。使えるもんなら使ってみろっての」
「ん、『水よ』」
彼が言った言葉に彼女は即答。その後風呂場には大量の水が流れる音が響き渡った。
彼は止まった。体も脳も。もしかしたら心臓も止まっていたかもしれない。なにせ突然大量の水が自分たちを避けるように上から降り注いだのだ。
その様子に彼女は満足げに口角をあげ、
「んで、この魔道具使ってくれないの?」
と一言。
少しの静寂が場を支配したところで何も反応がない後ろを不審に思ったのか、彼女が振り返ると、そこには棒になった男が一人立ちすくんでいる。
「『水よ』」
その一言で彼は正気に戻った。同時に水が上から自分の頭に降り注ぐ。彼は思いきりその水をかぶった。
「くっ、あははは!!!どうよ!驚いた?感銘を受けた?もしかして、恐れ慄いちゃった!?」
彼はその言葉を聞いた瞬間に、温度調節のボタンを連打し、右手を彼女に向ける。
「あっち、なにこれ!?魔術しょあっち!」
温度設定を見ると50度…そりゃ熱いだろう。彼はその後に笑顔で一言。
「さらに熱くするか?」
彼女は首を横に振り謝り続けた。
その様子に満足した彼は、彼女の頭を思う存分に洗い、体をこの石鹸で洗って洗い終わったらまた呼べと言って外に出て、ため息を吐いた。
ちなみに石鹸だけ使って洗い落さないまま出てくるなんてなかったことを追記しておく。そこまでアホではないらしい。
彼女が風呂からあがり、とりあえずジャージを貸し出した後、彼はリビングで彼女の現状について話を聞いた。
色々と事情を知った彼は微妙な顔をしたが、それがどんなに胡散臭いものでも、今魔術などという非現実的なものを実践されたからには認めるしかない。と、考えた彼は、改めてため息を吐いた。
「つまり、あんたは異世界から来たかなり強い魔術師で、転移先が下水道、出ようとしてマンホールに挟まって出られなくなったと」
「その通り、最強の魔術師とはまさに私のことよ!」
「そこはなんとも言わないけど…しっかし、異世界か。あんたこれからどうするんだ?こっちじゃ戸籍ってのが無いとなんもできないんだが」
彼がそう言うと彼女はドヤ顔でこう答える。
「魔術で偽装する!」
「アウト!」
彼が即答する。彼女はなんで?という顔をするが当たり前である。
完全に犯罪なことをokするほど彼は腐っていないらしい。
「じゃあどうすればいいの?他に方法なんてないでしょ?」
彼は困った顔をする。確かに方法なんて無い。よくある警察へのコネクションなんてものなどあるわけもなく、そうすると本当に偽装するしか…?と、彼は悩みに悩んだ結果こう結論を出した。
「帰れば?」
「魔力が足りない!」
彼女はまたしてもドヤ顔で答える。彼は頭を抱えて投げ出したくなったが、ここで折れたら負けだと思い、なんとか持ち直した。
「あんた最強の魔術師じゃねえのかよ…魔力枯渇で片道パスってギャグか何か?」
「こっちの世界が魔力薄いのが悪いんだって!こんなカッスカスの滞在魔力じゃ回復には1年以上はかかるだろうし!」
「じゃあその一年間どうすんだよ」
「…そ、それはー」
彼から見た彼女は、何も術が無いことを一目で見抜けてしまうほどに目が泳いでいた。
確かにこれまでの話が本当ならそれは可哀想ではある。同情する気持ちも湧く。
しかし、だからと言って自分にはなんとかする術は無い。だからここは誤魔化すように、
「…明後日までなら両親仕事でいないからいいぞ、明後日までならな」
と、とりあえず引き延しすることにした。
彼女はその提案に目を輝かせ、顔を近づける。
「是非!お願い!」
「近い!」
少し照れたように顔を赤らめた彼は、顔を無理やり引っぺがすと共に咳払いをした。
「とりあえずだ、とりあえず!それまでに色々この世界のこと教えてやるから、お前がこれから生きていく方法見つけるぞ」
「あなたは神なの!?」
