魔王が識りたかったもの

香月 樹

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第一章 旅立ち

#21 呪術師の娘5

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夜が明けて大陸に着き、下船する時、
いつの間にか私の分の船賃も、老婆が追加で払ってくれていた事を知った。

ああ、本当に優しい人達だな、と改めて思った。

そして南の国の小さな町にある老夫婦の家で、3人の暮らしが始まった。

私は2人の事を、おじいさん、おばあさんと呼んで、
2人も私の事を本当の孫のように可愛がってくれた。

おじいさんは町の本屋で簡単な歴史書など数冊の本を買ってきて、
ただ生贄となるためだけに育てられた無学な私に、この世界の事を色々教えてくれた。

そして何も出来なかった私に、料理などの家事をおばあさんが教えてくれた。

優しい2人との生活は幸せだったが、
2年が経つ頃おじいさんが亡くなり、5年が経つ頃おばあさんが亡くなった。
加齢によるものだった。

本当の孫のように愛してくれた2人は、まとまった財産も私に残してくれた。

しかし、生贄となるためだけに育てられた私は、生活していく術を知らず、
老夫婦が残してくれた財産を少しずつ食い潰していくだけだった。

独りになった私は、食料品を買いに行く以外はすっかり外出する事もなく、
出来る限り節約して暮らそうと、細々と生活していたが、
おばあさんが亡くなって10年が経つ頃、久々に外出した時にある会話を耳にした。

それは、主婦2人がヒソヒソと話していた私に関する噂話だった。

「あの娘、あそこの老夫婦が急に連れて来た子なんだけど、
15年前から見た目が全く変わってないのよ。」

「そう言えばずっと籠ってるようだし、魔女とかかしら?
もしかして魔法で周りから若さを奪い取っているのかもよ!」

「きゃぁ、こわーい。ひょっとして老夫婦もあの娘が?
立て続けに亡くなったから怪しいと思ったのよね。」

!?

驚きの余りその場で動けなくなった。頭が真っ白になり、声が出なかった。
息が止まったかのような息苦しさを感じ、慌てて深呼吸すると我に返った。

そして私は足早に家路に着き、家に着いてすぐ、慌てて鏡を見つめた。

(私、成長していない!?)

言われるまで気付かなかった。
もう30歳になるのに、顔も、髪も、身長も、何もかもが15年前のあの時のままだった。

ただ最初はいつまでも若々しい事が自慢でさえあったが、
成長してないと気付いてから恐ろしくなってきた。

私の体は一体どうなっているの!?

何が何だか訳がわからなかった。
今はまだ良い。これが更に10年、20年と経つと町中の人がおかしいと気付くだろう。

この町を出よう。誰も私を知らない土地に行こう。

私は、愛してくれた老夫婦と暮らしたこの町を出ていく決意をした。
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