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チャプター7:「Raid/Interception」
7-2:「迎撃」
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フォートスティートの燃料調査隊へ応援を要請した調達隊は、応援の到着までの間に、森の偵察行動を実施する事を決めた。
まず、調達隊本隊は森の外まで一度離脱。その場で応急陣地を構え、万が一大規模な敵性勢力と遭遇した場合に備え、持ち込んでいた迫撃砲を展開接地させる。
82式指揮通信車とそれに同行する増強戦闘分隊の一組は、森を外周より周り偵察調査を行う。
そして普通科4分隊は、森の奥へと逃げて行った襲撃者達を追いかける事となった。現在森の中には、制刻の率いる事となったその4分隊の4名一組の姿があった。
「あぁ鬱陶しぃ、昨日の今日でまた森の中をお散歩かよ!」
間隔を空けて進む縦隊の半ばから、竹泉の声が響く。生い茂る草を蹴とばし、進行を遮る木の枝を潜り抜けながら、倦怠感を隠さぬ身振りで進む彼。
「ただでさえ面倒事が重なって嫌気が差してんのに、装備まで増やされてよ」
そして愚痴を零しながら、竹泉は自身の手中にある小銃に目を落とした。陸隊の運用上では、本来対戦車火器射手の隊員はその護身用火器として9mm拳銃を携帯し、小銃火器は装備しない事が通例であった。しかしこの世界での戦闘行動に直前する機会の多さを鑑み、今回の行程から対戦車火器射手である竹泉にも、小銃の装備が求められる事となったのであった。
「よぉ竹しゃん、相手チームのラインはまだまだ先だ。ネガティブ思想だと持たねぇぜぇ?」
「うるせぇ。ポジティブとフィジカルのモンスターのオメェとは違うんだよ」
そんな竹泉に背後から飛ぶ多気投からの揶揄うような軽口。それに対しても、竹泉は鬱陶し気な口調と表情で返した。
一方、縦隊の先頭を行く策頼とそれに続く制刻は、聞こえ来る竹泉等の会話は聞き流しながら、淡々と道なき道を進んでいた。
「――自由さん」
先頭を行く策頼が唐突に立ち止まったのはその時であった。策頼は視線を前方へ向けたまま、背後の制刻へ声を上げる。
それを受けた制刻は彼に合わせて立ち止まると、拳を握った右腕を掲げ上げて、後続の竹泉や多気投に向けて停止するよう合図を送る。
「またか」
そして制刻は策頼の背中に向けて、そんな言葉を呟いた。
「えぇ」
制刻に返した策頼の視線は、その先にある一本の木の根元に向いていた。策頼は自身の足元近くに転がっていた、一つの若干大きめの意思を手に取り拾うと、それをその木の根元目がけて投擲する。
そして放り投げられたその石が根元の地面に落ちた瞬間、地面から勢いよく何かが飛びあがって来た。飛び上がって来た物体は一定の高さで宙にぶら下がり、そして振り子運動を描く。そして各員の目に留まったのは、縄で編まれた網。その場に仕掛けられていたのは、踏み入った者を隠蔽した網で掬い上げて捕縛する、典型的な罠であった。
「まーたトラップかよ」
制刻の背後から竹泉の言葉が飛んでくる。
森の中には至る所に同種の罠が仕掛けられており、制刻等は森に踏み込んで以降、仕掛けられた罠を警戒、解除しながらの進行を強いられていた。
「大分手間を掛けてる。いよいよ、ここは奴等のホーム臭いな」
仕掛けられた多数の罠、それを仕掛けるために掛かる労力から、制刻はこの森が野盗達の拠点であろう事を推測する。
「行くぞ。オメェ等も、よぉく目ん玉見開け」
「へぇへぇ」
制刻の言葉で、4分隊各員は進行を再開する。
それから制刻等は、同様に進路上に仕掛けられた罠を解除しながら、森の中を進み続ける。
「ッ――」
そして先頭を行く策頼が、またしてもその脚を止める。
「ッ、何個めだよ、ほんとうっぜぇなぁ!」
何度目かも知れぬ進行の停止、すなわち罠の発見に、後続の竹泉から痺れを切らした声が上がる。
「いや、違う」
「あん?」
しかしそれに対して策頼は異を唱えた。その言葉に、竹泉は懐疑的な声を上げる。
「木の根元」
策頼は端的に発し、そして先に見える一本の木の根元を指し示して見せる。その木の影に、もたれ掛かっていると思しき人間の体――その肩や足などの一部が覗き見えていた。
「人か」
「えぇ――調べます」
制刻が回答の言葉を発し、策頼はそれに返しながら、調査に向かう旨を発する。
「いやストップ!どう考えても不自然だろぉが!」
