―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター4:「異海に轟く咆哮」《海隊編》

4-2:「ミサイル護衛艦 CG-211〝かまくら〟」

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 時系列は数分遡る。
 
 薄暗くそれなりのスペースの確保された空間の中で、無数の画面や計器機器がぼんやりと発光し、空間を微かに照らしている。
 そこは戦闘指揮所――CICと呼ばれる空間。
 ミサイル護衛艦、CG-211かまくら。その中枢であり戦闘行動の指揮を一括して担う、いわば艦の脳。
 そしてCICの各座席には乗組員である海隊隊員等が座し、いずれもが担当する画面や計器を見つめている。

「――艦長、〝7号〟からです」

 その内の一名、通信機器を担当する通信員が言葉を上げた。その言葉が向けられた相手は、CIC空間の真ん中に立つ一人の男性隊員。
 海洋迷彩の作業服に、救難ジャケットと鉄帽を纏い。一等海佐の階級章をその方に着けるその人物こそ、この護衛艦かまくらの艦長その人であった。
 ――名を、都心とごころ 武蔵むさしと言う。
 40後半を越える年齢ながらも、見た目はまだ若い面影を残し。しかし同時にスマートながらも強靭な体躯と、尖り人を寄せ付けない印象の顔立ちが特徴的だ。
 護衛艦隊、第4護衛隊群、第64護衛隊に所属し当艦を預かる彼は、訓練中に謎の現象に遭遇。気付けばこの艦とそして乗組員等と一緒に、この異世界へと降り立っていた。

「《当艇、先船団より分派の飛行生物及び船舶より攻撃を受ける。広報勧告するも応答なし。敵性存在と認めこれに応戦し、現時刻をもって排除》――です」

 その都心に向けて通信員は、続け通信で寄こされた内容を報告する。

「了。ウェーザーリポートから続報は?」

 都心はそれに静かに端的に返し、合わせて尋ねる言葉を返す。それは観測支援のために飛んでいるE-1B早期警戒機からの、新たな情報が来ていないかを尋ねるもの。

「先観測の船団は引き続きの接近――のみ。他別報は無し、新たな影等の発見は無し」

 それに通信員は、寄こされている情報は既知の物のみで、新たな敵の出現などの報は来ていない事を告げる。

「了解――」

 それを聞いた都心は、手元に控えていた艦内各所のスピーカーに繋がるマイクを、やや荒々しく手元に寄せる。

「――艦長より全部署、耳を貸せッ」

 そして、少しドスの聞いた声色で。そんな端的な言葉を発し上げ、艦内中に響かせた。

「既知船団は敵性、〝第1艇隊〟が先んじて交戦に突入。艦もこれに対して火力投射を開始するッ」

 続け荒々しくも、端的最低限の情報をマイク越しに艦中に伝える都心。

「……艦長……〝合戦始め※〟の号令を……」

 そんな所へ傍らより、何かおずおずとした声が掛けられる。声の主はCIC内の一席でコンソールに向かう一人の女海隊幹部。彼女はこの〝かまくら〟の砲雷長の一等海尉だ。
 美人の物であるその顔を、しかし困った色に染めて告げられた彼女の言葉。それは海隊護衛艦に戦闘開始の際に宣告される号令、〝合戦始め※〟の合図が都心の口より発せられていない事を伝えるもの。(※現実の海上自衛隊のものとはことなる号令である)

