―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター2:「凄惨と衝撃」

2-13:「〝派手に行こうぜ!〟Ⅰ」

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 場所は、愛平の街の東北側の一角へ。
 その一帯に立ち並ぶ建物の内の一件。どうやら酒場及び食堂のような店であるらしい、それなりの広さを持つその施設内部。
 その各所には、店の中を何やら調べ漁る数名の者等の姿がある。オーク達モンスタ――では無い。迷彩戦闘服を纏う姿は、その者等が日本国陸隊隊員である事を示している。
 町の東ブロックのクリアを担当する、第14分隊の隊員等であった。

「――誰が町中へのハンマー攻撃なんぞ要請したんだッ?俺等のほうが酷く町をやっちまうッ」

 その内の一名。FN MAGをその太い腕に構える体格の良い隊員が、視線を上げて何か苦い色で声を上げる。
 彼始め隊員等の耳には、遠方より立て続き木霊する爆発音が――6分隊と自走迫撃砲の手により開始された、砲撃の音が聞こえ来ていた。
 体格の良い隊員の言葉は、しかしそれに対する懸念事項を指摘するものだ。

「さぁな、辺里あたり

 そんな体格の良い隊員に、彼の名を呼び返す声がする。しかし返されたそれは、どこか淡々としていて興味無さげ。
 声を辿れば、その主――14分隊を現在率いる、讐(あだ)の姿がそこにあった。
 店のカウンターに寄りかかって肘を突き、その手先で酒のボトルを持ち、しかしさして興味は無さそうに弄んでいる。

「ェぁ……」
「ぁ……ぴァ……」

 その讐の足元よりは、何か弱々しい声のような物がいくつか上がっていた。
 視線を降ろせばそこに見えるは、三体程のオーク達の姿。二体はカウンターにもたれ掛かり、一体は床に完全に沈み、讐に片足でその頭を踏みつけられている。
正しく言えばオーク達は、〝オークだった物〟になりかけている、ないし既になっていた。
 まずオーク達は、その四肢を全て折られあってはならない方向に曲げ。もしくは根本より全てを完全に切断され、血をだだ漏らしにしていた。
 そしていずれも白目を剥き、その獰猛さを感じさせる口からは、しかし血の泡を零し。弱々しい悲鳴ともつかない音を上げている。
 極めつけに目を引くはオーク達の股間部。それらはいずれも掻きこそがれ、真っ赤な臓物が覗き血が漏れ出し、そこにあるはずのオーク達ご自慢の『モノ』が無い。そのオーク達から伸び床に描かれる血の跡を辿れば、床の各所に主を失い最早無用の肉片と成り果てた『それ』が、転がっていた。
 さらに見渡せば店内には他にもオークの体が、3~4ポツポツと横たわり転がっている。良くてその身に銃創を作って息絶え、悪ければ先のオーク達と似たような惨たらしい有様。
 全て、数分前にこの建物に殴り踏み込んだ、14分隊各員の手によるものであった。
 我が物顔で店を占拠したむろしていたオーク達を、しかし踏み込んだ14分隊は片手間程度に排除。そして新たな主と成り代わったのであった。

「そいつは、いい酒か?」

 体格の良い隊員――改め辺里から、ボトルを弄ぶ讐へとそんな言葉が飛ぶ。少し呆れの混じるそれは、気分の良いとは言えない現状で、気を紛らわそうとするもの。

「知らん、酒は飲まん」

 しかし讐は、そんな突っぱねるまでの興味を有さぬ言葉を返し、そして弄んでいたボトルをカウンターの向こうへと放った。

「讐予勤」

 カウンターの向こうでパリンと音がすると同時に、讐を呼ぶまた別の声が届く。
 讐、そして辺里が声を辿り視線を向けて上げれば、店の二階へ続く階段より、一名の隊員が降りて来る姿が見えた。

「機関銃班と選抜射手は配置。準備ヨシです」

 隊員は、階段を降りつつ讐に向けて報告の言葉を寄こす。14分隊の選抜射手と、分隊に付随していた機関銃班が、二階へ陣取り準備完了した事を示す物。

「いいだろう」

 それを聞いた讐は、零し発しながら寄り掛かっていたカウンターを離れ立つ。
 そして、床に沈むオークの頭を踏みつけていた片足に、力を込め踏み下ろした。

「きェッ――」

 ゴキリと鈍い嫌な感触を讐の脚に伝え、オークの首の骨が折れる。同時にオークの口から絞められた鶏のような悲鳴が上がり、オークの頭部はあってはならないズレ方で、床に踏みつけられた。
 オークに手、もとい足を下した讐は、死体となったオークを見降ろすこともせずに、邪魔と言うように蹴飛ばし退け転がす。
 そして讐は自身の足元、カウンターにもたれ掛かる、四肢を切断され達磨とされ虫の息のオークに目を付け。その後ろ首を左手で掴んで悠々と持ち上げる。

