―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター4:「異海に轟く咆哮」《海隊編》

4-1:「異界の大船団と灰色の艦」

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 場所は動き、日もまた少し前後する。


 曇天覆う異空の空。その中をけたたましい音を立てて飛行する、一つの飛行物体があった。
 二つの回転する推進機――プロペラを回し飛ぶ、淡いグレーでその身を塗装する中型の航空機。
 特段、真っ先に目を引くは、その機体が背に背負う大きな楕円系の円盤だ。機体の大きさに届くまでのその異様な物体の正体は、早期警戒任務のための電子機器を収めたレーダードーム。
 その機の名は、E-1Bトレーサー。
 航空母艦での搭載運用を前提として開発された、艦上早期警戒機だ。
 そして胴と翼に記された日の丸の国籍表記と、〝日本国海隊〟の文字表記がその所有運用者を現していた。


 そのE-1Bの機内。電子機機器、機械類に占められお世辞にも広いとは言えない胴体内部の空間で、シートに座す海隊隊員の姿が在った。

「――デカい影だ」

 海曹の階級章を付ける、レーダー手であるその隊員は。座す席の前に設けられたレーダースコープを見つめながら。隣背後に座る、相方でもあるもう一人のレーダー手の海士に呼びかけるように発する。
 海曹の彼が睨むレーダースコープの東方向を示す位置には、レーダーが捉えた無数の存在が点として映し出され、それが集合してまるで一つの生物のような大きな影を作り出していた。そしてそれは一様に南進する動きを見せていた。

「推察するに100近く、数詳細は不明も動きから該当脅威の可能性大――送ってくれ」

 スコープに見えたそれから推察の言葉を言葉に表し、そして海曹は隣背後の海士に向けて促す声を送る。

「了解――ウェーザーリポートより展開中各ユニットへ――」

 それを受けた海士は。無線機を用い通信を開いて、声を通信上に発し始めた――



 この異世界の大陸。大小様々の国が存在する〝地翼の大陸〟の東。
 そこに二つの広大な領地を有する大国が存在する。
 一つは。大陸中部から東に掛けて、大陸の北東部をまるで寝そべるように有する〝雲翔の王国〟。この異世界の人々の言葉では、クリューデューソル・キルヒンダイツと呼ばれる。
 もう一つは。大陸のほぼ真ん中から東へと大海へ突き出ている巨大な半島を、領地として有する〝剣と拳の大公国〟。異世界の人々の言葉では、ブラップナーク・グラデュートと呼ばれた。
 そして、その二大国の領土に挟まれるように、横に長く東西へと延びる巨大な内海が存在した。
 翼抱よくほう海と呼ばれる二大国を隔てるその内海。我々の世界で言えば地中海に近い特性形態を持つか。
 その内海のほぼ中央やや東側。
 ――その海上一帯を埋め並ぶ、大小のおびただしい数の船があった。
 それはこの異世界の船団、いや艦隊だ。
 戦列艦や、ガレオン船に類似するものと見える巨大な木造船を中核とし。大~中型のキャラック船やキャラベル船に類似するもの。帆走スループ船やスクーナー船などに類似すると見られる中~小型の船など。その数数多。
 しかし艦隊を構成するのは船だけではない。
 船と並び、あるいは縫い泳ぎ進む多種の大から小型までの生物の姿がそこかしこに見える。それはこの異世界に生息する水龍、あるいは海龍と呼ばれる生命体。さらにその艦隊の上空には、また無数の翼龍や鳥獣グルフィがいくつもの隊伍を組んで、艦隊を取り巻くように飛行している。
 数多の船と数多の生物を有し。その合計数は100に届かん勢いの大艦隊部隊であった。


 広大な海域をふんだんに利用して、隊形陣形を組むその艦隊の中心部。
 戦列艦に類する巨大船、この艦隊の旗艦であるそれの艦尾楼。総舵輪が設けられ船の舵を預かり、そして指揮の場として用いられるそこに、腕を組み立つ一人の男の姿が在った。
 その男の名はデュオウ。
 長身で、鋭くかつ屈強な体がまず目を引き。そしてその顔に覗くは獰猛を形にしたようなまた武骨ながらも鋭い顔に、不敵な笑みを浮かべている。
 その男、デュオウは。この大艦隊――『嵐鮫らんこうの大海団』の船団総頭であった。

「機嫌が良さそうだな」

 そのデュオウの背後頭上より、異様に大きくそして重々しい声が降り聞こえたのはその時。
 デュオウの背後を見れば、そこにあったのは人ではない巨大な生物――龍の体だ。
 艦尾楼甲板上に、そのスペースをほぼ占めんがまでの巨体を鎮座させ。そして爬虫類のその眼をどこか冷たい色に作り、眼下のデュオウの背中を見降ろしている。
 龍の名は、オログロヒュム。
 〝魔王軍〟に属する魔物魔族の一人。そして龍生物、龍族を主体とする一軍部隊の指揮官であった。