「あ?あぁ」

 しかし砲雷長の彼女の言葉に、都心から返るは何か荒く投げやりな声。

「各所――〝始めろ、やれ〟――ッ!」

 そして都心がCIC内に、そしてマイクに向けて発し上げたのは。あまりにも端的過ぎるそんな合図号令の言葉であった――



 かまくら型護衛艦。その1番艦である〝CG-211 かまくら〟。
 1980年代後半に起案された、洋上機動艦隊整備計画の一環として。はたかぜ型護衛艦と同時期にしかし別計画で建造された、ターター/スタンダード・システムを搭載し中核とするミサイル護衛艦だ。
 まず目を引くはその巨大な船体。基準排水量12500t、満載排水量17000t、全長200mを越える巨体。かまくら型護衛艦のその実態は〝巡洋艦〟であった。その証として艦の接頭記号には、ミサイル巡洋艦を示す〝CG〟が冠されていた。
 そして注目すべきは、その船体上に配された装備火砲類の数々だ。
 ターター/スタンダード・システムの中核となる発射機。防空用のCIWSに、艦対艦ミサイル発射機、魚雷発射管。
 そして主砲だ。
 かまくらには主砲にはMk.71 8インチ砲(203mm口径)を原型としてライセンス生産された、82式55口径8インチ単装速射砲を計3基。それが前甲板に2基、後甲板に1基を配置搭載されている。
 その搭載される3基の主砲それぞれが、直後には旋回を始めた。
 稼働音を立てて旋回した各砲は、その全てが艦の進行方向からみて2時の方向。東側へとその砲口を向け、そして仰角を取り――


 ――咆哮が、そして各砲の砲口より砲煙が噴き上がった。


 それは各砲が、腹に収めていた203㎜砲弾を吐き出し撃ち出した知らせの号砲。
 飛び出した3発の203mm砲弾の弾頭は、弧の軌道を描いて数十kmの距離を凄まじい速度で飛び抜ける。
 そしてその先にその存在を捉えていた、『嵐鮫の大海団』の真上へと飛来し降下。その内の戦列艦、ガレオン船へとそれぞれ飛び込み着弾――

 その飛び込んだ内で炸裂――それぞれのその巨大な図体を、しかし内側よりまるで紙切れのように引き千切り破壊した――



「――初弾、全て命中ッ」

 CIC内に配置する隊員から、撃ち出された初弾の全てが見事目標に命中した事が伝えられる。

「了解――各砲続け、好きにやれッ」

 それを受けた都心が返し発したのは、そんな命ずる言葉。
 それは各主砲砲塔の要員等に、これ以降独立しての目標判断及び射撃行動を許可するものであったが。それにしてもその言葉はあまりにも砕け過ぎていた。
 そしてそれは、この都心という人物を良く表していた。傍らでは先の女砲雷長の一尉が、困りゲンナリしたような顔色を作っている。
 それはともかく各砲要員には自由射撃行動の命が伝えられ。それに呼応して、3基の主砲はそれぞれ各個の意思で射撃行動を開始した。


 かまくらの艦上で、3基の各主砲は自由に各方向へと旋回し。各々のタイミングで咆哮を上げ火を噴き始めた。
 砲声を上げて砲弾を打ち出し、次には各砲の装填システムがすかさず次弾を装填。そしてわずかな時間に各砲は再調整再照準を終え、また火を噴いた。
 その撃ち出された203mm砲弾はの全ては『嵐鮫の大海団』のへと飛び降り注ぎ。船団を構成する船へと飛び込み貫き、炸裂して破壊した。
 船団からすれば正体不明の、まるで天からの雷のようなそれに。船団の誰もが瞬く間に混乱に陥った――


「艦長、〝第1艇隊〟が間もなく交戦距離へ」

 艦が咆哮をひっきりなしに上げ、その振動をCIC内にも伝える中。CICではレーダー要員が都心に向けて報告の言葉を上げる。
 そのレーダーを覗き見れば、目標として捉えている船団を挟撃するように接近する、三つの小さな影があった。

「了解、射撃は継続だが要注意。当艦も距離を詰める」

 通信員よりそれを受けた都心は、またそれに端的な支持の言葉を返す。

「砲雷長、ここは任せる。俺はブリッジに上がる」
「あ、はい」

 続け、都心は砲雷長に向けてそう告げる言葉を発する。
 そして砲雷長の戸惑い交じりの生返事を背に聞きながら、CICの水密扉を潜って行った。



 始点は再び『嵐鮫の大海団』側。
 艦隊主力より先行突出して先陣を務める、数隻の船からなる先陣船隊がいくつかある。
 内の右翼側に位置する船隊の、その指揮を務める一席のキャラベル船上。

