25 / 34
第21話 逃亡者
しおりを挟む
しばし沈黙が続く。
クレスには考える時間が必要だ。
だから私は、ただ待った。
夜の冷たい風が頬を撫でる。
降り注ぐような満天の星空。
その淡い灯りの下、私は待ち続けた。
ぽつりと落とすように、クレスが呟く。
「イアルさんが、わからないよ。」
苦々しく漏れた声に、体が強張る。
わかってはいたけれど。
いつもの温かい声に慣れていた耳は、その声を拒絶しようとする。
「そんな一度に理解できないよ。」
無理もない。
こんな突拍子もないこと、簡単に受け入れられるはずがない。
でも、私にはクレスが必要だった。
「それでも、理解して欲しい。」
「何を理解するんだよ!」
突き放すように投げ捨てられた言葉。
「イアルさんは千年生きてて、山の姫の妹で、ただひとつのものの欠片で。俺も同じで、兄さんは俺のせいでまともに生きられなくて、イアルさんに殺されて。」
クレスは両手で顔を覆う。
酷いことをしている自覚はある。
それでも。
「クレス、私は。」
「もう無理。ちょっと時間ください。」
次の瞬間、目の前にいたはずのクレスが姿を消した。
「え?」
しばらく動けなかった。
クレスが、私と同じ力を使ったことに気づいたのは、少ししてから。
どこかへ転移してしまったのだ。
「そんなはずは。」
そんなこと、クレスはやったことはない。さっきだって王都からの一瞬の移動に戸惑っていた。精霊術でだって、できるのはせいぜい高速移動。見失うほどに存在位置をずらすことはできない。
今はとにかく、クレスを追わなければ。
私は頭に思い描く。
先程までいた、あの部屋を。
次の瞬間、目の前の光景が一変する。
「クレス!」
呼びかけるが、答えはない。
私が立つのは、王都にある事務所。
ヴィオンの遺体を保管していたあの部屋。
混乱したクレスのこと、とりあえずこの部屋に戻ったに違いない。
見渡すが、部屋には誰の姿もない。
クレスも、私を捕えようとしたマクザンも。
そして、横たわっていたヴィオンの姿も。
棺ごと遺体がなくなっている。
マクザンが運び出したのか。
あるいは。
堪え切れず、笑みが溢れる。
クレスはいない。
私の前から突然姿を消し、おそらくヴィオンの遺体を回収して、さらにどこか違う場所へ飛んだのだ。
私は彼に言った。
触れたものごと、どこへでも移動できると。
そして、私とクレスは同じ存在だと。
だからクレスは、私と同じ力を使ってみせた。
つまり。
「あの子、私の話を信じてる。」
ちゃんと、信じてくれている。
戸惑いながらも、受け入れてくれている。
今回が初めてではない。
孤独に耐えきれず、この身に起きている不可解を、幾度か他人に打ち明けたことがある。
誰ひとりとして、信じなかった。
クレスはヴィオンと共にどこへ行ったのだろう。
助けを求めるならば、誰のところだろうか。
「どこにいたって、見つけてみせる。」
ようやく見つけた、私の探し人。
クレスには考える時間が必要だ。
だから私は、ただ待った。
夜の冷たい風が頬を撫でる。
降り注ぐような満天の星空。
その淡い灯りの下、私は待ち続けた。
ぽつりと落とすように、クレスが呟く。
「イアルさんが、わからないよ。」
苦々しく漏れた声に、体が強張る。
わかってはいたけれど。
いつもの温かい声に慣れていた耳は、その声を拒絶しようとする。
「そんな一度に理解できないよ。」
無理もない。
こんな突拍子もないこと、簡単に受け入れられるはずがない。
でも、私にはクレスが必要だった。
「それでも、理解して欲しい。」
「何を理解するんだよ!」
突き放すように投げ捨てられた言葉。
「イアルさんは千年生きてて、山の姫の妹で、ただひとつのものの欠片で。俺も同じで、兄さんは俺のせいでまともに生きられなくて、イアルさんに殺されて。」
クレスは両手で顔を覆う。
酷いことをしている自覚はある。
それでも。
「クレス、私は。」
「もう無理。ちょっと時間ください。」
次の瞬間、目の前にいたはずのクレスが姿を消した。
「え?」
しばらく動けなかった。
クレスが、私と同じ力を使ったことに気づいたのは、少ししてから。
どこかへ転移してしまったのだ。
「そんなはずは。」
そんなこと、クレスはやったことはない。さっきだって王都からの一瞬の移動に戸惑っていた。精霊術でだって、できるのはせいぜい高速移動。見失うほどに存在位置をずらすことはできない。
今はとにかく、クレスを追わなければ。
私は頭に思い描く。
先程までいた、あの部屋を。
次の瞬間、目の前の光景が一変する。
「クレス!」
呼びかけるが、答えはない。
私が立つのは、王都にある事務所。
ヴィオンの遺体を保管していたあの部屋。
混乱したクレスのこと、とりあえずこの部屋に戻ったに違いない。
見渡すが、部屋には誰の姿もない。
クレスも、私を捕えようとしたマクザンも。
そして、横たわっていたヴィオンの姿も。
棺ごと遺体がなくなっている。
マクザンが運び出したのか。
あるいは。
堪え切れず、笑みが溢れる。
クレスはいない。
私の前から突然姿を消し、おそらくヴィオンの遺体を回収して、さらにどこか違う場所へ飛んだのだ。
私は彼に言った。
触れたものごと、どこへでも移動できると。
そして、私とクレスは同じ存在だと。
だからクレスは、私と同じ力を使ってみせた。
つまり。
「あの子、私の話を信じてる。」
ちゃんと、信じてくれている。
戸惑いながらも、受け入れてくれている。
今回が初めてではない。
孤独に耐えきれず、この身に起きている不可解を、幾度か他人に打ち明けたことがある。
誰ひとりとして、信じなかった。
クレスはヴィオンと共にどこへ行ったのだろう。
助けを求めるならば、誰のところだろうか。
「どこにいたって、見つけてみせる。」
ようやく見つけた、私の探し人。
0
あなたにおすすめの小説
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる