―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター5:「〝Utility〟」《多用途隊編》

5-4:「〝Voodoo〟」

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 また舞台は、紅の国領内。
 そのある地域の空を――覆い尽くさん様子で飛ぶ、無数の姿があった。

 その主たるはまず、この異世界に生息するグルフィと呼ばれる鳥獣。鷹、ないし鷲に酷似するその姿。しかし決定的に異なるはその体長だ。
 小さくとも3~4m、大きいものは10mにも届かん域の鳥類としては巨大すぎる体。その特性から、騎乗生物として広く用いられる鳥獣であり。今は商議会に雇われた傭兵崩れの荒事屋達が、その手綱を取り飛ばしていた。

 そしてもう一つ。大きな姿を見せるグルフィの鳥騎兵とは異なり。大空の中では小さく、しかし軽快な飛ぶ様子を見せる姿がある。
 それは――箒に跨る人。文字通り、人が箒に跨りそれを乗り物として空を飛んでいた。
 箒に跨りそれを操り飛ぶは、紅の国の警備兵達。その警備兵達は、紅の国の警備隊にて組織される、〝箒隊〟と呼ばれる飛翔部隊であった。


 そんな、グルフィの鳥騎兵と箒隊を主として成る飛行部隊。その数は50を越え、大きな影となって大空を我が物顔で飛んでいる。
 それらは紅の国のいくつかの拠点とする町より集結し、隊伍を形成したもの。そしてその飛行部隊は、ある役割を帯びていた。
 それは――〝反目する者、裏切り者〟を亡き者とすることだ。

 魔王軍の勢力に着こうとしている紅の国商議会。
 しかし現在その企てに意を反し、商議会にとって目の上の瘤となっている存在、コミュニティが二つ確認されていた。
 一つは、草風の村。
 一線を退いた、かつての商議会の派閥の長だった男が筆頭となり。商議会の魔王勢力へ寝返ろうとする企てに、反目の意思動きを見せる勢力。
 もう一つは、凪美の町。
 元よりその歴史成り立ちから、商議会の方針に積極的な賛同を見せない町であったが。先日ついに、商議会の方針より離反したとの知らせが届いた。

 その二つのコミュニティを亡き者とする事が、飛行部隊の役割。
 これまでも両者を葬り去るべくいくつかの小手が打たれたが、それらは失敗に終わり。この度ついに、本格的な攻撃部隊が差し向けられるに至ったのだ。


(――……まったく、面倒な役目を割る振られた……)

 その箒とグルフィからなる大掛かりな飛行部隊に伴う、また別の異なる姿が在った。
 一見の特徴だけ、身長高めで体躯が良いが人間の女。だがその背より生える蝙蝠の――いや、飛行恐竜の物ような。我々の世界で言えばプテラノドンの物のような一対の羽を、羽ばたかせて自ら飛ぶ姿が、その女が人間ではない事を示していた。
 脚や手先には大きな爪を持ち。脚周りや腕、胸元首回り頬など、その体の要所は鋼色の鱗で覆われている。
 しかし反して人間の女と違わぬその胴は、水着のような露出多めの衣装を纏っている。
 その女の正体は、鋼竜の竜人。そして魔王軍に帰属する指揮官クラスの者の一人であった。

 さらにその鋼の女竜人の周りには、また竜人兵が幾人か見える。それぞれは彼女と同じく人と竜の姿を併せ持ったり、あるいはより竜の要素傾向が濃かったりと様相は様々であるが。いずれも女竜兵の伴う、指揮下の魔王軍兵達であった。

(セイオリディム様の命と言え、人間共の監視など煩わしい……)

 その女竜人は。その美麗な鋼色の長髪に彩られる、鋭くも端麗な顔立ちを。しかし面白く無さそうな色に染めて、内心でそんな悪態を吐く。
 彼女率いる竜人兵の一隊が、紅の国の飛行部隊に同伴している理由。
 それは、紅の国飛行部隊に作戦の上での助言、支援を提供する事――と言うのは表面上の建前。その実は、紅の国の部隊が下手を打たないか、または裏切り等の行為に走らないか。監視及び督戦の役割を担っているのが本当の所であった。
 商議会の企てに綻びが見えだした今。魔王軍の紅の国商議会への信用は怪しくなり、同時に目付役の必要性は高まっていたのだ。
 しかし、言ってしまえば一種の尻ぬぐい。
 その役目に当てられた女竜人達の心情は、愉快なものでは無く。そんな現状に対するぼやきが内心で零れたのであった。

