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第四章
塞翁が馬09
しおりを挟む「うっ」
「っ父さん……!」
最後に父と話してから、日の出を三十と四つ数えた頃、父は再び目を覚ました。
慌ててあの水をと立ち上がりかけて、父に引き止められる。
もう、いいんだ。と父は弱々しく首を振り、何かを探すように痩せ細った手をさ迷わせた。
まさかと思い、その手をそっと両手で握り締めると、父はほっと息をつく。
「いたか」
「父さん、目が?」
「……あぁ見えんらしい」
思わず父の手を強く握り締める。
私はもうダメだと言い、誰か分からないくらい弱りきった姿が、もうどうにもならない現実を、自分につきつけた。
「息子よ。聞いてくれ」
苦しそうに、掠れた声で。
「私が死んだら、お前は、森の向こうへ」
何故そんな事を、森のむこうには魔族が、そう言いたかった。だが、掠れた声でなんとか話すその姿に、言葉がでない。
「お前は、人間ではない」
言われた事が、すぐ理解出来なかった。
「私は、本当の父親ではないんだ」
「………と、父さん。何を言って、大丈夫?」
「頼む。聞いてくれ」
困惑する俺をよそに、父は語った。
妻と息子を亡くし、そして俺をあの泉で見付けた事。そして息子として育ててきたなかで、俺が人間ではないと、気付いた事を。
信じられなかった。信じたくなかった。
だって俺は、俺は人間だ。
父さんと同じ、人間のはずだ。
手が震えた、父の手を握る自身の両手が震える。
何か言おうとして開いた唇が震える。
「以前お前に、幸せか聞いたな」
父さん。
「私もだ。私もお前に、ユミトに出会えて、幸せだった」
父さん。
「お前は私の《希望》だったよ」
『有り難う』と穏やかに言い、握る父の手から力が抜けていく。
「……とう、さん?」
暫し待っても返事はない。
「そんな、父さん……父さん!」
父に触れようとしたその時、玄関の扉が激しい音をたて蹴破られた。
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