―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター2:「凄惨と衝撃」

2-14:「〝派手に行こうぜ!〟Ⅱ」

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 広場の北東側、隅の一角。
 そこには慌てふためく動き回る、オーク達の姿があった。
 当然の異音や爆音。先で倒れ屠られてゆく仲間の姿から、異常事態――襲撃を察したその場のオーク達は、それに対応すべく焦り動いていた。

「おラッ!来やがレっ、並びやがレッ!」
「ひぐゥ……」
「お、お許しを……ぉ……」

 オーク達は手に握った鎖を引っ張っている。その先に繋がるは、首輪を付けられ繋がれた、裸に剥かれた町の女達。
 乱暴に引っ張られ、苦し気な声で許しを乞うそれを漏らしながらも、女達は遠慮なく引きずり出され、並ばされる。
 オーク達は、ここまでも見られてきた御多分に漏れず、町の女達を肉の盾として使う腹積もりであった。

「ヘッ……!これヲみりゃァ、ビビって止まるだロォ……!」
「アァ、そんでそこをぶっ殺しチまえバ……」

 女達を並べた肉のバリケードを完成させ。その後ろに構えたオーク達は、少し焦りの色を未だ残しつつも、これで襲撃者を留められるであろうことを浮かべ、下卑た声を交わし合う。


 ――突然の衝撃音と崩壊音が。
 そのオーク達の背後で響き上がり、届いたのはその時であった。


「――ハ――?」

 音に引かれて振り向いたオーク達は、そこでフリーズする。
 オーク達の目に映ったのは、背後。広場の角に立ち並ぶ家屋建物。
 その壁が内側より、まるで吹き飛ぶように崩壊する光景。


 そしてそこより現れるは、巨大な体を持つ、緑色の正体不明の物体――


「――ギェゥッ!?」
「ゴョェッ!?」

 場に踏み込み姿を現した正体不明の怪物は。その勢いのまま、その巨体からは信じられぬ速度で、オーク達の元へ急襲突貫。
 その見た目に違わぬ質量を持って。その前面をオーク達にぶつけ跳ね飛ばし、オーク達の身から拉げる音を上げさせる。

「ぎぇッ!」
「ぐぢぇッ」

 さらに。
 間髪入れずに上がる、おかしな悲鳴と、肉が潰れ拉げる音。
 見れば、肉の盾とされ並ばされていた女達が。オーク達共々、正体不明の怪物に轢き飛ばされ、あるいはその異質な足回りに巻き込まれ潰され、血肉をまき散らしていた。
 一切の躊躇なく突っ込んで来、容赦なくそれを成してみせた謎の怪物は。
 そして急停車し、場に堂々と鎮座。

「う、ウワァァァッ!?」
「な、なンだコレェ!?」

 かろうじてそれを逃れていた数体のオークが。しかし現れ、そして容赦の無い行動を見せた怪物を目の前に、慌てふためき狼狽える姿を見せた。

「く、クソォっ!ふざけ――」

 その内の一体が反応早く。かろうじて身を奮わせ、手にした得物を振り被って怪物に向かって掛かろうとした。

「――びぇッ!?」

 しかし。そのオークがおかしな悲鳴を上げ、眼と舌を突き出し剥き出して。何かにど突かれるように地面に転倒、地面に叩きつけられたのは次の瞬間。
 見れば突っ伏し倒れたオークの後頭部は、大穴が開いて砕かれ、赤黒い脳髄が覗いている。

「ハ!?」

 それを目の当たりにした、また別のオークがまた狼狽える声を上げ。そしてほぼ反射的に背後を振り向く。

「――ビョッ」

 パーン――という乾いた音声が響き聞こえ。そしてオークの口からおかしな声が漏れたのはほぼ同時。
 また見れば、そのオークの額にも大穴が開いている。
 そして全身を支える力を失い、地面へと崩れ落ちるオーク。
 そのオークが最後に見た光景は、その先。積み上げられた物資や戦利品の山。
 その上に立ち構えて、こちらに向けて何かを持った腕を突き出す、人影であった。



