44 / 114
チャプター7:「Raid/Interception」
7-6:「保護・見慣れた物・不測事態鎮圧」
しおりを挟む
それからおよそ一時間が経過し、空間の制圧がほぼほぼ完了した頃に、要請された増援部隊が森へと到着。増援部隊の車列は、先に指揮通信車も用いた、野盗達の整備したと思しき隠蔽されていた道を使用して、森の中の空間へと到着。
89式装甲戦闘車を先頭に、次いで73式大型トラックが1輌。そして急遽編成に加えられた1トン半救急車からなる車列が、空間内へと乗り入れて各所へ停車。
「やれやれ。呼ばれて出動したってのに、もう終わってるとはな」
89式装甲戦闘車の砲塔上でキューポラから半身を出す穏原が、すでに制圧の終わった空間を眺めながら零す。そして装甲戦闘車の後部隊員用スペースからは、普通科3分隊の隊員等が後部扉より降車し、展開を始めていた。
「よいしょ」
そして一方、傍らに停車された1トン半救急車の助手席からは、ちょうど降りて来た出蔵の小柄な姿があった。
「出蔵」
そんな出蔵に声が掛かり、彼女が振り向けば、駆け寄って来る河義の姿が見えた。
「河義三曹――無線でおおまかな事は聞いてます。その保護対象の人はどこに?」
駆け寄って来た河義に、出蔵は尋ねる声を上げる。
「あぁ、案内する。来てくれ」
河義はその出蔵に促して来た方向へと身を翻し、そして出蔵もそれに続いた。
立ち並ぶ掘っ立て小屋の隙間を縫って河義と出蔵は歩き、そして件の保護対象者を発見した小屋の場所へ出る。
小屋の前では複数の隊員が、対応行動に備えて待機している姿がある。
「通してくれ、衛生隊員が来た」
そんな隊員等い向けて河義は促し、そしてその中へ出蔵を通す。
「この中ですね」
小屋の前に立ち、開かれた扉から内部を覗き込む出蔵。彼女の眼は薄暗い内部の隅に、蹲り据わる一つ人影を確認した。扉を潜って内部へ踏み入り、蹲る人影に近づこうとする出蔵。
「……ひ!」
人影が――狼の特徴を持つ少女が出蔵の気配に気づき、顔と、そして悲鳴を上げたのはその直後であった。
「いや……!来ないで、もう許して……!」
そして恐怖に染まった顔を出蔵へと見せ、懇願の言葉を発し始める。
「落ち着いて。大丈夫だよー」
そんな彼女に対して、出蔵は屈んで目線を合わせ、努めて柔らかい口調で促す。
「やだ……やだ……!」
しかし彼女はその言葉も届いていないのか、怯えた声を零し続けるばかりだ。
「ずっとそんな調子だよ」
その時出蔵の背後から声がした。振り向けば後ろに、調達隊に組み込まれていた女隊員の、祝詞が立っていた。
「あたしも保護を試みようとしたけど、その子、近寄る者すべてに恐怖してる。もう区別がついて無い」
出蔵の到着前に部隊は一度、丁度組み込まれていた女隊員の祝詞の手により、少女を回収保護することを試みていた。しかし狼の少女は最早近寄る者すべてに怯え拒む状態であり、彼女の保護は難航していた。
「……ちょっと可哀そうですけど、強引な手段が必要そうですね……士長、手を貸して下さい」
難しい顔で呟いた出蔵は、祝詞へ協力を促し、そして彼女に説明を始める。
「……あぁ、了解……」
出蔵からの説明を受け、あまり気乗りしていないような声色で、了解の返事を返す祝詞。そして祝詞は出蔵の脇を抜け、狼の少女へと近寄る。
「ひぃ……!」
近寄る祝詞に気付いた狼の少女からは、またも悲鳴が上がる。
「大丈夫――」
しかし祝詞は発しながらも、構わずに側まで踏み込む。すかさず狼の少女の側面に周ると、彼女の身体を側面背後から抱きしめた。
「やぁ!やだっ、許して……ッ!」
「大丈夫――!大丈夫だからッ!――お願い!」
狼の少女は半狂乱の様相で、祝詞の腕中で暴れ始める。祝詞はそんな彼女の言葉を掛けながら、懸命に彼女を抱き留め抑え込み、そして出蔵に向けて促す言葉を送る。
羽交い絞めにされながらも、足掻く狼の少女の前に、出蔵が近寄り膝を付く。出蔵は衛生キットから鎮静剤の収められたケース、消毒液などの必要な用品を取り出し準備を整えると、藻掻き中空を揺れる狼の少女の片腕を取った。
「いや、いや……!」
「ゴメンね、ちょっとだけ我慢して」
抵抗を見せる狼の少女に言いながらも、出蔵は手早く彼女の腕に消毒を施し、そして鎮静剤の注入された注射器の針先を、彼女の腕に刺した。
「ひ!」
走った痛覚に狼の少女から悲鳴が上がり、彼女の一層の抵抗の気配を見せるが、出蔵はそんな彼女の腕を抑え込んで鎮静剤を注入し切り、そしてどうにか無事投与を完了させる。
「いや!いや……!や……ぁ……」
終始恐怖の色と、力なき抵抗を見せ続けていた狼の少女だったが、程なくして鎮静剤の効果が表れ、彼女は眠るように気を失った。
「……オッケーですね」
「はぁ……」
出蔵が鎮静剤の効果を確認して言葉を発し、それを聞いた祝詞は、気を失い脱力した狼の少女を支えながらも、ため息を吐いた。
「お願いします」
出蔵は備えていた毛布を狼の少女の体に掛けつつ、小屋の外に向けて声を上げる。小屋の外に待機していた隊員等が担架を手に入っていて、出蔵等の側で担架を展開させる。
「この子はアンビまでお願いします」
狼の少女は祝詞の手により担架に寝かされ、隊員等の手により小屋から運び出される。そんな隊員等へ、狼の娘をアンビ――1トン半救急車へ運んでもらうよう求めながら、出蔵はその手で何かを持ち上げている。
それは狼の少女が抱いていた、切断された人の頭部であった。
顔立ちからおそらく若い青年の物と思われる頭部。出蔵は光を失った瞳に目を落とし、そして開いたままのその瞼を手で閉じる。
「――ゴメンね、到着が遅くなって」
そして青年の頭部を持ち上げて、その額を己の額と静かに突き合わせ、詫びる言葉を紡いだ。