しかしそんな策頼の行動を、竹泉が差し止めた。先に見える人影も、これまで同様に罠である可能性が、十分に考えられるからだ。
「あぁ、だが襲撃された被害者の可能性もある。何にせよ、調べる必要がある」
しかし策頼は竹泉に淡々とした口調でそう返す。
「行ってきます」
そして制刻に向けて一言発すると、策頼は自身の装備火器のショットガンを構えて進みだした。
「頼む――オメェ等、展開しろ」
「あぁ、畜生」
策頼に調査を任せ、制刻は他の各員へ指示の言葉を発する。それを受けた竹泉と多気投は、周囲の木の影や窪地に身を隠し、それぞれの装備火器を構えて援護態勢を取った。
後方より援護を受けながら、策頼は人影の覗き見える木の側まで近寄る。そしてショットガンの銃口と視線を同一に保ち、その木の死角を覗き込む。
「――ッ!」
そしてその先に目に映った物に、策頼は目を見開いた。その場に横たわっていたのは、確かに人の体ではあった。しかしその首から上にあるべきはずの、頭部が無かった。そして支えるべき頭部を失った首には、生々しい切断面が覗き、体の纏う衣服の首元は、血で染まっている。
「策頼、後ろに飛べェッ!」
驚愕していた策頼の元へ、瞬間、制刻の怒号が飛び込む。
「ッ!」
それを聞いた策頼は、考えるよりも先に、聞こえ届いた声に従い、脚を踏み切り来た方向へと飛んだ。
直後に、彼の耳に何か風を切るような音が聞こえ来る。跳躍し、飛び退いた先で振り返って見れば、先程まで自分が立っていた木の根元に、複数の矢が突き刺さっている様子を策頼は見た。
「かかったぞッ!」
「やっちまえッ!」
そしてそれを合図とするように、そのさらに向こうに見える茂みや木立から、多数の人間が一斉に姿を現す光景が見えた。その人間達からは雄叫びが上がり、その手にはいずれも得物が握られている様子が見える。
それを見た策頼は、再び足元を踏み切り、来た方向に向けて駆け出した。襲撃者達から放たれた矢が、策頼の足元に突き刺さり、傍を飛び抜けるが、彼は構わずに走る。
一方、背後で展開した制刻等からの援護射撃が、一拍置いて開始された。多気投のMINIMI軽機による制圧射撃。そして各員の各個射撃が、策頼を飛び越えて前方の襲撃者達へと注がれてゆく。
襲撃者達からの矢撃。そして援護射撃が交差する中を抜け、策頼は制刻等の元へと合流。その場にあった窪地へと滑り込み、身を隠した。
「無事か?」
「はい」
近くの木立に身を隠す制刻からの安否確認の言葉に、端的に返す策頼。
「ホレ見ろ!言わんこっちゃねぇ!」
別の木立に身を隠す竹泉からはそんな言葉が飛んだが、策頼はそちらは相手取らず、ショットガンを構え直して襲撃者達に向けて発砲。戦闘行動を開始した。
「ぎぇッ!?」
「ぎゃぁッ!?」
先陣を切り迫っていた襲撃者達を散弾や各員の銃火が襲い、彼等は打倒されてゆく。
「な、なんだ……ぐぁッ!?」
そしてそれに続いていた数名の襲撃者達が、MINIMI軽機による掃射の餌食となる。
「フゥーッ!面白ぇように命中(はい)ってくぜぇッ!」
自らの掃射によりなぎ倒されてゆく襲撃者達を前に、爽快そうな声を上げる多気投。しかし直後、彼の身を隠す窪地の前に、複数本の矢が飛来し、突き刺さった。
「ワォッ!?」
「木の上。クロスボウ持ち」
驚きの声を上げる多気投。その隣で策頼が最低限の言葉で報告を上げる。見れば彼の言葉通り、制刻等の正面、少し離れた位置にある木の上に、枝を利用してそこに位置取ったクロスボウ持ちの姿が数名程確認できた。
「ビックリさせんなやぁッ!」
多気投はそんな言葉を零しながら、木の上に位置取るクロスボウ持ちの内の一人へ照準を付け発砲。5.56㎜弾を受けた木上のクロスボウ持ちが、落下して行く様子が見える。
しかしその直後、再び他のクロスボウ持ちからの応射があり、再び矢が多気投周囲を襲った。
「ヌォイッ!面白くねぇぜぇッ!」
不服の声を零す多気投。
「よぉ、奴等引っ込んじまったぞ!」
そして竹泉が制刻に向けて言葉を送る。
見れば、襲撃者達は自分達を襲う攻撃がいかなる物かを理解したのだろう。突撃行為を止め、付近の木立や茂みに身を隠して、様子を伺っていた。
「やっぱり皺共よりは利口か――」
呟いた制刻は、その時視界の隅に動く人影を捉える。そしてすかさずそちらに向けて小銃を構え、発砲。直後に悲鳴が木霊し、回り込もうとしていたのであろう襲撃者の倒れる姿が、木立の合間に見えた。
「おいたは見逃さねぇ。――奴等に回り込ませるな」
発し、そして各員に忠告の言葉を送る制刻。
「自由さん、敵増援です」