さらに目を輝かせる彼女には触れずに、彼はこれからどうするかのプランを頭の中で立てていくのだった。
「さて、とりあえず今は…もう五時か、軽く夜も明けてきてるな。んならまず最初に、今日やることを説明するぞ」
「いよっ、待ってましたー!」
彼女が拍手をするのを見て、楽に人生を生きていそうな彼女の姿に彼はため息を吐きたくもなったが、少し耐えて彼はプランを話す。
彼女の嬉々としながら話を聞く態度に少しやる気にもなったが、そろそろ話終わるかという頃に、ハッと思い出した。
「…俺、今日学校じゃん」
「学校って、学校?」
「うん、学校」
その言葉に彼女は一拍置いて、
「休めば?」
「まあ今日くらいいいか」
どうやら、揃いも揃って彼らは屑らしい。そうやって今日のことについて話し合っていると、ふと彼が思ったことがあった。
「…そういや名前」
「確かに、まだなにも自己紹介もしてないもんね」
思い返してみると、色々なことに追われていたせいで自己紹介をする暇すら無かった。
改めて顔を見合わせると、なんとなく今更言うことに抵抗があった彼らだったが、彼が切り出す。
「俺は川瀬創太。創太って呼んでくれ」
そんな彼の言葉に、彼女は少し笑って言葉を返す。
「私はリイナ・スヴォルツ。リイナでいいよ、創太」
こうして、彼女と彼の出会った、最初の1日が始まる。
「う、うん。巻いたけど」
「なら入るぞ」
彼女が巻いたことを確認すると、彼は風呂場に入りなおす。
ドアをそろーりと警戒しつつ開けて、ちゃんと体に巻けているか一応チェックしたのち、足を踏み入れた。
「…なんかあんた最初と全然キャラ違うね。敬語もすっかり無くなっちゃったし」
彼はその発言にジト目を向けたが、彼女の少ししおらしくなった姿に何も言う気が無くなったので、仕方なくため息を吐く。
「誰だって初対面の人にはそうするだろ?ほら、そこ座れ」
椅子を指差してクイッと首を曲げると、彼女はしょんぼりしながら腰を落とした。その様子を確認してシャワーを持って蛇口を捻り、温かくなるまで水を出していると、彼女が不思議そうに彼を見る。
「あんた、何魔力の無駄使いしてんの?」
その言葉に彼は動きを止めた。二度目となるこの光景だが、仕方ないだろう。彼にとって、ここまで痛々しい人間はこれまでいなかったのだ。
彼は心の中で、これまでの自分の行動を改めて反省した。
「ちょっと、話聞いてる?」
その彼女の放漫な性格に少し苛立ちを覚えた彼は、少し意地の悪いことをしてみようと考えた。
「はいはい魔力魔力、はいはい魔術魔術。使えるもんなら使ってみろっての」
「ん、『水よ』」
彼が言った言葉に彼女は即答。その後風呂場には大量の水が流れる音が響き渡った。
彼は止まった。体も脳も。もしかしたら心臓も止まっていたかもしれない。なにせ突然大量の水が自分たちを避けるように上から降り注いだのだ。
その様子に彼女は満足げに口角をあげ、
「んで、この魔道具使ってくれないの?」
と一言。
少しの静寂が場を支配したところで何も反応がない後ろを不審に思ったのか、彼女が振り返ると、そこには棒になった男が一人立ちすくんでいる。
「『水よ』」
その一言で彼は正気に戻った。同時に水が上から自分の頭に降り注ぐ。彼は思いきりその水をかぶった。
「くっ、あははは!!!どうよ!驚いた?感銘を受けた?もしかして、恐れ慄いちゃった!?」
彼はその言葉を聞いた瞬間に、温度調節のボタンを連打し、右手を彼女に向ける。
「あっち、なにこれ!?魔術しょあっち!」
温度設定を見ると50度…そりゃ熱いだろう。彼はその後に笑顔で一言。
「さらに熱くするか?」
彼女は首を横に振り謝り続けた。
その様子に満足した彼は、彼女の頭を思う存分に洗い、体をこの石鹸で洗って洗い終わったらまた呼べと言って外に出て、ため息を吐いた。
ちなみに石鹸だけ使って洗い落さないまま出てくるなんてなかったことを追記しておく。そこまでアホではないらしい。