 讐は、オーク達の集め積み上げた物資や戦利品の山を、悠々と駆け上がっていく。
 その片手には、引き続き達磨にされ虫の息のオークが、首根っこを掴まれぶら下がっている。
 さほど立たずに物資の山を登り切り、その頭頂部に脚を掛けて出た讐。
 ――その瞬間。
 讐の耳に届いたのは、鈍い肉が拉げあるいは潰れる音。さらに異質な金属の擦れる音。
 そして頭頂部より眼下。視界が開けた先に見えたのは、緑の怪物――76式装甲戦闘車が。まさにちょうどのタイミングで、オーク達を女達共々跳ね飛ばし引き潰す光景であった。
 その光景を眼下に見つつ、しかし驚きなど特に無い様子で。
 荷物の山の上に立ち構えた讐は、その片手に持ったナガン・リボルバーを突き出し構え――そして発砲。
 76式装甲戦闘車の周りに見える、装甲車の襲撃を辛うじて逃れ。しかし狼狽えているオークの内の一体の、その後頭部に銃弾を撃ち込んだ。
 続け。仲間のそれに驚き、こちらを振り向いたオークの額にも銃弾を叩き込む。
 さらに3発、4発と引き金を引いて発砲音を響かせ。装甲車の周囲で狼狽え浮足立っていたオーク達に、銃弾を流れるように撃ち込み屠ってゆく。
 讐に一拍遅れて、続き物資の山の上に駆け上がって来た一名の隊員が、9㎜機関けん銃をもって攻撃に加わり。
 さらに76式装甲戦闘車の車長用キューポラから、車上に車長が上がり姿を現して、持ち出した65式9㎜短機関銃を用いて。逃走を開始したオーク達の背に、銃弾をばらまき始める。
 讐がナガン・リボルバーの最大装填数である7発目を打ち終えた頃には。その周囲一角に、動くオークの姿は無くなっていた。

「――蹴散らした」

 眼下の様子から敵の一掃完了を判断した讐は。片手に虫の息のオークの首根っこを持ったまま、器用にスピードローダーでナガン・リボルバーに再装填を行いながらも呟く。

藩基はんき

 そして、装填を終えたナガン・リボルバーを持つ手を軽く翳すジェスチャーで。隣に立つ一名――ブーニーハットとサングラスが特徴的で、その長身に携帯放射器を装着装備する隊員に、促し。登った物資の山を、今度は頭頂部より軽快に駆け下りた。
 物資の山を降り切って地面に脚を突き。
 転がるオーク達の死体を蹴飛ばし、肉片と化した女達だった物を踏み。
 遠慮容赦のまるでない傲岸な様子で歩み、讐等は76式装甲戦闘車の元へ辿り着き合流。

「悪くないタイミングだ、太帯ふとおび

 そして讐は、装甲戦闘車の急襲を評価する言葉を。しかしどこか興味の薄い淡々とした様子で、車上の車長に向けて発した。

「進行具合は?」

 対する、太野という名で呼ばれた車上の車長は、その評価に対して反応を返す事は無く。手にした65式9㎜短機関銃の弾倉交換を行いながら、讐に戦闘状況を尋ねる言葉を降ろして来る。

「大体半分は攫えた」

 それに端的に答える讐。

「おし、継続を――」

 それを受け、車長の太帯は続く指示の言葉を発そうとする。
 ――しかし瞬間。
 それを遮るように、何かの飛翔体が複数飛来。周囲を掠め、そして装甲戦闘車の側面装甲を叩いた。
 襲い来たのは、矢や先を尖らせた杭。

「ッ――!」

 襲い来たそれに、太帯は顔を顰めて身を少し竦める。

「側方、建物!」

 そして装甲戦闘車の後部車上。隊員用スペースのハッチから上り出て、車上で周囲を警戒していた隊員が報告の声を張り上げる。
 示されたのは装甲戦闘車より北側方向に立ち並ぶ家屋群。その扉や窓の向こうには複数の大きな影――まず間違いなく身を隠したオーク達のそれが見え。飛来した矢や杭が、それらから放たれた物であることが判明する。

「ヨォ、おまけに蛸モドキだぜッ!」

 その上その隊員から、荒げた忌々しそうな声色で、続く知らせの声が上がる。
 見れば、先の家屋群の扉や窓から、いくつもの赤黒く気味の悪い軟体の物体が、ヌルリと這い出て姿を現していた。
 いずれも体長は3~5m程の、蛸ともヒトデともイソギンチャクともつかない肉の塊の生物。触手のモンスターだ。
 オーク達は襲撃者である14分隊に向けて、従えている小~中型の触手を放ってきたのだ。
 少なくない数現れた触手のモンスター達は、軟体特有の薄気味悪い。しかしそれでいて素早い動きで、這いあるいは飛び跳ね迫る。

