転生したら、犬でした。

香月 樹

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#2 目を開けると、そこは、、、異世界?

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日の光が差し込んできて、まぶたに明るさを感じてゆっくり目を開けた。
ぼんやりしていた頭が少しずつ、少しずつ、ようやく冴えて来た。

(んー?朝になった?)

眠気から解放されて段々冴えて来た頭だったが、
目に入って来た光景に驚いて、一瞬時間が止まり、今度は混乱してきた。

(え!?ここどこ!?)

・・・っていうか、何?この鉄格子。僕牢屋の中に入れられてない!?
え!?な、何これ!!!なんで僕牢屋に入れられてるの!?

(確か、終電の電車の中で妄想していて、恐らく、いつの間にか寝落ちしていたはず、、、)

なのに起きたら牢屋の中で、思わず頭がパニック状態になっていた。

(ヤバイ、逮捕された!?あ、会社どうしよ?遅れたら怒られる!!)

気持ちばかりが焦ってしまい、一向に考えがまとまらない。

(僕、電車の中から牢屋の中に瞬間移動した?いやいや、そんなアホな。
いくら寝落ちする直前まで異世界転生の事考えてたからって、
実はここは異世界です、そしてスキルで牢屋に入り込みました!とか無いわー!)

そんなアホな事ないやろ、とは思いつつも、
万が一って事があるかも、と現実的では無い事ばかり頭を巡る。

(いや、むしろ寝ぼけて何かした!?やっぱ警察のお世話になってる!?
そっちの方が瞬間移動よりはまだしっくり来るわ!)

終電に乗った後の事を必死に思い出そうとするが、
ただシートに深く腰掛け、妄想を膨らませていただけだ。
酔っていた訳でも無く、ただ寝ていただけなので、思い出す事なんて何も無い。

ちょっと待って。そもそも牢屋ってこんな小汚いもん?
床はコンクリート剥き出しだし、椅子とかベッドも無いし。
それになんだか獣臭い。。。

時間の経過と共に少しずつ落ち着いて来て、お陰で頭も少しずつ働き始めた。
混乱して目前の鉄格子しか目に入らなかったが、視野も広がってきてようやく異変に気付いた。

鉄格子の向こうには廊下を挟んで壁があり、
その壁に貼ってあるポスターには『◯◯市保健所』と記載がある。

・・・保健所?うちの隣の町の?

そのポスターには『安楽死なんてありません』とか、
他のポスターには『殺処分0を目指そう』とか書いてある。

・・・ここ、警察署の牢屋じゃない!保護動物を収監してる保健所の檻!?
え?なんで?なんで僕こんな所に入れられてるの!?

頭が混乱していて周りに気が向かなかったが、
よく見ると両隣の檻には保護犬らしき犬が収監されている。

右隣の保護犬は恐らく1・2歳くらいの柴犬で、
怖いのか、寂しいのか、寒いのか、小さくなってプルプル震えている。

左隣の保護犬は恐らくビーグルの成犬?老犬?だと思われるが、
力なく座り、力なく頭を下げ、そして力なく目は地面を見ている。

(やっぱり保健所の檻の中だ!!!こんなとこに人間入れたら人権問題でしょーが!!)

驚きと混乱のあまり頭は真っ白になり、
ただ時間が止まったように思考は停止した状態だった。

人間、本当に驚くとその瞬間『無』になる。

何も考えられないというのはこういう状態だろう。
いきなり押し付けられたこの状況に、全く理解が追いつかない。

自分が一体何をしたのか、何故こんな所にいるのか、
特に犬と同じ扱いを受けている事が余りにも衝撃だった。

(無視されたり、陰口叩かれたり、パワハラされたり、
色々あったけど、犬扱いというのは流石に酷すぎ無いか???)

こうやってこれまでの境遇を並べると、中々壮絶な人生だな。
僕、よくこれまでグレなかったよな。。。自分を褒めてやりたくなった。

暫くしてふいに『ガチャ』という音がして、ハッと我に返った。
そして扉の向こうからは、スタッフと思われる年配の男性がやって来た。

それに気付いた右隣の幼い柴犬は泣き叫んでいる。

「助けて!ここから出して!僕をどうするの!!!お母さんとこに帰してよー!」

耳にはキャンキャンとしか聞こえないのに、何故か叫んでいる内容が理解出来た。
何かを察しているのか、しきりに母犬?飼い主?の元へ帰りたがっている。

左隣の保護犬は、既に何度も試して叫び疲れたのか、
それとも、もうどうにもならないと諦めたのか、座ったまま頭を下げて虚な目をしている。
先程から殆ど同じ格好で動かない様子に、どこか異様なものを感じた。

そして、そんな2頭の保護犬の様子を見て、僕は悟った。

ヤバい!このままだと僕も殺処分される!!!

「出して!ここに居るのは何かの間違いだから!
僕何もしてないし、犬じゃないよ!人間だよ!!」

懸命に叫んだが、耳に聞こえたのはキャンキャンという叫び声だけだった。

(うそ、、、僕、犬になってる!?)

まさかと思ってまた「出して!」「僕は犬じゃない!」と色々声に出してみるが、
やはりその声はキャンキャンとしか聞こえなかった。

(このままだと本当に保護犬だと思って処分されちゃう!)

キャンキャンとしか聞こえないとしても、
何か気付いてくれればという一縷いちるの望みを込めて、僕はひたすら叫び続けた。

懸命に叫んだお陰か、スタッフは僕の前にやって来て、
「やった!出して貰える!助かった!」と喜ぶ僕をよそにこう告げた。

「可哀相に。早く引き取り手が見つからないと、殺処分されちまうな。」

そう言って僕の前に立ちはだかるスタッフが、そびえ立つ巨大な壁のようで、
その圧迫感から、とても恐ろしい生き物に命を狙われているかのような恐怖を覚えた。

(あれ、、、僕、、、この感じ知ってる。。。)

僕の記憶の中の、毎日のように激しく責め立てる会社の上司や同僚が、
この年配スタッフとオーバーラップして見えた。

そして、ストレスが頂点に達し僕の心は耐えきれなくなったのか、
意識がスーーーーッと遠退とおのいていった。
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