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第二章

躓く石も縁の端08

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「――全く、ほとほと困りましたね」


マールに使いを頼んでから直ぐに、ハクイは直属の家来からの報告を受け、問題の庭園に来ていた。
庭園は報告の通り、ある種族にいいように荒らされている。
草木は倒れ、枯れ、踏み潰され、庭師が毎日愛情を込めて美しく丁寧に手掛けた、芸術品とも言える庭は、もはや見る影もない。
その犯人達を目にとめ、ハクイは深い溜め息とともに、片手で頭を押さえた。

その犯人とは

「ハハハ皆みろよ。魔族のハクイ様が御出座しだ」
「クスクス本当ね本当ね。相変わらず真っ白だわ。きっと頭の中も白いのよ」
「みろよ。変な顔で頭を抱えているぞ」

見かけは魔族や人間と大差なく見えるが、その耳や目尻は鋭く尖り、背中には大きな蝙蝠のような真っ黒な翼が不気味にはためく。

「あぁ? なんだアイツあそこから動きゃしねーぞ?」
「きっと悪魔の私たちに怖じ気づいたのね」
「魔王の右腕もたいしたことねーな」

犯人はそう、悪魔だった。それも子供の悪魔が12人ほど。
悪魔たちはクスクスクスクスと笑っている。
ハクイはもう一度深い溜め息をつくと、腕を組んで顔をあげた。

「貴方達、ここが何処か知っての狼藉ですか?」

すると悪魔の子供たちは互いに顔を見合わすとドッと笑った。

「ウフフ聞いた聞いた? 何処か知って? ですって」
「聞いた聞いた狼藉ですってよ」
「ここは何処か? 何処か知らない訳がない」
「ここは魔族の城の庭園さ」
「知ってるから来たんじゃねーか」
「知ってて来たから草木も綺麗なお花もぐちゃぐちゃなのよフフフフフ」

あるものは飛び回りながら、あるものは木の上から、クスクス笑う声がこだまする。
その悪魔たちを警備兵たちが追い払おうとするが、完全に遊ばれていた。
ハクイは頭が痛くなった。

「お前達もういい、ここはわたくしに任せて庭を片付ける準備でもしてなさい」
「は、はい!」

言われて警備兵たちは慌てて思い思いに散る。

「まっったく情けない。はぁもう。……貴方達、いったいなんの用です。ただ悪戯をしに来ただけならただでは帰しませんよ」

悪魔たちは庭を荒らすのをやめ、みなハクイの方を見る。

「やあね、ハクイ様ったら怒らないでよ。私たち魔王が人間を飼い始めたって聞いたから本当か確かめに来ただけなんだから」
「人間に挨拶しようと思って」
「そうそう。偵察して《エル様》に報告するんだ」

「……偵察ね」


ハクイは呆れた顔をした。


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