―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

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チャプター17:「終結と発動準備」

17-5:「出動準備とミーティング」

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 日が変わり、そして夜が明けた。
 昨晩まで上空を覆っていた厚く暗い雲は去り、多少の薄い雲は残れども青く良い空に恵まれた。その天候の元、草風の村は早朝から再び喧騒に包まれ出した。



 多気投は、武器弾薬の集積所で、これまで使っていたMINIMI軽機関銃とは異なる、新たな銃を受け取っていた。

「フゥ!」

 FN MAG。日本での採用名、7.62㎜機関銃FN MAG。
 文字道理7.62㎜弾を使用する、ベルギーのFN社製の汎用機関銃だ。
 この異世界の地でのこれまでの戦闘では、5.56mm口径の各火器では無力化し切れぬ対象との遭遇が、ここまで幾度も発生している。それに伴い、分隊支援火器を担当する隊員の装備が、一部MINIMI軽機から当機関銃に換装される事となった。

「こいつぁ、これまでよりもヘヴィーにぶっ放せるなぁッ!」

 多気投は新たな相棒を手に、意気揚々と発した。



 村の一角では、89式装甲戦闘車の出動前点検が行われている。
 砲塔の旋回、主砲である35㎜機関砲の動作確認。さらに、砲塔側面に取り付けられた〝中距離多目的誘導弾の発射機〟の動作確認が行われる。
 この89式装甲戦闘車は、厳密に言えば初期とは仕様の異なる物であった。
 最大の特徴として、79式対舟艇対戦車誘導弾ではなく、中距離多目的誘導弾及びその発射機が搭載されており、その他にもマイナーチェンジが施されている改修型だった。

「よぉし、各部正常な動作を確認。問題はないみたいだ」

 装甲戦闘車の傍らで目視役を行っていた藩童が、異常無しの合図を送る。

「ったく――いつまで続くんだ、こんな面倒事」

 砲塔に設けられた砲手用のハッチを潜り上がって来た髄菩が、忌々し気に呟きながら砲塔上にその腰を降ろす。

「相変わらず陰気な事ばっかり言うな」
「当り前だ。邦人の保護を名目に、ここまで首を突っ込んで。どれだけ面倒とリスクを背負うつもりなんだ」
「あんまりネガティブに考えすぎると持たないぞ」

 どこか他人事のように言う藩童。

「楽観主義のお前とは違うんだよ」

 髄菩は吐き捨てた。



 村を少し外れた場所では、異質な物体の組み立てが進んでいた。
 人の身長1.5倍ほどの長さの細い胴体に、片翼だけで胴と同じ長さのある長いテーパー翼。
 〝地域観測無人航空機〟。
 上空より地上を観測し、情報収集、及び地上部隊を情報により支援する事を目的とした、陸隊の保有する無人観測機だ。
 ――無人観測機の組み立てが完了したの時を同じくして、村の中心部には、コンテナを乗せた大型トラックが到着していた。コンテナは内部に操縦、管制装置に関わる装置が詰め込まれており、無人観測機はここから操作が行われる。

「一式、ここまで持ってくるの大変だったんですよ」

 そのコンテナの横で発したのは、情報科の八島という二曹だ。

「苦労かけたな、だがどうしてもこっちで必要だったんだ」

 ぼやく八島に対して、井神が言葉を返す。

「あの、所で……これを操縦できる人間がいるんですか?」

 井神の隣でコンテナを眺めていた帆櫛が、疑問の声を発する。

「操縦は八島二曹に行ってもらう」
「本当は私の役割は、操縦幹部の補佐なんですがね」
「すまない。だが、我々の中で操縦ができる者は君しかいないんだ」
「分かっていますよ。やりましょう」

 井神の頼みの声に、八島は緊張感の無い声で答えた。



 各隊員、装備の準備が整い、作戦のミーティングが始まった。
 ミーティングの場は借り受けた村の空倉庫で、今は長机やパイプ椅子が並んでいる。さらに、この空倉庫はミーティング終了後は指揮所となる予定であり、机や椅子の他に各種必要機材が運び込まれており、さらに外でも機材の設置が、屋根にはアンテナ類の設置が進んでいた。
 ミーティングに集まったのは、陸曹筆頭の井神と、唯一の幹部である小千谷。そして主要な陸曹、空曹と一部の陸士、空士、そして多士。集まった隊員等は、大半は用意された椅子に腰かけ、一部は立つあるいは壁に背を預けて、用意されたホワイトボードに視線を向けていた。

「潜入した鷹幅二曹等からの、邦人確保の報は未だ無し。邦人の穏便な確保はいよいよもって望み薄だ。我々はヘリコプターと車輛隊による第二回収案の発動に備える」

 ホワイトボードの前で、井神が状況の説明を開始した。まず井神は、投入される車輛の詳細説明に入る。
 投入車輛は全部で6輛。89式装甲戦闘車と82式指揮通信車。装甲を施した73式大型トラックが3輌。そして87式砲側弾薬車もAPC兼工作車代わりとして投入される。
 3輌の装甲大型トラックは、内1輌は指揮車両兼ガントラック、1輌は対空銃架に乗せた重機関銃を搭載し対空車両とする。82式指揮通信車には指揮任務は負わせず、APCとしての役割に徹させる。
 これ等からなる車輛隊は、町から約10分の地点を進出地点とし、先んじてここに待機することになっていた。
 井神はそこで一度言葉を切って一呼吸置き、作戦概要の説明に入った。
 これは、最低でも潜入班が邦人を発見し、邦人の位置が判明する事が前提となる物であったが――。
 作戦概要はこうだ。まず航空隊のCH-47Jが町の上空に進入、判明した邦人の所在地点にレンジャー隊員3名からなるレンジャー班をラぺリング降下させ、レンジャー班が邦人を確保。同時に車輛隊が町に進入し、邦人の所在地点周辺まで進出。そして車輛隊に搭乗している三個分隊を展開し、一個分隊が地上から建物に突入。他の二個分隊が周辺の安全を確保する。
 邦人の確保、車輛隊への収容が完了次第、地上車両隊は離脱。同時にヘリコプターが、潜入班ロングショット1の鷹幅二曹と不知窪三曹を回収。この際、ヘリコプターに搭乗した機上観測班がこれを支援。回収完了後、町の上空空域から離脱する。
 井神はホワイトボードに張り出された町の地図の、適当な一区画を例として挙げ、これらの作戦概要を雑把に説明して見せた。

「なお、傭兵隊が停戦により帰還している事から、おそらく町の警備隊は、私たちの存在を把握しているものと考える。全ての手の内を見せたわけではないが、十分警戒するように」
「変にお上品であろうとしたツケだな」
「おい香故!」

 皮肉気な言葉は香故の物だった。隣席していたウラジアの咎める声が響く。井神自身は香故を特に咎める事無く、町に駐屯する警備隊の概要の説明に入る。
 警備隊は大隊規模であり、剣やクロスボウ等を主装備とする軽歩兵が主体であるということ。さらに昨晩の対傭兵戦でも見られた観測用発光体が運用されている事と、〝箒隊〟なる部隊が存在していることが説明された。

「箒?そういう愛称の部隊なんですか?」

 隊員の一人が尋ねる。

「いや。おとぎ話に出てくる魔法使いや魔女のように、本当に箒に跨って飛ぶ飛行部隊が存在するそうだ」
「マジですか」

 隊員は感心とも呆れともつかない言葉を零した。
 装備は一般警備兵と変わらず、クロスボウや簡易的な攻撃魔法程度のものであるらしい。しかし敵航空優勢下に乗り込むことに変わりはなく、特に対空要員は十分警戒する旨を、井神は説明した。

「それと皆、昨晩から魔法現象に対する耐性の有無を調査する検査受けたと思う――」

 昨晩から作戦の準備と並行して行われた、魔法耐性の有無を調べる検査の結果、隊員の内およそ四分の三には魔法の効果が無い――すなわち何らかの耐性が備わっている事が判明した。耐性が多い者が多かったのは幸いだったが、しかし隊の現状では、四分の一もの人員を遊ばせておく余裕はなかった。
 結果、苦肉の策として、対応部隊の参加者の編成は、耐性がある者の中に無い者を織り込む形で行われた。

「昨晩のような特殊能力を使用する脅威存在は滅多にいるものではないそうで、実際警備隊にも脅威存在たる人物は存在しないとの情報をもらっている。――が、万一の場合には耐性保有者が、無い者をフォローしてほしい」
「その万一も、無い事を祈りたいですね」

 誰かが呟いた。

「最後に、これはこの村の村長さんからあった話だが――この町の警備隊施設には、不当な理由で拘留されている人達がいる可能性があるらしい。村長さんからは、可能なら拘留された人たちを解放、救助してほしいとの願い入れがあった」
「そんな余裕が?」

 先程とは別の隊員が発する。

「正直な話、無い。村長さんにもその事は伝えてある。――が、もしも発見した場合、見過ごすことはできん。その場合は、邦人同様に保護回収する」

 発した隊員は「了解です」と返した。

「第二回収案の作戦概要は以上だ。作戦全体の指揮は無人機経由の元、ここから行うが、実際に現場で何が起こるかは分からない。各位、状況に応じて、現場ごとの対応を願いたい」

 一通り言い切ると、井神は小千谷二尉に視線を向ける。

「小千谷二尉、何かありますか」
「俺からは特段細かい話はないが――井神一曹が言ったように十分警戒し、細心の注意を払って欲しい」

 小千谷の言葉に、参加隊員の内数人から「了解」と返事が返って来る。

「では、ミーティング終了後、車両隊はすぐに進出地点に向かい待機する。該当隊員は20分後に集合。質問は?」
「なし」
「ありません」
「特には」
「よし、かかれ」

 井神から命令が発せられると共に、各々は動き出した。
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