そこへ策頼が報告の言葉を返した。制刻始め各員が正面に視線を向ければ、森の奥から多数の襲撃者達の増援と思しき人影が、木立や茂みに身を隠しながらも近づいて来る様子が見えた。
「1――いや、2個分隊規模はいます」
「奴等の拠点が近ぇのかもしれねぇな」
再びの策頼の言葉を聞き、推測の声を零す制刻。
「敵ちゃんのバーゲンセールだなぁッ!」
一方の多気投はふざけた調子で返しながら、正面に銃火を注ぐ。しかし生い茂る茂みや木立と、それらに襲撃者達が散会して身を隠した事が災いし、あまり有効な物となってはいなかった。
「どーすんだよ、正面火力の効果がイマイチだ!このままじゃジリ便、最悪押し切られるぞ!」
竹泉は、時折回り込もうとしてくる襲撃者達を排除しつつも、現状が芳しくない事に懸念の声を上げる。
「前がダメなら、上からだ」
そんな竹泉に対して、制刻は一言発して見せる。
「策頼、奴等ん中に発煙弾を放り込め」
「了!」
制刻からの指示を受け、策頼は発煙弾を繰り出すと、正面の襲撃者達へ向けて投擲する。一方制刻は、多気投の背負っていた大型無線機へ手を伸ばし、マイクと取ってコードを引き延ばし、再び木の影に身を隠す。
「ジャンカー4よりパワーネスト。こちらは偵察行動中に敵性集団と遭遇。迫撃砲による曲射火力支援を要請する――」
そして制刻は、無線のマイクに向けて発し始めた。
時間は数分程遡る。
森の外へと退避した調査隊本隊は、その場で急ごしらえの陣地を構えていた。各職種混成の増強戦闘分隊が周辺で警戒態勢を取り、その中心には二門の64式81㎜迫撃砲が設置されている。
「よし、とりあえずはこれでいい」
その迫撃砲の側には、調整された迫撃砲の確認を行う河義の姿があった。陸士時代には迫撃砲小隊の所属であった経歴を持つ河義は、今回の行程中に迫撃砲を用いる事となった際には、その主導を取る役割が与えられていた。
「俺は射手だったんだがなぁ……指揮を取る事になるとは」
人出不足から与えられた想定外の役割に、ため息混じりの言葉を零す河義。傍らで待機していた通信科隊員の大型無線機から、声が響いたのはその時であった。
《ジャンカー4よりパワーネスト。こちらは偵察行動中に敵性集団と遭遇。迫撃砲による曲射火力支援を要請する》
飛び込んで来た通信に、各員の視線が大型無線機に集中する。そしてこの場の先任者である麻掬が駆け寄り、通信科隊員からマイクを受け取った。
「ジャンカー4、再度状況知らせ」
《パワーネスト。こちらは森の中で一個小隊規模の敵と対峙中。環境も相まって、状況は芳しくない。すでに発煙弾を上げた、曲射火力支援を要請する》
麻掬の確認の言葉に、再び制刻の声で要請の言葉が返って来る。
無線通信を受けた麻掬は、一度河義の方を見る。それに対して河義は頷き返して、迫撃砲の準備は完了している旨を示す。
「――了解ジャンカー4。これより迫撃砲支援を実施する」
それを受け、麻掬は無線に向けて支援を開始する旨を告げた。
「発煙を確認しました」
それと入れ替わりに、森の方向へと観測の目を向けていた隊員から報告の声が上がる。
森の中からは、着色された一本の煙が立ち上っていた。
「200mって所か――少し遠目に設定する」
目測で煙が上がる地点までの距離を予測する河義。そして河義の主導の元、各隊員の手により迫撃砲の調整が行われる。
「調整完了です」
「よし、装填準備!」
河義の指示の言葉により、二門の迫撃砲のそれぞれの脇で、迫撃砲弾を手に待機していた装填手を務める隊員が、砲の前に位置取る。
「――撃ッ!」
そして河義の号令と共に、装填手の隊員は迫撃砲の砲口から迫撃砲弾を滑り込ませる。直後、独特な音を響かせると共に、一発目が撃ち出された。
「な、なんだこの煙!?」
制刻等と対峙していた襲撃者――この森を拠点とする野盗達は、突如自分達の元に投げ込まれた物体が発し上げる、不気味な色の煙に困惑の声を上げていた。
「……だ、大丈夫だ。別に毒とかじゃねぇ!」
しばしその不気味な煙を遠巻きに見ていた野盗達だったが、その煙が害のある物ではないと分かると、警戒の色を解く。
「お、脅かしやがって、コケ脅しか!」
「なめた真似しやがって!」
そして脅かされた事に腹を立てた彼等は、相対する相手に向ける害意を増幅させ、その攻撃の勢いはより苛烈な物になろうとした。
――しかしそんな彼等の耳が、異質な音を捉えたのはその直後であった。
「あ?」
「な、なんだこの音?」
聞こえ来たのは、ヒュゥゥ――という風を切るような独特の音。野盗達は一様に上空を見上げ、訝しむ言葉を零す。音はどんどん大きく明確になり、〝それ〟が野盗達の音へと迫っている事を示す。そして――