「――行け」
制刻が小屋の扉を後ろ蹴りで蹴り破ると同時に発し、そして備えていた竹泉が小銃を構えて扉を潜り、内部に突入。続いて制刻も小屋内に押し入り、即座に内部各方へと視線を走らせる。
「――クリア」
「――あぁ、クリアだ」
内部に敵性存在が潜んでいない事を確認し、竹泉と制刻はそれぞれ声を上げた。
「……あぁ、やっと終わった!」
そして小銃を構えた姿勢を維持しながらも、竹泉がそんな言葉を上げる。
発見された保護対象の保護回収が行われる一方で、並行してクリアリング作業は継続されていた。策頼が抜けた代わりに竹泉は制刻と組み直し、残る小屋を一つ一つ安全化して行く、そして今しがた突入制圧したこの小屋を持って、全ての小屋の安全化が完了した所であった。
「隅までよく探せ」
悪態を吐く竹泉の一方、制刻はライトを手に周囲を照らし見渡しながら、促す声を発する。先の狼の少女のような要保護対象者が他にも存在する可能性を鑑み、クリアリングを担当する各員には、安全化だけではなくその上での念入りな調査が要求されていた。
「へぇへぇ」
制刻の言葉に適当に返しながら、竹泉もライトを取り出して周囲を調べ始める。
「あー――こりゃ奴等の強奪品か?」
内部を照らし見渡した竹泉は、その途中で一角に置かれたテーブルへ目を留める。近づき見れば、その上にはおそらく強奪品と思われる装飾品類や貨幣類。他、高価な物と思われる品々が、雑多に並び置かれていた。
「またしこたま集めたモンだな」
呆れの混じった口調で零しながら、竹泉はテーブル上ライトで照らし、視線を落として並ぶ物品を眺める。
「――あ?」
竹泉の視線が、何かを見止め声を上げた。
「どうした?」
竹泉の上げた訝しむ声に気付き、制刻が声を掛ける。
「よぉ自由。一応聞くが……おめぇ小銭とか落としてねぇよな?」
「あぁ?」
しかし竹泉から返って来たのは、そんな尋ねる言葉だった。竹泉からの言葉に、今度は制刻が訝しむ声を上げながら、制刻は竹泉の横へと立つ。
「これを見ろ」
竹泉は横に立った制刻に言葉で促しながら、ライトの光でテーブル上の一点照らし、示して見せる。
「こりゃぁ――」
示されたそれに、声を零す制刻。
照らし出されたのはテーブル上に散らばった、多数のこの世界の物と思しき硬貨の中に混じった一枚。
それは制刻等もよく見知った、日本で広く流通している100円硬貨であった。
「どういう事だと思うよ?」
見慣れぬ異世界の硬貨の中で、唯一異質に目立つ見知った硬貨。それが異世界であるこの場に存在している事実に、竹泉は怪訝な表情を作って制刻に投げかける。
「さぁな――だが、愉快な発見じゃねぇか」
そんな言葉に、制刻は返して見せる。
「とりあえずは、持ち主に聞いてみるとしようぜ」
森の中の開けた空間内の、各車輛が乗り入れられた一角。その一か所、82式指揮通信車が停車している傍らに、持ち込まれた長机が置かれて応急的な指揮所とされたその場に、各陸曹の集う様子があった。
「この周辺の安全化は、ほぼほぼ完了したと思われます」
報告の声を上げたのは河義だ。傍らに立つ麻掬と、麻掬から引き継いでこの場の先任者となった穏原に向けて発した。
「あれ以降、囚われている人の発見は無いか?」
「はい。捜索は現在も続行中ですが、あの娘以降発見の報告は上がっていません。見つかったのは、遺体のみです……」
穏原からの問いかけの言葉に、河義は表情を難しくし、そのトーンを落として返す。
部隊は狼の娘の保護以降も、周辺を各分隊及び組を持って捜索を実施。そして部隊との交戦により発生した野盗達の死体とは毛色の違う、放置された複数の遺体を発見。これ等は、野盗達に襲われた商隊や旅人等のものと思われた。
「かわいそうに……」
その報告を聞き、穏原が表情を顰めて呟く。
「……私達単独で、これ以上できる事は限られるでしょう。この世界の警察機関に持ち込み、連携すべきと思います」
そんな穏原に、河義は同様に浮かない表情で進言する。
「だな。……だが、いくらかの情報だけでも、探り出して置きたい所だ」
河義に同意する言葉を零した穏原は、しかし続けてそんな旨の言葉を口にする。そして穏原は視線を起こして先に向け、河義や麻掬もその視線を追う。
彼等の視線の先には、ちょうど隊員等の手によりこの場に連れて来られる、一人の野盗の姿があった。
「な、なんなんだよお前等……!」
拘束され、連れて来られたその野盗の男は、狼狽した様子で喚き声を上げている。
野盗はそれなりの大男だったが、得体の知れない、それも自分達を壊滅に追いやった集団に囲まれてか、その表情には怯えた色が見て取れた。
「悪いが、質問するのはこちらだ」
隊員等の手により長机の前に立たされた野盗に、穏原は意識した冷たい口調で発する。
「まず、君達はどういう集団だ?何の目的でこの場に居座っていた?」
そして野盗に向けて最初の質問を投げかけた。
「ど、どういうって……」
野盗の男は、変わらずの狼狽の様子を見せながらも口を開く。
野盗達は傭兵崩れや罪を犯した者の集まりである事。この場には、野盗行為を働く上で都合がいいため、居座っていた事などがその口から発せられた。
「成程……次だ。最近この地域では野盗行為が活発なようだが、君達もそれに関係する集団なのか?」
「ほ、他の連中についてなんて、知らねぇよ……」
困惑した様子で零す野盗。
その男によると、他の野盗集団との連携等は行われている訳ではないようであった。ただ、ここの野盗達に限って言えば、〝紅の国〟から何らかの破壊行動の指示が来たり、取引があるとの話であった。
「紅の国?というと……」
「確かこの国の隣国です」
疑問の言葉を零した穏原に、河義が答える。