(排除対象は小さな町と村と聞く。いくら人間共でもこれほどの手勢を用意したのなら、成す事は容易であろうが……)

 続け、そんな作戦への推察を心中で並べる女竜人だが。同時に一抹の不安がそこにはあった。
 町には、これまでの雇った傭兵の手勢や。魔王側に着いたエルフの一族の一団が、攻撃襲撃を仕掛けたと聞く。しかしそれ等にあってはいずれも音信が途絶え、それ以来情報の類が上がって来ていないのだ。
 いずれも魔王軍への忠誠など疑わしく思われていた者達であったため、臆病風に吹かれ逃走したのだと言う意見もあったが。それにしては異質な面も多く、一連のそれらを不安視する声もまた上がっていた。

(何か嫌な感じが……――)

 そんなまた面白く無い、良しと出来ない可能性と現状を浮かべ。その顔を難しくする女竜人。

「――……なんだあれは……?太陽から、何か来るぞ……ッ!?」

 しかし。その女竜人の内心を阻み遮るように、荒げた声が聞こえ届く。
 声の主は、近くを飛んでいたグルフィを操る、雇われの傭兵崩れの一人。その視線は真上上空、言葉通り太陽を見上げている。

「!」

 同時に女竜人の耳に届いたのは。何か、キィィ――と劈くような異音。それは加速度的に大きさを増し、女竜兵を目を剥き真上を見上げる。
 そして見えたのは、真上に燦々と輝く太陽。それを背景にその最中に浮かぶ、二つの〝影〟。そして――


 ――直後瞬間。
 劈き切り裂くような轟音が。衝撃で空間を突き破るまでの気配が。
 そして、鈍くしかし貫く。ヴォォォ――という名状しがたい異音が。
 いくつもの正体不明の現象が。女竜兵達を、そして紅の国飛行部隊を襲った。


「――ッぅ!?」

 思わず目を瞑り、その竜の腕で身を庇う女竜兵。
 感じたのは、何らかの気配が凄まじい衝撃と勢いを伴い。真上より、自分達を貫くように飛び抜けた気配。

「なに……?……――なッ!?」

 そして一瞬瞑った目を開いた女竜兵は。直後に衝撃の光景を見て、言葉を失った。
 自分より少し低い高度の宙空。雇われの荒事屋の操っていた、10m級の巨大なグルフィが――墜ちていく。
 その巨体にいくつもの貫かれた傷跡を作り、力を失い高度を落して行く。
 それだけではない。
 周囲へ視線を走らせれば、また別のグルフィが、あるいは警備隊の箒兵が、そして彼女の配下である竜兵までもが。身を貫かれたのか傷つき、墜ちて行く光景が見えたのだ。

「――ッ……!?」

 それ等の光景に驚愕し。しかし同時に背後遠方に、異質な気配を感じ異音をまた聞き。身を翻して視線を向ける女竜人。
 その向こうに見えるは、信じられぬ速度で飛び去り、そして上昇の行動を見せる二つの影。
 鳥、いや空飛ぶ鏃か。いくつかの印象が女竜人の内心に浮かぶも、本能がそれを違うと否定する。


 その正体は――ジェット戦闘機。
 その機体は、生まれた世界で――〝F-101 ヴードゥー〟と呼ばれた。



 時系列は少し遡る。
 紅の国の領内上空。異世界のその空を少しの高い高度を、似合わぬジェットエンジンの轟音を響かせて飛ぶ、ジェット戦闘機の姿が在った。
 そのシルエットは尖りながらも。機種からキャノピーを通して尾翼までの流れと、機体に備える後退翼の主翼。それらが成す線が、美麗とも言える姿を表現している。
 ――F-101J。
 マクドネル社が開発した超音速戦闘機。その日本向け、正確には多用途隊向け仕様。
 それを示すように、コックピットの側面や主翼には日の丸の国籍表記が記され。全体は多用途隊が戦闘機に施す、青み掛かった淡い灰色で塗装されている。
 多用途隊は航空隊とは別に独自に戦闘機を運用し、その上で現在用いられているのが当機種だ。
 正確には複座型のF-101Bを原型とするが、しかし後席は電子機材空間として占めて単座仕様とし。そして固定武装は国産の83式30mmリヴォルヴァーカノンへと換装している。
 原型期の初飛行が1950年代であり、その他の採用国ではとうに退役している機種だが。やはり貧乏性逞しい日本国隊では、少数ではあるが今なお現役であった。
 そのF-101Jが二機、編隊を組み飛行している。

