魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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第七章

一炊の夢14

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 ひょろ長が床に置いていったランプの淡い光のお陰で、まさに今、ハゲを殴りましたというようなポーズの男がよく見えた。
 そして目の前の黒衣の男が魔王であると青年にはすぐに分かる。
 その声なのか雰囲気なのか、とりあえず膝近くまである黒い長髪といえば、直近で魔王しか思い浮かばない。

「え、魔王さま。何してんですか?」

 まさか来るとは思っていなかったと、青年は思わず目を疑う。

「なっ、こちらの台詞だ。人が心配して様子を窺っていれば」

 魔王は青年の上でのびているハゲの襟首を引っ張り上げると、ぺいっと脇へ寄せた。

「何を考えて」

 そこまで言ってから、魔王は「あぁ」と何か気まずそうな顔をして、咳払いをする。

「……カミルラすまん。思わず、そうは言うが見ていられなくてだな」

 まるで話しかけるように魔王はそう言って、また青年に向き直った。

「だが流石にこれ以上は……なに?」

 そしてやはり、まるでカミルラがこの場にでもいるかのように語りながら、青年の手首を拘束していた縄を魔力で燃やし切った。

(あ、魔王さま。そんなことも出来たのか)

 いつもは結界や移動といった攻撃的ではない力を使う姿しか見ていなかったので、青年はちょっと意外に思う。

「だからすまん。本当にすまん。ちょっと待て、頼むそれは困る」

 そのまま青年の足に手をかけ、ジャラジャラとした拘束をまるで手品のように解いた。

「魔王さま」

 青年は再度声をかけてみるが、魔王はこちらへチラッと視線を寄越して「少し待て」と言うと、また視線を反らした。

「そうか。さすがだな」

 そして自身が羽織っていた外套を青年にかけ、そのまま彼を横抱きに持ち上げる。
 しっかりとした腕とその胸板の感触に、青年は少しほっとして、いやまだ終わってないと、すぐに気を引き締めた。

 ようやくそちらの話が終わったのか、やっと魔王とまともに目があった。そして会口一番に

「まったくお前はおかしな事ばかりして、なぜ私をさっさと呼ばない。お陰でこっちは手をこまねいて」

 怒ったような困ったような顔でこちらを責めて来たので青年はカチンと来た。

「はい? 魔王さまこそこっちの状況わかってたんなら、てかなんで分かって……」

 イェンから貰った魔晶石はとうの昔に捨てられた。
 そこから追って来たのかとも思ったが、先程からの発言を考えるに、おそらく此方をずっと見ていたに違いない。
 でも何故と考えてハタと思い出す。

(まさか、これか!?)

 青年は街中での事を思い出した。
 すっかりその存在を忘れていたが、首には魔王から貰った紫色の魔晶石をかけたままだ。今もまだ服の下に隠れている。

「さては魔王さま。この石、この石でこっちの様子見てましたね」

 服の下から石を取り出して青年が言う。

「ん? 確かにそうだが、なんだお前その存在を覚えていたのか?」
「今思い出しました。今! てかすっかり忘れてた。いや、思い出せなかった……? いったいなんなんですか、これ」

 考えてみればイェンの魔晶石はすぐにバレて捨てられたのに、この魔晶石に関してアイツらは気付いた素ぶりすらなかった。どう考えたっておかしい。

「その石には人の意識から外れるまじないを付加してある。……いやそのなんだ。お前から目を離すと大概ろくなことにならないのでな。なるべく様子を見ておけるようにと思って……お前がそれに気付くと外しそうだからと、そうならぬようにと……いや私も悪いとは思ったんだ。勝手に普段の様子を見ようなど、だが今回はほら、結果良かっただろう?」

 だんだんしどろもどろになる魔王に、青年は冷ややかな目線を送った。

「へぇ、それで何もせずただただ見てたと、ふーん?」
「すまん遅くなった」
「本当ですよ」
「すまない。私はすぐに助けだしたかったのだが、カミルラがもう暫く様子を見たいと、いっそ本拠地を突き止めて一網打尽にしたいと言うものでな」
「一理ありますね」
「そうなんだ」
「この機を逃したくないと」
「まさに」
「それでぐうの音も出なくなったんですね」
「だがその代わり、お前が助けを呼んだらすぐに中止だと条件をつけた」