「その国が野盗行為を支援しているという事か?」
穏原は野盗の男を睨み、詰問する。
「こ、細かい事は知らねぇ!俺達が知ってるのは、使いの奴が紅の国の方から来てるって事だけだ!大元が誰なのかなんて知らねぇ……!」
穏原の詰問に、野盗は喚き立てるように答える。
「末端には、情報が伝えられていないのかもしれませんね……」
野盗の言葉に少なくとも嘘偽りが無い様子を見て、河義は推測の言葉を発する。
「――では別の質問だ。私達は一人の娘を先程発見したが、他に生きて囚われている人はいないのか?」
「さ、最近で生け捕りのしたのはあの女一人だ……残りの奴は、襲撃の時に殺しちまった……」
「最近?という事は、過去にも生け捕りにした人がいたのか?その人達はどうした?」
穏原は野盗の発したワードを耳に留め、重ねて問いかける。
「生け捕りのした奴は、紅の国からの使いが金と引き換えに連れて行く……」
「つまり人身売買か……!」
野盗の言葉から、その行いの正体に気付き語調を荒げ、そして野盗を睨みつける穏原。それを受け、野盗の大男は「ひっ」と悲鳴を漏らす。
「その人達のその後は?どこに連れていかれた?」
「し、知らねぇ!その先の事はしらねぇよ……!ほんとだ……俺達には知らされてねぇんだ……!」
語調を荒げての穏原からの詰問に、野盗は必死で弁明の言葉を零す。
「……これ以上は、情報を引き出せそうにありませんね」
狼狽の様子を見せ続ける野盗の大男に、河義は言葉を零す。
「ちょいと失礼」
そんな所へ、ふと各員の耳に声が届く。
各員が視線を声のした方向へと向ければ、いつの間にかその場へ現れ、こちらへと歩んでくる制刻の姿がそれぞれの目に映った。
「制刻、どうした?制圧は終わったのか?」
「えぇ、そいつぁ今さっき終わりました」
河義の問いかけの言葉に、制刻は淡々と返しながら長机の横に歩み立つ。
「で、最後にクリアした小屋ん中で、面白ぇモンを見つけまして」
制刻の言葉と同時に長机の上に手を翳し、その手に握っていた物をそこへ置く。それは件の、強奪品の中で見つけた100円硬貨であった。
「よぉ兄ちゃん」
「ひ……!?」
そして制刻は直後、側に立たされていた野盗の大男の首根っこを唐突に掴み、机上に置いた100円硬貨を良く見せるべく、野盗の上体を押し込んで。
「これをどこで手に入れた?」
「な、なんだよぉ……!?」
そして野盗の大男に詰問する制刻。しかし当の野盗は突然の事に狼狽している。
「お、おい制刻……!」
「これは……100円硬貨?どういう事だ?」
一方の河義や穏原等は、制刻の突然の行動を驚き咎めたり、唐突にその場に持ち込まれた100円硬貨に、不思議そうにする様子を見せたりしている。
「竹泉が見つけました。ここの奴等の強奪品と思しきブツの中に、一つだけ不自然に混じってました」
制刻は河義の咎める言葉には取り合わずに、穏原の疑問の言葉にだけ返答を返す。
「何……!?」
そして制刻の説明、穏原始め各員はその100円硬貨が異質な物である可能性を理解し。驚きの表情を作った。
「よぉ、こりゃぁオメェ等がパクったモンだろ?出所を教えろ」
「ひぃ……!」
制刻は驚く各員の一方で、詰問を続ける。しかし対する野盗は脅されている現状と、なにより禍々しい容姿顔立ちの制刻に怯え、狼狽の度合いをさらに強くしている。
「こ、こ、こりゃぁ、捕まえた狼の女が持ってたもんだ……!見た事のねぇ硬貨だって、仲間が話してた……!」
「マジだな?」
制刻はその言葉に嘘偽りが無いか、禍々しく歪に蠢くその眼で、野盗の大男の顔を覗き睨み、問い尋ねる。
「ほ、ほんとだ……!た、助けてくれ……!」
必死に行程の言葉を発し、そして助けを求める言葉を零す野盗の大男。
「いいだろう」
それが事実であろう事に察しを付けた制刻は、そこで野盗の大男を乱暴に掴み起こし上げ、その首根っこを解放する。
「ひぃッ……!」
しかし勢い余った野盗の大男の体はそのまま背後へ吹っ飛ばされて倒れかけ、背後に待機していた隊員等の手で慌てて受け止め、支えられる事となった。
「制刻……!」
制刻のその行いに、呆れの混じった声を零す河義。
「もういいだろう。その男は、引き続き拘束監視の元に置くように」
そして同様の様子の穏原が指示を出し、野盗の大男は隊員等の手により連行されて行った。
「元の持ち主はあの狼の娘という事か?しかし彼女は容姿から見てこの世界の住人のようだった。それがなぜ……?」
野盗の大男が連行されてく様子を見送った穏原は、その視線を長机上に置かれた100円硬貨に落とし、疑問の声を上げる。
「なぜあの娘の手に渡ったかは不明ですが、予想できるのは、俺等の他にも誰かこの世界にぶっ飛んで来てるかも知れねぇって事です」
穏原の疑問の言葉に、推測の言葉を返す制刻。それを聞いた穏原から、「やはりそうなるか……」といった声が零れる。
「あの保護した娘に聞いてみるしかないか……しかしそれには、彼女が気付き、状態が安定するのを待たないとな――何にせよ、本日これ以降は待ちだ」
続けて言葉を発した穏原。
そして穏原は各員に引き続きの安全化作業、および調査。並びに、今晩この場を維持するための態勢の構築、他各作業を指示。各員は解散し、それぞれの作業に掛かって行った。
空間の一角では、隊に投降あるいは捕らえられた野盗達が、並び拘束され、監視の元に置かれている。
「クソ、なんでこんな事に……」
少し前までこの場の持ち主であり支配者であった野盗達は、わずかな時間の間にそれが一変し、囚われる立場となってしまった事を未だにどこか信じられずにいた。
「俺達、どうなっちまうんだ……?」
「まさか、どっかに売られちまうのか……?」
