―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

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チャプター5:「怒れるタイタン」

5-2:「森の中のスターライブ&逃走プラン」

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「人の手が全く入ってない森だな」

 端的に呟く策頼の声が、静かな森の中で響く。
 制刻等は森の中へ進入し、鉈で行く手を阻む草木を薙ぎ、道なき道を切り開きながら進んでいた。

「視界も悪い」
「よぉく目ん玉見開け」

 再び呟いた策頼に、制刻が忠告の言葉を発する。
 そうして警戒しながら、しばらく歩みを進める制刻等。
 ガサ、と前方に生い茂る草むらの向こうに物音を聞いたのは、その時であった。

「今のは?」

 ディコシアが声を上げ、そして同時に皆の視線が前方の草むらへと集中する。

「竹泉か?」

 策頼が草むらの向こうへと呼び掛ける。しかし万一に備え、その手にはショットガンが構えられ、銃口が草むらへと向けられる。
 草むらから勢いよく何かが飛び出して来たのは、次の瞬間だった。

「うわッ!」
「ッ!」

 飛び出して来た〝それ〟に、ディコシアは驚きの声を上げる。そして策頼はその正体をすぐには確認できずに、対応がわずかに遅れた。

「避けろ!」

 瞬間、背後から制刻の声が飛ぶ。
 それを受けた策頼とディコシアは、左右へと割れる。
 その割れた二人の間に、飛び掛かって来た物体が転がり込んできて、策頼とディコシアは初めてその正体を確認する。
 それはゴブリンであった。
 日本国隊が初めてこの世界に飛ばされた日の夜に、襲撃を仕掛けて来た、尖った鼻や耳と、皺の刻まれた醜い肌、そして子供のような体躯が特徴的な、異世界の魔物だ。
 ゴブリンは「ギィィ」と鳴きながら起き上がり、一番先に目についたディコシアへ、襲撃の姿勢を見せる。

「ゴ、ゴブリン!?――く!」

 それを感じ取ったディコシアは、己の得物である斧を構えて、襲撃に対しての構えを取る。
 しかし直後、発砲音が響き渡った。
 同時にゴブリンは、「ギュゲ!」と悲鳴を上げ、まるで横から勢いよく殴打されたかのように吹き飛び、その先の地面に叩き付けられた。

「――え?」

 突然吹っ飛んだゴブリンの姿を、呆気に取られながら追うディコシア。そしてその反対側には、小銃を構えた制刻の姿があった。制刻の持つ小銃の銃口からは、硝煙が上がっていた。制刻の小銃から発された三点制限点射が、ゴブリンの貫き倒したのであった。