次の瞬間、爆音が鳴り響くと共に土砂が、そして土煙が舞い上がり、それに合わせてその場にいた数名の野盗が、中空へと舞い上がった。
身を隠す制刻等の視線の先、立ち並ぶ木立の向こうで、4つ程の爆発が連続的に巻き起こる。迫撃砲から撃ち出された迫撃砲弾の、初撃の着弾であった。着弾により土砂や草木が、そして着弾地点付近にいた複数人の野盗が吹き飛ばされる様子が見える。
「少し遠いな――パワーネスト、着弾地点を5m程前へ」
《了解――》
制刻が無線のマイクに向けて要請を発し、迫撃砲陣地側から返答が来る。そして要請を送ってから数秒後、再び上空から風を切るような音が聞こえ来る――
そして先の着弾地点より手前側で、再び連続的に爆発が巻き起こる。第2派の着弾は周辺に身を隠していた野盗達をいぶり出し、そして吹き飛ばした。
「いいぞ、効力射確認。そのまま頼む」
再び無線に向けて発する制刻。
そして三度上空に風を切るような音が響き、第3派が森の中へと降り注ぐ。
「ま、また――ぎゃッ!?」
「な、なんだよこれ――ぁッ!」
木立の向こうからは、砲撃に晒される野盗達の困惑や悲鳴が聞こえ零れて来たが、それも着弾による爆音にかき消され、そして彼等は宙に巻き上げられる。
「ッ!」
「ウォーウッ!」
巻き上げられた土砂の一部は4分隊の側へも降り注ぎ、策頼や多気投は顔を伏せ、鉄帽と覆った手でそれを凌ぐ。
「ベッ!口に入りやがったッ!」
そして土砂が口内に飛び込んだ竹泉が、それを吐くと共に悪態を零す。
その間にも迫撃砲弾は周辺に降り注ぎ、相対していた野盗達をいぶり出し巻き上げていく。
「あ、あいつ等の仕業なのかぁ!?」
「ひぃッ……に、逃げろぉ!」
やがて着弾音に混じってそんな悲鳴の声が聞こえ及び、そして木立や茂みを飛び出して、逃走を始める野盗達の姿が見えだした。
「パワーネスト、修正要請。着弾地点を20m程後方へ。奴等逃げ始めた、それを潰す」
それを目視した制刻が、三度無線越しに要請を送る。それが反映され、迫撃砲弾は逃げ始めた野盗達を追うように後方へ着弾。
「た、助け――」
背を見せた彼等の身をその悲鳴ごとかき消し、吹き飛ばした。
「――パワーネスト、砲撃停止。これ以上は、効果が薄いだろう」
何派目かの着弾を確認した制刻は、そこで無線に向けて砲撃停止の要請を発した。相対していた野盗達は三々五々に逃げ散ってゆく様子を見せ、これ以上の砲撃による効果は望めないと判断しての要請であった。
《了解ジャンカー4、こちらは砲撃待機する》
迫撃砲陣地からの返信をその耳に聞きながら、制刻は先の光景その目に映す。
20発近い迫撃砲弾の着弾炸裂により、周辺の地面の至る箇所に穴が開き、立ち並ぶ木の幹は抉れ、枝は折れている。
そして何より、砲撃の餌食となった野盗達の死体が、あちらこちらに散乱していた。
「フゥ、花火大会としちゃぁ、泥臭かったずぇ!」
砲撃が止み、そして野盗達が去り静寂の戻った森の中で、多気投のそんな言葉が響いた。
「全くだ――皆、無事だな?」
制刻はそれに返し、そして各員に安否を確認する言葉を掛ける。
「無事です」
「あぁチクショッ、泥遊びしに来たんじゃねぇんだぞ……!」
確認の言葉に、策頼は端的に返し、そして竹泉は返事代わりに悪態の言葉を吐いた。
「念のため、奴等の潜んでた辺りを調べる。策頼、俺と行くぞ。竹泉と投は援護だ」
「了」
「へぇへぇ」
制刻の指示の声に、策頼や竹泉がそれぞれ了解の言葉を返す。そして制刻と策頼は遮蔽物を出て、各々の装備火器を構えて前進する。
「――揃って、逃げ散らかしてったみてぇだな」
野盗達が身を隠していた地点まで踏み入り、周辺を見渡した後に制刻が呟く。周囲に動く者の姿はすでになく、砲撃により荒れた光景と、散乱する死体が見えるのみであった。
「――!」
一方、同様に周辺を見渡していた策頼は、その途中で一点に目を留めた。それは木立にもたれ掛かる、頭部を切断された体。先に野盗達の罠の囮とされた亡骸であった。幸いにも砲撃に巻き込まれる事は間逃れたらしきその亡骸に、策頼は近寄り、片足で立膝を着いて見つめる。
「………」
頭部を失ったその亡骸では、目を閉じさせてやる事すら叶わず、策頼はその堅気離れした作りの顔に、少し悲し気な色を浮かべた。
「策頼」
そんな策頼に、背後から制刻の声が掛かる。
「気持ちは分かるが、感傷に浸るのは後だ」
「――了解」
掛けられた言葉に対して、策頼は静かに答える。そして立ち上がり、ショットガンを構え直した。
