人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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見舞い

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「彼の所属はそちらです。お調べはそちらに頼みます。こちらは手が足りません」
取り調べと監視に人手を割かれているからだろう。
一礼して扉に向かうとまたひとり、報告に男があらわれてペリエ嬢が起きて暴れていると告げた。
ご婦人の一人が叩かれ見張りに暴言を吐いていると言う。
「拘束具を、いや、娘を呼ぶと脅せ。それでもやかましいなら本当に呼べ。好きにさせろ。あれはまだ怒ってる」
「最高ですね!分かりましたっ」
満面の笑みで報告の男が廊下を走って戻っていく。
「ふん、ざまぁみろだ」
私の前に立つ案内の男が呟いた。
「エヴ、嬢は今どこに?」
呼び捨てにと思ったが立場を考えていつも通り敬称をつけた。
「取り調べを手伝ってるはずです。貴族の女ばかりなのでそいつらの相手です。奥様のアマゾネスがいれば良かったけど本邸の守りに残ってます」
「アマゾネス?」
「五人だけですが、奥様は女だけの部隊をお持ちなんです。なんたって戦闘好きのワルキューレですからね。旦那様と同じく中型をひとりで殺れます」
「そんな技量があるのか?ワルキューレの混血だが、その御身は人族と聞いていた」
「能力の発現はないけど戦闘気質なんですよ。めっちゃカッコいいですよ。昔、副団長だったんで、もと先輩ですし、自分は後輩です」
誇らしげに胸を張る。
「奥様がいらっしゃれば最初からあんな女どもの好きさせませんよ」
「頼もしいご仁なのだな。どうにも女相手に男だけでは手も足も出せん」
「まあ、それはそうですね。乱暴にするわけにもいかないし、お嬢様くらい身分が高いんでしょ?」
「エヴ嬢がひとつ上の位だ。血筋は向こう。王家の血が流れている。大公が陛下であられた時から全貴族の中で最も溺愛されている。公爵令嬢だが王家のプライベートへの出入りも自由で、大公の妹か娘のような扱いから回りは王家の末姫と呼ぶ」
「うわぁ、揉めそうですね。そんな姪っこばっかり可愛がってたら普通は嫁がキレますよ」
「お妃の頃から大公夫人は何も仰らない。今は諸外国を旅行されてご不在だ」
「それ、愛想尽かされてますね」
当時を知るわけではないが、先の陛下のシスコンは有名でそんな中、無理やり嫁がせたお妃だ。
男児をひとり産んだら用済みとばかりに陛下から冷淡な扱いを受けて離宮にこもって子育てに専念された。
大公が陛下であられた時、華やかな社交界にはペリエ嬢の母親に当たる妹を連れて喜んでいたそうだ。
あそこまで溺愛すると何か良からぬ関係かと勘ぐられていたが、あの方はマザコンでもあったので母親そっくりの妹を好むのも回りは納得していた。
それに、近くていい嫁入り先をと我が家かパティ家を指名されて、一応番のいない全ての親族に面通りさせた。
誰も獣化しなかった我が家は断ったがパティ家は王家の縁続きなると喜んでいたそうだ。
以前、ペリエ嬢の母親から、本当はグリーブスが良かった、番ならロマンチックだからと言われたことを思い出した。
その代わり娘を嫁にとはしゃいでうるさかった。
10年の諦めの悪さに何かと思ったら、血の薄い末端のグリーブスはゆっくり獣化すると耳にしていたから、今までこんなにしつこかったのか。
そのことに気づいたら思わずため息をこぼした。
直系の私ならあり得ない。
と言いたいがこの歳まで獣化しなかったことに、自分自身も血が薄いのかと疑った。
いつまでも獣化しないと血筋を疑われたが父親そっくりの見た目をして人狼特有の最大魔力と豪腕は発現していたので血縁かどうかの疑いは一族から笑い飛ばされた。