「すみません、自由さん」

 呆気に取られているディコシアの一方で、策頼は自身の対応が遅れた事を謝罪する。

「しゃぁねぇ、突然だったからな。他のがいねぇか、警戒しろ」
「了」

 制刻は策頼に警戒を指示し、そしてディコシアに近づく。

「大丈夫か?」
「あ、あぁ……今のは、君が?その武器、てっきり槍みたいな物だとばかり……」

 ディコシアは制刻が持つ小銃と、倒されたゴブリンを見比べながら、若干困惑した様子で尋ねる。

「詳しくは後だ。奴等、たぶん他にもいるぞ」

 しかし制刻はディコシアに今説明することはせず、推測の言葉を発する。
 ボウッ、と先より若干大きく低めの、一発分の発砲音が響いたのは、その次の瞬間だった。

「新手です!」

 そして警戒していた策頼から報告の声が上がる。
 彼の構えたショットガンの銃口の向く先には、散弾によりなぎ倒された、また別のゴブリンの死体があった。

「来たか、隠れてろ」

 制刻は近くの木の影にディコシアを押し込んで隠し、自身は小銃を再び構える。

「自由さん、正面から数体来ます」

 策頼が再び報告の言葉を上げる。彼の言葉通り正面からは、木々を潜り抜け、茂みをかき分け、数体のゴブリン達が迫りくる姿が見えた。

「迎え撃て、接近させるな」

 制刻の指示の言葉と同時に、迎撃戦闘の火蓋が切って落とされた。
 制刻と策頼がそれぞれの火器の引き金を引き、小銃からは5.56㎜弾が三点制限点射により、ショットガンからは散弾がそれぞれ撃ち出され、迫りくるゴブリン達を襲う。
 各弾を正面から受けたゴブリン達は、「ギュ!?」「ギャ!」といった悲鳴と共に撃ち倒される。
 続けて制刻は、別のゴブリンに照準を合わせ、再び発砲。再照準、発砲を繰り返し、迫るゴブリン達を捌いてゆく。
 一部のゴブリンは制刻の銃撃の隙を縫って肉薄距離まで接近したが、そんなゴブリン達は、策頼のショットガンから放たれる散弾を、間近で受けて倒される運命を辿った。

「すごい……」

 木の陰に隠れていたディコシアは、その光景に圧巻されていた。

「――!二人とも、左から来る!」

 しかしその時、ディコシアは制刻等の左手から、別のゴブリンの群れが現れた事に気付き、警告の声を発した。

「おっとぉ。策頼、正面は任す」
「了」

 正面を策頼に任せ、制刻は警告を受けてその体を左へと捻る。
 そして左手から接近しつつあったゴブリン達に向けて、引き金を引いた。
 小銃からの銃火がゴブリンを一体、また一体と貫き撃ち倒してゆく。
 制刻等の脇を突こうとしていたゴブリン達は、しかし襲い来た銃火に晒され、その企みを崩される事となった。

「――敵影無し」

 やがて迫りくるゴブリンの姿はなくなり、銃声は鳴り止む。
 そして正面へ銃口を向けていた策頼が、動くゴブリンの姿が無くなった事を告げる報告を上げる。

「クリアだな」

 同様に左手からのゴブリンの襲来が収まったことを確認した制刻が、小銃の銃口を跳ね上げて、発した。

「君達、凄いな……ゴブリンの群れをこんなにあっさりと……!」

 そんな二人の元へ、ディコシアが感嘆の声を上げながら歩み寄って来る。

「装備のおかげだ」

 制刻はそれに対して、端的に返す。

「それよか兄ちゃん。左手からの接近を知らせてくれたのは、助かった」

 そしてゴブリンの接近を警告してくれたディコシアに、感謝の言葉を発した。

「いや、たまたま気付けたから……それにしても、どうしてこの森にゴブリンが……?」

 ディコシアは周辺に散らばったゴブリン達の死体へ視線を落としながら、疑問の言葉を発する。

「この森の既存種ってワケじゃねぇんなら、どっかから流れて来たんだろうな。とにかく、竹泉等と連絡が取れねぇのは、こいつ等が原因の可能性が高い」
「急がないと、危険そうですね」

 制刻が予測の言葉を発し、策頼は事態が早急な対応を行わないと、危険であろう事を懸念する。

「行くぞ。早いトコ、竹泉等とねーちゃんを探す」

 制刻はそう発し、三人は前進を再開した。



 制刻等はゴブリンの群れが来た方向を進行方向と定め、森をさらに深く奥へ進む。

「――自由さん、聞こえませんか?」
「あぁ」

 しばらく森の中を進んだ所で、制刻と策頼は、進行方向から微かに聞こえる、散発的な破裂音のような音に気付いた。

「銃声だ」

 確信を持ったように制刻は発する。

「兄ちゃん、行くぞ。離れるな」
「あ、あぁ」

 そして制刻等は、音のする方向へ向けて進みだした。
 散発的な破裂音――銃声は次第に大きくなり、それに合わせて制刻等は進行速度を上げる。

「キキィッ!」

 その途中で、先頭を行く制刻は、木の影から飛び出して来たゴブリンと鉢合わせた。

「邪魔だ」

 しかし制刻は驚く素振りすら見せずに一言発すると、同時に弾帯から鉈を抜き、ゴブリンの脳天に叩き下ろした。
 ゴブリンは「ギェギュ!」と悲鳴を上げて絶命する。
 制刻はそのまま連続動作で鉈を振り、鉈の刃をゴブリンから抜いて、ゴブリンの体を地面へと叩き付けた。