「始めるぞ」

 そして讐は視線を起こし、歩みだしながら店内に向けて端的に言葉を飛ばす。それに辺里に、階段を降りてきた隊員。他、店内に居た数名が呼応。
 店の壁際には、それなりに大きな両開きの扉の、店の玄関口が設けられている。
 讐を筆頭とする隊員6名が、その扉の前で合流。再編成する。

「必要があれば指示する」

 各員に視線を流し、準備に問題が無い事を見止めた讐は、各員に向けてまず一言発する。

「躊躇はするな。後は――好きにやれ」

 続け、そんな淡々とした忠告の言葉を、各員へと紡ぐ讐。
 それだけ紡ぐと讐は身を翻し、店の両開きの玄関扉を、適当な加減で蹴飛ばし蹴り開いた。
 扉がそこそこの勢いで開かれ、先の光景が露になる。
 広がったのは、それなりの敷地を持つ広場空間。中央に小さな噴水を置き、四方には家屋や商店が並び、各方より伸びてきた町路が接続している。
 元は住民で賑わう繁栄と憩いの場であったであろう場所は、今は御多分にもれずオーク達モンスターに占拠されていた。
 おそらく中規模の拠点として使用されていると見えるその場は、オーク達の物資や町よりの戦利品が各所に積み置かれ、作業に従じるオーク達が動き回っている。
 そこかしこには恒例のように、無残な姿にされ晒された住民達の死体。そして一角には、裸に剥かれ首輪と鎖で繋がれた町の女達。下品に品定めするような目を注ぐオーク達に囲まれ、女達は慈悲を乞い媚びる声を漏らしている。
 そんな、町にとっては絶望の光景。
 ――しかし。
 そんな広場に踏み出し、視線を一流しして状況を掌握した讐等は。さして興味の無いような涼しい顔を引き続き浮かべる。
 店の出入り口より繰り出た讐等は、少し広がり雑把に展開。そこで一度足を止める。
 そんな讐等の存在に、近くで作業に従じていた何体かのオークが気付き、視線を向ける。しかし、すでに町のほとんどを抑え抗う者などいないはずの中で、唐突にしかも得体の知れない姿様子で現れた存在に。オーク達は訝しみ疑問に思う色こそ見せれど、その動きは緩慢であった。
 そんなオーク達に向けて。そんな広場の各方へ向けて。


 ――けたたましいいくつもの爆ぜる音が、連続的に響き。そして、鉛弾の暴力が各方へと横殴りに襲い掛かった。


 讐の近場近辺にいたオーク達が。殴られ、打たれ、貫かれ、叩き飛ばされ。地面に散らばり沈み、あるいは重なる。
 ――襲ったのは、14分隊各位の火器による銃弾の暴力。
 小銃。
 機関けん銃。
 ショットガン。
 軽、中機関銃。
 それぞれの手にはそれぞれの火器が繰り出し構えられ、各方へ向けられ今も引き続きけたたましい射撃音を奏でている。
 特段精密に狙う事はせず、横薙ぎにされる火器から乱雑にばら撒かれる銃弾。それ等は各方へ飛び、近くに居たオーク達を無差別に襲い貫く。
 明確な異常事態に嫌がおうにも気付いたオーク達は、身を翻し慌て逃げようとしたが、その背にも鉛弾が容赦無く叩き込まれ。そのオーク達を先に出来ていた緑の肉の絨毯の、一部へと加えた。
 怒声、狼狽、困惑、悲鳴。
 あらゆる声、音が、場の支配者であったオーク達から上がり聞こえ始める。
 それと入れ替わりに、乱雑に銃弾をばら撒いていた各員の火器が。一旦弾を吐き出す事を辞め、銃撃音が一度鳴りやむ。