そして野盗達は、彼等の身が今後どうなってしまうのか。その事を予想し、戦々恐々とした時間を過ごしていた。
「こ、殺されちまうのかも……それも、頭みてぇに……!」
野盗の一人が、恐怖に歪んだ顔でそんな言葉を発する。そして彼等の視線は、先程まで彼等の頭であった大男が拘束されていた場所に集中する。
すでに頭の大男の体は片づけられていたが、地面に未だに血だまりが残り、それは野盗達に先の凄惨な光景を思い起こさせた。
「そ、そんな……!」
そして彼等も頭と同様の運命を辿る可能性に、野盗達の表情は青く染まる。
「ふざけんな……そんなの嫌だ……!」
そしてその中の一人が、特に顔色を悪くし、震える様子を見せながら漏らす。
「そこ!何を話している、会話は禁止だ!」
そんな所へ、端から怒声が飛ぶ。
拘束された野盗達の傍らに立ち、彼等を監視していた隊員だ。隊員は野盗達の会話に見咎める声を上げ、彼等を睨む。
「……う、うわぁぁぁッ!」
しかし野盗の内の一人。顔色を一際悪くし、震える様子を見せていた野盗が、突如として動きを見せたのはその時であった。その野盗は走り出し、隊員目がけて掛かってゆく。
拘束と言っても頭の後ろで手を回させ、膝まづかせるだけの簡易的な物であったそれゆえ、野盗が行動に移る事は容易かった。
「ッ!止まれッ!」
それを目の当りにした隊員は、即座に制止の言葉を上げ、続けて小銃を上空へ向けて威嚇射撃を行った。しかし野盗の表情は、目の前の脅威よりも別の恐怖に怯える色を見せ、その動きも止まる事は無かった。
やむを得ず隊員は小銃を野盗に向けて構え、発砲しようとした。しかしそれよりもわずかに早く、野盗は隊員へと肉薄し、その腕で小銃を掴み抑えたのだ。
「……!い、行くぞ!」
揉み合いになった両者を目の当りにし、他の野盗達も次々に動きを見せ始める。
それは好機を見たことによる物というより、彼等がその末路を想像し、それによる恐怖が伝播したと言うのが正しい所であった。
「何事だ!?」
騒ぎを聞きつけ、停められいた各車輛の影から、穏原を始め数名の隊員が駆け出て来る。
「拘束した者達の暴動です!」
穏原の声に、近くの82式指揮通信車で車載のMINIMI軽機に付いていた隊員が叫び返す。
「ッ――威嚇射撃を!――止まれーッ!」」
穏原は威嚇射撃の指示を下し、そして野盗達に向けて声を張り上げる。そして同時に指揮通信車上のMINIMI軽機から二度目の威嚇射撃が行われる。しかしそれでも野盗達の鎮まる様子は見られなかった。
そうしている間にも、揉み合いになった隊員の元へさらなる野盗の手勢が加わり、ついに隊員が押し切られ倒れる様子が見える。そして野盗達は隊員に伸し掛かり小銃を奪いにかかる姿を見せ、さらには穏原等の方向へ向けて掛かって来る野盗達も現れ出す。
「――発砲しろ」
「は?」
「構わない、発砲しろ!彼等を撃てッ!」
最早威嚇では収まらない。これ以上躊躇えば危険である。
そう判断した穏原は、指揮車上の隊員を始め各員に指示を下す。各員からは一瞬、疑問の言葉と躊躇う様子が返されたが、直後に再度発せられた怒号に近い穏原の言葉に、各員は意識を切り替え呼応。
――そして最初に、指揮通信車上のMINIMI軽機から唸り声が上がった。
――制圧はあっという間に終わった。
MINIMI軽機から吐き出され流れた5.56㎜弾の銃火は、暴動を起こした野盗達を薙いで攫えた。そして周辺の各員の各個射撃が、先の見張りの隊員を囲い小銃を奪おうとしていた野盗達を撃ち抜き排除。野盗達はわずかな時間の内に連なるように崩れ去り、一瞬の後にはその場に立つ野盗の姿は無くなった。
いくら簡易的な拘束状態であったからといって、武装解除され丸腰であり、さらに完全武装の各隊員が周囲にいる環境で、彼等野盗達の行いは無謀にも等しい物なのであった。
「……あぁ、糞……!」
射撃音が止み、視線の先には野盗達の死体が散らばり広がる光景が残る。それを目の当りに死、射撃指示を下した当人である穏原は、表情を酷く歪めて呟いた。
「何事です!?」
「どしたどしたぁ!?今度はどういう騒ぎだぁ?」
一度静寂に包まれたその場に声が飛び込み、そして各方から河義や、騒ぎしい声を上げる多気投等、4分隊の面子が駆け付けて来る。
「これは!?」
「おっとぉ」
そしてその場に広がる光景に、河義や制刻は声を零した。
「穏原三曹、一体何が……?」
「暴動を起こされた……危険な状況だと判断し、俺が発砲を許可した……」
穏原は自身も未だ困惑した状態にある中で、野盗達が暴動を起こし、警告や威嚇射撃も聞き入れなかった事。そして先に囲われ転倒した隊員が、他の隊員に助け起こされる様子を示しながら、隊員が銃を奪われかけた事などを説明した。
「だが……丸腰の相手を……」
しかし危険な状態にあり、そして相手が非道を働いた存在であるとはいえ、仮にも丸腰の、それも一度は監視下に置いた相手に、発砲許可を出してしまった事に後ろめたさを感じているのか、穏原は片手で顔を覆い言葉を零す。
「ま、しゃぁねぇでしょう」
そんな所へ、淡々とした言葉を発したのは制刻だ。
各員が複雑そうな顔を作る中で、制刻だけは普段と変わらぬ面持ちであった。
「……見るに、本当に危険な状況にあったと察します。穏原三曹の判断は、間違った物では無いでしょう」
そして河義も穏原に向けて、彼をフォローする言葉を発する。
「気分が優れないように見えます。ここは私と4分隊で引き継ぎます」
重ねて進言の言葉を上げた河義に、しかし穏原は「いや」と声を返す。
「指示を下したのは俺だ、最後までやる責任がある。君等は、元の作業に戻ってくれ――各員、彼等を良く調べてるんだ」
