1度っきりの人生〜終わらない過去〜

黄隼

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第伍話

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病院に運ばれた藍。
病院に着いてから、一回も目を覚ますことはなかった。毎日のように李逵都はお見舞いに来ていた。病院と海の家の距離はそんなに遠くはなかった。

-数日後-
萌香・大翔・日向・綾の四人は廊下を走った。藍の病室まで。
病室に行くと、藍が声を発することもなく、藍が四人の方を見るわけでもなく、ただ、ひたすらに天井をみあげ、寝ているだけである。
「藍。」
「藍。」
「藍ちゃん。」
萌香は藍の病室に行くと、藍の近くに名前を呼びながら手を握った。
日向は藍の名前を呼んで、窓側に行き、藍の顔を記憶するように、まじまじと見ながら、早く目を覚ますことを祈った。
大翔は藍の名前を呼ばずに病室に入りそのまま、病室の中にあるソファに座って、両手を握り藍が無事なことを早く目を覚ますことを誰よりも祈った。
綾は藍の名前を呼んで、萌香が握っている反対側の手を握った。
四人は泣いていた。(涙を流していた。)
ガラガラガラガラ
病室に入ってきたのは真登だった。
「みんなも来てくれたんだね。ありがとう。」 
「えっと…。」
日向は誰か分からなかった。
「もしかして、藍のお兄さんですか?」
萌香は間違っているかもと思いつつ、聞いてみた。
「うん。そうだよ。いつも、藍が世話になってるね。藍の友達には伝えておいた方がいいかな。ちょっと、話せるかな?」
「はい。」
日向以外はうなずいた。

