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最終章 浅川池で逢いましょう
⑥哀しみと怒りは似ているか?
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「例えば、誰かを失ったり、別れたりした時に感じる虚無感とか、言葉にならない苛立ち……知らず知らずのうちに涙が出たり、心の中にぽっかりと穴が空いたような……そんな気持ちかな?」
感情を言葉にするのは難しい。
皆それぞれ、思うことは違うから。
だけど、父を失くしたとき自分が実際に抱いた気持ちを、私はそのまま四尾に告げた。
「失ったり、別れたり……苛立って……涙が……」
四尾は言葉を淡々と羅列した。
久遠の時を生きる彼には、人間が持つ情と言うものは理解出来ないかもしれない。
それが神に近い四尾と私達の違いで、越えられない境界線なのかと思った。
……でも、違った。
表情が無かった四尾に、だんだんと変化が表れた。
少し目尻を下げた彼は不遜な物言いのまま、私に尋ねた。
「……哀しみは怒りと似ているか?」
「うん。似てる。哀しくてやりきれない想いが暴力になることもあるよ……」
「そうか……では、私は哀しいのかも知れぬの……」
ポツリと呟く四尾は、一之丞に目を向けた。
それが何を意味するのか私にはわからないけど、一之丞は理解したように一つ頷き、次郎太と三左を見る。
すると、2人は水鉄砲の引き金を戻し、水の拘束から解放された四尾はストンと地面に着地した。
彼は暴れもせず、叫びもせず、ただ私達を交互に見てその場に佇んでいる。
静けさの中、最初に口を開いたのは一之丞だ。
「天狐よ。どうか教えてくれぬか?お主の哀しみの原因を……」
「知ってどうする?どうにも出来まい」
「かもしれぬ。だが、どうにもならぬ時は、誰かに相談すると良いのだそうだ!」
一之丞は腰に手を当て威張って言った。
あれ?どこかで聞いたな?
と、考えてすぐに思い出した。
それは病院で母が一之丞に言った言葉だった。
あの時、まだ一之丞は水神の玉のことを悶々と悩んでいて、誰にも頼れないと思っていたんだ。
でも今は、私を頼って信頼してくれている。
四尾だって、誰かに打ち明けられたら、心はずっと軽くなるに違いない。
「誰かとは……もしや、お前達ではあるまいな」
四尾は薄目をして私達を見た。
信用していない、という表情だ。
「我ら以外に誰か知り合いがいるのであろうか?とても友がおるようには見えぬが……」
「……なかなか言うのう……」
淡々と言った一之丞に、四尾が項垂れた。
確かにこんな性悪狐に腹を割って話せる友達がいるとは思えない。
だけど、それを面と向かって言う一之丞も結構すごいと思う……。
普通「友達いないよね?」なんて言えないわ。
「……我が友と呼べるのは、あるじさまだけじゃった」
四尾は数歩先の大岩にひょいと乗ると、前足を揃えてキチンと座った。
大きく尻尾を振っているのは私達を呼んでいるのだろうか?
カッパ達は顔を見合せると、私の周りを囲み、慎重に四尾の側に近寄った。
「心配せずとも、そのおなごに危害は加えん。それよりも、やっと話す気になった私の話を聞くが良いぞ?」
「負けたくせに態度でかーい」
三左は口を尖らせた。
きっと全員がそう思っていただろうけど、ちゃんと話すって言うんなら多少ムカついても我慢しなくては。
大岩の周りに座り込んだ私達は、聞く体勢を整えた。
「コホン。昔な、私は銀竜様の元で働いておった。いろんな場所へお供し、人々を助けて回った。だがある時、私は出雲の大神に呼ばれての?一時留守にしたのだ。そして、用事を済ませて帰ってみると、あるじさまは忽然と姿を消しておったのよ……」
感情を言葉にするのは難しい。
皆それぞれ、思うことは違うから。
だけど、父を失くしたとき自分が実際に抱いた気持ちを、私はそのまま四尾に告げた。
「失ったり、別れたり……苛立って……涙が……」
四尾は言葉を淡々と羅列した。
久遠の時を生きる彼には、人間が持つ情と言うものは理解出来ないかもしれない。
それが神に近い四尾と私達の違いで、越えられない境界線なのかと思った。
……でも、違った。
表情が無かった四尾に、だんだんと変化が表れた。
少し目尻を下げた彼は不遜な物言いのまま、私に尋ねた。
「……哀しみは怒りと似ているか?」
「うん。似てる。哀しくてやりきれない想いが暴力になることもあるよ……」
「そうか……では、私は哀しいのかも知れぬの……」
ポツリと呟く四尾は、一之丞に目を向けた。
それが何を意味するのか私にはわからないけど、一之丞は理解したように一つ頷き、次郎太と三左を見る。
すると、2人は水鉄砲の引き金を戻し、水の拘束から解放された四尾はストンと地面に着地した。
彼は暴れもせず、叫びもせず、ただ私達を交互に見てその場に佇んでいる。
静けさの中、最初に口を開いたのは一之丞だ。
「天狐よ。どうか教えてくれぬか?お主の哀しみの原因を……」
「知ってどうする?どうにも出来まい」
「かもしれぬ。だが、どうにもならぬ時は、誰かに相談すると良いのだそうだ!」
一之丞は腰に手を当て威張って言った。
あれ?どこかで聞いたな?
と、考えてすぐに思い出した。
それは病院で母が一之丞に言った言葉だった。
あの時、まだ一之丞は水神の玉のことを悶々と悩んでいて、誰にも頼れないと思っていたんだ。
でも今は、私を頼って信頼してくれている。
四尾だって、誰かに打ち明けられたら、心はずっと軽くなるに違いない。
「誰かとは……もしや、お前達ではあるまいな」
四尾は薄目をして私達を見た。
信用していない、という表情だ。
「我ら以外に誰か知り合いがいるのであろうか?とても友がおるようには見えぬが……」
「……なかなか言うのう……」
淡々と言った一之丞に、四尾が項垂れた。
確かにこんな性悪狐に腹を割って話せる友達がいるとは思えない。
だけど、それを面と向かって言う一之丞も結構すごいと思う……。
普通「友達いないよね?」なんて言えないわ。
「……我が友と呼べるのは、あるじさまだけじゃった」
四尾は数歩先の大岩にひょいと乗ると、前足を揃えてキチンと座った。
大きく尻尾を振っているのは私達を呼んでいるのだろうか?
カッパ達は顔を見合せると、私の周りを囲み、慎重に四尾の側に近寄った。
「心配せずとも、そのおなごに危害は加えん。それよりも、やっと話す気になった私の話を聞くが良いぞ?」
「負けたくせに態度でかーい」
三左は口を尖らせた。
きっと全員がそう思っていただろうけど、ちゃんと話すって言うんなら多少ムカついても我慢しなくては。
大岩の周りに座り込んだ私達は、聞く体勢を整えた。
「コホン。昔な、私は銀竜様の元で働いておった。いろんな場所へお供し、人々を助けて回った。だがある時、私は出雲の大神に呼ばれての?一時留守にしたのだ。そして、用事を済ませて帰ってみると、あるじさまは忽然と姿を消しておったのよ……」
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