―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター4:「異海に轟く咆哮」《海隊編》

4-12:「海隊、〝ごったましか〟!」

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 護衛艦かまくらを始めとした戦闘群の展開した戦闘水域より、数十km程離れた後方。
 そこにまた隊形を組んで配置する、姿形の異なる3隻の船――艦の姿があった。



 内一隻は、全長100m少しの帆船。
 正確には、帆走のためのマストを複数本備える同時に、石炭を用いる内燃機関のための煙突が並び船上に備わる姿が見せる。
 それは地球世界の19世紀後半に登場した、フランスのラ・グロワールやイギリスのウォーリア等の、初期の装甲艦にかなり類似――いやその通り。その船はこの異世界で初めて建造された装甲艦であった。
 それを保有運用するは、剣と拳の大公国。
 この異世界において船の動力の基本は帆走、もしくは魔法を用いた魔道であるのだが。
 その中で、この異世界にてつい最近実用化に漕ぎつけた蒸気機関を実験目的も兼ねて搭載した。この異世界において新たな形態の船として誕生した、新鋭艦の一隻であった。


 そしてその装甲艦と並び、しかし少し先行するもう一隻の艦。
 全長は140m弱、細長い船体に灰色の塗装。先の装甲艦と異なり帆の類は無く、艦上は武骨で角ばった各種構造物と武装装備が占めている。
 その正体は、日本国海隊の護衛艦。
 甲板後部に背負う様な箱状の構造物、ヘリコプター格納庫と。一段高くなったヘリコプター甲板の特徴的なそれは――汎用護衛艦、あさぎり型のもの。
 そして艦首側面に記された158の番号が、その艦があさぎり型護衛艦の8番艦、〝DD-158 うみぎり〟である事を示していた。


 その斜めの隊形を形作る二隻より、若干距離を離した後方に。その二隻よりも一層様相の異なり、そして巨大な艦の姿があった。
 その船上は、右舷側に小さな艦橋構造物を有する以外は何もなく、平らで広い空間がただ広がっている。
 そしてその甲板上に並ぶは複数の航空機。
 SH-60KやHSS-2Dと言った回転翼機。そして、S2F-1対潜哨戒機やE-1B早期警戒機、C-1JA艦上輸送機といった固定翼の艦上航空機など。いずれも日本国海隊の運用する航空機が、翼を休めている。

 その艦の正体は――空母だ。
 正確には日本国海隊では航空機搭載護衛艦と種別される。
 その名を――せきがはら型護衛艦、〝DDV-140 せきがはら〟と言った。

 元世界の地球、日本において。
 1970年代に海隊内にて持ち上がった、ヘリ空母を建艦保有する2次防CVH構想。諸事情から一度は計画中止となったそれが再案、発展し建造就役した全通甲板型の航空機搭載護衛艦だ。
 全長217m、基準排水量17500t、満載排水量24000t。
 これは元となった2次防CVH段階での二案、基準排水量23000tのCVH-a案と基準排水量11000tのCVH-b案の両案の間を取る形と言われている。
 左舷側には7°のアングルドデッキ。二基の蒸気カタパルトを備え、回転翼機だけではなく機種の制約こそあるものの固定翼機の運用を可能とした。

 日本国海隊が初めて保有した空母。
 その艦歴を紐解けば。海隊に多くの形で貢献し、数多のノウハウを与えたが。同時にその運用は多くの困難を伴い、海隊は当艦を十分に扱いきれたとは言えず。
 当艦は海隊にとって時期尚早であった代物とも言われた。

 その後、時代は下り。後継、次世代艦となる航空機搭載護衛艦が続々と就役し。
 せきがはらは既に退役しててもおかしくない老朽艦となり。しかし日本国隊の貧乏性から後方での運用は続き、開発隊群にて開発実験支援を行う役割に従事していた。
 だが、その最中。
 最早言わずもがなか。せきがはらは件の科学者の人物の企てに巻き込まれ、この異世界に転移。
 そしてこの異世界にて、同じく転移した他各艦の筆頭となり、戦いに身を投じる事となったのだ。

 現在、せきがはらはこの周辺海域で展開される作戦行動の総旗艦を務め。
 さらに、空より各艦へ情報を提供するウェーザーリポート――E-1B早期警戒機や。立入検査を支援した各ヘリコプターは、全て当艦より発艦したものであった。



「――ウェーザーリポート、反転し当艦への帰艦コースへ」
「――サイクロン86、ブリザード64各機も帰艦方向」
「かまくら、なにわ。第1艇隊各艇は戦闘海域を離脱。再編しつつこちらへ合流方向」

 そのせきがはらの艦内、CIC内では配置した要員の海隊隊員の声が上がり交っている。それらはいずれも、戦闘及び支援行動に赴いていた各艦、各機がそれぞれの担当行動を解き、離脱ないし復帰の動きに入った事を知らせるものだ。 
 その上がりくる各報告を聞きながら、CIC内の中心に立ち構える一人の男性の姿があった。
 歳は50代半ばのその人。しかし狡猾そうな、言ってしまえば少し悪そうなその顔と容姿は、だが同時にスマートさと実年齢よりも若い印象を受ける。
 そしてその他の海隊隊員と同じ、纏う海隊仕様の迷彩服の。その襟に記された記章が、その人が海将の階級者である事を示していた。
 名は――基代きだい 心星《しんせい》。
 海隊海将であり。この異世界に転移して来たすべての海隊艦艇、部隊の中での最高階級者であった。
 その基代が視線を送るは、CIC各所の各モニター。それらには戦闘に参加した各艦各機から今も送られる、戦闘の終結した海域の様子光景が映し出されている。

