人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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貴人牢へまた向かっている。
もう近寄ることはないと思ったのに。
持ってきた蝋燭を見張りに渡してからノックをし扉の小窓を開ける。
覗くと真っ暗な部屋の中で椅子に座ったペリエ嬢が見えた。
「こんばんは」
「カリッド様、なぜこちらへ?」
夕刻前に会った時とは全く違う落ち着いた態度で小窓越しにこちらを見つめている。
「少し、お話をしたいと思いまして」
「…今さら」
ラウルの術式の影響か、興奮することもなく初めて冷たく顔を背けて拒絶の意思を表す。
「雰囲気が変わりましたね」
「…いつまでも、追いかけるほど子供ではありませんわ」
「今の方が会話がしやすくて助かります」
「嫌味ですの?」
「いえ、ただそう思っただけのことです」
ふん、と不機嫌に鼻を鳴らす音が聞こえた。
「それで、何のご用かしら?わざわざ、私を笑いに来られましたの?」
気丈に言い返すが、声を詰まらせて今にも泣きそうだ。
「いいえ、ただ様子を見に来ただけです。しかし、こうやってお話しすると、なぜこうも変わられたのか知りたい。あれ程、私に、」
「やめて!仰らないでください!あんな、みっともないことを、」
みっともないこととはどれのことか。
心当たりが多すぎる。
それより適当に話題を繋げて様子を見てみたら思ったより会話を拒絶する気はなさそうだと内心笑みを浮かべた。 
「全て激情に駆られてのこと。責めるつもりは何もありません。それより反省されておられるのですね?」
「…小窓を閉めてくださいませ」
「今の行いを恥じるあなたの方が好感持てますよ。実はここから出して差し上げたいと思ってこんな時間にわざわざここへ参りました。高貴な身分で、側仕えもおらずにお一人でこの部屋に閉じ込められるのは苦痛でしょう?」
がたん、と椅子から立ち上がってこちらを凝視している。
表情からは期待と疑問が混じっている。
「確かに私は女性としてあなたを見ることはありませんでしたが、幼いあなたを知っています。それを思えば今のあなたを見るのは悲しいものがあります。それに敬愛する王家に溺愛されている末姫がこんなところにいるのは心苦しくて陛下にも顔向けできない。どうにか出してあげたい、そう思い、」
「カリッド様、本当に?」
話の腰を折ってこちらに走って小窓にすがりついた。
やはりかしずかれて生活する令嬢にはここに一人でいるのさえ苦痛だ。
出すと言ったがいつなどとは言わない。
ここを出るのは全ての処理が済んで釈放される時だけ。
それを早めるために今は身を切って通行料を払っていただくつもりだ。
「ええ、お願いしてみようと思います」
「お願い、お願いしますわ。私をここから出してくださいまし」
「…ですが、私の力を持ってしてもかなり難しい。…本当に、あなたは大変なことをしてしまったから。貴族令嬢と狙ったことも許されないが、間違えて戦力の要となる人間を二人痛めつけて、今後の作戦に大きな損害を与えた。それについて、どう思っておられますか?返答によっては、ジェラルド伯へ取りなしも可能なのだが。それとも、ただの平民と侮りますか?」
さっと顔に怒気が浮く。
なぜ私がと目が問いている。
不愉快な面持ちを隠して愁傷に反省していると答えたが、結局は信用ならない人間だと判断する。
激情が落ち着こうがどれだけ戦況を不利にさせたか考え至らないことが残念に思うと同時に価値観は変わらないのは当然なことと納得した。
「…先程、行いを恥じておられた。それは令嬢として、という意味でよろしいか?天幕に裸で待っていたことや」
「や、やめて!」
「一夜をすがったことか?令嬢としてあるまじき行為の数々」
「っ!」
すがりついていた小窓の下に顔を沈めて恥じた。
ふ、と鼻を鳴らしてわざとらしく冷淡な態度を見せた。
「そうか、ならば急いだ方がいい。二人の喪失とあなた方の拘束に人員が割かれて人手不足だ。いずれ、ここで食い止めていた魔獣が他領や隣国に流れる。明日、ジェラルド伯は周辺に伝達を走らせて事情を説明する」
親身な態度から一変して突き放す物言いの私に戸惑い、ゆっくりと頭が上げて分からないと目がさ迷う。
「もうすぐなぜ抑えられなくなったか周知される。ジェラルド伯は娘の命を狙われた上に領地に損害が出したあなたを許していない。あなたが番だと勘違いした男はクレインの重要人物。地位もここでは王都兵団副団長と同等の男だ。どれだけ重要な人物を襲撃したのか理解されたか?ジェラルド伯は大変お怒りだ。故にあなたの品性に欠けた行いを隠す義理はないと仰っている」
「そ、そんな!お願い!止めてくださいまし!」
小窓に張り付いて顔を近づけるので、ゆっくり私は離れた。
エヴに泣かされたせいで化粧が剥げている。
使用人もいない状況で指摘する者もおらず身だしなみが崩れていた。
あまり目に入れるのも不躾だという同情と見たくないという不快感から目を逸らした。
「王宮への報告は本日済ませたそうだ。最も速い馬で3日もあれば着く」
ああ!と叫んで扉の前に倒れ伏した。
「…やっとあなたがどれだけ危ういのか分かっていただけたか?王宮には陛下が箝口令を敷くはずだ。だが、このままパティ家とクレイン家が争い続けたらいずれ醜聞が知られてしまう。これ以上、広めたくないのなら、協力してほしい。金色の薔薇と呼ばれた王家の末姫が醜聞にまみれるのは、陛下に申し訳が立たない。どうしても助けてやりたい」
分かってくれるかと優しく問うと扉の前で起き上がる気配を感じた。
「何を、すればいいのですか?」
扱いやすくて助かる。
愛してるからと言い張って犯罪を正当化していた時より遥かに楽だ。
「手紙を書きなさい。全ての非を認めて謝罪を。それしか方法はありません」
「…分かりました」
恥じた行いが周知されるショックで覇気がない。
「便箋を、いただけますか?明かりも、」
「ええ、すぐに」
手を振って合図を送ると便箋と新しい明かりが届けられた。
「ああ、そうだ。あなたはなぜ彼女に会いたいのですか?」
「彼女?」
「エヴ・クレイン令嬢です。あなたは起きてから、なぜか娘に会いたがってるとジェラルド伯は不思議がってました」
あ、と小さく声が漏れた。
「…エヴ、クレイン。お名前は、エヴなのですね?」
「…ご存じなかったのですか?」
「そう言えばお姫様に自己紹介してませんでしたね」
「え?!え?!そこに?、」
小窓にしがみついて声の方へと身を乗り出していた。
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