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第4話 アラヤミの巫女
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「こんな偶然あるんだなぁ。」
「これは、私も予想外。」
私達がいるのは、目的地であった海の神殿、その一角にある事務所の応接間。質素だがよく手入れされた部屋には、私とクレス、そしてもう一人、銀髪の少女がいた。
「妹達が大変お世話になりました。」
深々と頭を下げる少女は、先ほど助けた姉妹の姉だった。
「私はこの神殿の巫女を務めます、アルムと申します。」
歳の頃は17、8。腰までの長い髪を一つに束ね、白を基調としたこの国の伝統的な装束に身を包んでいる。透き通るような白い肌に、整った顔立ち。切れ長の目には紫色の瞳が輝く。凛とした佇まいの美しい少女だった。
偶然助けた少女達は、海の神殿を代々守り継ぐ神官の娘達だったのだ。
「本来であれば、父と母がお迎えすべきところを、私のような若輩者で申し訳ありません。生憎、今日の選別の儀式のため、二人とも出払っておりますので。」
「こちらこそ、お忙しいところに申し訳ありません。」
「とんでもない。妹達を助けてくださったこと、感謝してもしきれません。せめて、こちらでゆっくりとお過ごしください。今回の儀式の観覧者で、街はどこも人で溢れていますから。」
アルムは苦笑する。
「こちらも落ち着けないかもしれませんが。」
神殿は儀式の準備で大賑わいだ。
今も窓の外は人が行き交い、時には怒号が飛んでいる。
そこでクレスがおずおずと手を挙げながら、疑問を口にする。
「あの、選別の儀式って何をするんですか?継承の儀式っていうのと関係しているんでしょうか?」
アルムは驚いたように目を丸くする。
無理もない、まさか継承の儀式を知らない者がいるとは思わなかったのだろう。
だが、客人に対して失礼と思ったのか、すぐに取り繕って元の微笑みに戻る。
「ご説明しましょう。どうぞ、こちらへ。」
アルムに促されて、部屋を出る。
廊下を進みながら、アルムは語り出した。
「継承の儀式は、神話の時代から続く神事です。燃え盛る山アラヤザと凍てつく海アラヤミに捧げられる、祈りと供物の儀式。百年に一度、それぞれの神殿で執り行われます。百年前には山の神殿で。今回はここ、海の神殿です。」
廊下の先は吹き抜けとなっていて、緩やかな螺旋階段が伸びていた。その階段横には、一階と二階にまたがる巨大な壁画が描かれている。
それは神話のひと場面を描いたもの。左上には燃え盛る山、右下には凍てつく海。そして背中合わせで、それぞれに祈りを捧げる、二人の少女。
絵画の前でアルムは立ち止まり、私達を振り返る。
「神話の時代、まだ生き物達が平原に閉じこもっていた頃。平原を出ようとした生き物達を、アラヤザもアラヤミも許さなかった。それを鎮めるために、人間の王は娘である2人の姫を遣わしました。それが山の姫と海の姫。姫達は役目を果たし、許された生き物達は外の世界へと旅立った。その習わしが今でも続いているのです。」
壁画には、姫達の結末は描かれてはいない。
すなわち、姫達が何を捧げたのか。
「選別の儀式は、継承の儀式に先立ち行われます。海の姫がその伴侶を選び、皆に披露する儀式です。」
「ああ、結婚式か!」
クレスの明るい声に反して、アルムの顔が曇る。そのことに気づいたようで、クレスは気まずそうに言葉を繋げる。
「違うのかな?何だか、嬉しくなさそうですね。」
「いいえ、そうですね、結婚式と言えると思います。」
アルムは言葉を続ける。
「次に継承の儀式が行われます。代々の姫達に受け継がれる役目。荒れ狂う山と海を鎮めるという使命を引き継ぐのです。
かつて供物に選ばれた人の王の二人の娘と同じように。神話と同じ方法で。」
「ちょ、ちょっと待って。」
クレスは青ざめた顔で叫ぶ。
「神話と同じ?だって王の娘達は。」
エコテト神話に語られる、姫達の結末。
【供物に選ばれたのは人の王の二人の娘。
一人はアラヤザの荒ぶる火口へ。
一人はアラヤミの渦巻く海原へ。
その身を捧げ、怒りを鎮めた。】
「神話は今も続いています。」
感情のない無機質な声。
「海の姫は今宵、その伴侶を選びます。そして明朝。」