「うわッ!」

 そして後続のディコシアが、地面にべちゃりと叩き付けられたゴブリンの死体に驚くハメになった。

「前に数匹いる」

 一方、制刻の目は、進行方向に複数のゴブリンの姿を捉えていた。
 そのゴブリン達は皆、制刻等に背を向け、反対方向に向けて走っていた。

「あいつ等……俺達じゃない別の何かを目指してる……」
「追うぞ。奴等の先に、何かある」

 ディコシアがゴブリン達の様子から推測の言葉を零し、そして制刻が確信に近い言葉を発する。
 ゴブリン達を追って木々を抜けると、制刻等は小さな窪地へと出た。

「――うぇえっへっへぃーッ!どうしたどうしたブッサイク共ォ!?さぁ掛かって来やがれ!」

 そして同時に、連続的なMINIMI軽機の成す発砲音と、それを上回る甲高い煽りの声が聞こえて来た。
 窪地の中心に見えたのは、多気投の見間違えようのない程の特徴的な巨体だった。

「おらおらッ!気合入れねぇと、お友達とおんなじように口から泡吐いて〝あうぇ~〟ってなっちまうぜぇ!?オォイッ!!」

 多気投は叫び散らかしながら、窪地の四方から襲い掛かって来るゴブリン達に向けて、MINIMI軽機で発砲しまくっている。彼の周辺には、ゴブリンの死体が無数に散らばり、転がっていた。

「なんてこった、アイツ一人だけだぞ」
「すごい……」

 単騎で戦っている多気投の姿に、策頼が悪態を吐き、ディコシアは再び感嘆の言葉を上げる。

「ボケが。カヴァーもしねぇで撃ちまくってやがる」

 そして制刻が、呆れた口調で呟いた。
 発砲音は依然として響き続け、多気投に向かってゆくゴブリン達は次々と倒れてゆく。
 多気投の挙動は一見ひやひやする物に見えたが、その実、以外にも正確な動作で迫りくるゴブリン達を撃ち抜き、捌いている。

「うへへへいッ!森ん中でトマト祭り開催中だぜッ!Babyeeeeeeeeee!!」

 そしてそんな状況の中でハイになってるのか、多気投は一層の雄叫びを上げた。

「ったく――俺がヤツん所まで行く。策頼は窪地の反対側に周って援護しろ。兄ちゃんは、策頼の側を離れるな」

 制刻は二人に向けて発すると、多気投の元へ援護に向かうべく、窪地内へ飛び降り、駆け降り始めた。
 片手で小銃を、もう片手で鉈を構えた制刻は、窪地の傾斜を駆け下りながら、多気投へと殺到するゴブリン達を、後ろから射殺、あるいは鉈で斬殺してゆく。
 そして数匹のゴブリンを屠り、制刻は多気投の元へと到達した。

「ウォーウ、自由か!?やっとレスキューが来て、うれしぃぜぇッ!」

 現れた制刻に、多気投は陽気な声色で再開を喜びながら、しかし引き金を引き続けている。

「ボケかオメェは、カヴァーもしねぇで。来い」

 制刻はそんな多気投に呆れた声を投げかけ、彼の首根っこを掴む。
 そして窪地内にあった大きな倒木に飛び込み、さらに多気投の巨体を引っ張り込んで強引にカヴァー体勢を取らせた。

「オーウチ。ど真ん中でスターな気分だったのに、残念だずぇ」
「戯言はそんくらいにしとけ。それよか、正面の木立から皺共は沸いて来る。そこに向けて撃ちまくれ」
「オーイェーッ!!」