「竹泉、投、周辺はクリアだ。前進再開するぞ」
制刻は後方で援護態勢を取っている竹泉等に向けて発する。そして竹泉等と合流し、制刻等は前進を再開した。
まず、調達隊本隊は森の外まで一度離脱。その場で応急陣地を構え、万が一大規模な敵性勢力と遭遇した場合に備え、持ち込んでいた迫撃砲を展開接地させる。
82式指揮通信車とそれに同行する増強戦闘分隊の一組は、森を外周より周り偵察調査を行う。
そして普通科4分隊は、森の奥へと逃げて行った襲撃者達を追いかける事となった。現在森の中には、制刻の率いる事となったその4分隊の4名一組の姿があった。
「あぁ鬱陶しぃ、昨日の今日でまた森の中をお散歩かよ!」
間隔を空けて進む縦隊の半ばから、竹泉の声が響く。生い茂る草を蹴とばし、進行を遮る木の枝を潜り抜けながら、倦怠感を隠さぬ身振りで進む彼。
「ただでさえ面倒事が重なって嫌気が差してんのに、装備まで増やされてよ」
そして愚痴を零しながら、竹泉は自身の手中にある小銃に目を落とした。陸隊の運用上では、本来対戦車火器射手の隊員はその護身用火器として9mm拳銃を携帯し、小銃火器は装備しない事が通例であった。しかしこの世界での戦闘行動に直前する機会の多さを鑑み、今回の行程から対戦車火器射手である竹泉にも、小銃の装備が求められる事となったのであった。
「よぉ竹しゃん、相手チームのラインはまだまだ先だ。ネガティブ思想だと持たねぇぜぇ?」
「うるせぇ。ポジティブとフィジカルのモンスターのオメェとは違うんだよ」
そんな竹泉に背後から飛ぶ多気投からの揶揄うような軽口。それに対しても、竹泉は鬱陶し気な口調と表情で返した。
一方、縦隊の先頭を行く策頼とそれに続く制刻は、聞こえ来る竹泉等の会話は聞き流しながら、淡々と道なき道を進んでいた。
「――自由さん」
先頭を行く策頼が唐突に立ち止まったのはその時であった。策頼は視線を前方へ向けたまま、背後の制刻へ声を上げる。
それを受けた制刻は彼に合わせて立ち止まると、拳を握った右腕を掲げ上げて、後続の竹泉や多気投に向けて停止するよう合図を送る。
「またか」
そして制刻は策頼の背中に向けて、そんな言葉を呟いた。
「えぇ」
制刻に返した策頼の視線は、その先にある一本の木の根元に向いていた。策頼は自身の足元近くに転がっていた、一つの若干大きめの意思を手に取り拾うと、それをその木の根元目がけて投擲する。
そして放り投げられたその石が根元の地面に落ちた瞬間、地面から勢いよく何かが飛びあがって来た。飛び上がって来た物体は一定の高さで宙にぶら下がり、そして振り子運動を描く。そして各員の目に留まったのは、縄で編まれた網。その場に仕掛けられていたのは、踏み入った者を隠蔽した網で掬い上げて捕縛する、典型的な罠であった。
「まーたトラップかよ」
制刻の背後から竹泉の言葉が飛んでくる。
森の中には至る所に同種の罠が仕掛けられており、制刻等は森に踏み込んで以降、仕掛けられた罠を警戒、解除しながらの進行を強いられていた。
「大分手間を掛けてる。いよいよ、ここは奴等のホーム臭いな」
仕掛けられた多数の罠、それを仕掛けるために掛かる労力から、制刻はこの森が野盗達の拠点であろう事を推測する。
「行くぞ。オメェ等も、よぉく目ん玉見開け」
「へぇへぇ」
制刻の言葉で、4分隊各員は進行を再開する。
それから制刻等は、同様に進路上に仕掛けられた罠を解除しながら、森の中を進み続ける。
「ッ――」
そして先頭を行く策頼が、またしてもその脚を止める。
「ッ、何個めだよ、ほんとうっぜぇなぁ!」
何度目かも知れぬ進行の停止、すなわち罠の発見に、後続の竹泉から痺れを切らした声が上がる。
「いや、違う」
「あん?」
しかしそれに対して策頼は異を唱えた。その言葉に、竹泉は懐疑的な声を上げる。
「木の根元」
策頼は端的に発し、そして先に見える一本の木の根元を指し示して見せる。その木の影に、もたれ掛かっていると思しき人間の体――その肩や足などの一部が覗き見えていた。
「人か」
「えぇ――調べます」
制刻が回答の言葉を発し、策頼はそれに返しながら、調査に向かう旨を発する。
「いやストップ!どう考えても不自然だろぉが!」
しかしそんな策頼の行動を、竹泉が差し止めた。先に見える人影も、これまで同様に罠である可能性が、十分に考えられるからだ。
「あぁ、だが襲撃された被害者の可能性もある。何にせよ、調べる必要がある」
しかし策頼は竹泉に淡々とした口調でそう返す。
「行ってきます」
そして制刻に向けて一言発すると、策頼は自身の装備火器のショットガンを構えて進みだした。