 先んじて明かし、説明しよう。
 現在。雲翔の王国始めこの大陸の東北部の国々からの公の連絡が途絶えており、同時に各地では武装軍勢派閥や魔物の組織的な襲撃などがいくつも発生し。それらは案件として中央部や南や西の国々へ届いていた。
 それ以前も少なからずのきな臭い出来事は皆無では無かったが、現在のそれはそれまでの物を目に見えて越える事態であった。
 その事から巷で騒がれ始めたのは、この地翼の大陸への魔王軍の上陸――そして、それは的中していた。
 この地翼の大陸の北東端部より、先日魔王軍の一軍団が先兵として上陸。その地点より行動を開始し、近辺国家の掌握や各種工作へと乗り出していたのだ。
 さらに明かせば雲翔の王国にはとうに魔王軍軍団の手が及び、今はその掌握下にあった。
 そして王都のよりの指示が無くなった中、広大な領地内の各領にて、少なくない数の領地軍や組織が軍閥化。それぞれはそれぞれの思惑や密かにしていた謀略の元に行動を始め。一部は魔王軍軍団に接触し己から協力を申し入れ、傘下へ入り侵略に加担を始めた。


 船団総頭のデュオウと艦隊は、その魔王軍参加への加担を企てたうちの一つであった。
デュオウ率いるこの嵐鮫の大海団は一種の傭兵団だ。時に各領地から荒事の仕事を請け負い、時には海賊行為で糧を得る荒くれの半アウトロー集団。
 ここ最近はある領地の領地侯に雇われ、私兵のような立ち位置で糧を得ていたが。しかし魔王軍上陸の噂に確証を得ると同時に、デュオウはすぐさまそれを利用すべき事と見抜き行動に移った。
 魔王軍上陸の噂にただ狼狽える雇い主であった侯爵をほぼ脅す勢いで説き伏せ、そして魔王軍へと接触。協力を申し出みごとにそれを取り付け、己の大艦隊で魔王軍の海上戦力の一翼を担うこととなったのだ。


「あぁ、今は最高の気分だぜ」

 そんな経緯を持つデュオウは、背後から降りたオログロヒュムのどこか冷たい問いかけに。しかし振り向かぬまま、八重歯を剥きだす獰猛な笑み浮かべを返す。
 このデュオウは野心家であった。
 これまでこそ傭兵、海賊崩れの立場に甘んじていたが。いずれは己の大艦隊でこの内海を、いや世界の海を支配する事を目論見、けっして諦めてはいなかった。
 そして今回の魔王軍上陸を、その絶好のチャンスと踏んだのだ。
 魔王軍軍上陸によりこれまでの半端に維持されてきた均衡は崩れ、荒々しい大海戦が繰り広げられるだろう。その中で戦果を挙げ、奪い、艦隊を膨大ものとしその野望を果たすのだ。
 その第一歩として。デュオウ率いる艦隊はここまでですでに、魔王軍に抵抗しようとしていた他領地軍の船団を屠り沈め。降って来た他国や領地の船や船団を吸収し拡大。さらには混乱下で逃走脱出を図ろうとする船を多数捕まえ奪ってきた。
 そして今はその第一歩からさらに進め、隣国である剣と拳の大公国へと侵攻し。魔王軍の侵攻開始を、そして己達の存在を知らしめるための戦を、始めようとしていたのだ。
 デュオウは己の野望がこれより形となってゆくことを思い描き、気分を躍らせていたのだ。

「ふん、足元を掬われるなよ」

 そんなデュオウの背に、オログロヒュムはまた冷たい言葉で忠告の言葉を吐く。


 暴露してしまえばオグロヒュム始め魔王軍側はデュオウ達はもとより、魔王軍の元へと降りに来る各勢力を本当の仲間などとは微塵も思っていなかった。
 世界では人類側と魔王軍側が生存権を賭けた苛烈な戦いを繰り広げている中を、ぬけぬけと裏切り魔王軍側に媚び降りに来た連中だ。端から仲間とするには値するはずもない。
 魔王軍の先兵である上陸軍は、それなりの規模ではあるがそれでも現時点では限定的であり十分ではない。その裏切りの連中を引き入れたのは、その不足を一時的に補うためい過ぎなかった。
 魔王軍の増援、そして本軍が到着し態勢が整えば、裏切り連中は用済みとなり切り捨てられる算段だ。その末路は屠られるか、糧として利用されるかだろう。
オグロヒュムの冷たい目は、そんな惨めなものを目の前にしての嘲るそれであった。

「へっ、冗談。俺様が全部蹂躙してやらぁ」

 そんなオグロヒュムの言葉に、下卑た色の笑う言葉で返すデュオウ。

「ふん」

 それに対して、オグロヒュムはまたその鼻を鳴らし返す。

「私は上空で指揮を執りながら、見させてもらう。無様を晒してくれるな」

 そして最後にそう叩きつける言葉を降ろすと。
 オグロヒュムはその背に生やす両翼を大きく広げ。そして次には甲板上にブワと風圧を巻き起こし、そして上空へとその巨体を飛び上がらせた。