 ゴブリン達は、制刻等が来た方向から次々現れている。多気投はそちらへMINIMI軽機の銃口を向けて、再び陽気な掛け声と共に発砲を開始した。
 多気投のMINIMI軽機の形成する弾幕に、現れ窪地を下って来るゴブリン達は、次々に餌食となっていた。
 さらに、横から回ろうと企てていたゴブリン達にも、銃撃が襲う。
 窪地の反対側に周り、使用火器をショットガンから小銃に変えた策頼の支援射撃だ。
 MINIMI軽機による掃射と、制刻、策頼等の各個射撃により、ゴブリン達は一体また一体と倒れ崩れてゆく。そしてゴブリン達の攻勢は次第に勢いを減じ、やがて窪地へ現れるゴブリンの姿は、完全に途絶えた。

「――収まったか」

 窪地の反対側で支援射撃を行っていた策頼が、ゴブリンの攻勢が収まった事を確認して呟く。

「集まれ」

 そして同様に周辺の安全化を確認した制刻が指示の声を発し、各員は窪地の中央で集合した。

「イェイ、助かったぜぇ!ファンとの交流は楽しかったが、ちこーとラブコールが激し過ぎて難儀してたんだぁ!」

 無事、制刻等との合流を果たした多気投は、揚々とした声で、どこまで本気なのか分からない軽口を叩いて見せる。

「よく言う」

 そんな多気投に、策頼が端的な呆れ声を発する。

「こんな開けた所で、カヴァーもしねぇで撃ちまくりやがって」
「お前本当に教育隊出て来たのか?」

 さらに制刻も呆れた声を発し、策頼は疑念の言葉を投げかける。

「ハハァ!ついついハイになっちまってよぉ。次から気を付けるぜぇ」

 しかしそれに対して、多気投は全く悪びれない様子で返事を返した。

「ったく。で、お前一人だけか?竹泉と、ねーちゃんはどうした?」
「あー、それなんだが――逃げ回ってる途中ではぐれちまってよぉ」

 制刻の問いかけに、多気投はそこで初めて表情を崩し、少し面白くなさそうな様子で発する。

「逃げ回る?この皺共からか?」

 制刻は周辺に散らばる死体を見ながら再び尋ねるが、多気投は「いや」と首を振った。

「俺等は、なんかもっとバカでけぇ……なんつーか蜘蛛っつーか蟹っつーかそんなようなバケモンと出くわしちまってよぉ。そいつと追いかけっこするハメになったんだ?」
「蜘蛛だと?」

 そして説明して見せた多気投に、しかし制刻は訝し気な声を発した。

「あぁ、具体的な正体が何かは知んねぇけどよ?とにかく、バカでけぇヤツだったんだ」

 制刻等の訝しむ反応に、多気投は「本当なんだぜぇ?」とでも言いたげな表情を作って見せた。

「兄ちゃん、そいつが何か分かるか?」

 制刻はディコシアに尋ねる。

「いや……そんな物がこの森に出るなんて、見たことも聞いた事もないよ……」

 しかしディコシアにも思い当たる節は無いらしく、彼はその顔に驚きと疑念を浮かべるばかりだった。

「――とにかく、早急に竹泉とねーちゃんを回収する必要がありそうだな」

 制刻は呟くと、多気投が背負っていた大型無線機に目を付ける。

「無線は、オメェが持ってたのか」
「あぁ。パニック続きで、使う余裕は無かったけどなぁ」
「そいつで竹泉等と通信できねぇか試す」

 多気投が大型無線機を降ろして地面へと置き、制刻はその前に屈み大型無線機を操作。ハンドマイクを取って口元に寄せ、竹泉へと呼び掛けを始めた。

「竹泉、応答しろ。こちら制刻。聞こえるか、竹泉――野郎、応答しねぇ」

 呼びかけるも応答は無く、制刻は悪態を吐く。

「無線の範囲外――って事は考えにくいですよね」

 策頼が発する。

「インカム同士とは違う。大型無線機なら、この森全域はカバーできてるはずだ。竹泉とねーちゃんが、この短時間で森の外に出たとも考えにくい。範囲内にはいるはずだ」
「それで応答しないって事は――」

