伯爵令嬢、溺愛されるまで~婚約後~

うめまつ

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ウドルの答

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やっぱり洗ってやろうと思ったら綺麗に洗って今日は来た。

偉いなぁ、こいつは。

またいない間に寝てるけど。

……いや、近衛のエースだから誰かに洗わせたのかも。 

どっちだろうね。

シーツは換えたらしい。

近寄ってすんすんと匂ってみた。

ハーブと混ざってやっぱり血の匂い。

なぜかいつも。

こいつが怪我してる様子はないから余所から移ったんだろうな。

俺も血の匂いは嗅ぎ慣れた。

嫌な記憶だ。

怪我した女性や自分のこと。

鼻の奥から口の中まで、どろっと錆び臭く感じた。

何となく手が頬の傷を撫でる。

胸の辺りがギリギリ締まる感じで気分が悪くなった。

こいつから視線を外して壁にかけた絵姿と手のひらサイズのキャンバスを眺めた。

本当なら俺が買えるような安い絵姿じゃない。

貴族様や裕福な商家が買うような豪華で綺麗な色彩。

裏にはあの貴族様が俺への感謝の言葉を書いてくれた。

“百合の妖精姫を救った大樹の巨人、英雄ウドル殿へ捧げる”だって。

大袈裟だ。

しかも貴族様は名前を書いて指輪の印蝋も。

こっそり来たのに名前を書いていいのかと尋ねたら俺の人となりを知りたかったからと答えた。

それだけのためにこんな夜中に王子宮の中庭に忍び込むのか。

外国の貴族様は変わってる。

ボケッとする俺に含み笑いだった。

怪しさは感じるけど穏やかな優しいおじいさんな見た目の貴族様に不安はなかった。

歳の割には姿勢が良くてきびきびした物腰。

頼りがいのある態度のせいなのか、眼差しはお姫さんより婚約者に似ていた。

あいつのにも同じように書いていたけど読めない俺には教えてくれなかった。

思い出しながら絵姿のお姫さんを見つめた。

アイスブルーと濃い銀髪。

色がとっても綺麗だ。

本人にも似てる。

見た目は子供か少女みたいだったのに。

動くと妖精みたいな不思議な魅力がある令嬢だった。

固く苦しかったわだかまりがほっとやわらぐような、ずっと側にいたくなる感じだった。

隣の婚約者より小さい女の子だ。

思わず、ふっと笑みがこぼれる。

全然似てない。

婚約者に似てると言っていたけど金に近い狐色の髪と緑の瞳。

ドレスが似合いそうなくらいの綺麗な顔の婚約者。

何を間違えて似てると思ったのか。

厳つい大男、灰色の目、栗毛の髪だ。

おまけに顔には口の端から頬までデカイ傷。

少し口の端がペラペラに隙間が空いてるから言葉も上手く出ない。

舌も少し切れている。

でもあのご令嬢の言葉はすんなりと信じられる。

この方に似てると言われて光栄だと素直に思う。

「やっぱり行きたいか?」

「ン?あ、起きタ」

うつ伏せてたのがいつの間にゴロンと仰向けに。

「庭師に雇ってもらいてぇか?」

絵姿を指さしてやっと分かった。

「イイ」

首を横に振った。

もう充分。

毎日、絵姿とキャンバスを見て小さな刺繍のハンカチを持ち歩くだけで満足した。

遠い国の貴族様だから。

言葉も分からないし。

「宛が出来たから行けるぞ」

かもしれないと言わず、はっきりと。

俺は毎日、庭の手入れだけなのに。

それがとてもすごいことだとは分かるけど、行くつもりはない。

昨日、頼まれた匂い消しを作ろうと壁からドライハーブを取る。

「お前は相変ワラず、スゴいなぁ」

作業しながら背中越しに感心したと話し続ける。

「でも、行かナイよ」

「行けよ、あのじいさんなら裏から手を回せる。すぐに鳥、で、うぶっ!ぶはっ!げほっ!」

「ゴメン、デモ、しーっ」

手が届かずに口にハーブの先を突っ込んだ。

贈り物だけじゃなくていつの間に鳥の連絡手段を。

あちらの外交官と近衛が繋がるなんて。

公に出来ない連絡のやり取りをするなんて内通を疑われてしまう。

きつく睨むと気まずそうに目をそらした。

やっぱり分かってるんだ。

こいつが分からないはずない。

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