人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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淑女教育

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ジェラルド伯と別れてエヴの部屋を見張りのために尋ねた。
ちょうど寝室で休むところだったらしい。
ひょこっと寝室から顔を出す。
先程の装いは解かれて薄い寝巻きとガウンを羽織っている。
「団長、今夜もお世話になります」
すいませんと下げた頭からさらさらとほどけた髪が肩から落ちる。
いつもより光る濃い艶からちゃんと櫛で手入れをしたことが分かった。
おやすみと挨拶をすると目を細めて頷き、寝室へ戻った。
今日は私がヤンと交代で見張る。
先と後はどちらがいいかと尋ねられて先と答える。
ついでに装いは誰がしたのか尋ねるとヤンは邪気を察して苦笑いしていた。
あの可愛らしい装いは羽根二人組に手伝わせたらしく、ペリエ嬢の支度も世話人と共に拵えたそうだ。
二人とも華やかな装いが好きらしく着飾らせるのは得意だったようだ。
ヤンは派手にされないかと心配したそうだが、追悼を込めて華美にしないようにと伝えると情感たっぷりの未亡人風にすると二人がはしゃいだらしく、それを思い出してこめかみを揉んでいた。
服を着せてしまえば、後は側で二人を厳しく監視したと答えた。
「意外と役立ちそうだ」
ドラゴンの血を引くサキュバスとハーピィ。
あの二人なら普通の人族より頑丈だ。
貴族のマナーを仕付けられるなら侍女として使えると言うと、ヤンは機嫌よく頷く。
「実はそれぞれ300才を越える年齢らしく。古くはありますが、人族を含めて他種族の習慣についてかなり知識があると分かりました」
「ほぉぉっ」
驚いて声が裏返る。
「その下地のおかげで今風の知識を柔軟に学んでいます。ラウルの術式とエヴ様のお叱りがあるから回りにも従順です。旦那様も今回の拾い物に大変喜んでいらっしゃいます」
反抗するなら放逐すればよいし、躾のやりようは幾らでもと微笑む。
「ふっ、ぐ、うっ…、」
ソファーから寝息をたてていたはずのダリウスから欠伸を噛み殺す声が聞こえ、ごろんと背もたれに寝返りをうつ。
どうやら起こしてしまったようだ。
ダリウスは昨日の徹夜と討伐でさすがに疲れていた。
目配せをするとヤンは静かに黙礼して壁側の長椅子に向かった。
私も配置につこうと開けたままの寝室へ足を向けた。
中に入ると寝台から寝息が聞こえて、部屋に漂うエヴの匂いを嗅いだ。
いつもと違う。
香油や肌の手入れに使う粉の混ざった匂いに、いつもの爽やかさとは違う女性らしい甘さを感じてすんすんと鼻を鳴らして目を細めた。
寝顔が見たくて枕元に垂らしてある寝台のカーテンをよけて覗けば、大きな寝台の真ん中で薄い掛布を体に巻き込み、顔を半分埋めてすやすやと眠る様子が丸まった猫のようだった。
じっと丸まるエヴをしばらく眺めたら、カーテンをもとに戻して傍らの椅子に腰かける。
ヤンが呼びに来るまで気配を消し時折、寝返るエヴから聞こえる衣擦れの音に耳がピクピク動いた。
夜中、ヤンと交代して長椅子に寝転ぶと幅はいいがソファーより短いと眉をひそめた。
服が緩くなるが獣化を解いて足先をはみ出したまま休んだ。
起きたら早朝の早い時間からジェラルド伯と面談する。
今日は朝から雨ということもあり討伐は明日へ持ち越しとなった。
水辺の討伐に増水した川と活発化した魔獣は危険だからだ。
打ち合わせのついでに大公達の様子を尋ねると警備のためと言い含めて城内の一室に閉じ込めていると答えた。
昨日のけたたましく鳴り響いた半鐘の音と殺気だった我々が恐ろしかったらしい。
ジェラルド伯は彼らの大人しさに喜んでいる。