「チィッ、気色悪ぃッ。ショットガン射手ッ!」

 その光景を先に見た太帯は、それに不快感を覚えながらも。触手モンスターの特性に対処すべく準備待機していた、ショットガン装備の隊員に指示の言葉を発する。

「藩基、前に出ろ。蛸モドキ共に〝浴びせろ〟ッ」

 さらに太帯はキューポラ上で振り向き。讐の背後に立っていた携帯放射器装備の隊員、藩基にそんな指示する言葉を発し降ろす。

「いいだろう」

 一方の指示を受けた藩基は、了解の言葉をしかしそんな不躾な一言で返す。
 そしてゆらりと、悠々とした動作で動き歩み。装甲戦闘車の正面を抜けて通り、その先、迫る触手の群れの正面へと出て立つ。
 そこから見えるは、獲物を食らおうと獰猛な動きで迫る、恐ろしい触手達。
 しかし。そんな光景を前に、当の藩基はさして興味が無いかのように一瞥したのみで。そして携帯放射器の発射筒ノズルを雑に突き出し構えて、その開閉栓ハンドルに視線を落とす。
 そのハンドルが府基の手で回された瞬間――巨大な炎が、ノズルの先端より噴き出し上がった。
 携帯放射器より噴出された燃料。それに乗せられるように着火した炎が、爆発的に拡大。装甲戦闘車より先の一角一帯に、巨大な炎の壁を体現したのだ。
 突然発現した巨大な炎に。その身体を勢いに乗せて飛び進んでいた触手モンスター達は、ものの見事に己から突っ込み、その身を焼いた。
 そして炎の壁をくぐる羽目になり、次々に転がり出てきた触手達。火達磨となったそれらは、獲物へ襲い掛かるという当初の目的をそっちのけにし、地面の上で激しく苦しげにのたうち回り始る。
 一方の府基は、そんな触手個体達を意にもかけずに。発射筒ノズルを緩やかに薙ぐ様に、水平方向に動かす。それに伴い火炎の壁も噴出先を変え、火炎の一発目を辛うじて逃れていた触手モンスター達を、追いかけ捕まえ炎に包んだ。
 薙ぐ様にうねる巨大な炎が、一角を攫えるように支配。
 それに飲まれ火達磨となり、各所で転げのたうち回る触手達だったが。瞬間、いくつかの鈍い音が響き、同時に触手達の身に衝撃、暴力が襲った。
 14分隊に含まれるショットガン射手の隊員等からの、射撃攻撃だ。追い打ち、もしくは慈悲でもあるか。炎に包まれ苦しむ触手達は、襲い来た散弾に身を裂かれあるいは打ち飛び、その息の根を止められた。
 そんな触手達が息の根を止められる傍ら。
 藩基は携帯放射器による放射を一度止め、一体をうねり薙いでいた炎が一度晴れる。

「……ナ、うワぁッ!?」
「しょ、触手獣ドモが!?」
「りゅ、竜のブレスを人間ガぁ!?」

 その先に現れ見えたのは、数体のオーク達の狼狽える姿。
 おそらくは触手のモンスター達を先に放ち、敵方の態勢を崩した所を狙って、襲撃を掛ける腹積もりだったのであろう。その企みは、体現された炎の壁を前に、あっけなく崩れ去ったが。

「藩基、あれも焼け。構うな全部弾いて焼けッ」

 76式装甲戦闘車の上より、車長の太帯の指示の声がまた上がり聞こえる。
 見れば、太帯は各所各員へ続く指示の声を張り上げながら。キューポラ上で、翳した腕を薙ぐジェスチャーを荒々しく行い示している。それは同じく装甲戦闘車上の、30㎜リヴォルヴァーカノンに着いて座す、射手に行動を促す物。
 その指示を受けるが早いか。装甲戦闘車上に設けられる一際大きなターレットリングの上では、そこに鎮座する30㎜リヴォルヴォーカノンが旋回を始めていた。
 リヴォルヴァーカノンの横には、そこにほぼ仰向けの姿勢で座す射手の隊員の姿。
 彼のフットペダル操作に合わせて、リヴォルヴァーカノンはモーター音を響かせて旋回。同時に俯角を取り、その砲口は未だ狼狽えるオーク達を睨む。
 ――瞬間。リヴォルヴァーカノンは咆哮を上げた。
 そしてオーク達に襲ったのは、30㎜機関砲弾の体現する圧倒的な暴力。
 旋回を続けながら、薙ぐ様に撃ち込まれた30㎜機関砲弾のそれに。オーク達は貫かれあるいは爆ぜ、悲鳴を上げる暇も無く肉片へと姿を変えた。
 リヴォルヴァーカノンによる蹂躙は、それに終わらない。
 一度旋回動作と併せての砲撃で、オーク達を薙ぎ切ったリヴォルヴァーカノンは。今度は仰角を取り、少し戻る様に旋回して射角を微調整。
 そしてその砲口で先の家屋を睨み――再び咆哮を上げた。
 今度は家屋の上階に機関砲弾が飛び込み、内部で炸裂。さらに立て続けて投射される機関砲弾は、薙ぐように叩き込まれ周辺家屋を満遍なく、布切れのように吹き飛ばす。
 炸裂により家屋よりいくつもの土煙が上がり、家屋の破片が飛び散り撒き散らされる。その中には緑の肌の腕や脚、頭部の一部など、潜み籠っていたオーク達の肉片も混じっていた。

「――オーケー、星広(ほしひろ)。一度止めろ、配置した」

 いくらかの投射効果を確認し、車長の太帯は射手の名を呼び、砲撃停止の指示を伝える。
 続け見れば、家屋群の近くには。砲撃の行われている感に接近し配置した、14分隊各員の姿が在った。
数名が散開展開。各所に置かれた物資戦利品を遮蔽物変わりに配置し、それぞれの装備火器を構え、その先に建つ家屋群を睨んでいる。
そしてその隊員等の援護を受けながら、その先に構える携帯放射器オペレーターの藩基が見える。藩基にあっては携帯放射器のハンドルを細かく切り、構えた発射筒のノズルの口より炎を数度吹かしている。

「――ひ、ヒィィ!?」
「う、ウワウワぁッ!」

 その配置した藩基等の視線の先。一軒の家屋の玄関口より、数体のオークが慌て駆け出て来たのはその時。幸いにも砲撃の脅威を逃れつつも、それに臆し炙り出され逃げ出てきたのであろうオーク達。
 ――その転がり出て来たオーク達に向けて。藩基は発射筒ノズルを向け、ハンドルを捻った。

「?――ァ、ギャアアアアッ!?」
「ひ、ヒィィィィッ!?」
「アヅイイイイイッ!?」

 噴き出された巨大な火炎が、オーク達を諸に襲い、包み込んだ。
 炎の中から悲鳴が響き上がり、さらに炎の中にはオーク達のものである屈強な影が。しかし阿波踊りのような、面白いまでの動きで悶える様子が見える。
 藩基が携帯放射器のハンドルを締め、火炎が止む。
そして先に残り現れるは、火達磨となったオーク達。熱の苦しみに暴れ悶えていたのも束の間、オーク達の動きは次第に緩慢となり、膝を着きあるいは地面に崩れる。
 最早、弾を撃ち込み止めを刺す必要性も見止められず。藩基や分隊隊員等はオーク達からは興味を外し、続く他の建物を焼き無力化するべく、行動に移り配置を変えてゆく。
 オーク達は止めを刺される慈悲さえもらえず、その身が完全に焼け焦げ朽ちるまで、その身を焼かれる苦しみに苛まれ転がり蠢く事となった。