それに同族はお互いの匂いだけで分かる。
「どうかしました?」
「いや、彼女らの付きまといを思い出したら頭が痛くなった」
「ああ、ご愁傷様です」
それからすぐに、部屋はこちらですと扉を開けた。
「あ、団長」
「ラウルも来ていたのか。動けるのか?」
「杖をつけば、隣からここまでなら平気です。リーグにいくつか術式かけてやろうと思って」
顔の半分は包帯で覆われ、片腕は折れているようだ。
添え木を付けて首から吊り下げている。
寝台の端に腰掛けて、包帯が巻かれた片手はリーグの手を握って光っていた。
「痛みが半減したはず。これで少しは意識もはっきりしますよ。おい、リーグ。聞こえるか?」
ぼんやりしていたリーグの目が動いた。
「う、」
「しゃべらなくていい。それだけ顔が腫れたら口も動かん」
原形を留めないほど顔が腫れて誰か分からない。
顔の骨は折れていないと聞いていたが怪しく思えた。
ゆっくりした瞬きに頷き返すと目を柔らかく細めた。
ラウルがリーグの額に紙を置いて術式を移した。
「話したいことがあればその紙に言葉が乗ります。リーグは文字、かけたよね?頭に文章を思い浮かべればいい。やってみて」
薄く歪ながら、ありがとうと文字が浮いてきた。
「勉強が役立ったな」
そう言うと口許が歪んだ。
笑ったのだろうが引きつって痛みに苦しんでいるように見える。
『おれ しっぱい ひとじち らうる まきこんだ』
一気に流れて消える文章を見つめた。
「それは俺が説明するから」
『ありがとう』
浮いた言葉にラウルが気にするなと声をかけた。
「朝方、暗いうちに副団長のもとへ二人で向かったんです。そしたら暗がりから襲われて俺は相手をどうにか出来たけど、リーグが捕まって、その時に右腕をダガーで刺されました」
「見るぞ」
かけた薄いシーツをはぐと、裸の姿と手足には包帯が巻かれ、胸や腹にも湿布の臭いのする当て布がある。
見える肌には殴られた内出血の跡が目立った。
「報告を聞いてはいたが予想よりひどい」
「腕は深くえぐられているので治りがどうなるか分からないと医師が言ってました」
右手と両足の包帯には血が滲んでいた。
「俺も失敗です。リーグがいたぶられるのを見せられて舜巡した隙にここをバッサリ切られました」
包帯の上から顔の横を指でつぅっとなぞった。
「こっちの耳が半分になりました」
目は無事ですと淡々と話す。
「あいつら、てか、あの女騎士が俺をクレインの田舎令嬢って言ってましたよ。俺のどこが女だって言うんだ、あのやろう」
「怒るのはそこか」
「ふん、何もかも気にいらねぇが、性別を間違えられたのが特に気に入らない。馬鹿かっての。この両陣合わせて若い娘はエヴ様だけだ。ちょっと調べれば分かるのに。こっちは何のために隠してたんだか」
「それは私も思う。盗んだ私信からクレイン辺境伯のご令嬢としか分からなかったとは言え、」
本当に何のために両団に箝口令を敷いて存在を秘匿したのか分からない。
「見掛けから一般の女兵士と思い込んでいた」
「所作や態度もです。令嬢らしくないって。あのくそ騎士の話しぶりから俺かエヴ様に当たりはつけてたらしいですよ。名前違うのに。それも偽名か何かだって決めつけて。馬鹿だろ、あいつら」
頬を押さえて呻いたので、サイドテーブルに置かれた手拭いを絞って渡した。
「冷やせ。お前も顔が腫れてしゃべりにくいのだろう」
「どうも、でも喋り足りない。話を聞いてもらいますよ」
「お前もか。主人そっくりだ」
「エヴ様に?なんで?」
「昨日、話を聞けと絡まれた。報告したろう?」
夜中の影送りを思い出して、ああ、あれねと答えた。
案内の者は仕事に戻ってここには私達だけだ。
「能力を使いこなしてヤン達を押さえたりと手に終えない。封印はいつ出来そうか?」
顔を寄せて小声で尋ねた。
「まだ無理ですね。先日試したけど次の日には弾かれました。封印は置いといて押さえる方向に変えます。下位種くらいに押さえられたらまだましかと」
細かい術式を話し出したが、全く分からない。
「待て、専門外だ。分からん」
「話していると考えがまとまるんで聞いてください」
「はあ?やめろ、おいリーグ」
思わずリーグに助けを求めた。
『むり きつい』
「あ、そうだよね。うるさくてごめん」
リーグには腰が低い。
『ごめん みず』
「わかった、待ってろ」
ラウルがサイドテーブルのポットに片手を伸ばした。
その隙に楽しそうに目を細めて瞼を二度しばたたかせた。
気を効かせたらしい。
「ん?おい、リーグ。うまくいったってなんのことだよ」
口にポットの先を向けていたラウルが不思議そうに問う。
よく見たら額の紙に濃い文字で浮いている。
「う、く、い、いてぇ」
目を白黒して呻いた。
「やばい?は?何が?」
次々浮かぶ文字を読んで首を捻った。
「この術式も変わってる。便利だな。他に、そうだな。会話の他に何に使える?」
「取り調べかな、文字が分かる奴限定だからあまり意味、…リーグ、何を隠した?」
やぶ蛇だった。
ラウルの後ろから黙って手を合わせて申し訳ないとして見せた。
「だんちょう、あほ?んん?何のことなの?」
「悪い、話をそらすのにリーグは気を利かせたんだ。悪気はない」
「ああ、なんだ。別にそのくらい気にしないのに。で、水いるの?」
『いる』
はいはいと笑って口に挟んでポットを傾けた。
「怪我人のラウルが世話するわけにはいかんだろう?世話人は?」
「あ、そうそう。男と女、どっちにするか聞こうと思ってたんだ。俺は仲のいい賄いのおばちゃんに頼んだけど」
紙に『???』がいくつも浮いている。
「聞いてからって思ったんだよ。年取ってても女性から世話されんの嫌がる奴もいるし、男でもスミスさんみたいなのが来たらヤバイだろ?最近、妙な趣味が流行って信用なんねぇ」
目を見開いて一気に単語が溢れて大きさも濃さもバラバラだ。
むちゃくちゃに溢れる文字に内容が分からない。
「まさか、自分は関係ないと思ってんの?こういうのは気を付けるに越したことはないんだよ。誰でもいいってんならおばちゃんに頼んどくよ。用事は済んだし団長、そろそろ出ましょうか」
了承したリーグを見たらさっさと寝台から降りようと動き出した。
「嫌みたいだぞ」
額の紙に指をさしてラウルに告げると振り返って嬉しそうに笑った。
「うん、本当だ」
「うっ、くう!いっ」
盛大に顔をしかめている。
『さびしい』
『いやだ』
『まだ行かないでほしい』
『ばれた』
『恥ずかしい』
すごい早さで濃い文字が浮いては消えてを繰り返す。
「初めて見る。面白い」
術式として面白いし、本音がただ漏れのリーグが楽しい。
「気分がいいな、そんなに俺達のこと好きなんだ」
「うう!」
紙にラウルと私が好きだと浮いている。
尊敬してる、憧れていると様々な敬う言葉が一緒に点滅するように浮いたり消えたりと。
「隣におばちゃんを待たせてるからもうひとり世話人を頼んでくる。すぐ戻るよ。待ってな」
言うが早いか杖を掴んでさっさと部屋を出て行った。
「く、そぉ、い、てぇ、ううっ」
恥ずかしくて顔を真っ赤にしている。
額の紙を落とそうと首を振ったが張り付いているらしく痛みに苦しんだだけだった。
「暴れるな」
取ってやろうと引っ張るが取れない。
「だめだ。張り付いてる。ラウルに頼むしかないぞ、これは」
代わりに予備で置かれた手拭いを紙の上に置いた。
「便利だが、駄々漏れを我慢するか意志疎通を優先するか悩む」
パチパチと瞼の合図を見せた。
礼だろうか。
真っ赤な顔でふーふーと荒く息をして必死で深呼吸している。
「ふーっ、すうううっ、ふーっ」
落ち着いた頃にラウルも戻ってきた。
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