 策頼の脳裏を、最悪の展開が過る。

「ヨォヨォ、まさか竹しゃん達、くたばっちまったとか言うんじゃねぇヨなぁ?」
「そんな……!」

 そして多気投が表情を険しくして発し、ディコシアがその顔を悲観に染める。

「事を急くな。オメェみてぇに、手が空いてねぇってだけの可能性もある」

 しかし制刻は変わらず端的な言葉で、別の可能性を説いた。

「とりあえず、先に矢万の方に連絡を入れとく」

 言うと制刻は、森の外で待機している指揮通信車に向けて呼びかけを始めた。

「ハシント――矢万応答しろ、こちらジャンカー4ヘッド。こっちは今さっき、4-2の多気投を拾った」
《ハシント、矢万だ。回収できたのは、一人だけなのか?》
「そうだ。その多気投の話によりゃ、なんでも蜘蛛のバケモノに追いかけまわされて、その最中にはぐれたらしい」
《く、蜘蛛のバケモノ?なんだそりゃ?》

 伝えられた言葉に、無線の向こうから矢万の驚きの言葉が返って来る。

「俺等も、正体は確認できてない。ただ、どうにもヤベェ奴がこの森にはいるようだ。それと、どういうわけか森ん中には皺共――ゴブリンも沸いてる。こっちは実際に接敵した」
《ゴブリン……最初の日に交戦したモンスターか》

 加えての報告の言葉に、今度は神妙な声が通信越しに返って来る。

「そうだ――とにかく、何がそっちに行くか分からねぇ。十分警戒しろ。俺等は、竹泉とねーちゃんの捜索を続ける」
《了解……長沼二曹へはこっちから報告しておく。無理すんじゃねぇぞ》
「あぁ。4ヘッド、通信終ワリ」



 時間は数分程遡り、位置は制刻等のいる地点から少し東に移る。
 その近辺に無数に生える木の一つの、その影に身を潜める二つの人影がある。

「……どうやら撒いたみてぇだな」
「ひぃ~……死ぬかと思った……」

 その人影の正体は、他ならぬ竹泉と、ディコシアの妹ティであった。二人は突如として遭遇した〝それ〟に追いかけ回され、つい先程ようやくその追撃から逃れた所であった。

「おい!一体なんなんだあのバケモンはよ!?」

 竹泉は周囲への警戒を保ちながらも、共に身を隠しているティに強い口調で尋ねる。

「だから知らないってばぁ……!あんなの、今までこの森で見た事ないよぉ……」

 しかし尋ねられたティは、困惑の言葉を返すだけであった。

「畜生が!多気投はどっかいっちまうし……無線もあいつが持ってんだぞ、どーすんだ!」
「そんな事あたしに言われても~……」

 よくない事態の最中にあり、焦り狼狽した声で言葉を交わす二人。
 ガサリと、彼等の脇にある茂美から物音が聞こえたのは、その時であった。

「ッ!」
「い!?」

 物音に反応し、二人はそちらへ視線を向けて身構える。

「ギギィッ!」

 その茂みから、鈍い鳴き声と共に小柄な影が飛び出して来たのは、その瞬間であった。

「ひゃぁ!?」

 その正体は手に得物を携えたゴブリンだ。突然現れたゴブリンの姿に、ティは目を見開き声を上げる。そのゴブリンは、明確な害意を宿し、その得物を振りかざしてこちらに向かって飛び掛かって来た。

