人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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お菓子

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ノックが鳴りカートを押したダリウスが戻ってきた。
「お待たせしました」
少し不安げな表情からヤンが側に寄って用意したカップや紅茶の手順を目視すると頷いた。
安堵を浮かべたダリウスがポットに柑橘と薬草を浸して蒸らし、香りを確認してから注いだお茶をテーブルにセットして私達をもてなす。
「旨い」
さっぱりとした香りと味だ。
初めて扱う種類の薬草類だと思うのにお茶と合うように蒸らしの時間を工夫していることも分かる。
「物資の不足している中でここまで整えるのは難しい。うちに仕える者にも引けを取らない」
物が不足しているこの場所でバラバラに組み合わせたポットとカップのセンスもいい。
ペリエ嬢と大公の会食でも所々食器は揃っていなかったと頭によぎる。
ダリウスも肩の力が抜けたようだ。
テーブルの向かいにはダリウスより誇らしげなエヴがふんぞり返っていて目を細めて微笑んだ。
「エヴは出来るか?」
「え、はい」
モゴモゴと言い淀むので笑いを堪えきれず肩が揺れる。
「女主人の務めだ。そのうちもてなしてくれ」
主人手ずからもてなす場面もある。
必要なことだと分かってるようで愁傷に頷いた。
「…もう、団長はすぐに言い当ててくる」
眉を下げて、下手だと分かってるんでしょうと拗ねる。
むうっと口を尖らせ睨むから耳を下げてしまう。
「すまん」
「…むう、垂れ耳が可愛い」
わきわきと手をさ迷わすので後で触れと促すと先程の図星を言い当てられた悔しさを隠せないままの顔で頷いた。
お茶の後はエヴに手を引かれてラグに呼ばれた。
「靴が汚れている」
ぬかるみで泥を被っている。
城内に入った時にブラシで落としたが、まだ細部に入った汚れは残っていた。
乗れないと断ると脱げばいいと答える。
「だめだ」
逆にソファーへと手を引いて座らせてから膝に頭を乗せた。
それでエヴもいいらしく耳を撫でて遊び始めた。
「みあー」
「う、」
どすん、と首と頭の辺りに重りが乗った。
「ヒムドか。久しぶりな気がする」
そのままエヴと一緒に耳をざりざりと毛繕いを始め、ぐるぐると喉を鳴らすヒムドから感じる柔らかい振動に目をつぶる。
ラグでごろ寝しながらこうして過ごせたらもっと気持ちよかった気がすると逃した機会を惜しんだ。
静かな部屋にヒムドの喉の音とぱさぱさ揺れる尻尾の音が響く。
ヤンとダリウスのカップを片付ける気配に耳がピクピクと跳ねた。
「お耳、気持ちいいです」
機嫌のいいエヴの声に目をつぶったまま笑う。
頬に当たる薄いスカート越しに太ももが細くなったことが分かる。
「食べてるか?」
「食べてますよ。心配かけてすいません」
ごまかす気配はない。
なら量が減ったのだろう。
「エドが気づくくらい細くなった」
整備と水辺に別れて活動している。
二人はお互いをたまに見かける程度だ。
「そうですか?…そっかぁ、心配かけてごめんね?」
しばしの間からヤン達へ視線で確認したと察した。
きっと心配に顔をしかめている。
「さっき渡した砂糖漬けは栄養がある。食べられそうなら食べろ」
「はぁい。ヤン、取って」
気が早い。
今食べるのかと、エヴの足元に胡座で座ったまま膝から顔だけを上げた。
ポロポロ落ちる砂糖の粉を頭で被りたくはない。
動いた私にヒムドは不満そうだったが、代わりにエヴの膝に座り直し、私はエヴの腰かけた隣の座面に肘を掛けてくつろぐ。
「エヴ様」
たしなめる気配のヤンに手を振った。
「許してやれ。食べれるなら食べた方がいい。心配していたんだろう?」
少し舜巡したが、戸棚から鮮やかな色が透ける透明なガラス瓶を手に取ってエヴへと渡した。
ヤンから受け取った瓶を開けてスライスされた赤い皮と白い果実のドライフルーツを1枚選んで口に入れている。
「うう、甘ぁい」
「味もだめなのか。本当に得意ではないんだな」
「お菓子、好きなんですけどね。あんまり」
しかめた顔で食べる様子に珍しいと目を見張る。
皆、バターや砂糖がたっぷりの甘いものを好むのに。
特に女性は好んで食べる。
いや、男も変わらない。
甘党のエドが好むから他の甘党の団員も倣って甘いものをよく口にする。
入団した頃、どいつもこいつも男子たるものと意地を張って遠慮し、そのくせ隠れて食べていた。
二枚舌のそれが気に入らなくて食いたければ食えと何度も彼らに言った。
早々とエドは好きに食べ始め、徐々に回りも変わっていった。
ただし、食べすぎてころころ太った団員らを鍛えて絞ったこともある。
蓄えた栄養のおかげで筋肉が太ましくなり逆によかったが大きすぎるのも考えものだ。
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