「ッぅ!?……くッ、なんだってんだい!?」

 その船上操舵席の傍で、一人の女が声を上げた。
 女はそのキャラベル船の船長であり、同時に船隊を任される船隊頭。
 その男勝りと言った様子の女船長が今まさに聞いたのは、轟く爆音。そして振り向いた女がその視線の先に見たのは、後方の海上で艦隊主力のガレオン船がまた一隻。燃え上がりマストを折り倒す光景だ。

「また一隻やられたぁっ!?」
「ど、どうなってんだよぉ!?」

 その光景を先に見て、キャラベル船上では乗組員達が狼狽の声を上げ、慌てふためいている。

「っ、狼狽えてんじゃないよトンマ共!応戦だ、船の速度を上げろ!そして魔雷を撃ち返すんだよッ!」

 そんな姿を見せる船員達に向けて、女船長は荒げた声で檄を飛ばす。
 この異世界に基本的に砲の類は無く、大型戦闘船はその巨体を生かして船内に大掛かりな魔法陣を描き備え。それをもって攻撃魔法にて攻撃戦闘を行うのが、もっとも基本的な形態であった。

「ですが敵の姿も見えやせん!どっから撃って来てんのかも分からねぇんですぜ!?」

 しかし船員の一人から言葉が返る。その言葉通り、攻撃を返そうにもその相手の姿すら見えていないのだ。

「っ……!」

 その返答に、苦虫を噛み潰したような色を作る女船長。

「あ、姐さん!北西の方向を!何か、小舟が来やす!」

 そんな所へ、また別の乗組員から知らせの声が上が届いた。

「小舟だってぇ!?今、そんなモン……!」

 切羽詰まっている状況へのそんな知らせに、女船長は焦れ怒りすら覚え、荒げる言葉を上げようとした。

「う、浮いてる……小舟が海の上を、飛んでる!?」

 しかしその女船長の声を遮り、さらに船員から寄こされたのは、そんな叫び声に近い言葉であった。

「はぁ?何を――」

 そんな乗組員からの要領を得ない知らせに。女船長は「頭でもおかしくなったか」と、状況もあってさらに不快感を露わにしながらも、その乗組員が指さす方向を見る。

「――え?」

 しかし直後。その先に見えたものに、女船長は思わず目を剥いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
 女船長達の乗るキャラベル船より数km先、肉眼でも視認可能な範囲のその一点に――それは見えた。
 遠目にも小舟と判別できる、灰色の小柄な船体のそれ。しかしそれは確かに――海面に浮き上がり、いや飛んでいた。
 浮かぶと言っても、本来船とはその全てが海面に底を着け、その浮力に支えられてそこに在るはずであった。しかし見えたその小舟は、本当にその船底を海面より離して、宙空に浮かび上がっているように見えたのだ。おまけに目測だけでも嫌でも分かる、船にあるまじきとんでもない速度で進みこちらへと迫っている。
 それはまさに、〝飛んでいる〟と表現するにふさわしい姿。

「な……!」

 目の当たりにしたそれ驚愕に思わず声を漏らす、いや声を漏らすことしかできなかった船長。
 その女船長の目が追う小舟から、何か煙が噴き出し上がったのはその時。
 そして小舟から小さな光が飛び上がり、それが小舟から空に向けて一直線の煙を描き始める。それは何かが撃ち出された証。
 そしてその光点と煙は瞬く間に弧を描く軌道を描いて見せる。それが記し知らせるは、その光点が女船長達のキャラベル船へと一直線に向かっている事実。

「――ぁ」

 それに視線と意識を奪われていた女船長は、しかしそこで気付き見上げ、小さな声を漏らす。
 その光点と煙――それを描く何かの飛翔体が、己達の船へと真上へと。目の前へとすでに迫り、こちらに飛び込んで来る姿がそこにある。そして――


 それが女船長達の見た最期の光景となり。
 彼女達のキャラベル船上が、爆炎で包まれた――
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