「頼む――オメェ等、展開しろ」
「あぁ、畜生」
策頼に調査を任せ、制刻は他の各員へ指示の言葉を発する。それを受けた竹泉と多気投は、周囲の木の影や窪地に身を隠し、それぞれの装備火器を構えて援護態勢を取った。
後方より援護を受けながら、策頼は人影の覗き見える木の側まで近寄る。そしてショットガンの銃口と視線を同一に保ち、その木の死角を覗き込む。
「――ッ!」
そしてその先に目に映った物に、策頼は目を見開いた。その場に横たわっていたのは、確かに人の体ではあった。しかしその首から上にあるべきはずの、頭部が無かった。そして支えるべき頭部を失った首には、生々しい切断面が覗き、体の纏う衣服の首元は、血で染まっている。
「策頼、後ろに飛べェッ!」
驚愕していた策頼の元へ、瞬間、制刻の怒号が飛び込む。
「ッ!」
それを聞いた策頼は、考えるよりも先に、聞こえ届いた声に従い、脚を踏み切り来た方向へと飛んだ。
直後に、彼の耳に何か風を切るような音が聞こえ来る。跳躍し、飛び退いた先で振り返って見れば、先程まで自分が立っていた木の根元に、複数の矢が突き刺さっている様子を策頼は見た。
「かかったぞッ!」
「やっちまえッ!」
そしてそれを合図とするように、そのさらに向こうに見える茂みや木立から、多数の人間が一斉に姿を現す光景が見えた。その人間達からは雄叫びが上がり、その手にはいずれも得物が握られている様子が見える。
それを見た策頼は、再び足元を踏み切り、来た方向に向けて駆け出した。襲撃者達から放たれた矢が、策頼の足元に突き刺さり、傍を飛び抜けるが、彼は構わずに走る。
一方、背後で展開した制刻等からの援護射撃が、一拍置いて開始された。多気投のMINIMI軽機による制圧射撃。そして各員の各個射撃が、策頼を飛び越えて前方の襲撃者達へと注がれてゆく。
襲撃者達からの矢撃。そして援護射撃が交差する中を抜け、策頼は制刻等の元へと合流。その場にあった窪地へと滑り込み、身を隠した。
「無事か?」
「はい」
近くの木立に身を隠す制刻からの安否確認の言葉に、端的に返す策頼。
「ホレ見ろ!言わんこっちゃねぇ!」
別の木立に身を隠す竹泉からはそんな言葉が飛んだが、策頼はそちらは相手取らず、ショットガンを構え直して襲撃者達に向けて発砲。戦闘行動を開始した。
「ぎぇッ!?」
「ぎゃぁッ!?」
先陣を切り迫っていた襲撃者達を散弾や各員の銃火が襲い、彼等は打倒されてゆく。
「な、なんだ……ぐぁッ!?」
そしてそれに続いていた数名の襲撃者達が、MINIMI軽機による掃射の餌食となる。
「フゥーッ!面白ぇように命中(はい)ってくぜぇッ!」
自らの掃射によりなぎ倒されてゆく襲撃者達を前に、爽快そうな声を上げる多気投。しかし直後、彼の身を隠す窪地の前に、複数本の矢が飛来し、突き刺さった。
「ワォッ!?」
「木の上。クロスボウ持ち」
驚きの声を上げる多気投。その隣で策頼が最低限の言葉で報告を上げる。見れば彼の言葉通り、制刻等の正面、少し離れた位置にある木の上に、枝を利用してそこに位置取ったクロスボウ持ちの姿が数名程確認できた。
「ビックリさせんなやぁッ!」
多気投はそんな言葉を零しながら、木の上に位置取るクロスボウ持ちの内の一人へ照準を付け発砲。5.56㎜弾を受けた木上のクロスボウ持ちが、落下して行く様子が見える。
しかしその直後、再び他のクロスボウ持ちからの応射があり、再び矢が多気投周囲を襲った。
「ヌォイッ!面白くねぇぜぇッ!」
不服の声を零す多気投。
「よぉ、奴等引っ込んじまったぞ!」
そして竹泉が制刻に向けて言葉を送る。
見れば、襲撃者達は自分達を襲う攻撃がいかなる物かを理解したのだろう。突撃行為を止め、付近の木立や茂みに身を隠して、様子を伺っていた。
「やっぱり皺共よりは利口か――」
呟いた制刻は、その時視界の隅に動く人影を捉える。そしてすかさずそちらに向けて小銃を構え、発砲。直後に悲鳴が木霊し、回り込もうとしていたのであろう襲撃者の倒れる姿が、木立の合間に見えた。
「おいたは見逃さねぇ。――奴等に回り込ませるな」
発し、そして各員に忠告の言葉を送る制刻。
「自由さん、敵増援です」
そこへ策頼が報告の言葉を返した。制刻始め各員が正面に視線を向ければ、森の奥から多数の襲撃者達の増援と思しき人影が、木立や茂みに身を隠しながらも近づいて来る様子が見えた。
「1――いや、2個分隊規模はいます」
「奴等の拠点が近ぇのかもしれねぇな」
再びの策頼の言葉を聞き、推測の声を零す制刻。