意外だったのはペリエ嬢で大公に引き留められるのも聞かずに貴人牢へ自ら戻られて街から雇った年配のご婦人の世話を粛々と受けているそうだ。
そして私は今、荷物がごちゃつく城内のホールでエヴにダンスを教えている。
慣れないヒールによたよたしながら、長袖の手首に絞りのある青の簡素なローブ型の服を着て、ウエストには平民の女性が愛用する布のコルセットが外側から巻いてあった。
「違う。利き脚を出せ」
「えー?あれぇ?」
基本は踊れると言ったのに最初の一歩で間違えたエヴに苦笑する。
ここでダンスを教える前、ジェラルド伯との打ち合わせを終えて私は自室で過ごすエヴのもとを戻った。
わざわざ私がエヴに休みだと伝えるために。
雨で休みになったということで両陣への指示の伝達はクレインが引き受けてくれた。
大まかな指示と今日は私も好きに休むので邪魔するなと書いた紙を若い団員に持たせた。
あとはエドが上手くやるはずだ。
そこは信用できる。
部屋に戻るとエヴはラウルからヤン経由で魔導師長が二人の治療をしていると聞いて喜んでいるところだった。
そして本日の休みを伝えると首をかしげてうーんと唸った。
「今日はお休みなんですね。うーん。ラウル達は治療中で会えないし、雨だし、ワイバーンにも乗れないし、あ!でも昨日はお姫様達と喧嘩したし、どうしよう」
すぐに会いに行こうとするエヴを引き留めた。
「昨日ことはジェラルド伯のお考えもあるから先に相談した方がいい。今朝の話だとペリエ嬢は怒るより反省を抱いてるようだった」
それより今日は何をして過ごすのかと問うとヤンが横からお勉強がありますとすかさず答え、遊ぶ気だったエヴの落ち込みに笑った。
興味があったので内容を聞くと貴族令嬢らしくマナーや読み書き、歴史、国と関わりのある数ヵ国の外国語だという。
珍しいもので怪我の手当てや病気の治療や処置についてと、算術の教本が混ざっている。
騎士爵位に嫁いだご令嬢が結婚後に学んだりする。
先に学ぶのは戦闘の多いクレインだからだろうか。
教本の進み具合を見るとどれも良く出来ているように見えた。
「かなり出来ている」
「そうですか?お兄様もそう言うけど優しいから信じられなくて」
「ああ、これより勉強が出来ない令嬢は多い」
「ではエヴ様のお立場からこれで充分でしょうか?」
ヤンの質問に首を振った。
「令嬢の教育は高位であっても各家ごとに極端だ。最低限、必要なのは読み書きと王宮に出入り出来る程度の立ち振舞いだ。次に外国からの要人をもてなせる語学力と識字が求められるが、そのために何人も家庭教師をつける家もあれば、子を成せる健康体であればよしと女性に勉強は不要と考える家もある。様々だ」
「そうなんですか?」
「ああ、だがエヴは肝心のマナーが。…王宮や社交界の経験がないから仕方ないのだが」
以前見た下手くそなカテーシーを思い出した。
「ヤンは仕方ないとして、母君からの教育は?もとは伯爵令嬢だ」
そういった所作は身近な母親から学ぶ。
「封印が済む12歳のお歳になるまで私共以外とご一緒出来ませんでした。奥様のご実家はワルキューレの血筋ということもあり、通常の淑女教育の他にご息女は代々女性騎士として学ぶそうです。それに長いことここで副団長として活躍されていましたし、よく討伐にお出掛けされます」
「…そうか」
淑女としてより騎士としての方が好まれるようだ。
それに実質4年でここまで教育したと思えばかなり早い成長だと思え、家族と過ごしたがるのも頷ける。
「エヴ様の教育について旦那様からある程度と指示されていますが、もとが平民育ちの私は貴族のある程度を把握出来ていないもので。どこまで目標にしたらよいか悩んでいました。旦那様は男性なのである程度となる淑女教育が分からず、奥様もそういった事情でこの国の基準をご存じありません」
「戦闘種族だしな」
「ええ、それが一番の原因ですね」
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