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プロローグ
王国暦232年12月3日 〜北部の村にて〜
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「酷い有り様だな」
目的地に到着した俺は、変わり果てた村の姿に言葉を失った。
転移の魔法陣を使い、一瞬で移動したはずなのだが、それでも間に合わなかったようだ。
民家はほとんどが崩れ去り、畑は見る影もなく焼け野原になっている。
かろうじて残った建物も半壊しており、とても人が住めるような状態ではなくなっていた。
「生存者はいないか?」
「いえ、まだわかりません。捜索を続けます」
俺の言葉に、部下の一人が答える。
この村に派遣された兵士達は、俺を含めて全部で十人だ。
全員が武装しているが、人数は少ないように感じるだろう。
しかし、それは仕方がない事なのだ。
魔法陣を利用した移動には人数制限がある。
一度に移動できる人間は十人までであり、それ以上は魔力不足で転送できないのだ。
故に、部隊を動かす時は最大でも十名になる。
「よし、手分けをして探すぞ!」
「「はいっ!」」
俺の号令を受けて、部下達は一斉に散っていく。
俺も彼らの後に続こうとしたその時、視界の端に何かが映った。
「……ん?」
瓦礫の陰に、誰か倒れているのが見えた。
近寄ってみると、どうやら子供のようだ。
「おい、大丈夫か?」
声をかけてみるが返事はない。
だが、微かに呼吸音が聞こえたので、生きてはいるようだ。
「……う、うぅ」
「しっかりしろ!」
抱き起こして呼びかけると、うっすらと目を開く。
そして、俺の顔を見ると弱々しく口を開いた。
「……お、お兄ちゃん……誰……?」
「大丈夫だ。もう心配はいらない」
そう言って頭を撫でてやると、安心したのかそのまま意識を失ってしまった。
見たところ、目立った外傷はないようだが、念のため医者に見せた方がいいかもしれないな。
そう思い、立ち上がろうとしたその時だった。
「──ッ!?」
突如、背後に強烈な殺気を感じた。
反射的に剣を抜き放ちつつ振り返ると、そこには1匹の魔物が立っていた。
「……なっ!?」
それを見た瞬間、驚きのあまり言葉を失う。
何故なら、そこに立っていたのは人語を操る人型の魔物だったからだ。
それもただの魔物ではない。
そいつは、かつて魔王と共に人類を滅ぼそうとした伝説の存在だった。
──“不死王リッチ”。
死霊術と呼ばれる禁忌の魔法を操り、死者の軍勢を率いて世界を滅亡寸前にまで追い込んだ最悪の存在。
そんな奴が今、目の前に立っている。
(馬鹿な!?何故こんな所に……!)
突然の事態に混乱しながらも、頭の中で必死に思考を巡らせる。
とにかく今は、一刻も早くこの場から逃げなければならない。
そう判断し、即座に撤退しようとした時だった。
「──あ、あぁ……」
弱々しい声に振り向くと、先程の子供が起き上がっていた。
意識が朦朧としているのか、ぼんやりとした表情でこちらを見ている。
「いかん!逃げろ!!」
大声で叫ぶが、子供はその場から動こうとしない。
「くそっ!」
俺は子供を抱きかかえると、そのまま走り出した。
背後からは、再び凄まじい殺気を感じる。
次の瞬間、背中に衝撃が走る。
同時に、全身に鋭い痛みが走った。
リッチの放った魔法が直撃したのだ。
「……ぐうっ!」
あまりの痛みに思わず膝をつく。
何とか顔を上げると、そこには先程までいなかったはずの別の人影が見えた。
そこにいたのは、漆黒のローブに身を包んだ男であった。
フードを被っており、その顔は窺い知れない。
男は無言で俺を見下ろしている。
その手には、一本の杖が握られていた。
奴はゆっくりと口を開く。
「私は魔王様の忠実なる下僕──」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを悟った。
なぜ、この村が襲われたのかを。
