人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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貸し切り

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ジェラルド伯に一言断ってホールを借りた。
エヴへの接触は嫌がられるかと思ったら、三人まとめて学ばせることに大変喜ばれた。
王都の招致に向けてラウルを含めた四人をいずれ仕込むつもりだったが先伸ばしになっていたそうだ。
クレインで王都流のダンスを踊れる者がジェラルド伯とロバート殿しかおらず、この戦況の最中、向こうから人を雇うのも突発的な色間の襲来と口の軽いエヴに悩んでいたらしい。
口にはしなかったが、内情を把握して番で逆らわない私は打ってつけということだ。
利害の一致ということでエヴ達と楽しくダンスを踊ることになった。
エヴを独り占めして踊ろうかと思ったが、それをするほど私も陰険ではない。
それぞれ交代で踊り、ヤンとダリウスを組ませたり、私も二人の相手をした。
「…女役までこなせるんですね」
身長さが近いダリウスを相手に踊っているともごもごと呟く。
「幼い頃から習って自然と覚えた」
勘がいい方だからということもあるが、女性の相手をすることが多くて気づいたら覚えてしまった。
「女役も覚えて損はない」
使えるのは他人に教える時くらいだが。
以前、甥と姪のダンスの練習相手をしてやった。
あと、苦手がる数人の部下に教えてやったのを思い出した。
しょっちゅう遠征に行くが戦いばかりではない。
王都にいれば王宮や貴族のパーティーの他に遠征先での討伐後はダンスパーティーでもてなされることも多い。
うちは身分の高い優良株の集まりだから、そういう催しで令嬢の売り込みされることがかなり多い。
「おっと、踏むな」
ぱっと踏まれそうな足を避けて忠告すると今度は猫背に足元ばかり見るので背中に手を回して強く押す。
腹同士が当たり恥ずかしがって身を引くのを、逃げるなと叱責した。
「背筋を伸ばせ。女性相手なら胸元覗いてると誤解される」
「え、」
「数年前からドレスの形が凄くてな。恐ろしいほど胸元が広く開いたタイプなんだ。おそらく今年もだろう。足元を見ずに出来るようにならねば女性から軽蔑されるぞ」
去年よりもっと開いてるはずだと想像つくが、目がこぼれそうなほど驚くダリウスのためにそれは黙っておいた。
エヴ以外の裸体にも鼻血を出すのか気になる。
ギクシャクと目線を上に向けてその姿勢を保ったので腹に隙間をあけてダンスを続けた。
まだ基本のステップから抜け出せない。
一歩が大きすぎてすぐに踏もうとする。
踏むなともう一度叱ると項垂れてしょんぼりした。
「…踊りたくないです。…俺なんか誰も望みませんし、お相手が怖がります」
ぐずるダリウスを叱るように睨む。
「普通、令嬢から誘わない。ダリウスが誘わない限りは踊ることはない。だが、保護者が顔繋ぎに娘と踊れと言いに来る。ジェラルド伯の面子にも関わる。こなせ」
「…はい」
「着飾ったエヴに褒美で踊ってもらえ。ここより広くて高い天井にでかいシャンデリアがいくつもぶら下がって素晴らしい天井画もある。王宮の華やかなホールにきっとはしゃぐ」
そう言うとぱっと顔を向けて、隣でヤンと踊るエヴを輝く目で見つめた。
「いっ、」
避け損ねて足の甲を大きく踏まれた。
「も、申し訳ありませんっ」
「エヴの足を踏むなよ。エヴに転ぶから踊るなと忠告するからな?」
守護の紋で痛みはなくともこんなデカイ足に踏まれたら靴も壊れるし人前で転ぶ。
「はいっ」
自信がなかった先程よりもましな顔で熱心さが出てきた。
「パートナーからよそ見をするな」
「近くて、どこ見ていいのか分かりません」
「鼻でも見ておけばいい」
すぐに目線が助けを求めるようにヤンとエヴを追うのはいかんともしがたい。
「まだ休みませんか?」
エヴの声かけに、先に隅で果実水を飲んで休憩していた二人のもとへ向かった。
「ダリウス、お疲れ様」
「エヴ様、上手になったら王都で踊ってくれますか?」
「いいよ、上手じゃなくても大丈夫だよ?踊ろうね?」
嬉しそうに笑うダリウスに目を向けた。
こいつは自信がないと人見知りを起こす癖エヴにだけ素直にこういうことをねだる。
「お前もねだるか?」
渋面に少しだけ羨ましげな気配のヤンに声をかけた。
「…いえ」
逆にこっちは意地っ張りだ。
「言えばいいのに」
「…番でしょうに」
「ダンスくらい。エヴが喜ぶ」
この三人なら構わないと本気で思っている。
無言で不可解さを滲ませるヤンに肩をすくめて見せた。
「それより、」
ヤンは普段から所作が貴族風だからダンスに違和感がないが、ぶっきらぼうなダリウスは足を踏むし荒々しい。
下手したら相手の令嬢を弾き飛ばす。
「ダリウス、上手になればだぞ?今のままではどの令嬢とも踊れない。エヴともだ。そのでかい足で踏めば、転ばせて恥をかかせる」
「え、」
「エヴが気にするなと言っても甘えるなよ?お前達は顔繋ぎに紹介された令嬢のダンスの相手をした褒美でエヴと踊るんだから当然だ」
「たち?」
「ヤンとラウルもだ。その頃は治ってるかもしれない。それにダリウスだけと聞いたらあいつは怒るぞぉ?」
「あー、」
そっかと納得して頷いた。
お前だけ抜け駆けさせるかとからかうと首をひねってむぅと唇を突き出している。
「抜け駆け、ですか?」
ダリウスにはそんなつもりもなく単純にねだっただけのつもりだ。
それも分かっているので悠然と笑って、不思議そうに首を傾げるダリウスを眺めた。
大股で歩く癖を矯正するために、ダリウスはヒールによろけるエヴを腕一つで支えながら部屋をぐるぐる歩き回らせて、エスコートの練習をしている。
そして中央で私とヤンは向かい合わせに立った。
「妙に私に肩入れすると思ったらエヴ様が他の方と踊らなくてすむようにですね」
「気づいたか?」
後ろ手に腕を組んで向かい合わせにステップを見せているとヤンも同じように真似て動く。
足を眺めながらぽつりと呟いたので私もヤンの足を見ながら肯定に答えた。
「はい、想像するに旦那様とロバート様が必ず踊られるでしょう。その次は団長。身内で気にせず踊ると言ってもそう何度もはできませんし、その頃も団長と未婚なら続けて踊ることはありません。なら、令息避けに私共かと思いまして」
「ああ、そうだ。その頃、どうなっているか分からないが。婚姻出来ていたとして踊るなと回りを追い払い続けるのも難しい」
「団長ならしそうですけどね」
「それこそ社交場だ。何しに来たのかと顰蹙を買う。見せびらかしが好きな奴もいるが、番に触られるのが嫌な奴は連れ回さないで閉じ込めておくかすぐに帰る」
「なるほど、人狼と言えど様々なのですね」
「ステップを早めるぞ。当日はエヴとお前達が主賓だ。貴族らしい所作のお前は令嬢受けもいいだろうから」
「平民ですよっ、おっ、と」
早めたステップにもたついた。
「早すぎたか?緩めてやろうか?」
「いえっ、この、まま。すぐに慣れますっ」
「正確な足さばきも大事だが、必死になるな。品良くやれ。貴族好みに」
「わかり、ました」
有言実行のヤンは二度、三度繰り返して足元を見ずに動けるようになった。
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