そして穏原は河義に促すと、優れない顔色のその顔を振るい、周囲の各員へ指示の声を発する。そして何気なく天を仰げば、木々の間から覗き見える空は、夕焼けのそれから夜の闇へと染まり出していた。
89式装甲戦闘車を先頭に、次いで73式大型トラックが1輌。そして急遽編成に加えられた1トン半救急車からなる車列が、空間内へと乗り入れて各所へ停車。
「やれやれ。呼ばれて出動したってのに、もう終わってるとはな」
89式装甲戦闘車の砲塔上でキューポラから半身を出す穏原が、すでに制圧の終わった空間を眺めながら零す。そして装甲戦闘車の後部隊員用スペースからは、普通科3分隊の隊員等が後部扉より降車し、展開を始めていた。
「よいしょ」
そして一方、傍らに停車された1トン半救急車の助手席からは、ちょうど降りて来た出蔵の小柄な姿があった。
「出蔵」
そんな出蔵に声が掛かり、彼女が振り向けば、駆け寄って来る河義の姿が見えた。
「河義三曹――無線でおおまかな事は聞いてます。その保護対象の人はどこに?」
駆け寄って来た河義に、出蔵は尋ねる声を上げる。
「あぁ、案内する。来てくれ」
河義はその出蔵に促して来た方向へと身を翻し、そして出蔵もそれに続いた。
立ち並ぶ掘っ立て小屋の隙間を縫って河義と出蔵は歩き、そして件の保護対象者を発見した小屋の場所へ出る。
小屋の前では複数の隊員が、対応行動に備えて待機している姿がある。
「通してくれ、衛生隊員が来た」
そんな隊員等い向けて河義は促し、そしてその中へ出蔵を通す。
「この中ですね」
小屋の前に立ち、開かれた扉から内部を覗き込む出蔵。彼女の眼は薄暗い内部の隅に、蹲り据わる一つ人影を確認した。扉を潜って内部へ踏み入り、蹲る人影に近づこうとする出蔵。
「……ひ!」
人影が――狼の特徴を持つ少女が出蔵の気配に気づき、顔と、そして悲鳴を上げたのはその直後であった。
「いや……!来ないで、もう許して……!」
そして恐怖に染まった顔を出蔵へと見せ、懇願の言葉を発し始める。
「落ち着いて。大丈夫だよー」
そんな彼女に対して、出蔵は屈んで目線を合わせ、努めて柔らかい口調で促す。
「やだ……やだ……!」
しかし彼女はその言葉も届いていないのか、怯えた声を零し続けるばかりだ。
「ずっとそんな調子だよ」
その時出蔵の背後から声がした。振り向けば後ろに、調達隊に組み込まれていた女隊員の、祝詞が立っていた。
「あたしも保護を試みようとしたけど、その子、近寄る者すべてに恐怖してる。もう区別がついて無い」
出蔵の到着前に部隊は一度、丁度組み込まれていた女隊員の祝詞の手により、少女を回収保護することを試みていた。しかし狼の少女は最早近寄る者すべてに怯え拒む状態であり、彼女の保護は難航していた。
「……ちょっと可哀そうですけど、強引な手段が必要そうですね……士長、手を貸して下さい」
難しい顔で呟いた出蔵は、祝詞へ協力を促し、そして彼女に説明を始める。
「……あぁ、了解……」
出蔵からの説明を受け、あまり気乗りしていないような声色で、了解の返事を返す祝詞。そして祝詞は出蔵の脇を抜け、狼の少女へと近寄る。
「ひぃ……!」
近寄る祝詞に気付いた狼の少女からは、またも悲鳴が上がる。
「大丈夫――」
しかし祝詞は発しながらも、構わずに側まで踏み込む。すかさず狼の少女の側面に周ると、彼女の身体を側面背後から抱きしめた。
「やぁ!やだっ、許して……ッ!」
「大丈夫――!大丈夫だからッ!――お願い!」
狼の少女は半狂乱の様相で、祝詞の腕中で暴れ始める。祝詞はそんな彼女の言葉を掛けながら、懸命に彼女を抱き留め抑え込み、そして出蔵に向けて促す言葉を送る。
羽交い絞めにされながらも、足掻く狼の少女の前に、出蔵が近寄り膝を付く。出蔵は衛生キットから鎮静剤の収められたケース、消毒液などの必要な用品を取り出し準備を整えると、藻掻き中空を揺れる狼の少女の片腕を取った。
「いや、いや……!」
「ゴメンね、ちょっとだけ我慢して」
抵抗を見せる狼の少女に言いながらも、出蔵は手早く彼女の腕に消毒を施し、そして鎮静剤の注入された注射器の針先を、彼女の腕に刺した。
「ひ!」
走った痛覚に狼の少女から悲鳴が上がり、彼女の一層の抵抗の気配を見せるが、出蔵はそんな彼女の腕を抑え込んで鎮静剤を注入し切り、そしてどうにか無事投与を完了させる。
「いや!いや……!や……ぁ……」
終始恐怖の色と、力なき抵抗を見せ続けていた狼の少女だったが、程なくして鎮静剤の効果が表れ、彼女は眠るように気を失った。
「……オッケーですね」
「はぁ……」
出蔵が鎮静剤の効果を確認して言葉を発し、それを聞いた祝詞は、気を失い脱力した狼の少女を支えながらも、ため息を吐いた。
「お願いします」
出蔵は備えていた毛布を狼の少女の体に掛けつつ、小屋の外に向けて声を上げる。小屋の外に待機していた隊員等が担架を手に入っていて、出蔵等の側で担架を展開させる。
「この子はアンビまでお願いします」
狼の少女は祝詞の手により担架に寝かされ、隊員等の手により小屋から運び出される。そんな隊員等へ、狼の娘をアンビ――1トン半救急車へ運んでもらうよう求めながら、出蔵はその手で何かを持ち上げている。
それは狼の少女が抱いていた、切断された人の頭部であった。
顔立ちからおそらく若い青年の物と思われる頭部。出蔵は光を失った瞳に目を落とし、そして開いたままのその瞼を手で閉じる。
「――ゴメンね、到着が遅くなって」
そして青年の頭部を持ち上げて、その額を己の額と静かに突き合わせ、詫びる言葉を紡いだ。
「――行け」
制刻が小屋の扉を後ろ蹴りで蹴り破ると同時に発し、そして備えていた竹泉が小銃を構えて扉を潜り、内部に突入。続いて制刻も小屋内に押し入り、即座に内部各方へと視線を走らせる。
「――クリア」
