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第20話 ただひとつのもの
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「救う、て何なんだよ。」
クレスは力無く呟く。
「不幸だなんて、勝手に決めるなよ。兄さんは一度だって、自分のこと不幸だなんて言ってないよ。」
「あなたこそ、勝手に決めてる。ヴィオン・ユラフィスが幸福だって。」
そう、勝手だ。私も、クレスも。ヴィオンの心の内は、ヴィオンにしかわからない。
もしかしたら彼自身にだって、理解できないかもしれないのに。
それでも私には、彼の死が必要だった。
「あなたの力はとても強い。ヴィオンの時を動かすには、あなたの世界の外に出る必要があった。でもあなたの世界は驚くほど広がっていた。」
ヴィオン・ユラフィスはクレスを連れて旅をしていた。このエコテト中に、クレスの世界は広がっていた。
でも。
「あなたは、エコテトの外に出たことはなかった。」
燃え盛る山と、凍える海。その狭間に広がる祝福された大地エコテト。
それがクレスの世界全てだった。
「私は彼を、アラヤミの果ての大地へ連れて行った。それだけで良かった。」
稀代の精霊術士。精霊の愛し子。まともに戦えば、まず勝ち目はない。
精霊達は彼を守る。
でもその加護も、押し寄せる時の流れの前には無力だ。
「彼は本来の時間を取り戻し、力尽きた。」
一瞬だった。
目の前で干からびていく英雄は最後、言葉もなく地に伏した。
彼は何故自分が死んだのか、理解できただろうか。
「それで、救ったって言えるのか。あんな姿で。」
「あんな死もあるんだよ。ある日突然山肌と共に降りてくる死もあれば、隣に寄り添ってゆっくりと染み込んでくる死もある。死からは誰も逃げられない。」
クレスは叫ぶ。
「じゃあ、あなたは何なんだよ。どうして、あなただけが特別なんだよ!」
「私はね、《ただひとつのもの》の欠片だよ。」
ただひとつのもの。
神話に語られる、世界のはじまり。やがてアラヤザとアラヤミの二つに分かれる、原初のもの。
だが、エコテト神話集に載らなかった数々の神話の中に、別の創世神話がある。
「《ただひとつのもの》は万物を作り出す、世界の母。アラヤザとアラヤミを生み出したもの。孤独を知り、世界に溶け込むことを選んだ創造主。」
たくさんの命と世界を創り上げた《ただひとつのもの》は、自分だけが異質で、愛しい世界とともに歩めないことに気づいてしまった。
そして、その孤独から抜け出すために、《ただひとつのもの》であることを止めた。
「世界に溶けた《ただひとつのもの》は時に色濃く、誰かに現出する。そして、その誰かが世界の変化を強く願う時、その力が形を成す。」
訳もわからず、時の流れに逆らい続けた私が辿り着いた答え。
私は、《ただひとつのもの》のかけらなのだ。
「クレスくん。あなたもそう。私達は世界を思い描くことができる。でもそれはね、信じないといけないの。心の底から、そうあるべき、と信じないと。」
でも、過ごしてきた日々が、吸い取ってしまった知識が、それを阻む。
「ヴィオンの亡骸と共に、私はエコテトに帰ってきた。あなたの世界に帰ってきたのに、彼が生き返ることはなかった。あなたと直接会っても、駄目だった。五十年前とは違う。あなたは知ってしまったから。人は死ぬということ。」
一度染み込んでしまった世界の常識は、簡単には拭い去れない。
死んだ人間は蘇らない。取り返しがつかない。
でも。
「大切な人にもう一度会いたいと願うのは、そんなにおかしいことなの?」
強く願うのに、叶えられない。心のどこかで否定する自分がいるのだ。
そんな愚かなことを考えるな、と。
それでも、諦めたくない。
だから求めた。
疑いようのない、眼前の奇跡。
そしてそれを成すために必要な、許しがたい悲劇。
クレスにとって、それはヴィオンの死。大事な家族との永遠の別れ。
だからこそ、彼は、彼の世界の常識を壊すだろう。
「あなたが願うなら、必ずヴィオンは蘇る。」