「ひ――うわッ!?」

 襲い掛かって来るゴブリンの姿に、引きつった悲鳴を上げかけるティ。しかし直後、彼女は横から伸びた腕に押しのけられた。
 伸びた腕の主は竹泉だ。
 竹泉はティを押しのけてゴブリンの矢面に立つと、飛び掛かって来たゴブリンの腹部目がけて、蹴りを放った。

「ギェェッ!」

 蹴りは見事にゴブリンの腹に入り、ゴブリンは蹴り飛ばされ、背後に立つ木その側面へと叩き付けられる。
 竹泉はそのゴブリンに向けて間髪入れずに肉薄。手にしていた鉈を振り、ゴブリンの首元を掻き切る。首を掻き切られたゴブリンは「ギェッ!」と鈍い悲鳴を上げて絶命、気の側面をずるりと落ちて、地面へと崩れた。

「――カスが、コイツ等か!」

 死体となったゴブリンへと視線を落としながら、竹泉は悪態を吐いた。

「こ、これって……ゴブリン?ど、どういう事なの……?」

 そしてティは、竹泉の背後から恐る恐るといった様子でゴブリンの姿を確認し、困惑の言葉を発する。

「ああん?その口ぶりだと、この皺共もイレギュラーな存在ってか?」
「う、うん……この森には小動物くらいしかいないはずなのに……何がどうなってるのぉ……?」

 動揺した様子で言葉を零すティ。しかしその時、再び近くの茂みが物音を立てた。

「うぇ!?」

 ビクリと身を跳ね上げ、声を零すティ。
 その瞬間、茂みから今度は複数のゴブリンが飛び出し、姿を現した。

「チ!」

 舌打ちを打つ竹泉。
 複数のゴブリン達は、皆一様に、竹泉等へ向かって襲い掛かって来る。

「野郎!」

 竹泉は、まず真っ先に襲い飛び掛かって来たゴブリンの向けて、先と同様に脚を振るって蹴り飛ばした。「ギェッ」と悲鳴を上げながら吹き飛ばされるゴブリン。
 その隙を突いて、後続のゴブリンが得物手に切りかかって来る。しかし竹泉は半身を捻ってゴブリンの振るった獲物を回避、そして中空で無防備を晒したゴブリンの脳天に、鉈を叩き下ろした。
 脳天を割られたゴブリンは、そのままべちゃりと地面に落ちる。そして割られた頭から、血を勢いよく噴き出した。

「ひぃッ!血が!」

 血の噴水に、ティが悲鳴を上げる。

「お前、伏せろッ!」

 しかしそのティに、竹泉の警告の怒号が飛ぶ。見れば、彼女に向かって一体のゴブリンが飛び掛かっていた。

「わぁッ!?」

 ティは咄嗟に屈み、間一髪の所でゴブリンの振るった得物を回避。
 そして攻撃が空振りに終わり、隙を作ったゴブリンの顔面に、竹泉の放った拳がめり込んだ。拳を諸に受けたゴブリンは「ヒュゲッ!」と妙な悲鳴を上げ、その身を吹き飛ばされて地面に投げ出された。

「チィ!ここは不利だ、来い!」

 ゴブリン達の襲撃を一時的に凌いだ竹泉は、場の不利を判断し、ティに言葉を投げかける共に、その場から駆け出した。

「ひぃぃ~!ホントになんなの~!?」

 竹泉の後をついて走りながら、困惑の悲鳴を上げるティ。

「知るか!喚いてばかりいねぇで、得物を持ってんならオメェも戦え!」

 そんなティに、竹泉は彼女が背に背負っている斧の存在を指摘しながら要求する。

「あ、あたしもぉ!?あたし、兄貴と違って心得無いんだよぉ~!」
「自分の身を守る事もできねぇのか!このスカポンタン!」
「ひでぇ!何よぉ、そこまで言わなくても――むぶ!」

 竹泉の罵声に文句の言葉を返そうとしたティだったが、しかし直後に竹泉は突如として脚を止め、ティはその背中に思い切り顔をぶつけた。

「きゅ、急に止まんないでよ!」

 鼻面を抑えながら、竹泉に向けて発するティ。

「おし、この辺ならまぁいいだろ」

 しかし竹泉はティの文句の言葉には答えずに呟くと、これまで走って来た方向へ振り返り、ティの体を押しのける。そして弾帯から下がるホルスターに収まる、対戦車火器射手用の護身用火器の9mm拳銃を引き抜いた。

「ちょ――何してんの?何それ……?」

 突然振り返り、意図の不明な行動を取り出した竹泉に、不可解そうな声を上げるティ。

「お前は後ろ見張ってろ」

 しかし竹泉はティに詳しく説明する事はせず、それだけ発すると、手にした9mm拳銃を構えた。
 ここまで走って来た進路の向こうから、ゴブリンの群れが姿を現したのは、その瞬間だった。

「わぁ、追いついて来た!それも増えてる!」

 ゴブリン達の数は、先程よりも増え、ここから確認できるだけでも5~6体はいた。

「ヤバイよ!ホントどうする気なの!?」
「うっせぇ!気が散るッ!」

 動揺し声を上げるティに対して、竹泉は怒号を飛ばしながらも、9mm拳銃の照準を、迫りくるゴブリン達の内の一体に合わせる。
 そしてその引き金を引いた。
 パン、という乾いた発砲音と共に、9mmパラベラム弾がその銃身から撃ち出される。

「ギェヒッ!」

 そして撃ち出された9mm弾は、群れの先頭を切るゴブリンの頭部に命中。9mm弾を受けた個体は、後頭部から血を噴き出し、吹き飛ばされるように地面へと倒れた。

「ほへ?」

 離れた位置で突如倒れたゴブリンを目にし、ティは目を丸くして思わず声を零す。そんなティの前で、竹泉は照準を後続のゴブリンへと移し、再び引き金を引いた。
 再び撃ち出された9mm弾は、次のゴブリンを撃ち抜き倒す。
 竹泉は再照準、発砲を繰り返し、迫るゴブリン達に向けて順に9mm弾でゆく。乾いた発砲音が響くたびに、ゴブリン達は独特なその悲鳴を上げ、地面へと崩れ落ちてゆく。

「え、何?どうなってんの?」

 離れた位置で次々に屠られてゆくゴブリンに、驚きの声を上げるティ。

「お前で最後だよ、ブサイクチビッ!」

 そんなティをよそに、竹泉は最後の一体となったゴブリンに照準を着け、吐き捨てると共に引き金を引いた。
 残った最後のゴブリンが「ギュ!」という悲鳴と共に地面へ崩れ、転がり倒れる。
 それを最後に、竹泉等の視線の先に動く物体は居なくなった。

「――よっしゃ、全部一発で片付いた。さすが俺様」

 すべてのゴブリンの無力化を確認した竹泉は、警戒を維持しながらも、軽口の言葉を発した。

「えぇー……ねぇ、今の全部あんたがやったの!それ、なんかの魔法武器!?詠唱も何も無しに――」
「ったく、うっせぇヤツだな……あのな、コイツは――」

 驚き捲し立てるティに、竹泉は面倒臭そうにしながら、自身の今の一連の行動を説明しようとする。
 ――しかし、二人がその音と振動を、感じ聞き取ったのはその時であった。

「ッ!」
「い!?」

 聞こえ来た音と、感じ取れた振動に、二人は身を強張らせる。

「こ、この音……」

 怯えるように言葉を零すティ。
 振動は次第に大きくなり、木立と茂みの向こうから、ミシミシと木々が倒されているであろう音が聞こえてくる。
 そして二人の視線の先に見えた木々が薙ぎ倒され、その奥から〝それ〟は現れた――。