 青年は「あぁそれで」と先ほど魔王が言っていた「なぜ呼ばなかった」の意味を理解した。

「なぜ私をすぐに呼ばないんだ」

 魔王の少し悲しさと苛立ちを含んだ声を聞き流して、青年は既に先のことに頭がいっていた。

「魔王さま。そういうことなら俺、ここに残りますよ」
「……なんだって?」

 意味を理解しかねたのだろう。何を言っていると顔に書いてある。

「俺もカミルラ様の考えに賛成です。そこでのびてるハゲもまだ起きないし、今なら誤魔化しが効く。このまま残って」

「なんだお前たち、まだここにいたのか」

 すると今度は突然、出入口から女性の声が響いた。彼女は中に入るなりハゲを見つけると「まだ残っていたか」と言って、手早く拘束する。
 彼女は赤毛のポニーテールを揺らしてこちらへ向き直った。

「それで、お前たちはまだここにいるのか? まぁ好きにすればいいが、こちらは」

 青年は思わず「カミルラ様!?」と驚きの声を上げた。

「久しいな。およそ五日ぶりか」

(五日?)

「もう一通り抑えたぞ。あとはこちらで都合よくやらせて貰う」

 青年がもう一度「カミルラ様」と言いかけたところで、魔王の声が割って入った。

「悪いが先に行くぞ。彼女も心配している」

 その瞬間突如として景色が薄暗い地下から、眩しい緑の景色に変わった。
 外に出たらしい。目の前には農村でもそれなりに立派な屋敷だ。
 外の光になれてくると、その屋敷の外で赤い服装に赤い髪、緑の瞳の女性達が数人、捕まえた奴らをそれぞれに見張っていた。その中の一人がこちらへ気付いて駆け寄って来る。

「魔王さま!」

 見覚えのある姿に青年は「あ!」と声を上げる。あの甘味処で働いていた彼女だ。

「良かったご無事だったんですね。ロワさま」

 魔王以外で初めてロワと呼ばれていささか不思議な感覚だ。彼女に名前を教えた覚えはないが、きっと魔王たちの誰かが教えたのだろう。
 彼女は店でのエプロン姿ではなく、他の女性たち同様、真っ赤な衣服を着ている。

「なんで君がここに?」

 すると彼女は姿勢を正して、ふわっと微笑む。

「実は私、以前までカミルラさま率いる軍で働いてたんです。けどどうしても今のお仕事がしたくって、辞めてからは情報収集のお手伝いを、今回は無理言ってついてきちゃいました」

 頬をかいて照れくさそうにそんなことを言う。

「えぇそうだったの?」

 ということは、もしや。

「ごめん。俺カッコつけてあの時かばっちゃったけど、もしかして迷惑だった?」

 すると彼女は両手を振って

「まさかそんなこと! 私むしろ向いてなくて! 殴ったり蹴ったりすると人じゃなくて壁を壊しちゃって、きっと巻き込まれてたら足手まといになってました」

(か、壁を壊す?)

 彼女は謙遜しているが、時と場合によっては実はすごく戦力になる気がする。

「彼女もずっとお前のことを心配してくれていたんだ」

 確かにあの状況で心配しない方がおかしい。
 それと同時に魔王に横抱きにされたままの状態で、女性の前にいる事に今さら気付いて恥ずかしくなってきた。

「なんかみっともない姿でごめんね」
「いえ全然! それより怪我でもされたんですか? それならあちらで」
「いや怪我とかは全然してないんだよ」
「本当ですか?」
「ほんとほんと全然まったく、なんだけど……」

(全然まったく離してくれそうにないんだよなぁ)

 抱き上げる腕はびくともしそうにない。

(崖から落ちた時も暴れないと離してくれなかったしなぁ)

 どうしたものかと思っていると、魔王が口を開いた。

「ティナ、すまないが私たちはもうこの場を離れる」
「はい、魔王さま。ロワ様に会わせていただきありがとうございました」

 彼女は笑顔でそう言った。
 青年は「ありがとう」と返そうとして、今度はどこかの屋敷の一室に切り替わった。

「え、ここは?」

 
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