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第三章

名は体を表す04

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魔王は支度を終え、青年と赤ん坊を侍従に任せて、丁度迎えに来たハクイと共に部屋を後にする。
細長い廊下を歩きながら、これから行われる会議での議題など大まかな事を頭に入れて

(そういえば、何故少年あれは早朝から会議これがあると知っているんだ?)

ふと疑問に思ったが、そうか身支度を手伝ったあの者が教えたのだろうと、何か引っ掛かりつつも、直ぐに頭の中から消えていった。



「――よしよし、行ったか」

青年は魔王を見送ると、赤ん坊を片手に抱いてお茶を啜る。
さほど大きくはない丸テーブルの上には朝食が並んでいた。
サラダのような物とポタージュに見立てたスープとパン。
焼かないとかなんとか言っていたのに魔族はパンは食べるのか? と、基準が分からんと多少疑問に思ったが、これを誰が用意したのか直ぐに察した事で疑問が晴れた。

「これ昨日飲んだのと同じ奴だ」

甘酸っぱい爽やかな香りが鼻を擽り、眠気覚ましに丁度いい。少なくとも俺は好きだと青年は思う。
そう言えば昨日の晩。風呂に入る前、部屋に運ばれた食事もそうだったのかも知れない。
結局全て食べきれないで終わってしまったが。何しろ疲労がピークで、体調がある意味最高に悪かった。どれぐらいかと言うと魔王に助けを求めるぐらいには。
まぁでも悪い事をした。あとでマールあれに会う事があったら謝っておこう。
などと青年が思っていると、ずっと立って様子をみていると思った侍従が、テーブルの向かいに椅子を持って来て座った。
予想外の行動に青年ははてさてと次の行動を待つと、気付いた侍従がニコッと笑う。
そして青年の腕に抱かれた赤ん坊に手を伸ばして軽く頭を撫でた。

「おはよう赤ちゃん、元気そうで何よりだ」

その言葉遣いに青年はピンと来た。
そしてその容姿を確認して、やはりと思う。
おさげの黒髪に。ちょっとノリが軽そうな優男。緑を基調とした装い。
昨日ボロボロに疲れはて、部屋を出て行った魔族に似たようなのがいた。
他の三人は畏まって出て行ったが一人だけ「赤ちゃんまたね」と軽い調子で出て行った。間違いないあの者だ。
多分魔王やハクイよりか年下で、見た目だけなら歳のわりに若く見える青年といい勝負といったところか。
と言ってもこの魔族も青年なんかよりずっとずっと長生きなのであろうが。

「昨日はあれからちゃんと休めたか?」

青年から声をかける。するとおさげ髪の男はきょとんとしたが、おかしそうに「お陰さまで」と返した。


「こうやって話すのは初めてだね人間のかた、僕は《イェン》宜しく」


彼の両耳に下げた金と赤色の耳飾りがシャランと音をたて揺れる。



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