魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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【 未 来 】

魔王と先王【上】

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「お前に貞淑を求めた私が馬鹿だった」


 なんと言う事はない、ちょっと外に出て黒の魔族を引っ掛けただけだ。だがいつの間にそこにいたのかその男は剣呑な眼差しで腕を組み呆れたように声をかけてきた。

「ええーと、あっれぇやだなぁなんでいんの?」

 夜の街のいわば多少如何わしい界隈の路地裏に誘い込みまんまと壁に追い込まれ、さてこれからが本番だと魔族の首に腕を回したところでその存在に気付いた。
 その魔族の直ぐ後ろにいたのだ。長く美しい黒髪に真っ赤な瞳を持つ我らが魔王さまが。

 いや、俺の夫が。

「問いたいのは私の方だ。何故ここにいる? そして今何をしているんだ?」
「ただの挨拶だって、男の嫉妬は見苦しいぞ」

 引っ掛けた魔族の男が異変に気付き魔王の方を振り返ろうとした。とっさに頭に手を回して無理やり止める。

「悪いな邪魔がはいった。気にしなくていいからさ、例のの事教えてくれない?」

 だが魔族は後ろを気にし、目の端でその人物を捉えると、俺の手を振り切って「冗談じゃない」と顔を真っ青にして逃げる。

「お、おい!」

 呼び止めようと声を出した時には男の姿は小さくなっていた。

「あーあ、逃げちゃったじゃんか」

 思わず頭をかきながら恨めしげに魔王を睨む。いつもならこれで多少狼狽えてくれる男なのだが、今回はそうはいかないようだ。彼にしては珍しく冷ややかな眼を向けてくる。

「自業自得だ」
「そう怒るなよ。ちゃんと理由がー」

 全て言い切る前に魔王は深いため息をこぼすと

「分かっている理由があるのだろう? 女の子がどうした」

 こめかみを抑えてそう言った。


「さすが魔王さま話しが早い! 実は――」



*********



 ――いかにも貴族の家といった大きな邸宅で、真っ昼間から亭主の怒声が響いた。

「な、なんだ貴様ら!?」

 断った使用人の言葉を無視して、厚かましくも正面から堂々と邸宅へと上がり、家の奥へと次々に入り込む銀の騎士達。

 そして

「ちょっとお邪魔させて貰いますよ。

 その中央で偉そうに、けれど高貴さをもった青年。
 頭の上で一本に束ねられた艷やかな髪が黄金に輝く。

「な、き、貴様は。い、いえ、で、殿下がいったいこのような場所に何用で?」

 取り繕うようにヘラヘラと笑い、ゴマをするように手を擦る貴族の男。

「何用もかにようも、貴族の邸宅にはやはり立派な地下があると、特にここは一際だと以前から耳にしておりまして、是非拝見賜りたく参上したしだいです。そうだよな? ん?」

 青年の背後から男が一人引っ立てられる。

「さ、さようです」

 それはあの如何わしい界隈にいた。黒の魔族だ。その魔族を目に止めると、僅かながら亭主の眉が寄る。

「はて、なんの事ですかな? わたくしは有所正しき“人の貴族”です。こんな見窄らしい、ましてや魔族など知りもしませんが」

 この期に及んでしらを切ろうとする亭主に青年は微笑する。

「昨今魔族との交流が盛んになり、その邪気が人間を脅かす可能性が解消されつつあるなか、その“人間”には“あらざる力”に目を付け、まだ年端もいかぬ少年少女を特殊な枷で縛り売買する者がいるとか」
「そ、それは、なんて恐ろしい。いったい何処の誰が」
「おまけに秀でた魔力のない者は鬼畜なやからの慰み者にされているらしい。確かに魔族は人間と違い中々老いない。見目も人と殆ど変わらず、その若さと美貌を永遠と楽しめるとなれば求める外道もいるというもの」
「な、なんの事やら」 

 亭主の顔は見るからに青くなっていく。それでもまだしらを切るつもりのようだ。


もう面は割れていますよ」


 青年が微笑むと亭主の背後から現れた銀の騎士がその身柄を確保し、青年の背後から現れた騎士が早口に報告する。

「フィン王殿下! やはり地下に軟禁されていたようです! 怪しげな術が施されておりましたが無事解除し、全員救出いたしました! おそらく魔族の力を借りて術を施していたのかと」
「良くやった」
「はなれには客らしき者が何人かおりましたので捉えておきました」
「そうか、何処かに帳簿などもあるだろう証拠という証拠を徹底的に押さえろ」

 はっ!と返事をすると足早にその場から姿を消す。
 亭主はいよいよその顔を真っ青どころか紫にして「私ではない何かの間違いだと」喚く。

「何故だ。何故、王国騎士団が我が屋敷に……おのれ貴様! 貴様がフィン王殿下であるものか! 例えそうだとしても既に王の席を退いた身で、いや魔族の王なぞに嫁いだ身でありながら何を偉そうに! 今の貴様になんの権限がある!? もはや“我ら人の国”とは関係ありますまい! 何故今更しゃしゃり出る!?」

 もはやしらを切るのをやめ、吹っ切れたかのうに喋りだす。無礼だぞと騎士団が静かにさせようとした時、フィン王殿下と呼ばれた青年がパン、パンと手をゆっくりと叩いた。

「貴様は様々な勘違いをしている」

 青年は凛然として語る。

「先程、“我らが人の国”と言ったが、それは人間だけの事を言っているのか? だとしたら間違いだ。そもそも魔力をもつ“人”を魔族といい、私達、魔力を持たぬ“人”を人間と言うのだ。貴様はそれすらも分かっていない」

 私達は同じ“人”だ。
 魔族と人間で優劣などありはしない。

「そして、何よりも滑稽なのが今のわたしに権限が、権力が、地位が、全くないと思っている事だ」

 亭主は何をハッタリだと嗤ったが、青年の落ち着いた態度にみるみると顔色を変え冷や汗を流す。

「確かにわたしは表舞台からは退いたがそれは表向きのもの、この新たな王国騎士団を結成し、今も裏から動かしているのはこの“わたし”」

 それでもなお亭主は歯向かう。王国騎士団は王国の騎士である筈なのに何故魔族の味方をするような真似をすると

「お忘れのようだが、魔族の領土と人間の領土、合わせての国土」

 青年、いや先王が身を翻すと艶だって揺れ動いた長髪が黄金に輝く。間際空色の瞳だけを此方にむけて。


「一つの国である事を夢々忘れぬように」


 ついでに言うとわたしは“嫁いだ”のではなく“婚姻を結んだだけだ”と言って、あでやかに微笑した。


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