「――あぁ、クリアだ」
内部に敵性存在が潜んでいない事を確認し、竹泉と制刻はそれぞれ声を上げた。
「……あぁ、やっと終わった!」
そして小銃を構えた姿勢を維持しながらも、竹泉がそんな言葉を上げる。
発見された保護対象の保護回収が行われる一方で、並行してクリアリング作業は継続されていた。策頼が抜けた代わりに竹泉は制刻と組み直し、残る小屋を一つ一つ安全化して行く、そして今しがた突入制圧したこの小屋を持って、全ての小屋の安全化が完了した所であった。
「隅までよく探せ」
悪態を吐く竹泉の一方、制刻はライトを手に周囲を照らし見渡しながら、促す声を発する。先の狼の少女のような要保護対象者が他にも存在する可能性を鑑み、クリアリングを担当する各員には、安全化だけではなくその上での念入りな調査が要求されていた。
「へぇへぇ」
制刻の言葉に適当に返しながら、竹泉もライトを取り出して周囲を調べ始める。
「あー――こりゃ奴等の強奪品か?」
内部を照らし見渡した竹泉は、その途中で一角に置かれたテーブルへ目を留める。近づき見れば、その上にはおそらく強奪品と思われる装飾品類や貨幣類。他、高価な物と思われる品々が、雑多に並び置かれていた。
「またしこたま集めたモンだな」
呆れの混じった口調で零しながら、竹泉はテーブル上ライトで照らし、視線を落として並ぶ物品を眺める。
「――あ?」
竹泉の視線が、何かを見止め声を上げた。
「どうした?」
竹泉の上げた訝しむ声に気付き、制刻が声を掛ける。
「よぉ自由。一応聞くが……おめぇ小銭とか落としてねぇよな?」
「あぁ?」
しかし竹泉から返って来たのは、そんな尋ねる言葉だった。竹泉からの言葉に、今度は制刻が訝しむ声を上げながら、制刻は竹泉の横へと立つ。
「これを見ろ」
竹泉は横に立った制刻に言葉で促しながら、ライトの光でテーブル上の一点照らし、示して見せる。
「こりゃぁ――」
示されたそれに、声を零す制刻。
照らし出されたのはテーブル上に散らばった、多数のこの世界の物と思しき硬貨の中に混じった一枚。
それは制刻等もよく見知った、日本で広く流通している100円硬貨であった。
「どういう事だと思うよ?」
見慣れぬ異世界の硬貨の中で、唯一異質に目立つ見知った硬貨。それが異世界であるこの場に存在している事実に、竹泉は怪訝な表情を作って制刻に投げかける。
「さぁな――だが、愉快な発見じゃねぇか」
そんな言葉に、制刻は返して見せる。
「とりあえずは、持ち主に聞いてみるとしようぜ」
森の中の開けた空間内の、各車輛が乗り入れられた一角。その一か所、82式指揮通信車が停車している傍らに、持ち込まれた長机が置かれて応急的な指揮所とされたその場に、各陸曹の集う様子があった。
「この周辺の安全化は、ほぼほぼ完了したと思われます」
報告の声を上げたのは河義だ。傍らに立つ麻掬と、麻掬から引き継いでこの場の先任者となった穏原に向けて発した。
「あれ以降、囚われている人の発見は無いか?」
「はい。捜索は現在も続行中ですが、あの娘以降発見の報告は上がっていません。見つかったのは、遺体のみです……」
穏原からの問いかけの言葉に、河義は表情を難しくし、そのトーンを落として返す。
部隊は狼の娘の保護以降も、周辺を各分隊及び組を持って捜索を実施。そして部隊との交戦により発生した野盗達の死体とは毛色の違う、放置された複数の遺体を発見。これ等は、野盗達に襲われた商隊や旅人等のものと思われた。
「かわいそうに……」
その報告を聞き、穏原が表情を顰めて呟く。
「……私達単独で、これ以上できる事は限られるでしょう。この世界の警察機関に持ち込み、連携すべきと思います」
そんな穏原に、河義は同様に浮かない表情で進言する。
「だな。……だが、いくらかの情報だけでも、探り出して置きたい所だ」
河義に同意する言葉を零した穏原は、しかし続けてそんな旨の言葉を口にする。そして穏原は視線を起こして先に向け、河義や麻掬もその視線を追う。
彼等の視線の先には、ちょうど隊員等の手によりこの場に連れて来られる、一人の野盗の姿があった。
「な、なんなんだよお前等……!」
拘束され、連れて来られたその野盗の男は、狼狽した様子で喚き声を上げている。
野盗はそれなりの大男だったが、得体の知れない、それも自分達を壊滅に追いやった集団に囲まれてか、その表情には怯えた色が見て取れた。
「悪いが、質問するのはこちらだ」
隊員等の手により長机の前に立たされた野盗に、穏原は意識した冷たい口調で発する。
「まず、君達はどういう集団だ?何の目的でこの場に居座っていた?」
そして野盗に向けて最初の質問を投げかけた。
「ど、どういうって……」
野盗の男は、変わらずの狼狽の様子を見せながらも口を開く。
野盗達は傭兵崩れや罪を犯した者の集まりである事。この場には、野盗行為を働く上で都合がいいため、居座っていた事などがその口から発せられた。
「成程……次だ。最近この地域では野盗行為が活発なようだが、君達もそれに関係する集団なのか?」
「ほ、他の連中についてなんて、知らねぇよ……」
困惑した様子で零す野盗。
その男によると、他の野盗集団との連携等は行われている訳ではないようであった。ただ、ここの野盗達に限って言えば、〝紅の国〟から何らかの破壊行動の指示が来たり、取引があるとの話であった。
「紅の国?というと……」
「確かこの国の隣国です」
疑問の言葉を零した穏原に、河義が答える。
「その国が野盗行為を支援しているという事か?」
穏原は野盗の男を睨み、詰問する。
「こ、細かい事は知らねぇ!俺達が知ってるのは、使いの奴が紅の国の方から来てるって事だけだ!大元が誰なのかなんて知らねぇ……!」
穏原の詰問に、野盗は喚き立てるように答える。
