人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

文字の大きさ
161 / 315

激怒

しおりを挟む
「団長は今日、私をいじめたんです。だから知らんぷりするんです」
「んんん?」
「番に堪えきれず、だそうです。怒ったエヴの仕打ちに少し溜飲が下がりましたが。私はそれでもまだ受け入れがたくてついエヴの味方をしています」
しらっと冷たい目線で私を見据え、エヴの頭を撫でた。
エヴ達が言うが早いか、ざっと椅子から立ち上がってジェラルド伯へ頭を下げた。
私達の様子にこちらを振り返ってじっとりと頭を下げた私を観察している。
「説明をよろしいですか?グリーブス団長」
「はい」
顔を上げると、こちらに意識を向けるジェラルド伯にエヴは幸いとばかりに、対面から横向きに座り直して篭の中の小さな赤い実を食べていた。
時折、手を上げたロバート殿の口にも運んで笑っていた。
昨日、街道の整備帰りに一緒に食べた果物だった。
やり過ぎたせいで隣にいられなくなってのは後悔している。
「はっ!まさか、またか?!」
何か答えようと口を開く前にジェラルド伯が弾けたように叫んだ。
「番に、堪えきれずとは、まさか!またうちの娘に!ああ!だからグリーブスは嫌なんだ!」
しばらく固まっていたジェラルド伯が地団駄を踏んで叫んだ。
「エヴを蛙のようにひっくり返したり、色魔のような真似をされたとか。穏便なエヴが怒るのだから大概なことをされたのでしょう」
腰に下がった剣の柄を握りしめて大股で目の前に立った。
「色魔だと!そんな手荒に扱ったのか?!何も知らないおぼこ娘に!」
「申し訳ありません!」
「お父様、どうかしました?」
「エヴ!何をされた!この男に!」
「う!くっ!」
がっと胸ぐらを捕まれてぽかんとするエヴの前に引きずられた。
ロバート殿は驚くことなく上げていた手を下げてエヴを囲い、父親のジェラルド伯の激昂した様子を眺めている。
「何ってなにが?」
ジェラルド伯が一度、深呼吸をして気持ちを整えると私を放りエヴの肩を掴んで尋ねた。
「グリーブス団長の、何が嫌だったんだ?なぜ怒った?」
尋ねられるとエヴは顔をしかめて口許が歪ませた。
しばらく考え込んだあと口を開いた。
「…アモルみたいに精力注ぐし、ひっくり返したり、身体を、潰したりするから、嫌で、怒りました」
「潰す?上に乗ったのか?」
しかも色魔のようにだと、と声を絞り出して唸った。
顔を真っ赤に、エヴの肩から手を離して拳を強く握りしめて震えている
「…乗って足を押して身体を無理やり身体を折るし苦しいし。蛙みたいにする」
「…蛙みたいに、はっ!」
何のことか気づいて勢いよく顔をあげてこちらを射殺さんばかりに睨む。
ああ、本当に立つ瀬がない。
「怖いって言ったのに。精力なしに触るから意味ないし。何でするのって聞いたら守護持ちでも出来る夜のお世話だって。あれは結婚したら当たり前のことだって言うけどすごい息苦しくてキツかった。奥さんになったら、皆ああやってお務めをするの?お母様も?お父様もお母様に?」
自身を抱いてぶるっと身体を震わせると嫌悪感に顔をしかめながらジェラルド伯を見つめた。
パキンと金鳴りを立てジェラルド伯が即座に腰ベルトから鞘ごと引き抜いた剣を真上から私に打ち下ろす。
腕に特別強い強化をかけてデカイ衝撃音と共に受け止めた。
「うちの娘に!いらんことを教えた上に手まで出しおって!耽美主義やら自由恋愛などと言う汚らわしい享楽主義に踊らされた王都で、最もただれた下半身と有名な節操なしが!クレインの愛娘を戯れに扱うなど許さんぞ!」
腕に痛みはないが、心がぐさりぐさり抉られる。
知ったことかと平気で番の身内を蹴散らす一族もいるが、爵位が上のジェラルド伯に、しかもエヴの愛するお父上に失礼は出来ない。
自分の堪え性のなさと爛れた性生活が招いた結果と頭を下げた。
腕で止めたことも、失敗のように思えた。
守護の紋やオーガのダリウス程ではないが頑丈な人狼だ。
無謀に思えても強化なしに無抵抗で今の一撃を受ける方がまだ反省の態度を示せたように思う。
「お父様?急に何?」
「父上はエヴがいじめられたと聞いてお怒りなんだよ」
「ええ?」
「ヤンとダリウスにもお怒りになるよ」
「あの二人がか?何をした?」
ふう、ふうと肩で息をして二人に意識が向く。
「手以外から精力を与えたと。その時に過剰に抱き締めて苦しめたり上に乗ったりして苦労したと聞きました」
「どこにいる!?」
淡々と告げるロバート殿の言葉にますます激昂し、怒りの勢いに抜刀して怒鳴った。
「ラウルのところだけど、二人のことはもう怒ってません。私から叱りました。でも団長はまだダメ」
「怒ってるね」
「壁に蹴飛ばしたからもう許さなきゃと思うけど」
「は?蹴飛ばした?」
ジェラルド伯が怪訝にエヴを見つめた。
「怒って寝台から壁まで蹴飛ばしました。頬を叩いたし。…お兄様、私、やり過ぎですか?やり過ぎな気がしてきました」
「寝台にまで上がり込んだのか。いや、待て、壁に蹴飛ばしただと?エヴが?」
ジェラルド伯がぎょっとした。
エヴは父親のそんな反応を不安そうな表情で伺う。
「壁に?頬も?」
ロバート殿も目を丸くして、ジェラルド伯と二人で私の顔を凝視し、ますます目を丸く見開いた。
蝋燭のぼんやりとした明かりでかなり見づらいようだが、片頬はじんじんと痛み腫れているはずだ。
時間がたって先程より熱を持っている。
「…失礼しました。その頬の腫れはエヴがしたとは思わなかったもので」
「…娘が一矢報いていたようですね。…考え及ばす、失礼しました。…反対の頬と比べれば、かなり腫れてるので冷やさなくてはいけませんね。何か持ってこさせましょう」
ジェラルド伯が納刀し、部屋の隅にある吊り下げのベルを引こうと足を向ける。
「いえ、構いません。自身の不遜な行いがエヴ嬢を怒らせたので、許しがあるまで全て仕置きとして受け入れます。手当ても必要ありません」
「いや、何にしろ怪我の放置はよろしくありません。お気になさらず」
ジェラルド伯がこちらの意向を無視してベルを鳴らしてた。
「エヴ、鏡を持ってきて団長に怪我をお見せしなさい」
ロバート殿がエヴを促すと寝室から手鏡を持って戻って、私へ鏡面を向けた。
「おおっ、」
思ったより腫れている。
しかもよく見れば開いたパーの形で手形が浮いている。
「明るいところだと手形が目立ちますよ。さすがに、お立場によくありません」
「…そうですね」
ロバート殿の忠告に大人しく首肯した。
「まさか、壁に吹っ飛ばされたとは。私やヤンにするように脛を蹴ったくらいかと。それでも充分不敬なのですが、申し訳ありません。軽く見ておりました」
ロバート殿が頭を下げる様子にエヴが祈るように両手を握って私達のやり取りを見つめている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

処理中です...