「敵ちゃんのバーゲンセールだなぁッ!」
一方の多気投はふざけた調子で返しながら、正面に銃火を注ぐ。しかし生い茂る茂みや木立と、それらに襲撃者達が散会して身を隠した事が災いし、あまり有効な物となってはいなかった。
「どーすんだよ、正面火力の効果がイマイチだ!このままじゃジリ便、最悪押し切られるぞ!」
竹泉は、時折回り込もうとしてくる襲撃者達を排除しつつも、現状が芳しくない事に懸念の声を上げる。
「前がダメなら、上からだ」
そんな竹泉に対して、制刻は一言発して見せる。
「策頼、奴等ん中に発煙弾を放り込め」
「了!」
制刻からの指示を受け、策頼は発煙弾を繰り出すと、正面の襲撃者達へ向けて投擲する。一方制刻は、多気投の背負っていた大型無線機へ手を伸ばし、マイクと取ってコードを引き延ばし、再び木の影に身を隠す。
「ジャンカー4よりパワーネスト。こちらは偵察行動中に敵性集団と遭遇。迫撃砲による曲射火力支援を要請する――」
そして制刻は、無線のマイクに向けて発し始めた。
時間は数分程遡る。
森の外へと退避した調査隊本隊は、その場で急ごしらえの陣地を構えていた。各職種混成の増強戦闘分隊が周辺で警戒態勢を取り、その中心には二門の64式81㎜迫撃砲が設置されている。
「よし、とりあえずはこれでいい」
その迫撃砲の側には、調整された迫撃砲の確認を行う河義の姿があった。陸士時代には迫撃砲小隊の所属であった経歴を持つ河義は、今回の行程中に迫撃砲を用いる事となった際には、その主導を取る役割が与えられていた。
「俺は射手だったんだがなぁ……指揮を取る事になるとは」
人出不足から与えられた想定外の役割に、ため息混じりの言葉を零す河義。傍らで待機していた通信科隊員の大型無線機から、声が響いたのはその時であった。
《ジャンカー4よりパワーネスト。こちらは偵察行動中に敵性集団と遭遇。迫撃砲による曲射火力支援を要請する》
飛び込んで来た通信に、各員の視線が大型無線機に集中する。そしてこの場の先任者である麻掬が駆け寄り、通信科隊員からマイクを受け取った。
「ジャンカー4、再度状況知らせ」
《パワーネスト。こちらは森の中で一個小隊規模の敵と対峙中。環境も相まって、状況は芳しくない。すでに発煙弾を上げた、曲射火力支援を要請する》
麻掬の確認の言葉に、再び制刻の声で要請の言葉が返って来る。
無線通信を受けた麻掬は、一度河義の方を見る。それに対して河義は頷き返して、迫撃砲の準備は完了している旨を示す。
「――了解ジャンカー4。これより迫撃砲支援を実施する」
それを受け、麻掬は無線に向けて支援を開始する旨を告げた。
「発煙を確認しました」
それと入れ替わりに、森の方向へと観測の目を向けていた隊員から報告の声が上がる。
森の中からは、着色された一本の煙が立ち上っていた。
「200mって所か――少し遠目に設定する」
目測で煙が上がる地点までの距離を予測する河義。そして河義の主導の元、各隊員の手により迫撃砲の調整が行われる。
「調整完了です」
「よし、装填準備!」
河義の指示の言葉により、二門の迫撃砲のそれぞれの脇で、迫撃砲弾を手に待機していた装填手を務める隊員が、砲の前に位置取る。
「――撃ッ!」
そして河義の号令と共に、装填手の隊員は迫撃砲の砲口から迫撃砲弾を滑り込ませる。直後、独特な音を響かせると共に、一発目が撃ち出された。
「な、なんだこの煙!?」
制刻等と対峙していた襲撃者――この森を拠点とする野盗達は、突如自分達の元に投げ込まれた物体が発し上げる、不気味な色の煙に困惑の声を上げていた。
「……だ、大丈夫だ。別に毒とかじゃねぇ!」
しばしその不気味な煙を遠巻きに見ていた野盗達だったが、その煙が害のある物ではないと分かると、警戒の色を解く。
「お、脅かしやがって、コケ脅しか!」
「なめた真似しやがって!」
そして脅かされた事に腹を立てた彼等は、相対する相手に向ける害意を増幅させ、その攻撃の勢いはより苛烈な物になろうとした。
――しかしそんな彼等の耳が、異質な音を捉えたのはその直後であった。
「あ?」
「な、なんだこの音?」
聞こえ来たのは、ヒュゥゥ――という風を切るような独特の音。野盗達は一様に上空を見上げ、訝しむ言葉を零す。音はどんどん大きく明確になり、〝それ〟が野盗達の音へと迫っている事を示す。そして――
次の瞬間、爆音が鳴り響くと共に土砂が、そして土煙が舞い上がり、それに合わせてその場にいた数名の野盗が、中空へと舞い上がった。