四人が案内された場所は医者達が会議で使われているような所だった。
「じゃあ、皆座ってね。皆は飲み物、何がいい?」
「何もいらないです。藍の事について早く、教えてください。」
大翔が真登を急かした。
「じゃあ、適当に飲み物、持ってくるね。」
真登は烏龍茶を持ってきた。真登の後に医師が入ってきた。
真登は烏龍茶を全員分ついで、話し始めた。
「まず、最初に藍の担当主治医を紹介するね。」
「担当主治医?」
「そう。俺が担当になりたかったんたけど、家族が担当になることができないから、俺の同期のやつに主治医を頼んだんだ。」
「本当に迷惑な話だよ。もっと、上の人間に頼べばいいのに。」
「ごめんごめん。で、担当主治医の蒔田 奏也(まきた そうや)腕の良い医者だから。」
「蒔田奏也です。よろしく。で、藍ちゃんの事について教えると…。」
奏也は真登の方を見て、確認した。
「本当に教えてもいいの?」
「もちろんだ。知っておいてほしいからね。」
「分かった。」
改めて四人に向き直って、話を始めた。
「藍ちゃんが急に倒れたのは頭痛をしていたからだ。藍ちゃんが倒れた後に個人的に頭痛薬を買っていることが分かった。恐らく、頭痛に耐えられなくなり、倒れたのだと思う。病名までは教えられないのだが、症状というか現状なんだけど、今亡くなってもおかしくない状況に陥ってる。手術をして、成功すれば数カ月ぐらいは生きれる可能性がある。だが、手術をするにはケッコーなリスクがある。その為、現在は検討中だ。まぁ、藍ちゃんに決めてもらうことになると思う。」
萌香が急に話し始めた。
「なぜ、それを私達に話そうと思って下さったんですか?」
真登が答えた。
「それは藍から皆の話を聞いていたからだ。萌香ちゃんはいつも藍を見守ってくれて、面倒くさがりやなのに、真面目な性格。綾ちゃんは誰よりも真面目で可愛くて成績優秀だけど運動が苦手でとにかく優しい。大翔くんは藍と幼馴染で誰よりも藍のことを知ってくれていて、運動が得意で言いたい事を正直に言える性格で、藍が小さい頃から、一番慕っている男の子。日向くんは藍と同じ部活に所属していて、バスケが得意でよく1on1をしている。四人に共通して言っていた言葉があってそれは、『信頼できる』ってこと。だから、俺はみんなに話したかった。」
真登が話している最中、四人は一人ずつ目から涙が出てきていた。
次に真登が四人にお願いした。
「藍に今、奏也先生が言った事について皆の方から言ってくれないかな?」
真登は深々とお辞儀をした。日向が言った。
「もちろん、良いですよ。てか、今藍のお兄さんに言われた事を藍が亡くなる前に俺は伝えたい。」
大翔が言った。
「は?意味がよく分かんない。」
綾が言った。
「多分だけど、藍に言われてるだけじゃヤダから、自分の気持ちを伝えたいってことじゃないの?」 
日向が言った。
「その通り。よく分かってる。」
萌香が言った。 
「私も日向くんと同じ。」
「私も。」
「俺も。」
奏也が言った。
「じゃあ、よろしくね。で、何かあったら俺でも良いし、真登先生でも良いから教えてね。それじゃ。」
次に、真登が言った。
「話はおしまい。ありがとね。急に、話したいとか言っちゃって、ごめんね。」
「いえ、大丈夫です。」
四人は藍がいる病室の方に向かった。向かっている間は誰も話そうとしなかった。
病室の前に来ると、藍の話し声が聞こえてきた。(廊下にまで声がもれていた。)四人は立ち止まった。中で話している相手が男子だったから。
萌香がちょっとしたら、一歩踏み出して病室の扉を開けた。
藍は笑っていた。
「あっ!萌香。そうだ!紹介するね。海の家で一緒に働いてる李逵都くん。こっちは私の友達というか親友の萌香。」
「はじめまして。」
「はじめまして。」
「萌香の隣が綾で、その隣が日向くんで、その隣が大翔くん。」
「はじめまして。」
「「「はじめまして。」」」
全員の紹介が終わると、李逵都が藍に向き直り、言った。
「藍、俺そろそろ休憩終わるから帰るわ。また、来るね。それじゃ。」
李逵都は帰って行った。
萌香が藍に向き直り、真剣な顔で話した。
「藍。今から言うこと、よく聞いてね。藍は今亡くなってもおかしくない状態らしくてね、手術を受ければ長く生きられるようになるみたいなの。手術を受けて!」
「やっぱり、何かの病気だったんだね。最近、頭痛がひどかったんだよね。」
大翔は聞いた。
「頭痛はいつからしてた?」
「えっとね…、高ニになってから。手術か…。ちょっと考えさせて。」
萌香は藍に怒った。
「何でなの!頭痛がひどかったのに、病院に行かなかったの!どうして!あっ!ごめん。今日は帰るね。じゃあね。」
萌香は病室の扉を出た。
「萌香ちゃん⁉」
「萌香、俺はまだ藍の所にいるよ。」
「俺も!」
「分かった。早く、戻ってきてね。」
綾は萌香を追いかけた。
大翔と日向が藍の近くにあった椅子に座った。
「藍。早く、手術を受けてほしい!」
「ごめんね。私、手術を受けるのが怖いの。」
藍は肩が震えだした。
「萌香が言った事は私の為だって分かっててもすぐに答えを出すことはできない。ねぇ、手術を受けたら、来週の夏祭りって、行ける?行けるよね⁉」
「わかった!ちょっと、待ってて!」
日向が藍の病室を飛び出して行った。
「どうしたんだろうな。」
「だね。ひろちゃん、あのさ、ひろちゃんは私に手術、してほしい?」
「もちろん。俺さ、まだ、藍に伝えてないことがたくさんあるんだよな。だから、残りの限られた時間で、ゆっくり伝えたい。無理かも知んねぇけどな。」
「例えば?」
「は⁉」
「だから、伝えたいことの例えば?」
「それは今度、ゆっくりと二人のときに。」
「分かった。」
二人で話をしていると急に扉が開き、何かと思えば日向が戻ってきた所だった。奏也を引き連れて。
「藍ちゃん、もう、目が覚めたんだね。良かった。なんともないみたいだし。で、俺に聞きたいことって何?」
「えっ!聞きたいこと⁉じゃあ、その、手術した後は何年生きられるようになりますか?」
「藍ちゃんの場合、手術は抑制の部分になってくるから、短くて一ヶ月、長くて一年。亡くなるまでの期間は人それぞれだから、なんとも言えないかな。」
「手術をしたとして、来週の祭りに行けますか?」 
「う~ん。難しいかな。でも、手術をしないよりはしたほうが行ける可能性は高い。」
「ホントですか?」
「うん。」
「じゃあ、手術、受けたいです。皆ともっと、お話したい。まぁ、夢を叶えられないのは残念だけど。」
「分かった。でも、夢って⁉」
「私、中学の頃からの夢があるんです。それは、小児科の医者になることです。子供の命を全て助けてあげられるような医者に!えへへ。でも、もう叶えられないな。」
「そっか。ごめんね。変なこと、聞いて。」
「いえ。」
「じゃあ、手術の同意書を後で藍ちゃんのお兄さんと一緒に持ってくるからね。」
「分かりました。」
奏也は藍の病室を出ていった。
「ねぇ、どっちかにお願いがあるんだけど。」
「ん?」
「あのさ、海の家の私の部屋の中にかばんがあるんだけど、その中に入っているノートを持ってきてくれないかな?オーナーにはどっちかが私の荷物を取りに行くって通しておくから。」
「分かった。じゃあ、俺が行ってくるね。」
日向が名乗りを挙げて日向は病室をでて、海の家に向かった。
「ノートを取って来てもらってどうするの?」
「えっ⁉もちろん、捨てるよ。もう、要らないから。夢が無くなったも同然。あのノートがあったって、自分が辛くなるだけだから。」
「とうして!まだ、希望はあるじゃん!」
「希望⁉笑わせないでよ。希望なんてないよ。ひろちゃんには病人の辛さなんて分からないよ⁉」
「もちろん、分からないよ!病人の辛さや孤独なんて、知ってたまるか。だって、俺はまだ死なないから!藍はもうすぐで死んでしまうから俺と同じ感情なわけがない!」
大翔はちょっとキレてキツイ言い方になってしまった。
藍は何も言い返さなかった。藍の手の上には目から出てきた涙が一粒一粒落ちてきていた。
「ごめん。ひろちゃん。私…、私。」
大翔は藍の事を抱きしめた。
「もう泣くな!藍、俺こそ、ゴメン。あんな言い方して。でも、嬉しかった。藍の現在(いま)の気持ちを俺は知らない。だけど、現在(いま)思ってる事を話してくれて、嬉しかった。ありがとう。」
大翔と藍はお互いの顔をまじまじとみて、微笑み合った。傍から見ると二人は付き合っているようにしかみえなかったのだ。
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