「他は?」
「西側を辺里等が周ってる」
「そんなら、東側を攫えながら合流するぞ」

 並ぶ家屋、それに籠るオーク達を、順に焼き炙り出す行動が開始された一方。
 76式装甲戦闘車では。キューポラ上の太帯と、装甲戦闘車の傍らで悠々と構える讐が、言葉を交わしこれに続く戦闘行動の調整を行っている。
 同時に、装甲戦闘車からは後部ハッチより繰り出る、あるいは車上より飛び降りる数名の隊員等の姿が見える。隊員等のそれぞれの手に見えるは、64式81㎜迫撃砲やその砲弾。
 隊員等は14分隊に付随していた迫撃砲チーム。
 オーク達の戦利品に囲まれる周辺の一角に、適当な場所を見つけ。そこを陣地として頂戴し、迫撃砲を設置し、砲弾類を雑に置いて散らかし、隊員等は砲撃陣地を展開。
 大雑把な照準を終えると同時に、砲手がその砲口より迫撃砲弾を滑り込ませ、瞬間に一射目が撃ち出される。
 そして間を置いて少し先より聞こえ来た着弾の音が、一帯へ砲撃開始を伝えた。

「――讐さん」

 その様子を傍目に一瞥していた讐に、声が掛かる。
 視線を向ければ、その先より歩み近づいてくるは、指揮下の14分隊隊員の内の一人の姿。

「北より接近する敵の塊。コマンドからです」

 その隊員は讐の前まで来ると。新手の接近、そしてそれが野戦指揮所からの物である旨を最低限の言葉で告げ。同時に手にしていたタブレット端末を差し出して讐に見せる。
 タブレットの画面に映し出されているのは、これまでと同様に無人観測機が送って来た上空からの映像。今映し出されているは、現在讐等が居る広場空間より北へ延びる町路。ズームアップされたその町路には、見飽きた緑色の身体や。小さい物から巨大な物まで様々な赤黒い軟体が、並び行進するいくつもの影が確認できる。

「連中の、頭の悪い企みです」

 補足の言葉をそこで紡ぐ、報告に来た隊員。その顔は、何か不快そうで気に入らなそうだ。
 明かせば、タブレットに同時に映し出されたその光景は、またもオーク達の吐き気を催す行い。

「――はーん」

 しかし、それを確認した讐はと言えば。さして興味も何を無い様子で、白けた色で白けた声を一言零すのでみあった。

「どうします?」

 引き続きの不快そうな色で、隊員は策を尋ねる言葉を寄こす。

「処分すんのは変わらん。が、蛸モドキ内のデケェのがチトウザそうだな」
「では重火力の要請を――」

 対する讐は、方針は変わらない旨を。しかし同時に映像に確認できたモンスター達の内の一部が、面倒な敵である事を推察。
 相対していた隊員は、それに受けて重火力の要請を進言する言葉を発しかける。

「――後ろ、南側!蛸モドキッ!」

 別方より張り上げられた警告の声が、それを遮ったのはその時であった。
 声の主は、周辺で警戒に着いていた隊員の一名。
 飛び聞こえた警告に含まれる位置情報から、讐や相対する隊員もそちらへ視線を向ける。
 その先に見えたのは、積まれた物資戦利品を乗り越え、あるいは這い抜けて現れた、数体の小~中型の触手モンスターだ。
 どこかに潜み、あるいは周り込んできたのだろう。触手モンスター達は、装甲戦闘車を中心に展開している14分隊の元へと強襲を仕掛けて来のだ。
 しかし裏取りを行っての触手達の強襲も虚しく。展開していた、ショットガンや重火器装備の14分隊隊員等の手により、その大半は速攻で対応され、屠られる。

「ッ!」

 だが、運が良かったのか偶然か。3体程の触手モンスターが、その射撃網をすり抜け突破した。

「――讐ッ!零れた、そっちだッ!」

 対応に当たった隊員の一名が、苦い声色で張り上げ。讐に向かって警告の言葉を寄こす。
 しかしその僅かな間に触手達は距離を詰める。調整中で無防備に見えたその場を狙ったのか、あるいは指揮者らしき者を見分ける程度の知能があるのか。
そして接近した触手達は、讐を包囲するように散開。それぞれは触手の鋭利な先端を突き出し。瞬間、讐を襲わんと跳ね。一斉に飛び出した――