「――へっ、お高く止まったトカゲが」

 そのオグロヒュムを一瞥で見送った後に、デュオウは忌々し気にそうオグロヒュムを表現し、吐き捨てる。
 明かせばデュオウもまた本心では、魔王軍が己達を仲間に迎え入れたとなど思っておらず。事が整い用済みと成れば、魔王軍側がこちらを切り捨てるであろうことなど十分分かっていた。
 そして同時にその時こそ、連中のその高慢の寝首を掻き。己達が新の支配者として台頭する時だ。
 魔王軍に擦り寄りその傘下に加わったのは、魔王軍の懐へと潜り込むため。連中の中枢へと密かに根を伸ばし侵略し、またその全てを奪いものとするため。そのための各種手回しもとうに進めている。
 その企てを脳裏に浮かべ。そしてその来るべき時に連中の高慢な顔が崩れる様を想像し、デュオウはまたニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「お頭!」

 そんなデュオウの元へ、唐突に声が駆けられた。
 見れば船の中央甲板より階段を上がり、艦尾楼へと駆け込んで来る一人の男の姿が見える。それはデュオウが参謀、右腕としている男だ。

「偵察の鳥騎がこの先で小舟を見つけました」

 次にその参謀が発した言葉に、しかしデュオウは少し怪訝な色を作った。

「あぁ、小舟だぁ?そんなもん隙に襲い奪え」

 そして低い声でそれに返すデュオウ。現在、はした小さな獲物の襲撃判断は、各部隊の現場指揮官に一任し、言ってしまえば好きにやらせていた。
 わざわざ自分に報告を上げる事でもないはず、デュオウはそれを訝しんだのだ。

「へい、それはもう見つけた鳥騎隊と船がやってるとの事でやすが……一騎が知らせに戻ってきたんでさ。その見つけた船が、何か妙だと……」

 しかし参謀の男は、また本人もどこか戸惑う様子で言葉を返す。偵察からの報告によれば、その小舟は見たことも無い構造造りの灰色の船だったとの事。

「鳥騎も妙に思って、知らせに戻ったそうでやす。ブラップナーク・グラデュート(剣と拳の大公国)の哨戒船の可能性もあって、近くに軍船がいる可能性もあると」

「はっ、ビビリやがって」

 参謀の男の説明の言葉に、デュオウは悪態を吐いて反す。
 しかし真にはデュオウはその報告を軽んじて受け取ることはしておらず、その意識に少し警戒の色を作り始めていた。少しの要素、懸念でも侮らない。そのやり方でデュオウはここまで生き延びて来たのだ。

「しょうがねぇな、ゲゴンの『突牙の船隊』を応援に差し向けろ。俺達も備える――その妙な船を捕まえて、見物といくぞ!」

 そして荒々しい口調様子ながらも、応援を向かわせる指示を伝えるデュオウ。

「ヘヘ、その小舟のヤツ等が泣き出しちまうかもですぜ」

 その指示に、参謀は少し下卑た様子で笑い返す。このデュオウの荒くも慎重な姿勢が、配下の信頼を得ている要素の一つであった。

「聞いたな、ヤロウども!今度は珍味を味わえるかもだぞ!」

 そして参謀の男は、眼下の甲板で各役割に従事する、配下船員達に向けて発し上げる。それに船員達は、一様に荒々しく大声で笑い上げて返答を返す。

「ブラップナーク・グラデュートのヤツ等との、ぶつかり合いも近いかもしえねぇ――戦に向けて、ここいらでいっちょ気合入れろやッ!」

 続け参謀は発し上げ、船員達はさらに威勢の良い声で笑い返す。事あるごとに威勢よく配下を鼓舞することもまた、士気を維持する上での大事な要素だ。

「お頭」

 そして参謀はデュオウの顔を見て、促す一言を寄こす。それはデュオウに締めの一言を求めるもの。

「やろうども、今回だっていつもと同じだ。徹底的に追い込み潰し――ビビらせろッ!」

 頭であるデュオウの言葉に、さらに一層のビリビリとした数多の声が上がり答える。船員達の士気は高い。
 デュオウもそれに気を良くする。

「おら行くぞぉ!合戦の始めだぁ――」

 そして、デュオウは声高らかに張り上げようとした。


 ――それを阻み遮るように、爆音が上がった。


「――は?」

 言葉を阻まれ。そしてデュオウは目を剥き振り向く。
 そこに見えたのは、己が艦隊を構成する巨大戦列艦が、ガレオン船が。複数のそれらが炎上し、その巨大なマストを折り倒す姿であった。



 『嵐鮫の大海団』の位置より西へ数十km離れた海上の一点。
 そこ浮き鎮座する、灰色の船――艦が在る。
 全長200m超。この異世界の大型戦列艦の倍、いや三倍を優に超える巨大な船体。
 その船体上に備える、主砲である203mm単装速射砲はその三基全てがその砲口を『嵐鮫の大船団』の方位へと向けている。
 さらに船上にはそれだけに留まらない、無数の装備火器類が見える。
 その様相は、要塞なまでのそれ。

 基準排水量12500t。
 満載排水量17000tの巨体。


 ――CG-211。
 かまくら型護衛艦、1番艦〝かまくら〟。


 元居た世界の帰する国で、その艦はそう呼ばれた。
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