どうして、こいつがここに現れたのかを。
──こいつは、俺達を殺しに来たのだ。
目的地に到着した俺は、変わり果てた村の姿に言葉を失った。
転移の魔法陣を使い、一瞬で移動したはずなのだが、それでも間に合わなかったようだ。
民家はほとんどが崩れ去り、畑は見る影もなく焼け野原になっている。
かろうじて残った建物も半壊しており、とても人が住めるような状態ではなくなっていた。
「生存者はいないか?」
「いえ、まだわかりません。捜索を続けます」
俺の言葉に、部下の一人が答える。
この村に派遣された兵士達は、俺を含めて全部で十人だ。
全員が武装しているが、人数は少ないように感じるだろう。
しかし、それは仕方がない事なのだ。
魔法陣を利用した移動には人数制限がある。
一度に移動できる人間は十人までであり、それ以上は魔力不足で転送できないのだ。
故に、部隊を動かす時は最大でも十名になる。
「よし、手分けをして探すぞ!」
「「はいっ!」」
俺の号令を受けて、部下達は一斉に散っていく。
俺も彼らの後に続こうとしたその時、視界の端に何かが映った。
「……ん?」
瓦礫の陰に、誰か倒れているのが見えた。
近寄ってみると、どうやら子供のようだ。
「おい、大丈夫か?」
声をかけてみるが返事はない。
だが、微かに呼吸音が聞こえたので、生きてはいるようだ。
「……う、うぅ」
「しっかりしろ!」
抱き起こして呼びかけると、うっすらと目を開く。
そして、俺の顔を見ると弱々しく口を開いた。
「……お、お兄ちゃん……誰……?」
「大丈夫だ。もう心配はいらない」
そう言って頭を撫でてやると、安心したのかそのまま意識を失ってしまった。
見たところ、目立った外傷はないようだが、念のため医者に見せた方がいいかもしれないな。
そう思い、立ち上がろうとしたその時だった。
「──ッ!?」
突如、背後に強烈な殺気を感じた。
反射的に剣を抜き放ちつつ振り返ると、そこには1匹の魔物が立っていた。
「……なっ!?」
それを見た瞬間、驚きのあまり言葉を失う。
何故なら、そこに立っていたのは人語を操る人型の魔物だったからだ。
それもただの魔物ではない。
そいつは、かつて魔王と共に人類を滅ぼそうとした伝説の存在だった。
──“不死王リッチ”。
死霊術と呼ばれる禁忌の魔法を操り、死者の軍勢を率いて世界を滅亡寸前にまで追い込んだ最悪の存在。
そんな奴が今、目の前に立っている。
(馬鹿な!?何故こんな所に……!)
突然の事態に混乱しながらも、頭の中で必死に思考を巡らせる。
とにかく今は、一刻も早くこの場から逃げなければならない。
そう判断し、即座に撤退しようとした時だった。
「──あ、あぁ……」
弱々しい声に振り向くと、先程の子供が起き上がっていた。
意識が朦朧としているのか、ぼんやりとした表情でこちらを見ている。
「いかん!逃げろ!!」
大声で叫ぶが、子供はその場から動こうとしない。
「くそっ!」
俺は子供を抱きかかえると、そのまま走り出した。
背後からは、再び凄まじい殺気を感じる。
次の瞬間、背中に衝撃が走る。
同時に、全身に鋭い痛みが走った。
リッチの放った魔法が直撃したのだ。
「……ぐうっ!」
あまりの痛みに思わず膝をつく。
何とか顔を上げると、そこには先程までいなかったはずの別の人影が見えた。
そこにいたのは、漆黒のローブに身を包んだ男であった。
フードを被っており、その顔は窺い知れない。
男は無言で俺を見下ろしている。
その手には、一本の杖が握られていた。
奴はゆっくりと口を開く。
「私は魔王様の忠実なる下僕──」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを悟った。
なぜ、この村が襲われたのかを。
どうして、こいつがここに現れたのかを。
──こいつは、俺達を殺しに来たのだ。
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