アルムは静かに告げる。
「二人はその身を、凍てつく海へと捧げるのです。」
「これは、私も予想外。」
私達がいるのは、目的地であった海の神殿、その一角にある事務所の応接間。質素だがよく手入れされた部屋には、私とクレス、そしてもう一人、銀髪の少女がいた。
「妹達が大変お世話になりました。」
深々と頭を下げる少女は、先ほど助けた姉妹の姉だった。
「私はこの神殿の巫女を務めます、アルムと申します。」
歳の頃は17、8。腰までの長い髪を一つに束ね、白を基調としたこの国の伝統的な装束に身を包んでいる。透き通るような白い肌に、整った顔立ち。切れ長の目には紫色の瞳が輝く。凛とした佇まいの美しい少女だった。
偶然助けた少女達は、海の神殿を代々守り継ぐ神官の娘達だったのだ。
「本来であれば、父と母がお迎えすべきところを、私のような若輩者で申し訳ありません。生憎、今日の選別の儀式のため、二人とも出払っておりますので。」
「こちらこそ、お忙しいところに申し訳ありません。」
「とんでもない。妹達を助けてくださったこと、感謝してもしきれません。せめて、こちらでゆっくりとお過ごしください。今回の儀式の観覧者で、街はどこも人で溢れていますから。」
アルムは苦笑する。
「こちらも落ち着けないかもしれませんが。」
神殿は儀式の準備で大賑わいだ。
今も窓の外は人が行き交い、時には怒号が飛んでいる。
そこでクレスがおずおずと手を挙げながら、疑問を口にする。
「あの、選別の儀式って何をするんですか?継承の儀式っていうのと関係しているんでしょうか?」
アルムは驚いたように目を丸くする。
無理もない、まさか継承の儀式を知らない者がいるとは思わなかったのだろう。
だが、客人に対して失礼と思ったのか、すぐに取り繕って元の微笑みに戻る。
「ご説明しましょう。どうぞ、こちらへ。」
アルムに促されて、部屋を出る。
廊下を進みながら、アルムは語り出した。
「継承の儀式は、神話の時代から続く神事です。燃え盛る山アラヤザと凍てつく海アラヤミに捧げられる、祈りと供物の儀式。百年に一度、それぞれの神殿で執り行われます。百年前には山の神殿で。今回はここ、海の神殿です。」
廊下の先は吹き抜けとなっていて、緩やかな螺旋階段が伸びていた。その階段横には、一階と二階にまたがる巨大な壁画が描かれている。
それは神話のひと場面を描いたもの。左上には燃え盛る山、右下には凍てつく海。そして背中合わせで、それぞれに祈りを捧げる、二人の少女。
絵画の前でアルムは立ち止まり、私達を振り返る。
「神話の時代、まだ生き物達が平原に閉じこもっていた頃。平原を出ようとした生き物達を、アラヤザもアラヤミも許さなかった。それを鎮めるために、人間の王は娘である2人の姫を遣わしました。それが山の姫と海の姫。姫達は役目を果たし、許された生き物達は外の世界へと旅立った。その習わしが今でも続いているのです。」
壁画には、姫達の結末は描かれてはいない。
すなわち、姫達が何を捧げたのか。
「選別の儀式は、継承の儀式に先立ち行われます。海の姫がその伴侶を選び、皆に披露する儀式です。」
「ああ、結婚式か!」
クレスの明るい声に反して、アルムの顔が曇る。そのことに気づいたようで、クレスは気まずそうに言葉を繋げる。
「違うのかな?何だか、嬉しくなさそうですね。」
「いいえ、そうですね、結婚式と言えると思います。」
アルムは言葉を続ける。
「次に継承の儀式が行われます。代々の姫達に受け継がれる役目。荒れ狂う山と海を鎮めるという使命を引き継ぐのです。
かつて供物に選ばれた人の王の二人の娘と同じように。神話と同じ方法で。」
「ちょ、ちょっと待って。」
クレスは青ざめた顔で叫ぶ。
「神話と同じ?だって王の娘達は。」
エコテト神話に語られる、姫達の結末。
【供物に選ばれたのは人の王の二人の娘。
一人はアラヤザの荒ぶる火口へ。
一人はアラヤミの渦巻く海原へ。
その身を捧げ、怒りを鎮めた。】
「神話は今も続いています。」
感情のない無機質な声。
「海の姫は今宵、その伴侶を選びます。そして明朝。」
アルムは静かに告げる。
「二人はその身を、凍てつく海へと捧げるのです。」
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