魔王が識りたかったもの

香月 樹

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第一章 旅立ち

#18 呪術師の娘2

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「何故お前は生きているのだ!命が惜しくなったのか?」

戻ってきた私に最初に浴びせられた言葉だった。

それから暫くの間、村長は私に辛辣な言葉を浴びせ続けた。
目の前で起こった出来事を、震えながらに説明したのに全く信じて貰えなかった。

それは、手を血で汚した私の様子に、何事かと集まってきた村の住民たちも同じだった。

一緒に向かった村の若い男を殺し、手は血で汚れ、
一人だけ戻ってきた私を、村の住民たちは寄ってたかって恥知らずと罵った。

我が身可愛さに嘘を並べ、挙句の果てには見張りの男を殺して戻ってきたのだ。
そうまくし立てながら集まってきた住民みんなが私を囲んで責め立てた。

(そう、あの若い男は見張りだったの。。。私、信用されてなかったのね。。。)

とても悲しかった。

みんなのために生贄になれなかった事も、その手で人を殺してしまった事も、
そして、村の住民に信用されてなかった事も。

孤児だった私にやさしくしてくれたあの幸せな日々は偽りで、
住民たちにとってはただ生贄の役目を果たすために必要なだけ。。。

最初から愛されてなどいなかったのだ。

(ひょっとして、そのためにどこかから連れ去られてきたのかしら。。。)

愕然と項垂うなだれていた私の頭にはそんな考えさえよぎっていた。

このままでは村が滅んでしまうのではないか?
住民たちはざわざわと騒ぎ始めた。

とりあえず落ち着け!と、村長は住民たちをなだめ、
まずは現状の把握が先だと、若い男2・3名に生贄の祭壇まで様子を見に行かせた。

そして1時間ほど経って戻ってきた男たちは、
剣で刺殺された若い男の死体が1体あるだけで、それ以外は何も残っていない事を告げた。

魔王の死体がある訳でもないこの現状からわかるのは、
見張りの男が殺されたという1つの真実だけだった。

魔王が人の手で殺せる訳が無い、やはりお前は命が惜しくなって逃げて来たのだろう!
村長も、住民たちも口々に私を責め立てた。

「お前がこの村を滅ぼすのだ!この裏切り者、出ていけ!」

村長のこの言葉に煽られ、ついには住民たちは私を着の身着のまま追い出した。

孤児だった私には頼る知り合いもなく、
唯一の居場所だったこの村を追われた今、何処にも行く宛てなど無かった。

この島にはもう私の居場所は無い。

3日後にこの島へやって来る大陸からの定期船に忍び込み、大陸へ渡ろうと決意した。
それまでは鬱蒼うっそうとした木々や茂みに隠れて過ごした。

食べる物も無く、その辺を這う虫やその辺に生えている雑草を食べ、どうにか食い繋いだ。

そして漸くやって来た定期船に忍び込み、大陸を目指した。
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