「――やっちくれたな、〝さっしー〟」

 それ等に視線を流しながらも。基代はまたその顔に似合いすぎる悪そうな笑みで、そんな一言を発した。

「キレテツな力を使いこなし、みごと〝どらごん〟を討って見せおった」

 続け発する基代。
 それは護衛艦かまくらを、それを指揮する艦長の都心の。脅威的な異世界の竜を見事倒して見せた、その成果と采配を評し称えるものだ。
 ちなみに〝さっしー〟とは基代が勝手に読んでいる都心の愛称である。

「匪賊たる船団も無事制圧との報にごつ。各艦各隊も、見事な任務遂行にもしたッ」

 そこへ、基代の背後横より別の声が上がる。
 薩摩の方言の独特な気迫を感じる言葉遣いだが、反してその声色は高く透り、可愛らしいまでのそれ。
 見れば基代の背後にあったのは、何か小柄で可愛らしい女性の姿だ。
 一見、未成年かと見紛う容姿姿、可憐な顔立ちに結った長い黒髪。しかしその身に纏うはまた海隊迷彩服、そして階級章は二等海佐を示すそれ。
 付け加えれば、その可愛らしい顔に反した。女のラインを損なわないながらも、逞しい筋肉の付いた体躯が、迷彩服越しにもありありと見えた。
 その女の名は、太丈ふとたけ
 その身分は、現在この護衛艦せきがはらより先行する、護衛艦うみぎりの艦長であり。付け加えれば都心の後輩にあたる人物であった。
 現在は報告連絡、直接の調整のために護衛艦せきがはらに訪れ乗艦しており。また、この護衛艦せきがはらの艦長は現在艦橋に上がっており、そのための一時的な交代として基代の補佐に着いていた。

「各艦に立検に臨んだ各隊、それに武蔵どんのかまくら――いずれも、〝ごったましか〟戦いっぷりにありもしたな」

 またその愛らしい顔に似合わぬ不敵な笑みで、そして圧力の凄い薩摩の方言で発する太丈。彼女の一連の言葉はまた、戦闘に参加した各艦各隊や、武蔵指揮するかまくらの、その戦いっぷりを評し称えるものだ。

「――〝超〟よの!」

 掛けられた言葉を背に聞いた後、基代はまた不敵な笑みと口調で。都心等の戦いっぷりと何よりその在り方を、そんな一言で表現して見せる。

「超にごつ!」

 それに太丈も賛同。また不敵な色で、その称え表現する言葉を彼女も口にして見せた。

「……どこまでも、とんでもなかったな」

 その傍らで。基代等の様子とはまた異なる、困惑交じりの感嘆の声を上げる姿が在った。
 中年から壮年の間といった様相の男性で、その肌や顔立ちはまた元世界のヒスパニック系に類するものと見える。その服装格好はそれまでの派遣武官達と同じ、剣と拳の大公国の保安軍の軍服である、西部劇の保安官のようなもの。
 ゴスネスと言う名である男性は、その保安軍の将軍である人物であり。大公国保安軍からの派遣武官一行の代表者であった。
 護衛艦せきがはらより先行し、護衛艦うみぎりと隊形を組む、剣と拳の大公国の保有する装甲艦――艦名をブローグルと言うその艦によって、日本国海隊の艦隊に同行して参じ。いまは護衛艦せきがはらに座乗武官として乗艦し、一連の戦闘行動を見届けたのであった。

「戦いもさることながら……あれらが全て、魔法魔術のそれでは無いというのか……」

 続け、今も各モニターに映る各所の光景映像を見つつ。感嘆と呆れの混じった声を零すゴスネス。
 それはここまで海隊が見せた。その内でも特に護衛艦かまくらの見せた、超常の域の戦闘の姿が。その全てがこの世界の力の源である、魔法――によるものでは無い事に、驚き不可思議に思っての言葉であった。

「将軍、ごすねす殿どん

 そんな様子心情のゴスネスへ、基代から呼ぶ声が掛けられる。

「先ん報告の上がって来た、立検隊が保護した不当にとっ捕まっとった人々についてですが――」

 立入検査隊が発見保護したリーディット達については、すでに基代等の元にも報告があがっていた。彼女達は護衛艦かまくら始め戦闘群に回収され、現在は合流に伴いこちらへ移送されて来る途中だと言う。
 基代からゴスネスへの伝えられたのは、そのリーディット達を迎えるうえで、ゴスネス等にも 同伴応援を願う要請のものであった。
 別世界の異質な存在である自分等(海隊)よりも、この世界の者であるゴスネス等が接触した方が、相手の困惑も少なくハードルが低いだろうとの考え配慮の上でのものだ。

「えぇ、雲翔の王国のリュレディナ侯爵家の人々だと。我々も同伴いたします」

 その要請に。ゴスネスは未だ驚き他の感情が冷め止まないながらも、居ずまいを気持ちを取り直し。その要請に了承の言葉を返した。

「ブリッジからウェーザーリポート視認の報。着艦シークエンス準備に」
「〝汎用支援艦ぼうそう〟、当艦隊形へ間もなく合流――」

 その中で、CIC内では要員各員の声が飛び交い。戦闘終結に伴う各所各行動派続く――
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