「末端には、情報が伝えられていないのかもしれませんね……」
野盗の言葉に少なくとも嘘偽りが無い様子を見て、河義は推測の言葉を発する。
「――では別の質問だ。私達は一人の娘を先程発見したが、他に生きて囚われている人はいないのか?」
「さ、最近で生け捕りのしたのはあの女一人だ……残りの奴は、襲撃の時に殺しちまった……」
「最近?という事は、過去にも生け捕りにした人がいたのか?その人達はどうした?」
穏原は野盗の発したワードを耳に留め、重ねて問いかける。
「生け捕りのした奴は、紅の国からの使いが金と引き換えに連れて行く……」
「つまり人身売買か……!」
野盗の言葉から、その行いの正体に気付き語調を荒げ、そして野盗を睨みつける穏原。それを受け、野盗の大男は「ひっ」と悲鳴を漏らす。
「その人達のその後は?どこに連れていかれた?」
「し、知らねぇ!その先の事はしらねぇよ……!ほんとだ……俺達には知らされてねぇんだ……!」
語調を荒げての穏原からの詰問に、野盗は必死で弁明の言葉を零す。
「……これ以上は、情報を引き出せそうにありませんね」
狼狽の様子を見せ続ける野盗の大男に、河義は言葉を零す。
「ちょいと失礼」
そんな所へ、ふと各員の耳に声が届く。
各員が視線を声のした方向へと向ければ、いつの間にかその場へ現れ、こちらへと歩んでくる制刻の姿がそれぞれの目に映った。
「制刻、どうした?制圧は終わったのか?」
「えぇ、そいつぁ今さっき終わりました」
河義の問いかけの言葉に、制刻は淡々と返しながら長机の横に歩み立つ。
「で、最後にクリアした小屋ん中で、面白ぇモンを見つけまして」
制刻の言葉と同時に長机の上に手を翳し、その手に握っていた物をそこへ置く。それは件の、強奪品の中で見つけた100円硬貨であった。
「よぉ兄ちゃん」
「ひ……!?」
そして制刻は直後、側に立たされていた野盗の大男の首根っこを唐突に掴み、机上に置いた100円硬貨を良く見せるべく、野盗の上体を押し込んで。
「これをどこで手に入れた?」
「な、なんだよぉ……!?」
そして野盗の大男に詰問する制刻。しかし当の野盗は突然の事に狼狽している。
「お、おい制刻……!」
「これは……100円硬貨?どういう事だ?」
一方の河義や穏原等は、制刻の突然の行動を驚き咎めたり、唐突にその場に持ち込まれた100円硬貨に、不思議そうにする様子を見せたりしている。
「竹泉が見つけました。ここの奴等の強奪品と思しきブツの中に、一つだけ不自然に混じってました」
制刻は河義の咎める言葉には取り合わずに、穏原の疑問の言葉にだけ返答を返す。
「何……!?」
そして制刻の説明、穏原始め各員はその100円硬貨が異質な物である可能性を理解し。驚きの表情を作った。
「よぉ、こりゃぁオメェ等がパクったモンだろ?出所を教えろ」
「ひぃ……!」
制刻は驚く各員の一方で、詰問を続ける。しかし対する野盗は脅されている現状と、なにより禍々しい容姿顔立ちの制刻に怯え、狼狽の度合いをさらに強くしている。
「こ、こ、こりゃぁ、捕まえた狼の女が持ってたもんだ……!見た事のねぇ硬貨だって、仲間が話してた……!」
「マジだな?」
制刻はその言葉に嘘偽りが無いか、禍々しく歪に蠢くその眼で、野盗の大男の顔を覗き睨み、問い尋ねる。
「ほ、ほんとだ……!た、助けてくれ……!」
必死に行程の言葉を発し、そして助けを求める言葉を零す野盗の大男。
「いいだろう」
それが事実であろう事に察しを付けた制刻は、そこで野盗の大男を乱暴に掴み起こし上げ、その首根っこを解放する。
「ひぃッ……!」
しかし勢い余った野盗の大男の体はそのまま背後へ吹っ飛ばされて倒れかけ、背後に待機していた隊員等の手で慌てて受け止め、支えられる事となった。
「制刻……!」
制刻のその行いに、呆れの混じった声を零す河義。
「もういいだろう。その男は、引き続き拘束監視の元に置くように」
そして同様の様子の穏原が指示を出し、野盗の大男は隊員等の手により連行されて行った。
「元の持ち主はあの狼の娘という事か?しかし彼女は容姿から見てこの世界の住人のようだった。それがなぜ……?」
野盗の大男が連行されてく様子を見送った穏原は、その視線を長机上に置かれた100円硬貨に落とし、疑問の声を上げる。
「なぜあの娘の手に渡ったかは不明ですが、予想できるのは、俺等の他にも誰かこの世界にぶっ飛んで来てるかも知れねぇって事です」
穏原の疑問の言葉に、推測の言葉を返す制刻。それを聞いた穏原から、「やはりそうなるか……」といった声が零れる。
「あの保護した娘に聞いてみるしかないか……しかしそれには、彼女が気付き、状態が安定するのを待たないとな――何にせよ、本日これ以降は待ちだ」
続けて言葉を発した穏原。
そして穏原は各員に引き続きの安全化作業、および調査。並びに、今晩この場を維持するための態勢の構築、他各作業を指示。各員は解散し、それぞれの作業に掛かって行った。
空間の一角では、隊に投降あるいは捕らえられた野盗達が、並び拘束され、監視の元に置かれている。
「クソ、なんでこんな事に……」
少し前までこの場の持ち主であり支配者であった野盗達は、わずかな時間の間にそれが一変し、囚われる立場となってしまった事を未だにどこか信じられずにいた。
「俺達、どうなっちまうんだ……?」
「まさか、どっかに売られちまうのか……?」
そして野盗達は、彼等の身が今後どうなってしまうのか。その事を予想し、戦々恐々とした時間を過ごしていた。
「こ、殺されちまうのかも……それも、頭みてぇに……!」
野盗の一人が、恐怖に歪んだ顔でそんな言葉を発する。そして彼等の視線は、先程まで彼等の頭であった大男が拘束されていた場所に集中する。