「行け」

 そして雑把な展開隊形の中心に居た讐が、指示する声を紡ぐと同時に、腕を翳し指先で示し促す。
 それを合図に讐筆頭の各員は。それぞれ自分の調子で悠々とした様子で、踏み出し展開行動を開始した。
 各員は、オーク達の死体でできた肉の絨毯を、何でもない事にように踏みつけ乗り越えながら。その先に逃げまどい混乱するオーク達を見止め、数名がそれに向けてまた各火器の引き金を引き、掃射を加えた。
 またも悲鳴が上がり、オーク達はまとめ連なり屠られ、地面に散らばる。
 その様子を興味が無いように一瞥しつつ。
 各員はさらに掃射を漏れ点在、狼狽しあるいは背を向けたオーク達にそれぞれ銃弾を撃ち込みながら。より広く一帯をカバーするため、両翼に雑把に広がり各個展開してゆく。
 その中心。讐はと言えば、引き続き悠々とした様子でオーク達の死体を踏んで歩みつつ、空いているその片手を(もう片方は達磨にされたオークを引きずっている)、自身の後ろ腰へと伸ばす。そして、身に着ける弾帯に挟んであった、ある火器を手に取り抜いた。
 それは拳銃。正確にはリボルバー、回転式拳銃。
 ナガンM1895――通称、ナガン・リボルバー。
 ベルギーを生まれとし、ロシア帝国や後のソビエト連邦等で多く使用された古き拳銃が、その正体だ。
 今、讐の手にあるそれは、元は樺太県侵犯事件の際に、ロシアクーデター軍の側に居た政治将校が愛用していた物。しかしその政治将校は讐により屠られ。鹵獲、戦利品として彼の物となるに至ったのであった。
 そんな経緯のあるナガン・リボルバーを、讐は片手間と言った様子で繰り出し構えると。
 自身の足元少し先で、這いずり必死に逃げようとしていた手負いのオークの、その後頭部に突きつけ、おもむろに容赦なく打ち放った。

「ぴャッ」

 専用の7.62mm弾を叩き込まれ、オークの頭の鼻から上が、砕け爆ぜ、飛び散る。
 そしてそのオークの身が地面に沈む前に、その緑の巨体を容赦無く蹴っ飛ばして転がし退け。讐は引き続き悠々と進む。

「オオオッ!」

 その時。近くに積まれた物資の死角から、一体のオークが飛び出し襲い掛かって来た。
 その太い腕に持った斧が、讐目掛けて振り下ろされる。

「――ビュぐッ!?」

 だがそれよりも速く。発砲音が響き、同時にオークは妙な悲鳴を上げて仰け反った。
 見れば、オークの顔面は真ん中から潰れ陥没している。そしてオークの前には、片腕を軽く突き出し拳銃を構えた讐の姿。
 讐はオークの攻撃よりも早く拳銃を突き出し構え、オークの顔面を撃ち抜いて見せたのだ。
 屠ったオークに一瞥すら向けずに、進行を再開する讐。
 各方では各員が進みながら、道行く先で遭遇するオーク達を、目に付いた端から屠ってゆく。
 騒ぎを聞きつけ駆け付けたのであろう3体程のオークの一隊が、現れた傍から隊員の小銃のフルオートヤクザ撃ちに晒され、次々に死肉と化してゆく。
 かと思えば直後には、広場の一角で爆炎が上がり、そこに潜んでいたオーク達が舞い上がる。隊員の一名が投げ放った手榴弾が、それを成したのだ。その隊員はと言えばその冷たい表情を向ける事もせずに、倦怠感露わな手つきで、空き缶でも放るように二発目の手榴弾を投擲。また別方で炸裂したそれが、別のオークの群れをいぶり出し舞い上げた。
 さらに背後。
 先に讐等が繰り出した酒場の上階からは、窓に据えられ突き出された機関銃班のFN MAGが、広場の先に向けて掃射を行っていた。注ぐ鉄の雨はオーク達を釘付けにし、時に身を晒したオークを屠る。
 加えて時折、一際響く乾いた発砲音が響き。そのたびに広場のどこかでオークが身を撃ち抜かれて沈む。同時に配置した選抜射手からの狙撃であった。

「辺里、明倶洲あくす、左に周れ」

 そうこうしている内に、分隊は早くも広場の4割程を押上げ掌握。各所で銃声が爆音は途絶える事無く上がり、同時にどこかでオーク達の悲鳴が絶え間なく響く中。讐はナガン・リボルバーを手にする腕を翳し、ジェスチャーを交えて各員へ指示を送っている。

《――讐予勤。広場の北東で動きがある》

 そんな讐の耳に、インカム越しの声が届いたのはその時であった。声は、背後の酒場上階で位置に付く、選抜射手の物。

《例のモンスター連中の、頭の悪い企み》

 続け寄こされたのは、そんな抽象的に示す言葉。しかし讐にも、それだけでその示す所、敵方が取ろうとしている行動が理解できた。

「ん。ハルボベイは?」

 讐はそれに端的、いや適当に返し。続けそう尋ねる言葉を選抜射手に返す。

《近く――丁度いい位置まで来てます》
「いいだろう。突っ込ませて、踏み潰させろ」

 選抜射手からの回答を受け、讐はそんな何かの指示の言葉を返し飛ばす。

「コのォ――ギュぅッ!」

 そして、瞬間にまた性懲りも無く襲い来たオークの頭を、片手間にナガン・リボルバーで撃ち抜き屠り。

「いいな?」
《了》

 そして選抜射手に確認を取ると、通信を終えて自身の行動を続けた。
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