「――クォ……ギャァァァァァァァッ!!」

 現れ、咆哮を上げたそれは――巨大な蜘蛛だ。
 全高3~4m以上。脚幅6~7m、胴の全長も恐らく同じ程。
 陸隊の機甲科戦車隊の保有する、71式戦車(現実における74式戦車)や90式戦車よりも巨大な体を持つ、蜘蛛のバケモノであった。

「糞がァッ!」
「ひゃぁぁッ!?また出たぁぁぁッ!」

 その姿を目の当りにした瞬間、竹泉とティの二人は、飛ぶように反対方向へと駆け出した。

「ギャァァァッ!」

 それに対して巨大な蜘蛛のバケモノは、再び鳴き声を上げると同時に、木々や茂みをなぎ倒し、逃走を開始した二人に対して追撃を開始した。

「ッ、追っかけて来やがる!」
「なんでぇッ!?」

 悪態を吐き、泣き声を上げる竹泉とティ。
 巨大な蜘蛛のバケモノは、巨大な多数の脚を器用に動かし、その巨大な体に反した速さで、二人を追いかけて来る。

「あぁ糞!あの巨体でどうして速ぇんだよ!?」

 一方、二人は草木が生い茂り、あまり良くない荒れた地面が災いし、あまり速く走れないでいた。

《――竹泉、応答しろ。こちら制刻。聞こえるか、竹泉》

 竹泉の装着するインターカムに、通信が飛び込んで来たのはそんな時であった。

「こんな時に寄越すんじゃねぇよッ!」

 だが、もちろん今の竹泉にそれに応答する余裕などない。

「ね、ねぇ!さっきみたいに、なんとかなんないのッ!?」

 その時、並走するティが、竹泉にそんな言葉を投げかけて来た。

「あ!?」
「だから、さっきの変な道具であの蜘蛛なんとかできないの、って聞いてるの!」
「お前の脳味噌は腐ってんのか!?あのデカブツが拳銃程度でどうにかなる相手に見えんのかッ!」

 ティの問いかけに、竹泉は罵倒で返す。

「そんなの知らないよぉッ!とにかく、なんとかなんないのぉッ!?」
「俺にばっか頼るんじゃ――おぁッ!?」
「え――ひゃぁぁッ!?」

 会話と、背後から迫る巨大蜘蛛の存在に注意が向いていた二人は、進行方向の先が急な傾斜になっている事に気付いていなかった。

「おわぁぁッ!?」
「ひぇぇぇッ!」

 そのまま傾斜地に踏み込んだ二人は、脚を滑らせ、叫び声を上げながら斜面を滑ってゆく。

「べッ!」
「むみゅ!」

 そして傾斜地を下りきった先にあった茂みに、二人は突っ込んだ。

「ギュァァ――」

 それから一タイミング遅れて、傾斜地の上に巨大蜘蛛が追いつき姿を現す。
 偶然にも茂みに突っ込んだ二人の姿は隠れており、追いついて来た巨大蜘蛛の視界から逃れる事となった。
 巨大蜘蛛は傾斜地の上から、少しの間周辺を見渡していたが、やがて諦めたのか、反転してその場から立ち去って行った。
 巨大蜘蛛の気配が去ったのを感じ取った二人は、念のため少し時間を置いた後に、警戒しながら草むらから這い出て来た。

「……運がいい、行っちまったみてぇだ」
「ふへぇ……あたし死んだ……」

 這い出て来たティは、そこで気が抜けたのか、その場に座り込む。

「あぁそうかよ。じゃあ死体はここに置いてっても問題ねぇな」
「酷いぃ……!」

 竹泉の皮肉気な台詞に、ティは泣きそうな声を零す。

「オラ、冗談言ってる暇があったら行くぞ。ヤツから少しでも距離を離すんだ」

 そんなティに竹泉は投げかけ、その場からの移動を始めようとする。

《――竹泉、応答しろ。聞いてねぇのか、それとも死んだか?》

 竹泉の装備するインターカムに、再び通信音声が飛び込んで来たのは、その時であった。
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