すでに頭の大男の体は片づけられていたが、地面に未だに血だまりが残り、それは野盗達に先の凄惨な光景を思い起こさせた。
「そ、そんな……!」
そして彼等も頭と同様の運命を辿る可能性に、野盗達の表情は青く染まる。
「ふざけんな……そんなの嫌だ……!」
そしてその中の一人が、特に顔色を悪くし、震える様子を見せながら漏らす。
「そこ!何を話している、会話は禁止だ!」
そんな所へ、端から怒声が飛ぶ。
拘束された野盗達の傍らに立ち、彼等を監視していた隊員だ。隊員は野盗達の会話に見咎める声を上げ、彼等を睨む。
「……う、うわぁぁぁッ!」
しかし野盗の内の一人。顔色を一際悪くし、震える様子を見せていた野盗が、突如として動きを見せたのはその時であった。その野盗は走り出し、隊員目がけて掛かってゆく。
拘束と言っても頭の後ろで手を回させ、膝まづかせるだけの簡易的な物であったそれゆえ、野盗が行動に移る事は容易かった。
「ッ!止まれッ!」
それを目の当りにした隊員は、即座に制止の言葉を上げ、続けて小銃を上空へ向けて威嚇射撃を行った。しかし野盗の表情は、目の前の脅威よりも別の恐怖に怯える色を見せ、その動きも止まる事は無かった。
やむを得ず隊員は小銃を野盗に向けて構え、発砲しようとした。しかしそれよりもわずかに早く、野盗は隊員へと肉薄し、その腕で小銃を掴み抑えたのだ。
「……!い、行くぞ!」
揉み合いになった両者を目の当りにし、他の野盗達も次々に動きを見せ始める。
それは好機を見たことによる物というより、彼等がその末路を想像し、それによる恐怖が伝播したと言うのが正しい所であった。
「何事だ!?」
騒ぎを聞きつけ、停められいた各車輛の影から、穏原を始め数名の隊員が駆け出て来る。
「拘束した者達の暴動です!」
穏原の声に、近くの82式指揮通信車で車載のMINIMI軽機に付いていた隊員が叫び返す。
「ッ――威嚇射撃を!――止まれーッ!」」
穏原は威嚇射撃の指示を下し、そして野盗達に向けて声を張り上げる。そして同時に指揮通信車上のMINIMI軽機から二度目の威嚇射撃が行われる。しかしそれでも野盗達の鎮まる様子は見られなかった。
そうしている間にも、揉み合いになった隊員の元へさらなる野盗の手勢が加わり、ついに隊員が押し切られ倒れる様子が見える。そして野盗達は隊員に伸し掛かり小銃を奪いにかかる姿を見せ、さらには穏原等の方向へ向けて掛かって来る野盗達も現れ出す。
「――発砲しろ」
「は?」
「構わない、発砲しろ!彼等を撃てッ!」
最早威嚇では収まらない。これ以上躊躇えば危険である。
そう判断した穏原は、指揮車上の隊員を始め各員に指示を下す。各員からは一瞬、疑問の言葉と躊躇う様子が返されたが、直後に再度発せられた怒号に近い穏原の言葉に、各員は意識を切り替え呼応。
――そして最初に、指揮通信車上のMINIMI軽機から唸り声が上がった。
――制圧はあっという間に終わった。
MINIMI軽機から吐き出され流れた5.56㎜弾の銃火は、暴動を起こした野盗達を薙いで攫えた。そして周辺の各員の各個射撃が、先の見張りの隊員を囲い小銃を奪おうとしていた野盗達を撃ち抜き排除。野盗達はわずかな時間の内に連なるように崩れ去り、一瞬の後にはその場に立つ野盗の姿は無くなった。
いくら簡易的な拘束状態であったからといって、武装解除され丸腰であり、さらに完全武装の各隊員が周囲にいる環境で、彼等野盗達の行いは無謀にも等しい物なのであった。
「……あぁ、糞……!」
射撃音が止み、視線の先には野盗達の死体が散らばり広がる光景が残る。それを目の当りに死、射撃指示を下した当人である穏原は、表情を酷く歪めて呟いた。
「何事です!?」
「どしたどしたぁ!?今度はどういう騒ぎだぁ?」
一度静寂に包まれたその場に声が飛び込み、そして各方から河義や、騒ぎしい声を上げる多気投等、4分隊の面子が駆け付けて来る。
「これは!?」
「おっとぉ」
そしてその場に広がる光景に、河義や制刻は声を零した。
「穏原三曹、一体何が……?」
「暴動を起こされた……危険な状況だと判断し、俺が発砲を許可した……」
穏原は自身も未だ困惑した状態にある中で、野盗達が暴動を起こし、警告や威嚇射撃も聞き入れなかった事。そして先に囲われ転倒した隊員が、他の隊員に助け起こされる様子を示しながら、隊員が銃を奪われかけた事などを説明した。
「だが……丸腰の相手を……」
しかし危険な状態にあり、そして相手が非道を働いた存在であるとはいえ、仮にも丸腰の、それも一度は監視下に置いた相手に、発砲許可を出してしまった事に後ろめたさを感じているのか、穏原は片手で顔を覆い言葉を零す。
「ま、しゃぁねぇでしょう」
そんな所へ、淡々とした言葉を発したのは制刻だ。
各員が複雑そうな顔を作る中で、制刻だけは普段と変わらぬ面持ちであった。
「……見るに、本当に危険な状況にあったと察します。穏原三曹の判断は、間違った物では無いでしょう」
そして河義も穏原に向けて、彼をフォローする言葉を発する。
「気分が優れないように見えます。ここは私と4分隊で引き継ぎます」
重ねて進言の言葉を上げた河義に、しかし穏原は「いや」と声を返す。
「指示を下したのは俺だ、最後までやる責任がある。君等は、元の作業に戻ってくれ――各員、彼等を良く調べてるんだ」
そして穏原は河義に促すと、優れない顔色のその顔を振るい、周囲の各員へ指示の声を発する。そして何気なく天を仰げば、木々の間から覗き見える空は、夕焼けのそれから夜の闇へと染まり出していた。
0
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる