魔王が識りたかったもの

香月 樹

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第一章 旅立ち

#20 呪術師の娘4

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「あら、ピッタリね。可愛いわ。」

部屋から出て来た私に、老婆は優しく微笑んだ。
でも、その目は何処か寂しそうに見えた。

「それじゃ、行きましょう」

そう言って、老婆は私の手を引きながら何処かへ歩き始めた。

客船のあるフロアから階段をおり、やがて着いた所は船内のレストランだった。
そのまま中央の席に向かうと、そこには上品な身なりの老人が座っていた。

「おっ、来たか」

優しそうな笑顔で私に微笑んでくれた老人を、「私の夫よ」と老婆は紹介してくれた。

「さ、座って。飯にしようじゃないか。」

老人は私たちに席につくよう促すと、ウェイターを呼んで料理を注文し始めた。
時折、「これは食えるかね?」と温かい気遣いの言葉を向けてくれた。

数日ぶりに人の温かさに触れ、また目に涙が滲んできた。
私は、涙がこぼれ落ちないよう必死にこらえた。

運ばれてきた料理を食べ始めてから半時ほど経った頃、
「ちょっとお花を摘みに」と言って老婆が席を外した。

「おばあさんは、、、何故私を助けてくれたんでしょうか?」

私は遠慮がちにとっていた食事の手をとめ、老人に尋ねた。

「よく、、、似合っているね。」

老人は私の着ていた服を悲しそうに見つめ、話し始めた。

「その服はね、亡くなった娘が大事にしていた物なんだ。
暫く現実を直視できずにいたけど、1年経ってようやく荷物を整理して持ち帰るところなんだ。」

老夫婦の娘は、結婚してすぐに夫が愛人を作り、
捨てられた事を嘆き自殺したとの事だった。

「妻はね、君を見かけると、『あのと同じ思い詰めた顔をしている!』
『自ら命を絶つかもしれないから引き止めてくる』といって聞かなかったんだ。」

老婆は、娘を救えなかった事をずっと後悔しており、
様子がおかしかったのにあの時なんで話を聞いてやれなかったのか、
と今でも口にするそうだ。

老人も、仕事の忙しさにかまけて娘の様子に気づけなかった自責の念から、
私を引き止めようとする妻を強く止められなかったそうだ。

「妻は君を、娘の代わりに救いたいと、幸せにしたいと思っているんだ。
だから、もし行く宛てが無いようだったら、私たちと一緒に暮らさないかね?」

老人がそう言い終わると、「あら、何の話?」と老婆が席に戻ってきた。

そして、「良かったら一緒に暮らさないかって話してたんだよ」と老人が答えると、
「良いじゃない。もし嫌じゃなかったら、どうかしら?」と老婆は私に言った。

私は2人の言葉にただ泣きながら、うんうんと顔を縦に振って頷くばかりだった。
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