「――ヨォ、圭七けいひちちゃん。異世界こっちの空は掴めて来たか?」

 その二機のF-101Jの、先を行く一番機。そのコックピットで操縦桿を預かるパイロットが、その内で言葉を紡いだ。
 そのパイロットメットの元にみえるは、はっきり言って極めて印象の悪い〝おやじ〟の顔。
 姿は多用途隊のパイロットに指定される、群青色のフライト作業服。
 このF-101を保有運用する、多用途隊の〝第1航空飛行隊、第221迎遊隊※〟。それに所属するパイロット隊員だ(※迎遊は、迎撃遊撃戦闘の略称である多用途隊内の用語)。

 名を、偉仰《いぎょう》 気生きせいと言う。
 階級は三等多用途佐。

 御多分に漏れず、転移に巻き込まれこの異世界に降り立った身だ。
 そんな偉仰が紡いだ言葉は、無線通信に乗せて、後方より自機に続く二番機のパイロットに向けたもの。

《――別段、変わらないかな》

 そんな無線に上げた呼びかけに。透る声色ながらも、酷く淡々とした一言で返答が返ってくる。
 その主は、二番機のパイロット。

 名は、誘身ゆうみ 圭七けいひち
 階級は、〝臨時幹部〟。

 これは、有事任官を想定した一つの階級制度であり。准尉以下の階級者に臨時措置として幹部の役割権限を指定付与するもの。基本としては三尉、場合によっては二尉、一尉に準ずる身分権限を付与される。
 子細は割愛するが。
 誘身は多用途隊への入隊前よりパイロットとしての資格を持ち、それをもって特技所有者枠として入隊した者であった。
 そして多用途隊の制度の関係上、現在この階級を指定されていたのであった。

「余裕ってか」
《そんなんじゃないよ。ただ、真剣に臨めそうって》

 その偉仰と誘身は、フランクな色で言葉を交わし合う。
 誘身は若い隊員であり、おやじである偉仰とは階級は元より年齢も離れているのだが。
堅苦しい気風を好まない両者の気質。そして実務の合理化のためならば、階級関係すらを二の次とする事も時に咎めない多用途隊の気風もあいまって。
 互いに組んでまだ少しの期間ながらも、そんな関係を築いていた。


 そんな偉仰等は、現在ある任務を帯びて。それぞれのF-101Jを操り大空に在った。

 先日に日本国隊が介入し。そして現在も保護支援を提供、及び和解から接近に成功した、二つの村と町。草風の村と、凪美の町。
 その村と町に向かって、大規模な部隊を形成して迫る、敵性の飛行部隊が確認されたのだ。
 いくつかの拠点とする街町から出撃し結集したらしきもの。
それを、今もこの紅の国の各所で活動する、日本国隊各隊の偵察隊、及び実働隊等が目撃し。それ等から寄せられ上がって来た報。
 その進路、動きから。草風の村及び凪美の町への襲撃を企てるものであることは、かなりの高確度で確か。

 その報を受け。偉仰等は、間借り拠点としている豊原基地より出撃。
 それに接敵、迎撃するべく進路を取っている最中であった。

《――ッ。偉仰さん、レーダーに影。320》

 誘身より伝え知らせる声が来たのは直後。それはレーダーに機影を捉え、その包囲を知らせるもの。

「目視で見える、同包囲下方。あれだ」

 それに、偉仰は別の知らせる言葉で返す。
 二機の飛行方向の左手下方。その宙空に大きな隊形を作り飛ぶ、大型鳥類や空飛ぶ箒の群れが見えた。
 指令の、村町を襲撃に向かっている敵である事は、位置関係的に最早明らかだ。

「太陽を背に出来る――んじゃ、かかるぜェ」
《諒解――》

 偉仰と誘身は通信で端的に言葉を交わし。
 偉仰は腕を翳し指先でジェスチャーの動きを示し、後続の誘身の二番機に向けて合図を送る。
 そして偉仰は操縦桿を操り――操縦者のその意思を受け取り、F-101Jは動きを見せた。
機首をわずかに上げると同時に機体を左へ傾け、バレルロールの挙動を見せ。そのままの流れで反転姿勢から機首を下に向け、降下行動を開始。
 誘身の二番機もそれに続き、左バンクからの降下で一番機を追う。
 二機は眼下の飛行部隊に向けて、強襲を仕掛けるべく急降下を開始した。
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