彼女が風呂からあがり、とりあえずジャージを貸し出した後、彼はリビングで彼女の現状について話を聞いた。
色々と事情を知った彼は微妙な顔をしたが、それがどんなに胡散臭いものでも、今魔術などという非現実的なものを実践されたからには認めるしかない。と、考えた彼は、改めてため息を吐いた。
「つまり、あんたは異世界から来たかなり強い魔術師で、転移先が下水道、出ようとしてマンホールに挟まって出られなくなったと」
「その通り、最強の魔術師とはまさに私のことよ!」
「そこはなんとも言わないけど…しっかし、異世界か。あんたこれからどうするんだ?こっちじゃ戸籍ってのが無いとなんもできないんだが」
彼がそう言うと彼女はドヤ顔でこう答える。
「魔術で偽装する!」
「アウト!」
彼が即答する。彼女はなんで?という顔をするが当たり前である。
完全に犯罪なことをokするほど彼は腐っていないらしい。
「じゃあどうすればいいの?他に方法なんてないでしょ?」
彼は困った顔をする。確かに方法なんて無い。よくある警察へのコネクションなんてものなどあるわけもなく、そうすると本当に偽装するしか…?と、彼は悩みに悩んだ結果こう結論を出した。
「帰れば?」
「魔力が足りない!」
彼女はまたしてもドヤ顔で答える。彼は頭を抱えて投げ出したくなったが、ここで折れたら負けだと思い、なんとか持ち直した。
「あんた最強の魔術師じゃねえのかよ…魔力枯渇で片道パスってギャグか何か?」
「こっちの世界が魔力薄いのが悪いんだって!こんなカッスカスの滞在魔力じゃ回復には1年以上はかかるだろうし!」
「じゃあその一年間どうすんだよ」
「…そ、それはー」
彼から見た彼女は、何も術が無いことを一目で見抜けてしまうほどに目が泳いでいた。
確かにこれまでの話が本当ならそれは可哀想ではある。同情する気持ちも湧く。
しかし、だからと言って自分にはなんとかする術は無い。だからここは誤魔化すように、
「…明後日までなら両親仕事でいないからいいぞ、明後日までならな」
と、とりあえず引き延しすることにした。
彼女はその提案に目を輝かせ、顔を近づける。
「是非!お願い!」
「近い!」
少し照れたように顔を赤らめた彼は、顔を無理やり引っぺがすと共に咳払いをした。
「とりあえずだ、とりあえず!それまでに色々この世界のこと教えてやるから、お前がこれから生きていく方法見つけるぞ」
「あなたは神なの!?」
さらに目を輝かせる彼女には触れずに、彼はこれからどうするかのプランを頭の中で立てていくのだった。
「さて、とりあえず今は…もう五時か、軽く夜も明けてきてるな。んならまず最初に、今日やることを説明するぞ」
「いよっ、待ってましたー!」
彼女が拍手をするのを見て、楽に人生を生きていそうな彼女の姿に彼はため息を吐きたくもなったが、少し耐えて彼はプランを話す。
彼女の嬉々としながら話を聞く態度に少しやる気にもなったが、そろそろ話終わるかという頃に、ハッと思い出した。
「…俺、今日学校じゃん」
「学校って、学校?」
「うん、学校」
その言葉に彼女は一拍置いて、
「休めば?」
「まあ今日くらいいいか」
どうやら、揃いも揃って彼らは屑らしい。そうやって今日のことについて話し合っていると、ふと彼が思ったことがあった。
「…そういや名前」
「確かに、まだなにも自己紹介もしてないもんね」
思い返してみると、色々なことに追われていたせいで自己紹介をする暇すら無かった。
改めて顔を見合わせると、なんとなく今更言うことに抵抗があった彼らだったが、彼が切り出す。
「俺は川瀬創太。創太って呼んでくれ」
そんな彼の言葉に、彼女は少し笑って言葉を返す。
「私はリイナ・スヴォルツ。リイナでいいよ、創太」
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