その奇跡を目の当たりにする時、私の常識は壊される。
そして、今度こそ姉を取り戻す。
私自身の力で。
クレスは力無く呟く。
「不幸だなんて、勝手に決めるなよ。兄さんは一度だって、自分のこと不幸だなんて言ってないよ。」
「あなたこそ、勝手に決めてる。ヴィオン・ユラフィスが幸福だって。」
そう、勝手だ。私も、クレスも。ヴィオンの心の内は、ヴィオンにしかわからない。
もしかしたら彼自身にだって、理解できないかもしれないのに。
それでも私には、彼の死が必要だった。
「あなたの力はとても強い。ヴィオンの時を動かすには、あなたの世界の外に出る必要があった。でもあなたの世界は驚くほど広がっていた。」
ヴィオン・ユラフィスはクレスを連れて旅をしていた。このエコテト中に、クレスの世界は広がっていた。
でも。
「あなたは、エコテトの外に出たことはなかった。」
燃え盛る山と、凍える海。その狭間に広がる祝福された大地エコテト。
それがクレスの世界全てだった。
「私は彼を、アラヤミの果ての大地へ連れて行った。それだけで良かった。」
稀代の精霊術士。精霊の愛し子。まともに戦えば、まず勝ち目はない。
精霊達は彼を守る。
でもその加護も、押し寄せる時の流れの前には無力だ。
「彼は本来の時間を取り戻し、力尽きた。」
一瞬だった。
目の前で干からびていく英雄は最後、言葉もなく地に伏した。
彼は何故自分が死んだのか、理解できただろうか。
「それで、救ったって言えるのか。あんな姿で。」
「あんな死もあるんだよ。ある日突然山肌と共に降りてくる死もあれば、隣に寄り添ってゆっくりと染み込んでくる死もある。死からは誰も逃げられない。」
クレスは叫ぶ。
「じゃあ、あなたは何なんだよ。どうして、あなただけが特別なんだよ!」
「私はね、《ただひとつのもの》の欠片だよ。」
ただひとつのもの。
神話に語られる、世界のはじまり。やがてアラヤザとアラヤミの二つに分かれる、原初のもの。
だが、エコテト神話集に載らなかった数々の神話の中に、別の創世神話がある。
「《ただひとつのもの》は万物を作り出す、世界の母。アラヤザとアラヤミを生み出したもの。孤独を知り、世界に溶け込むことを選んだ創造主。」
たくさんの命と世界を創り上げた《ただひとつのもの》は、自分だけが異質で、愛しい世界とともに歩めないことに気づいてしまった。
そして、その孤独から抜け出すために、《ただひとつのもの》であることを止めた。
「世界に溶けた《ただひとつのもの》は時に色濃く、誰かに現出する。そして、その誰かが世界の変化を強く願う時、その力が形を成す。」
訳もわからず、時の流れに逆らい続けた私が辿り着いた答え。
私は、《ただひとつのもの》のかけらなのだ。
「クレスくん。あなたもそう。私達は世界を思い描くことができる。でもそれはね、信じないといけないの。心の底から、そうあるべき、と信じないと。」
でも、過ごしてきた日々が、吸い取ってしまった知識が、それを阻む。
「ヴィオンの亡骸と共に、私はエコテトに帰ってきた。あなたの世界に帰ってきたのに、彼が生き返ることはなかった。あなたと直接会っても、駄目だった。五十年前とは違う。あなたは知ってしまったから。人は死ぬということ。」
一度染み込んでしまった世界の常識は、簡単には拭い去れない。
死んだ人間は蘇らない。取り返しがつかない。
でも。
「大切な人にもう一度会いたいと願うのは、そんなにおかしいことなの?」
強く願うのに、叶えられない。心のどこかで否定する自分がいるのだ。
そんな愚かなことを考えるな、と。
それでも、諦めたくない。
だから求めた。
疑いようのない、眼前の奇跡。
そしてそれを成すために必要な、許しがたい悲劇。
クレスにとって、それはヴィオンの死。大事な家族との永遠の別れ。
だからこそ、彼は、彼の世界の常識を壊すだろう。
「あなたが願うなら、必ずヴィオンは蘇る。」
その奇跡を目の当たりにする時、私の常識は壊される。
そして、今度こそ姉を取り戻す。
私自身の力で。
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