純喫茶カッパーロ

藤 実花

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第二章 めたもるふぉーぜ!

⑩アイランド・ヴィレッジ

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突如洋服を買いに行くことに決まり、私は少々予定を変更した。
まず午前中に買い物を済ませ、それからどこかでお昼を食べて、午後から母の病院へ行く。
三兄弟には早々に支度をしてもらい、皆で軽自動車に乗り込んだ。

助手席に一之丞、後ろに次郎太と三左。
ここで、助手席に乗る権利をめぐってひと悶着あったことには触れないでおく。
長兄が体格差を生かして、長いリーチで他を押し退けただけの話である。

「うわぁーーい!すごーい!たのしいーぃ!」

運転席の後ろで三左がキャッキャと喜んで叫ぶ。
その横の次郎太は、長い足を組んで窓を開け《風に吹かれる格好いい俺》を演出中だ。
助手席の一之丞は……一之丞は、石像のように動かない。
どうやら、緊張しているらしい。
目の端に、一之丞の握った拳がぷるぷる震えるのが見えて、運転席の私にまで緊張が伝わった。

「一之丞?平気?」

「うっ!うむ。大したことないっ!ははは……大したことない」

ははは?
聞いたことのない乾いた笑いに、一之丞の緊張はMAXになっているんじゃないか、と思った。

「僕が変わってあげるよ?兄さま、怖いんでしょ?」

三左が運転席と助手席の間からヌッと顔を出した。
その挑発に、一之丞は激しく抗議する。

「怖い!?ばかなっ!こんな鉄の塊などをこのカッパの一之丞が恐れるなど!笑止千ばぁわわわ……」

「あ、ごめん。何か踏んだ」

ガタン、と助手席側が大きく揺れ、一之丞は蒼白になり、シートベルトをギュッと握った。
もう!三左の言う通り、怖かったら後ろに座ればいいのに。
後部座席からキャハッと軽い笑い声が聞こえて、一之丞はギロリと三左を睨んだ。

そんなことを繰り返しながら、私達は山を登る。
浅川村の麓には、市場とスーパーしかなく服を買えるところなんてないので、山向こうの一つ隣の町まで行かなければならなかった。
カッパーロから山を越えて大きな町までは約30分。
細い山道を登ると、車が辛そうに唸った。
大きな体の男3人を乗せてるんだもんね……。
これは、ガソリンの消費も激しいに違いない。

山を下る頃になると、一之丞も漸く慣れたのか顔に血の気が戻ってきた。
景色を楽しむ余裕も出来たのか、ウィンドウを下げて、風をたっぷり浴びている。
サラサラ揺れる銀髪が、海風を浴びるイグナティオスを彷彿とさせ、一瞬目を奪われた。
これがカッパなんだから、世の中何か間違っている。
人として生まれれば、スカウトが後を立たなかっただろうな、等と考えているうちに、目的地に着いた。


『ファッションプラザ、アイランド・ヴィレッジ』

白地に赤い文字の看板が見えて、車のハンドルを切った。
そこは、全国に1000店舗を構える服の流通センターで、安く最新の衣料品が買える店だ。
この辺ではここでしか衣料品が買えないため、浅川村の人達は洋服が被っていることが多い。
かくいう私も、中学高校の頃、良く友達と服が被っていたのを思い出した。

車を駐車場に止めると、三左が真っ先に駆け出した。
初めて見るお店に興奮気味で、目がキラキラと輝いている。

「三左!先に1人でいっちゃダメ!あ、ほら、次郎太、付いてってあげて?」

運転席から降りながら叫ぶと、次郎太が浮わついた様子で三左を追う。
ほんとに三左も次郎太も分かりやすいな、落ち着いてるのは一之丞だけかと彼を見れば、なんとシートベルトと格闘中だった。

「さ、サユリ殿っ!!これは如何にして外すのであろうか!?何やらどんどんおかしなことに!」

絡まってテンパっている一之丞のシートベルトを冷静に外すと、私は大きくため息をついた。
そして、落ち着いた一之丞と並んで店内に向かっていると、彼は申し訳なさそうに呟いた。

「すまぬ……」

「ううん。さぁ、次郎太と三左を探さないとね!店内で騒いでないといいけど……」

自動ドアが開き、中に入った私達を待ち受けていたのは、とても信じられない光景だった。
人だかりが右奥に一つ、左奥に一つ。
それぞれ違った客層が群がっている。
右奥はマダム、左奥は主に男性で年齢層は高い。
いやな予感がする……真っ先に考えたのはそれだ。

「何であろうか?」

一之丞が不思議そうに言った。

「知らない……たぶん、知らない方がいい。ほっとこう……」

「サユリ殿がそう言うなら……」

私と一之丞は、その集団に触れないようにこっそりと洋服を物色した。
恐らく、あの人だかりは次郎太と三左だろう。
目立つ容姿の彼らは、妙な妖術(魅力)で人を虜にするからね。
あれ、でも……そうすると、一之丞はどうなんだろう。
三匹の中でも、一番ファビュラスな顔面で海運王なのに、全然人が寄ってこない。
それどころか遠巻きで見られている。
本人があまり人型が好きじゃないから、それが出てるのかな?

「サユリ殿。適当に見繕ってくれまいか?」

考え事をしていた私の頭上から、バリトンボイスが降ってきた。

「えっ!?あ、うんうん。えーと、どれがいいかなー」

メンズコーナーの大きいサイズを適当に見ながら、何着か一之丞に合わせてみるけど、種類が少なく選択の余地はない。
着れて無難なものを探すしかなく、結局大きめの白のTシャツと、濃いブルーのサマージャケット、黒のスキニーパンツを選んだ。
更に靴は一之丞のサイズが大き過ぎた為、飾り気のない白のキャンバスシューズ一択。
一之丞は、下駄を欲しそうにしていたけど、仕事で履いていると煩くて仕方ないので却下した。

それらを持ってレジに向かうと、ちょうど次郎太と三左が選んだ洋服を抱えてやって来たのである。


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