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口輪
しおりを挟む兄妹でお互いの足を重ねてぶつけるのも気にせず、力を抜いてぐったりとしていた。
「お兄様、重い」
「ごめん」
横向きに寝たロバート殿は乗せていた足を曲げて避けるがエヴは太ももに乗せたまま伸ばしてくつろぐ。
「大丈夫か?エヴ」
平気なような事を言ったが、一気に四人から得ていつもより微睡んだ様子に心配だった。
「大丈夫です」
肘掛けの側に寄って膝まずいてエヴの顔を覗きこむと指の隙間から細めた目と視線が合い、隠せていない口許の口角が上がった。
「そうか」
垂れた口許の涎を拭うと、拭くからいいですと顔を背けて答える。
ヤンとダリウスで二人にそれぞれ手拭いを手渡して、ダリウスが手洗いの水を用意しますと部屋を出ていく。
エヴの顔を世話しようとしたらやめてと叱られて大人しく側に控えて私もヤンから受け取った手拭いで指をぬぐう。
「エヴ、最中の声がはしたない。大きいし、聞かれれば何事かと思われる」
「ごめんなさい」
ロバート殿がいきなり明け透けにエヴを叱り、対するエヴも恥じうことなく素直に謝って、先程と違いあっさりとしたロバート殿の熱のなさに瞬きをした。
何なのか分からない。
妹への情欲なのかという疑いを持っていたが、あのきつく忠告する様子に私達への牽制が目的なのかもしれないと心に浮いた。
「堪えるのが無理なら口輪を嵌めるよ」
「口輪?馬の?」
グリグリと手拭いで拭いていた顔を出して不思議そうに足元の兄を見つめる。
振りなのかと思っていたのに口輪の話題を出してぎょっとする。
「そうだよ。あとは噛み癖のある犬の口を開かないようにするんだ」
「噛んでないもん。犬じゃないし」
「人間にも使うんだよ。声を出せないようにする。普通、罪人なんかに使うから気が引けるけど」
「えー…やだぁ。でも使った方がいいなら諦めるぅ」
「こら、すぐに諦めない。自分で吸えば大丈夫なんだろう?練習して慣れようね?」
「はぁい」
気が引けるから使いたくないなぁ、と付け足した。
「でも、どうにも必要なら似合うのを作るよ。エヴなら何でも似合うけどね、ふああ、欠伸が出る」
それを聞くと本音は使いたいのではと思うが何も言えない。
そのままダリウスが水を汲んでくる前にロバート殿は静かに寝息を立てた。
「お兄様、寝ちゃった?仕方ないなぁ」
ムクッと起きてソファーを降りてぱきんと軽い強化をかけると、エヴがロバート殿を横抱きに抱えて目を丸くした。
「エヴ?」
「エヴ様?何をなさっているんですか?」
「ベッドに運ぶの。開けて」
ポカンとする私達を尻目にさっさと連れて、寝室の扉の前に立つ。
「いえ、私がロバート様のお部屋にお運びします」
「いいの。ヤン、開けて」
ニコニコと嬉しそうに笑い、早くと急かす。
「いや、待て。あなたはどこで寝る気だ?」
「お兄様と一緒に」
「はあ?」
「エヴ様、兄妹でも添い寝を許される年齢では、」
「だめ。今日からお兄様と寝ます」
がつんと頭を殴られた気分だ。
「…なぜだ?」
かなり怒っている。
私がきつく睨むのに怯みながらも睨み返してくる。
「絶対お兄様と寝ます。安全だから。二人とも怪しいから嫌。特に団長。お兄様がいてくれたら大人しいもん。見えるもん、まだ精力余ってるでしょ。私はもうお腹一杯なの。注がないで」
「見える?」
「見えるの。お腹の下の方、まだ残ってるでしょ?」
上位の夢魔はそんなことが出来るのかと目を見張った。
「失礼します。ただいま戻りまし、た?…エヴ様?何をしてらっしゃるんですか?」
開けたらエヴがロバート殿を横抱きに寝室の前にいるのだから無理もない。
ダリウスはその光景の不可解さに首をかしげた。
「お兄様と寝るの。ダリウスもだめ。夕方したみたいに三人とも残った精力をまだ注ぐ気でしょう。嫌なの」
「は?…え!いや、あれは!申し訳ありません!」
カッと顔を赤く染めて首を振って持っていた桶を落としそうになり、水を多少こぼしながら慌てて持ち直す。
「…分かりました。…信用を無くしてしまったせいですね」
ヤンは顔を手で覆って項垂れている。
ロバート殿が盾だというようにしっかり抱き締め、頑なな様子に仕方ないと私が扉を開けてやると嬉しそうに跳ねてベッドに寝かせて深く眠ったロバート殿の鎧を緩めている。
「それは兄妹でもだめだ」
「じゃあ、ヤンしてあげて。ダリウスも。私も着替えてくる」
その場を離れながら手甲の紐を緩めた。
「エヴ、してやる」
隣の部屋に戻るのを追いかけて声をかけた。
「自分でやります」
片手をテーブルに放ってもうひとつも緩める。
「嫌われたのか?側に寄るのも嫌な程なのか?」
「別に、そういう訳じゃないですけど」
両手を外し終えて椅子に腰かけると、膝に反対の足首を乗せてまた外し始めた。
「させてほしい」
隣に立つ私の顔を無言でしばらく見上げて膝にかけていた足を伸ばした。
「…なんでそんなにしたいのか分からないんですけど、どうぞ」
頷いて膝まずいたら足甲を外していく。
「番にはなんでもしてやりたい。人狼とはそういうものだ」
「ふうん」
「尻尾を千切って襟巻きにしてやりたいくらい」
「い、いらないってばっ、絶対しないでくださいよ?」
「あげたい」
「他の、他のにして。耳も尻尾も、ついてるからいいのに」
「他は何がいい?」
「えー、他のぉ…?」
しばらく黙って考え込んでいたのでその間に膝下の足甲を両方とも終えた。
「逆に団長が欲しいものは何かあります?」
問われてエヴの顔を見上げた。
伴侶になって欲しいだけだ。
エヴ以外に欲しいものはない。
「あなたしか欲しくない」
そう言うと困った顔を浮かべるので申し訳ない気持ちになる。
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