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第二章
躓く石も縁の端21
しおりを挟む――カツ、カツ、カツ
パタパタ、パタパタ
燭台に取り付けられた蝋燭の火がうっすらと灯る薄暗い廊下に、白の魔族と灰の魔族、二人の足音だけが静かに響く。
ふと、後ろを歩いていた灰の魔族が白の魔族に話しかけた。
「あの、ハクイ様」
「なんですマール」
ハクイは歩く速度を緩めた。
「あの、オレ。これからもお使いに行っていいですか?」
マールはハクイの顔色を伺いながら怖ず怖ずと聞く。
「なんだそんな事ですか」
ハクイの白くたおやかに伸びた髪に明かりが反射し、淡く輝く。
「問題ありません。最初からそのつもりでしたよ。お前はまだ邪気も色濃く出ていませんし、《あちら》に詳しいだけでなく、赤ん坊にも詳しいようですから、揃えるべき必要な物もわかるでしょう」
「有り難うございます」
(良かった。これで手紙を渡しに行ける)
マールはホッと胸を撫で下ろした。
彼のズボンのポケットには、青年から預かった手紙がしっかりと入っている。
そんなマールを横目でチラリとハクイは見た。
(あの人間を連れてくる必要はなかったかも知れない)
赤ん坊やあの青年にたいする態度をみていても慣れがみてとれた。
この小さな魔族はハクイが思っていた以上に人間に詳しいらしい。
もしそうと知っていたならハクイは青年など連れて来ず、まずマールに声をかけていただろう。
と言っても赤ん坊を一人育てるのに母親でも大変なのだからマール一人に出来る事は少なかったであろう、だがそんな事は魔族であるハクイには分かる筈もない。
そして、ハクイがマールの事をよく知らないのも無理はない、何しろ二人はつい最近知り合ったばかりなのだから。
「お前は、ここに来るまで何処で何をしていたんです?」
「……え?」
あきらかにマールは戸惑いの色をみせる。
「お前も知っているかもしれませんが、魔族の赤ん坊は泉に預けると、数日もせぬ間に必ずそこから姿を消すのです」
「えっと、その」
「別に言いたくないのなら構いません。皆そうです。ここに来るまでの事を言いたがらない。そして長く生きるうちに、自分が何処から来て何をしていたのか忘れてしまう。だからと言って気になりはしません。わたくしもそうです。きっとわたくしもここに来たばかりの頃は、自分が何処で何をしていたか言わなかったのでしょう。それが何故なのか今ではさっぱり分かりませんが」
マールはハクイを見上げた。
「それで、いいんですか?もしもオレが悪い奴だったら?」
「構いません」
ハクイは顔色一つ変えずそう言った。
「大事なのは過去ではなく、これから何をなすかです。例えこれから行う事がわたくし達に害をなそうとも、それをどうにかするだけのすべを、わたくし達は持っている。何も恐れる事はない。それに……」
ハクイは足を止め、マールに向き直る。
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