 ――かに見えたのは、その一瞬に過ぎなかった。

「――えッ」

 懐疑と驚きの声が上がる。その主は、讐の傍にいた一名の隊員。唐突な触手の襲撃に対応すべく、自身の装備する小銃を構えようとしていた彼は。しかしその動きを途中で止め、そして少し驚く色で目を剥いている。
 彼が見るは、今まさに襲い掛かって来た触手達――正確には、その触手達が襲撃の動きを直前で止め。何か揃って硬直している姿であった。
 その触手達の前に在るは、変わらずそこに構える讐。
 だが違いが少しある。讐の眼は、冷淡なそしてどこか形容しがたい不気味な色で。自らに掛かって来た触手達を、見止め射抜いている。
 その射抜かれる触手達は、次には硬直から変わり、僅かに後ずさる等。明らかに狼狽える様子を見せ始める。
 ――現象は、町へ最初に踏み込んだ際に、制刻や策頼がやってみせたものと同じだ。
 触手達に走ったのは、本能的な危機感。恐怖。
 讐は、その視線で触手達を見止め射抜くのみで。触手達の本能を脅し、震え上がらせ、その動きを封じてのけたのだ。

「伏せてろ」

 讐は、そんな触手達に冷たく一言を飛ばす。
 それを受けた触手達は、今度は明確にびくりと身を震わせてたじろぐ。

「嘘かよ――」

 そんな常人離れした讐のそれに。傍でそれを見ていた隊員は、驚きそしてそれ以上に呆れるような一言を零す。

「――ッ?」

 しかし直後。隊員は、またさらなる触手達の変化に気付く。
 恐怖で微かに身震えしていた触手達。しかしその震えが、目に見えて大きくなり始める。地に着けて足としていた触手を、何かガクガクとよりあからさまに震わせ出す触手モンスター達。そして次には、触手達はついにその全身を支える事も叶わなくなったのか、地面にべちゃりと崩れ沈み、揃って激しくのた打ち回り始めた。

「こ、これはッ――」

 突然の触手達の様子の変化に、少し戸惑いつつ疑問の声を上げる隊員。
 その触手達は少しの間、激しくのた打ち転げ回ったかと思えば。数秒立った時点を境に、加速度的にその動きを鈍いものへと変貌させる。
 先までの機敏な動きは見る影もなく、地面に沈めた体を震わせながら這いずる触手達。虫の息なのは目に見えて明らか。
 そんな触手達は揃って弱々しく這いずり、ある一点へすり寄り集う。
 それは、他でもない讐の元。
 もちろん触手達に、最早攻撃の、抗いの様子はまったく見られない。触手の先端を弱々しくもたげる触手達の動きは、まるで讐に対して慈悲や救いを求めるかのようなそれ。

「あぁ――こりゃぁ制刻が言ってた、蛸モドキ共がラリパッパになる現象か」

 そこで讐は、そんな推察の言葉を零す。
 巻き起こった事態現象は、過去の戦いや町への進入時にも観測された、一部の隊員の有するらしき触手モンスターを無力化する特殊効果。体質。
 それが自身にもある事を、讐は今を持って理解掌握した。
 そんな讐の耳が、鈍い破裂音を聞く。
 瞬間同時に、讐の足元で悶え慈悲を乞うていた触手モンスターが、弾けるように吹っ飛び消えた。
 視線を横にスライドさせれば、そこにはひっくり返りわずかに痙攣する触手モンスターの体。

「――讐、米央よねおうッ。無事か?」

 そして讐や、傍にいる隊員の名を呼ぶ声が先から聞こえる。そちらへ視線を向け見えるは、駆け寄ってくる14分隊隊員の一名。その手には、今しがた触手モンスターに散弾を浴びせて弾き退けた、ショットガンも見えた。

「なんでもねぇ――あぁ、無理に撃たなくていい。虫の息だ、じきくたばる」

 そんな隊員に讐は無事な旨を返し、続けて触手モンスターへのこれ以上の攻撃は、必要無い事を伝える。

「どうなってんだ?」

 隊員は足元に転がる虫の息の触手モンスターを一瞥しながら、疑問の言葉を讐へ寄こす。

「よくは知らん――だが」

 そんな隊員へ讐は淡々と返し。
 ここまで掴みぶら下げていた。しかし結局肉盾としての利用機会は無かった、達磨のオークを少し持ち上げる。
 その最早用済みとなったオークの頭横に、ナガン・リボルバーの銃口を押し付け――発砲。
 オークは脳天を撃ち抜かれ脳症を散らかし、始末。言い換えれば生き地獄から解放される。

「――利用できそうだ」

 そして讐は、その死肉の塊と化したオークを放っぽって捨てながら。
 冷たい言葉で一言零した――
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