身を隠す制刻等の視線の先、立ち並ぶ木立の向こうで、4つ程の爆発が連続的に巻き起こる。迫撃砲から撃ち出された迫撃砲弾の、初撃の着弾であった。着弾により土砂や草木が、そして着弾地点付近にいた複数人の野盗が吹き飛ばされる様子が見える。
「少し遠いな――パワーネスト、着弾地点を5m程前へ」
《了解――》
制刻が無線のマイクに向けて要請を発し、迫撃砲陣地側から返答が来る。そして要請を送ってから数秒後、再び上空から風を切るような音が聞こえ来る――
そして先の着弾地点より手前側で、再び連続的に爆発が巻き起こる。第2派の着弾は周辺に身を隠していた野盗達をいぶり出し、そして吹き飛ばした。
「いいぞ、効力射確認。そのまま頼む」
再び無線に向けて発する制刻。
そして三度上空に風を切るような音が響き、第3派が森の中へと降り注ぐ。
「ま、また――ぎゃッ!?」
「な、なんだよこれ――ぁッ!」
木立の向こうからは、砲撃に晒される野盗達の困惑や悲鳴が聞こえ零れて来たが、それも着弾による爆音にかき消され、そして彼等は宙に巻き上げられる。
「ッ!」
「ウォーウッ!」
巻き上げられた土砂の一部は4分隊の側へも降り注ぎ、策頼や多気投は顔を伏せ、鉄帽と覆った手でそれを凌ぐ。
「ベッ!口に入りやがったッ!」
そして土砂が口内に飛び込んだ竹泉が、それを吐くと共に悪態を零す。
その間にも迫撃砲弾は周辺に降り注ぎ、相対していた野盗達をいぶり出し巻き上げていく。
「あ、あいつ等の仕業なのかぁ!?」
「ひぃッ……に、逃げろぉ!」
やがて着弾音に混じってそんな悲鳴の声が聞こえ及び、そして木立や茂みを飛び出して、逃走を始める野盗達の姿が見えだした。
「パワーネスト、修正要請。着弾地点を20m程後方へ。奴等逃げ始めた、それを潰す」
それを目視した制刻が、三度無線越しに要請を送る。それが反映され、迫撃砲弾は逃げ始めた野盗達を追うように後方へ着弾。
「た、助け――」
背を見せた彼等の身をその悲鳴ごとかき消し、吹き飛ばした。
「――パワーネスト、砲撃停止。これ以上は、効果が薄いだろう」
何派目かの着弾を確認した制刻は、そこで無線に向けて砲撃停止の要請を発した。相対していた野盗達は三々五々に逃げ散ってゆく様子を見せ、これ以上の砲撃による効果は望めないと判断しての要請であった。
《了解ジャンカー4、こちらは砲撃待機する》
迫撃砲陣地からの返信をその耳に聞きながら、制刻は先の光景その目に映す。
20発近い迫撃砲弾の着弾炸裂により、周辺の地面の至る箇所に穴が開き、立ち並ぶ木の幹は抉れ、枝は折れている。
そして何より、砲撃の餌食となった野盗達の死体が、あちらこちらに散乱していた。
「フゥ、花火大会としちゃぁ、泥臭かったずぇ!」
砲撃が止み、そして野盗達が去り静寂の戻った森の中で、多気投のそんな言葉が響いた。
「全くだ――皆、無事だな?」
制刻はそれに返し、そして各員に安否を確認する言葉を掛ける。
「無事です」
「あぁチクショッ、泥遊びしに来たんじゃねぇんだぞ……!」
確認の言葉に、策頼は端的に返し、そして竹泉は返事代わりに悪態の言葉を吐いた。
「念のため、奴等の潜んでた辺りを調べる。策頼、俺と行くぞ。竹泉と投は援護だ」
「了」
「へぇへぇ」
制刻の指示の声に、策頼や竹泉がそれぞれ了解の言葉を返す。そして制刻と策頼は遮蔽物を出て、各々の装備火器を構えて前進する。
「――揃って、逃げ散らかしてったみてぇだな」
野盗達が身を隠していた地点まで踏み入り、周辺を見渡した後に制刻が呟く。周囲に動く者の姿はすでになく、砲撃により荒れた光景と、散乱する死体が見えるのみであった。
「――!」
一方、同様に周辺を見渡していた策頼は、その途中で一点に目を留めた。それは木立にもたれ掛かる、頭部を切断された体。先に野盗達の罠の囮とされた亡骸であった。幸いにも砲撃に巻き込まれる事は間逃れたらしきその亡骸に、策頼は近寄り、片足で立膝を着いて見つめる。
「………」
頭部を失ったその亡骸では、目を閉じさせてやる事すら叶わず、策頼はその堅気離れした作りの顔に、少し悲し気な色を浮かべた。
「策頼」
そんな策頼に、背後から制刻の声が掛かる。
「気持ちは分かるが、感傷に浸るのは後だ」
「――了解」
掛けられた言葉に対して、策頼は静かに答える。そして立ち上がり、ショットガンを構え直した。
「竹泉、投、周辺はクリアだ。前進再開するぞ」
制刻は後方で援護態勢を取っている竹泉等に向けて発する。そして竹泉等と合流し、制刻等は前進を再開した。
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